倉木の館は禍々しい雲に被われていた 「早く来なさい私の葉月ちゃん」 当主の席に一人座るのは倉木初美…今回の首謀者であった 小さい頃よく夢を見た ボクと同じ顔をした少女がボクを見ている ボクは少し怖くなり泣き出すと 彼女はボクにこう囁く 「大丈夫よ葉月ちゃん…」と ボクは目が覚め堪らなくなり 義理の姉である初美に泣きつく そして初美はこう続けた 「葉月ちゃん、貴方はいつかもう一人の自分と出会うわ その時全てが分かるの 自分が何者かって それまでは、私が葉月ちゃんを守るから」 その時のボクには理解出来なかった でも今なら分かる そこに立つもう一人の自分が誰かなのかを ヤミと帽子と月影の少女 第9話『千賀子』 「くそっどーなってんだっ」 次から次に襲い掛かってくる村人達に苦闘する羽山達 「何でこいつらこんなにっ」 葉月は急所は外しながらもほぼ一撃で村人達を気絶させるが あまりに数が多すぎる 彼らの目には生気は無く、間違い無く操られている事が分かる 「ふ〜んみんなピンチねぇ〜」 リリスは水菜を片手で抱っこしながら木の上から皆の奮闘を見守っていた 「は〜あうーあうー」 リリスに保護されている水菜がリリスに何か訴えかけている 「うーん、しかたないわね〜ララ」 「はい、リリス」 リリスの持つ巨大な本、テスタメント・イヴの主であるララは答えた 「さーてと本日2度目〜って、もう12時回ってるから今日か ドロシー&リツコ 出番よ〜〜ほいっ」 めんどくさいのか、既に詠唱は無し 「春川さん〜〜」 情けない声で村人達から逃げ惑う衣緒 「東くんしっかりしないさっ」 こう言う時は頼りに成るのが知美と言う人だ その時、知美と衣緒の体が光り本より召喚された魂が二人に宿る 錬金術師の本のリツコと 魔術師の国の本のドロッセルハウストである。 「あ〜久しぶりです〜リツコさん〜」 衣緒に憑依したドロッセルハウストこと、ドロシーはリツコに挨拶をする。 この二人は魔術師の本で葉月達に協力した過去を持つ もっとも当時のリツコはマリエルの国に着く遥か以前のリツコではあったが。 「あ〜ドロッセルハウストくん 相変わらす女の子みたいな華奢な体してるのね〜」 知美に憑依したリツコは何時もの口調で喋っていた 「あの〜そんな事より〜この場を何とか〜」 何故か?本来ならば召喚された時点で意識を失うのが宿主なのだが リツコの憑依する知美だけは意識を持ったままである。 「そうね、ドロッセルハウストくん一気に行くわよ」 「はいっリツコさん」 嬉しそうにリツコにドロシーが続いた この二人の関係は、そのまま宿主達と同じポジションなのが笑えた。 リツコとドロシーの錬金術と魔術により、回りの村人達が次々に倒れて行く 「おいっ二人とも、調子に乗るはいいが、こいつらは普通の人間なんだぞ」 葉月が二人に言った 「まあまあー葉月さん〜一応眠らせてるだけですから〜」 とドロシーは眠りの魔術を使った様だが… 「おいドロシー… こいつらどーみても、寝てると言うよりは苦しんでるぞ」 冷静に冷たい視線で葉月が言った 「あれ〜おかしいな〜確かに眠りの魔術… あっ…食中毒の魔術だった〜〜あ〜〜御免〜〜」 ドロシーは何時ものオマヌケをしてしまった様だ 「あのなー」 と半ば諦めた葉月がそこにはいた 「さぁ貴方方は先に進むのです、ここは私達が食い止めます」 「とか言って、リツコ…お前」 葉月が同じくリツコにも冷たい視線を向ける 「凄いですよ〜流石はリツコさんっ 見事な半殺しですねっ」 嬉しそうにドロシーが言った 「って言うか、だめだろーが こいつらはただの村人なんだぞーー人間なんだぞーー」 葉月は既に突っ込み担当の如く怒鳴りつけた 「チッ (持ってかえって実験の道具にしようと思ったのに)」 「リーツーコー お前今もの凄い事考えてただろっ!」 リツコの呟きにも突っ込みを入れる葉月… 「とにかく、何故知美と衣緒がこんな事になってるかは話は後だ 俺達は先を急ぐ、とにかく知美、衣緒この場は任せた」 既にどんな事が起っても動じない羽山は流石は現当主と言った所だ 「二人とも、くれぐれもやり過ぎない様に いいねっ分かった」 葉月の言いつけに二人は渋々返事をした 葉月、羽山、千賀子の3人は倉木の館の近くまで来ていた ちなみにリリスは空から水菜を抱きかかえながら追っていた 「ところで葉月」 「なにさ」 「とりあえず、今は何も言わない 言わないが、後で全て聞かせてもらうぞ」 「分かってるよ、当主さま」 少しイヤミっぽく葉月が羽山に答えた。 「二人とも、見えてきたぞ」 千賀子が言った。 「さて、鬼が出るか蛇が出るか…行くぞ二人とも」 羽山がリーダー風を吹かせながら続けた 「案外悪魔が出たりしてな」 少し苦笑いしならが千賀子が呟く 「(魔王なら、直後ろにいるけどな)」 と葉月が振り向きリリスを見て小声で言った 「悪い子はいねーがー 悪い子はいねーがー」 禍々しい声を上げ巨大な怪物が一行の前に現れた 「何だこいつは」 羽山は流石に目の当たりにした鬼には面を喰らった様だ 「出たか」 分かっていたかのように冷静な千賀子 「葉月、ここは私が引き受けた 羽山と一緒に行け!」 「ちょっと待て、こんなヤツあんた一人じゃ」 葉月はそう言いながらポケットの中のナイフを確認していた ダメだまたソーマが発動しない この状況を危険に感じた葉月であったが打つ手が無い 「安心しろ、お前達よりこう言うヤツの相手は慣れてるんでね」 千賀子は自信ありげに言った 「(慣れてるってお前…そんな人間どこにいんだよ)」 と羽山は思ったが口には出さない 「まーとにかく、こいつを一人で相手するのは流石にやばい オレも加勢させてもらうよ いいな千賀子」 「…勝手にしな」 「葉月お前は館に行け 鈴菜を取り戻してくれ」 羽山はこの場に残るのは自分の方だと直感し、葉月を 鈴菜救出に向わせる事にした 「…分かった 二人とも、後で会おう」 葉月は二人に激励し館に向った 「ところで千賀子、本当に何か手があるんだろーな」 「はん?ある訳ないだろっ」 「ちょっと待て、それじゃ」 「今の御時世に本物の鬼と戦った事のあるヤツなんている訳無いだろ」 葉月がいるよ葉月が…と突っ込みたくなる(笑) 「お前なーー」 ふんがーと鬼の攻撃が続く 「ちっ 言ってる場合じゃないかっ くそっ葉月絶対なんとかしろよー」 ん?人の気を感じる…地下か? 葉月は人の気配を感じ地下牢に向った そこに待っていたものは 「一平さんっ」 「ゲホンゲホン…うぅ…葉月お嬢様」 葉月は一平の両腕を拘束していた鎖を外した 「大丈夫ですか?」 「あぁ忝い 助かりましたよ」 「あの女の子はここにいるんでしょ? 羽山は鈴菜だって言ってましたが」 「…あぁ、あれは鈴菜お嬢様だ ただし、穢れの意識体に乗っ取られた…ね」 「しかし鈴菜も何時も何時も体乗っ取られるな〜」 少し呆れて葉月が言った 「あの事件を当主から聞いているのですか?」 「?あの事件?」 「そうですか…では他にも何か在ったようですな お嬢様もそう言う事に直に頭を突っ込みたがる性格ですからな」 「それって、凄い困ったやつなんじゃ…」 凄く嫌そうな顔の葉月 「まぁまぁそう言わずに あぁ見えても鈴菜お嬢様には不思議な力があって 逆に皆を守ってるんですよ」 「あの鈴菜がね〜」 二人は地下牢の更に最下層に進んでいた 「つきましたよ」 「こ…ここはっ」 葉月の前に広がるのは巨大な鍾乳洞と化した空洞であった その中心には小さな神社まで建造されていた 「ここは月待ちの儀の為に古くに造られた神聖な場所なのです」 「月待ちの儀… 確か1年くらい前の」 「左様、羽山様と二人のお嬢様達により見事成功した あの月待ちの儀で御座います」 月待ちの儀とは、日本中の邪気や悪病と言った負の因子が 集まるこの倉木の山を浄化する神聖な儀式であった その為、倉木の一族は日本の貴族として君臨する要因ともなった。 「…凄い霊力を感じる」 「はい、あの神社に祭られた物こそが 鬼斬りの神刀”雷鳴剣”で御座います、葉月お嬢様」 「雷鳴剣…確か、倉木の先祖が鬼の腕を切り落としたって言う」 「いかにも、その通りで御座います そして現在、あれを抜けるのは葉月お嬢様を置いて他には居ないと」 「ボクが…」 その時葉月はある意味当然と思っていたのかもしれない 本の世界において、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた葉月にとって 一つの世界の事件なぞ、小さな物だと考えていたのかもしれない 葉月は雷鳴剣に手を翳すと、少し静電気の様なビリっとした感触を覚えたが 次の瞬間には地に刺さっていたその刀を抜いていた 「(これは…ソーマの力に近い…が少し違う)」 「ほほ〜流石は葉月お嬢様だ その御神刀、普通の人間なら近づく事さえ間々成らないモノを あの羽山さまとて抜くことが叶わなかった物を 正統後継者の血筋…と言うものか」 葉月は刀を一平に向けこう言った 「これでボクに何をさせようとしたのか、それは分かる だが、何故ボクなんだ?あの初美を名乗る少女は何者なんだ 答えてもらうぞ!」 「その強気のご気性…母親譲りと言う事ですか」 「ボクの母譲りだと?」 葉月が母だと思っている人物、つまりは東の母と言う事だが 彼女はとても穏やかな人間であった。 故に葉月は言葉を続けた 「知っている事は全て話してもらうよ」 「たとえそれが…一族の冒した罪だとしても ですかな?」 一平は少し葉月を睨むように言った 葉月はその眼力に少したじろいたが、譲りはしなかった 「では、全てをお話しましょう… 葉月お嬢様」 あれは今から16年ほど前の事… 倉木家当主の妻である倉木由利子は悩んでいた 数年前に双子の赤子を生んだ由利子であったが 近いうちにそのどちらかを、地下牢に幽閉しなければならなかった それは倉木の家の血筋に者にあらわれる、 穢れを受けやすい赤子の伝承からであった 双子の片方は「穢れ」を受けやすく、 由利子の子であった双子の姉、倉木水菜はその性質を受け継いでいた 遠縁の血筋の羽山浩一 当時まだ幼い子供だった彼を使い一族は穢れの一部を封印した 故に浩一は幼少期の記憶を失い、 女性の顔を自らの人生より失う結果となった。 それを疎んじた由利子は一つの考えを持った もしもこの子が大人になった時、私の子供達がそれを受け入れる器を持たなければ、 彼は永遠に闇に閉ざされたままだ もっと高密度な倉木の血筋を持つ子供が必要だ 鈴菜と水菜よりも優れた子供が それの父となるのは夫、善冶郎ではダメだ そこで白羽の矢を立てたのが、東家の男だった つまり衣緒の父親である。 東家は代々神官の家系であり、その血筋も純度が高かった それが証拠に衣緒少年は高い純心な霊力を内包していた。 だが、自分がその子を産むわけにはいかない これは当主である、善冶郎に知られてはいけないのだから そこで由利子が考えたのが、体外受精と代理母であった。 それを産む代理母に選ばれたのが東の母であった つまり衣緒の実の母である。 由利子は自分の授精卵と衣緒の父親の精子を使い 衣緒の母親にそれを植え付けたのだった。 約一年後双子の赤子が東家に生まれた 女の子の双子だった 姉には初美 妹には葉月と名づけられた そう、この時生まれた赤ん坊の一人こそが、東葉月その人であった だが、その片割れである姉初美は生まれながらに身体機能が失われており 脳と必要な臓器こそは機能しているが、目、鼻、口、耳、そして手足 それが全く機能しないのであった。 それとは裏腹に妹葉月はとても元気で賢い子だった そう、まるで双子の姉から全てを奪ったかのように… 気孔に詳しい生体師はこう言う、 妹は本来人間が持つチャクラをそれぞれ二つ持っていると。 恐らくこれは双子特有の奪体現象あり、姉のチャクラを妹が全て持って生まれてしまった…と 時同じくして倉木の村では仏の像に悪魔が宿る事件が起きていた 臆病者である倉木の当主善冶郎はこれを生まれた赤子の呪いとし 双子の姉初美と共に、生きたままその像と共に地下に埋蔵したのであった だが由利子はそれを受け入れた もしもの時は葉月を中心とし、鈴菜か水菜が…おそらく水菜が 初美の変わりとし機能するであろうと… そう、その時由利子は類稀な霊力を持つ葉月こそ、次期倉木の巫女に相応しいと考えていたに違いない。それ故、倉木の山から離れた東家で育つこととなるのである。 それから数年の歳月が流れた 葉月は姉が埋葬された直後から、病弱となり病がちな子供に育っていた それを危険と考えた由利子は倉木の山で拾われた強い霊力を持つ娘を 初美の変わりに東の家に養女にさせたのであった 名前すら付けられていなかったその子に死んだ双子の姉 「初美」の名を付け、葉月の姉とし育てる事となった その時由利子は感じていたのかもしれない、この二人は出会うべくして出会ったのだと それが証拠に病気がちだった葉月はじょじょに身体機能を回復させ 姉初美によく懐くようになったのだ 恐らくは葉月の病は、生きたまま埋められた双子の姉への悲しみから 起っていたのではないかと考えられるようになった。 「そう、これこそがこの家の罪…そして葉月お嬢様の真実なのです」 「…多分そんな所だとは思っていたよ」 葉月は目を細め、鍾乳洞の天井を見ながら語り続けた 「もしも何も知らないボクがそれを知ったら驚くだろうね でも、ボクは知っている ボクが何者なのかを…」 その時葉月は本の旅人の時代を思い出していたのだろう 「では…知っていたと…」 「いいや、知って居たわけではない ただ、由利子おばさんには何かを感じていたい事は確かだ まさか、本当の母親だとは思わなかったけどね ただ…ただね 今のボクにとってはそんな事関係無いんだ そう、ボクはボクさ 例え倉木の家であろうが、誰であろうがボクを束縛する事は出来無い だってボクは東葉月なんだから」 葉月は一平の方を向いて言った その時の葉月の表情は自信に満ち溢れていて、それでいて神々しさを持っていた 一平はその時思った この方は我々がどうにか出来る方ではない、そうきっとこの方こそ 我々人類を導く大きな希望なのだと そう、彼女の前では倉木の家なぞ小さき物に過ぎなかったのだと 「さて行って来るよ もう一人のボクを殺しにね」 「葉月お嬢様!」 「ボクはもうお嬢様なんかじゃ無い いや、元々ボクはこの家の人間じゃないからね あんた達に奪われたボクを取り戻す、ただそれだけさ」 「お嬢様…」 「待っていて初美 ボクが今死なせてあげるから」 そう言った葉月の目には躊躇いは無かった… 一方羽山達は 「くそっ何だこいつ、全く通じねえ!」 羽山の拳に宿る霊気の塊は鬼には全く通じなかった 同じく暗殺術を仕込まれていた千賀子の技も全く通じてはいなかった それを上から見下ろすリリスだったが 「当然でしょうね、本来鬼って言うのは霊体なんだから その霊体に人間界の微力な霊気をぶつけた所で何の効果も無いわ〜」 と… 必死にくらい付く二人だったが 「まずいよ、羽山…このままだと でもね、あんたは私が守る!」 千賀子は意を決して鬼の懐に飛び込む 「流石の鬼とて、心臓を貫けば!!」 「甘いわね〜鬼には心臓が3つあるのは常識でしょ ってそれ悪魔の話だっけ?」 お気楽に見ているリリスを尻目に千賀子の一撃は鬼を貫く 「やったのか?」 一瞬動きは止まったものの、再び動き出す鬼 そして千賀子は 「うっわー」 鬼の棍棒の一撃をモロに受け吹き飛ばされる 「千賀子ーーーーー!! 貴様!!よくも千賀子を!!」 逆上した羽山は渾身の一撃を鬼に放つ!しかし… 「ぐはっーー」 返り討ちにあう羽山… 「羽山…うっくっ」 千賀子は声にならない声で羽山と叫ぶ 「あうーあうーー」 リリスに抱っこされる水菜がだだっこを始める 「あーんもーこのおでこちゃんもどきうるさいんだから〜」 「あーうー」 水菜はリリスをにらみつける 「はいはい、分かりましたよ分かりました〜 何かまるでリリスちゃんが悪者みたいじゃないっ 同時に3人も呼び出すのって、結構大変なのよ〜 まったくもー ララっ」 「はいリリス、エニアですね」 「そそそそ 従順魔であるエニアなら媒体は選ばない筈〜 行くわよララ 魔界の悪魔エニア来てちゅーだいっ」 その瞬間、千賀子の体に従順魔エニアが宿る エニアは自らの意識をもたない、いわば単なる存在に過ぎない 故に媒体である人間がその意識となる つまり、一時的にその人間に悪魔の力を与えるのと同じ事を言う 「こ…これは?」 姿こそは悪魔エニアとなっていたが、意識は千賀子のままだ 当然千賀子は驚くも、リリスの説明を受け入れる こう言う時オカルト娘は扱いやすいと思うリリスであった。 「さーて、鬼と悪魔の戦い、見物させてもらうわよんっ」 「ニコニコ」 水菜がリリスにお礼を言う 「うっ…別にあんたに言われたからやったんじゃないわよ 後で…そう後で葉月に褒めて貰う為にやったんだからーねっ」 じたばたしながら、いい訳を続けるリリス 「はい、リリス 今回はこう言う事にしておきましょう」 ララが少し笑いながら言った 「なによララまでーぶーーー」 そして… 「ぐががががが…」 鬼は瞬く間にエニアとなった千賀子に倒される 「そうだっ羽山!大丈夫か?」 「いててて…って今度は悪魔かーーー」 「私だ羽山」 「って…千賀子なのか?」 「あぁ」 「そうか…さっきの衣緒達といい おい、確かリリスと言ったな」 「え?何!何か文句あるの色男さん!」 不機嫌そうにリリスが答える。 「そのなんだ、有難う お陰で助かったよ」 羽山は笑顔でリリスに礼を言った 「なななな…べ、別にあんたらのためじゃなくてー葉月がー」 慌てふためくリリス 「分かってるよ、何時も葉月を守ってくれてたんだろ 知美から聞いてるよ… そして、あんたらの存在が何か?もね」 全てを知ってる様な表情の羽山には頭が下がるリリスであった 「あっそんな事より、葉月がーーー」 「羽山…」 少し恥ずかしそうに千賀子が言う 「さっき少しカッコ良かったぞ」 「な…オレは何時だってカッコいいんだぞ!!」 照れくさそうに羽山が答える 「はふ〜〜」 そしてそれにじゃれ付く水菜だった 「はははは」 一同は笑った 「って言うか、こいつらねー」 少しキレかかるリリスであった ----------------そして葉月 「来たのね葉月ちゃん」 「あぁ来たよお姉ちゃん」 「さあぁ私と一つに戻るのよ葉月ちゃん」 「嫌だね」 「葉月ちゃん」 「ボクは誰の物にも成らない それにボクらは元々別々の人間だ」 「葉月ちゃん…私達は」 「知ってるさ あんたがボクの本当の姉初美だって事もね そして生きたまま埋められた事もね」 沈黙が二人を包む 「でもね…キミから全てを奪ったのは倉木の家じゃない ボクなんだ!ボクが生まれる前のお姉ちゃんから全てを奪ったんだ」 「違うわ葉月ちゃん… 私があげたのよ愛する葉月ちゃんに私の全てを だって貴方は私として生きるんだから」 「そうだね…本当はボクが初美だったのかもしれない でもそんな事どーだっていい 今ボクがここにいるのは、キミを殺す為なんだから」 「私を殺す事はできないわ だって、貴方は私だもの」 「だから殺すって言っただろ」 その瞬間葉月は雷鳴剣を自分の胸に突き刺す! 「バカなっ あうわ…うわーーーー」 初美の胸元から血しぶきが舞う 「だから言っただろ、ボクはキミを殺しに来たって」 刀で胸を貫いた筈の葉月だか、怪我一つしていない そう、葉月は自らの中にある初美のチャクラを雷鳴剣で貫いたのだった 葉月は次々と自らの体を切り刻む 「止めろ!!止めるんだ!!ぎゃーーーー」 初美は苦しみ出すそして次の瞬間、媒体としていた鈴菜の肉体から離れる 「鈴菜大丈夫か!」 鈴菜はまだ気を失っていた 「ふしゅーーー 葉月ちゃん許さないわ 私を殺そうなんて」 既にそれは禍々しい声と変わっていた 「お前が本物の倉木初美か…」 「倉木…その名で呼ぶな!!!!」 対峙しあう二人の下に羽山達が到着した 「なんだコイツは?」 千賀子はその禍々しい存在に吐き気すらした 「鈴菜!」 羽山は叫んだ 「大丈夫だ、今は気を失ってるだけだ」 「葉月…お前…そうか…ん?その刀は そうか、その刀で鈴菜を…」 「葉月ー大丈夫〜〜」 場違いなトーンで叫ぶリリス 「リリス、今回はどーやらボクの問題みたいだ」 「葉月〜」 心配そうに見つめるリリス 「ククク…どーやらいい餌が集まったようだね!」 その存在は言う 「葉月!」 羽山達と合流したリツコが葉月を呼ぶ 「これをっ」 リツコは葉月に向ってナイフを投げる 「これは」 その瞬間ナイフは光り輝き、高密度のソーマを放つ 「そ…その光は!!」 その存在は言う 「な〜る程、おでこちゃんを刺したガルガンチュアのナイフか」 「はい、恐らくはイヴの血を吸ってるそれは、葉月の持つ刀に匹敵するかと」 ララが解説する 「ククク葉月ちゃん!それを渡しなさい!」 その存在はさらに禍々しく動き出す! まるで天空の雲のように巨大に膨らみ出す 「なーる程」 ポンと手を叩くリリス 「はい、どうやら葉月のソーマはこの雲により封印されていた様です」 ララが言うも 「多分違うんじゃないかな〜」 とドロシーが続けた 「葉月さんは自分の半身とは闘えないから だから自分で自分の力を封印したんじゃ」 禍々しい雲があたり一面を襲い尽くす 「ヤバイわねぇ〜リリスちゃんのバリアーもあんまりもたないかもー って言うか、かなり限界だしー」 そうなのだ、リリスはこの世界では魔力があまり使え無いのだ だがその瞬間、闇を切り裂く物が現れた 「グルルル」 「ラスカレス…来たのか」 「ガルルルル」 はい、葉月と言わんばかりにラスカレスが答える 「これはボクには相応しくない でもガルガンチュア、キミの気持ちを受け取るよ はーーーーーはっ!!」 葉月はリツコから授かったガルガンチュアのナイフに念を込めた その瞬間よりソーマの輝きは増し、その姿は刀へと変貌する 葉月の一刀が空間を切り裂く 「そーか…次元斬…考えたわね〜葉月」 そうリリスが言うとおり、葉月の一刀により空間が切り取られ 世界の裂け目が生じた それにより葉月は闇の雲により封じれられた自らのソーマを発動させる 「羽山さん…これ返すよ」 葉月は雷鳴剣を羽山の方に放り捨てた 次にラスカレスにガルのナイフ、今は『太陽(ジル)の剣』か… を渡し、自らは葉月の刀を展開させた 葉月の刀を展開した葉月はセーラー服にみを包み、左足には包帯 右手には刀を携えた、そうセーラー服の少女となっていた それを見た一同は、まるで見惚れるかの如く固唾を飲んだ 「いくよラスカレス」 太陽の刀によりソーマを浴びたラスカレスは神の虎の姿となっていた 次の瞬間切り裂かれた亜空間に引きずり込まれる禍々しい存在の後を追うかの如く、葉月とラスカレスは亜空間に突撃していった その姿はまるで、聖なる天使を思わせた まだ閉じないその空間の裂け目を見る一同 そこに声は無い 恐らく何が起っているのかも理解していないのだろう 光が一閃ニ閃…輝いた 閉じ出した空間の裂け目からラスカレスに跨った葉月が帰還する 「お帰り、葉月」 「ただいま、リリス」 「終わったんだな…」 千賀子が口にした その時は既に衣緒も知美と千賀子も元の姿に戻っていた。 「葉月…」 羽山が葉月を呼ぶ 「あれは、お前の姉だったのか…それとも」 …はー(大きなため息) そして 「夢だよ夢…みんな悪い夢を見てたのさ」 きっと葉月は一人で全てを解決していたんだろう 答えも、未来も、そして全てを 「ふわ〜〜〜よく寝た ってあれ?浩一?それに衣緒…知美? それに千賀子さんまで みんなそろってどーしたの?」 長い眠りから覚めた鈴菜が無邪気に言った 次の瞬間羽山は鈴菜の頭をぐちゃぐちゃと撫で回しこう言った 「なんでもねーよ あぁ何時もの朝だ」 そう丁度時間は太陽が顔を出す頃だった きっと彼らはまた、普通の少し退屈な日常を取り戻したのだろう… ------------由利子の墓 葉月は由利子にお線香を上げていた 「由利子おばさん…ボクお姉ちゃんに逢ったよ 凄く嬉しそうだった きっと天国で由利子おばさんと仲良くしてるんだよね ボクね…」 葉月は由利子の墓を見続けた そして振り返り墓を背に、意を決めたようにこう続けた 「ボク国立の高校目指すよ 前に一度おばさんと話したあの学校を だから見守っててね …さん」 葉月を見守っていた伊織には最後の言葉は聞こえなかった でも「お母さん」と…聞こえた気がした 「伊織帰ろう…初美の待つ、ボク達の家に」 葉月は慢心の笑顔で伊織に言った 「うん、帰りろう私達の家にっ」 伊織には葉月が何を考えてるのか分からなかった でも何時か来る別れより 今は葉月と共に過ごす時間を大切にしたいと思う伊織だった 流れる雲を見てボクは思う この雲は何処まで続くんだろうって そしてボクの未来も希望も 人は何時か死を迎える でもきっと大切なのは、懸命に生きたかどうか ボクには背負う物がまた一つ増えた でもボクは振り返らない だってボクの進む先はきっと… 夢を持たない少女は小さな希望を抱く そしてまた大人の階段を上るのだろう だって東葉月の人生はまだスタートしたばかりなのだから たとえこの後に訪れる別れだってきっと彼女なら 我々はそんな葉月を見つめ続けるのだろう 終わりが来るその時まで 「あーおなかすいたー」 「初美さんが先にお弁当全部食べちゃうからですよーー」 「うーミルカ疲れたなの〜〜 ラスカレスはどっかいっちゃうしー」 一同 「ココ何処なのよ〜〜て言うか、誰か助けて〜〜〜」 初美達がその一週間後干からびる寸前に発見された事は言うまでも無い -----------次回予告 「お笑いの道は努力の道やーーー 見ていて下さい!姉さんっ 女メイコ一世一代の大舞台!立たせてもらまっせー」 「って言うか、あたしらコンビだしー」 お笑いの道を目指すメイコと伊織 果たして二人はお笑いとしてデビューする事が出来るのか! 「ふふふ葉月を誘ってトリオ漫才よっ!」 「あー御免、グラビアモデルのスカウト受けてるんだボク」 果たしてどーなるどーするリリスちゃん! 次回、女メイリン桜の下に死す!乞うご期待! ってタイトル違うしーーー ヤミと帽子と月影の少女第10話『メイコ』 「読んでくれないと、ボクの悩殺ビームでイチコロさっ」 「葉月、凄い棒読みー」 |