第7話『初美〜お姉ちゃん〜』



「はっ…くっ…あ…ん…
 …
 ……
 はぁはぁはぁ…はぁ」
ボクは見上げる…濡れた手を
ここの所回数が増えて来てると自分でも思う
朝、伊織が起こしに来る数分前のこの時間が既に日課になって数ヶ月が経つ
そしてボクらが3人で暮らすことになったのも…

初美はあの旅から帰ってきてから喋れる様になった
理由は分からない…玉藻の前の話だとボクがイヴの魂を解放したからだと言う
だが、ボクはあの時この手で初美を…

でも、今ボクの側には初美が居る…イヴではない人間の初美が
ボクのお姉ちゃんである初美が…そこには居るんだ

「こらーー葉月ーーー朝なんだから起きなさいよーーー」
何時もの様に事が終わったのを確認したかのように伊織はボクを起こしに来る
ひょっとしたら知ってるのかもしれない…

ボクはシャワーを浴び着替えを済ませて初美の待つ茶の間に行く
「おはよう葉月ちゃん」
「おはよう初美」
これがボクらのその日の最初の会話だ
最初の頃は初美が喋ってくれるだけで凄く嬉しかった
でも初美は不思議そうにボクを見つめるだけだった
多分…この世界では初美は喋れてた事になってるらしい
でも、これも現実だ
初美が居て…ボクが居て…そして伊織が居る
それがボクの大切な世界(今)なんだ

「だめですよ〜葉月お嬢様〜髪の毛がまだ半渇きじゃないですか〜
 待ってて下さいね〜今乾かしますから」
…知美の事すっかり忘れてた…
「ふわーおはよう〜」
パジャマのまま情けない顔で挨拶するのはボクの情けない兄の衣緒だった
と言うか、こいつら邪魔だ…な

伊織が最近一緒に登校している
朝ミコトと合流して4人で登校する事が増えてきた
学校の校門の前でボクはミコトと中等部に
初美と伊織は高等部にそれぞれ向う…しばらくの初美とのお別れ
ボクは初美の愛らしいおでこにキスをする
これは初美が何処にも行きませんよに、と言うおまじないだった
「葉月〜ずるい〜伊織ちゃんにもしてよ〜〜」
「ふっ…だって伊織はボクから離れたりはしないだろ
 だから…必要無い…よね」
「葉月…
 (ちょっと赤面)
 って、意味分んない〜〜〜」


靴箱を開けると手紙が入ってる
後輩の子からの手紙
ここ最近は毎日入ってる
誰かと言う訳ではなく、毎日違う人から…
そう言えば、前に一度だけ毎日手紙をくれた子が居たっけ
そう…あの手紙が途絶えたのは
ボクが初美と初めての恋人同士のデートした時からだった


----------6月某日
またあの手紙が来てる…来始めてから1週間が経つ
親愛なるお姉さまへ…これが何時もの始まりだった
何故かボクはその手紙に惹かれていた
誰が出してるんだろ
どんな子なんだろって
不思議とその手紙が来る時は他の子からの手紙は一通も来なかった

その日の朝はとても清々しくてボクは初美をデートに誘った
でも初美は先約が居るって…
また彼女からの手紙が来ていた
日曜日某所で待ってます…と
その日はボクが初美に断られた日だった
行く気は無かった
間違えても初美が男とデートしてる所なんて見たくも無い
その日、初美は何時にもなくおしゃれをし出かけて行った
ボクの忠告も聞かずに

ボクは初美の居ない間に初美の部屋に入った
ここには初美の匂いがたくさんある…
その時だった初美のPCの電源が付きっぱなしになってるのに気が付いたのは
ボクは悪いとは思ったケド確認してみた
「え…これって」
初美が誰かに送ったメールの文章が戻って来ていた
相手のメールアドレスはhazuki…
ボクはその内容にある映画館に直行した
そう、そこが彼女の指定した場所だったとはその時はすっかり忘れていた

はぁはぁ…ボクは全速力で目的の場所に走った
そこには初美が居た
おそかったね葉月ちゃん
初美がそう言ったように聞こえた
初美はボクの腕を掴み嬉しそうにボクを連れまわした…
そう、あれが最初で最後のボク達の恋人同士のデートだった
初美がおめかししたのも、全てボクの為だったんだ
空は暗くなり、町にはネオンが輝き出す
ボクらは町の一番高い岡にある木の前で深い深いキスをした
初美は服を脱ぎボクも服を脱がされた
多分…あれがボクの初めてだったのかもしれない…
その時は頭がぽーとっして前後の記憶が無い
でも大切な何かを初美あげれたんだってボクはどこかで知っていた

その数日後、初美の誕生日にお姉ちゃんは消えた
そして、ボクの長い旅が始まった…










15歳で完成された女の子がいる
彼女は完璧なんだ
髪の長さも爪の形も
なにもかもがね
彼女はいろんなことになじめるしうまくいくんだ
15歳のうちはね
だけど16歳の誕生日が近づいてきて
彼女はちょっと混乱してくる
だって彼女が完成されたあとも
世界は無限だから
それでね彼女は男の子のような妹をさそって
森にフランケンシュタインを探しにいこうって言うんだ
東京(ここ)でだよ
へんでしょ
だってここには森なんかないのに

だけど男の子のような妹は女の子の手をとって
森へ還ろう-----って

ボクは見つけたのかな…森のフランケンシュタインを…
だから16歳を迎えた女の子を何処にもやらず
ボクの元に…

「ごめん…何か涙出てきちゃった…
 葉月のお話って…凄く綺麗でガラスの様に透き通ってるから」
「伊織…
 何時もありがとう…ボクのこんなくだらない話を聞いてくれて
 本当に…ありがとう」
「うううん
 だって葉月の事もっと知りたいから…」
「ボクら姉妹なのにね…(そうだろリリス)」
照明の一つもつけず、ボクらは月明かりだけで過ごす
ボクと伊織の秘密の時間
「リューイくんは姉であるエリザベスに連れられ
 町に歌を歌いに行くんだ…冷たくなったおじいさんが元気になってもらう
 …伊織寝ちゃったのか」
伊織は何時もボクの話の途中で寝ちゃうんだ
ボクは伊織に毛布をかけてあげて部屋を出る

初美は今日も帰ってこない…
最近初美は外泊が多い
何処に泊まっているのかも教えてくれない
今日も初美はボクの知らない人の腕の中で寝てるのだろうか…
それを思うとボクは…
初美の居ない家…初美の居ない夜
ボクは初美を思い一人で自分を慰める
もう一度、もう一度初美に抱かれたい
あの日に帰りたい
お姉ちゃん

その日ボクは3度目の絶頂を迎え眠りについた
そう初美の匂いのする部屋で…


--------ミコトと初美
「でも初美さんウチに泊まってるって言わなくていいんですか〜」
「うん〜言うと面白く無し〜それに私が気を使ってるって思わせたくないし〜」
「う〜んだからって変に男匂わせるのもどーかと思うんですが…」
「それはそれ、これはこれ〜えへ」
「もーえへっじゃないですよ〜
 葉月の事だから今頃
 (真似しながら)初美〜ボク以外の男の腕の中で眠るなんて許せないーーー
 とかって激怒してるんじゃ」
「ふふふ、知りたいミコトちゃんっ」
「え何ナニ!?」
「ここに取り出したるわ〜ふふふ盗聴器!」
「初美さんイカスっ!!」
「では早速〜〜」
「あ…んくっはぁはぁ…葉月〜葉月のあそことリリスちゃんのあそこが
 あ…んあ…ん葉月〜イク〜〜」
「……ってこれ伊織さんじゃないですかーーー!!」
「あれ?確か葉月ちゃんの部屋にセットしたんだけど…」
「まさか二人がしてるとか!?」
「…多分お姉ちゃんが葉月ちゃんの部屋で寝ちゃって〜
 起すの可哀想だから〜って私の部屋で寝てるんじゃないかな〜と」
「って全然意味無いじゃないですかーー
 せっかく葉月の盗聴喘ぎ声聞けると思ったのに〜〜〜」
「じゃぁ〜ふふふ葉月ちゃんを逝かせたこのおでこちゃんの指のテクを〜」
「あん初美お姉さま〜」
その夜同じ顔した二人の女の怪しい声が続いたとか続かないとか






何時もの様に学校に行くボクら4人
妙に伊織がボクにべたべたで、ミコトが初美にベタベタなのはどーかと思ったが
今日は手紙は1通だけだった
「あれ…この封筒」
彼女からのだった…
もう何ヶ月来てなかったんだろ
封筒を開けると一行だけ
今週の日曜日朝10時に〜公園の噴水の前で待ってます
愛する葉月様へ
…お姉さまへ…じゃない
違う人なのか…でも気になる、もしも彼女なら
…そう言えば前に
!!そうか、あの日
この手紙の主って…
ボクは気が付いた、これは初美からの手紙だったんだ
あの時の場所、そう初美が待っていた場所
ボクは…



ボクはすごくおめかししてその日に望んだ
「初美…伊織は?」
「うん〜何か分かんないけど〜出かけて行ったよ」
「そう」
「葉月ちゃんっ」
「え?」
「そのスカート短すぎない!」
あの時のボクが初美に言ったセリフだ初美覚えててくれたんだ
「初美…こう言うの嫌い?」
「う〜〜んまー似合うけど」
「じゃね初美行って来る(先に行ってるね)」
ボクは後から来るであろう初美よりあえて先に出た
デートは待ってる時間もデートだって
それに今回はボクが待つ番だから


そこには伊織が居た…
「なんで伊織が…だってあの手紙は初美が」
「葉月…ちょっと早く来過ぎちゃった〜
 でもでも〜二人で食べる為に〜たくさんお弁当作ってきたから大丈夫」
「伊織何言ってるんだ」
「でもでも〜凄く嬉しかった
 葉月が〜まさか自分からデートに誘ってくれるなんて〜
 もー伊織ちゃん昨日から一睡も出来無いでいたんだから〜
 まーでも流石に朝の6時から待ってたのは早すぎたかな〜って
 でもでも〜葉月の可愛い洋服姿も見れたし〜もうー凄く嬉しい〜〜」
その時ボクは分かった
初美が仕組んだんだ
ボクは肩から力が抜けた
「ねー葉月どーしたの大丈夫?」
「…大丈夫だよ…そうだね
 そう言えば、した事なかったねデート
 ボクらのデート」
「うん」
その時の伊織は凄く可愛く見えた
初美分かったよ、ボクら3人で姉妹なんだね


その頃初美とミコトは
「ふふふ、ばっちり写すのよミコトちゃん」
「はい、お姉さまっ葉月のデート姿ばっちり写すっす!!」
当然の如く二人をストーキングしてた事は言うまでも無い

「…見失ったじゃないですか〜〜
 初美さんがナンパしてくる男にやたらと引っかかるから〜」
「何を言うのナンパの数は女の自慢なのよっ!」
違う意味でマヌケな二人であった










「もう暗くなって来たね〜」
「ここからが一番いい所なのさ
 ほら見てみな」
「うわ〜綺麗〜〜」
ボクらはあの思い出の木の下に来ていた
ボクのとっておきの場所
今度は伊織にこの場所を教えてあげた
そう伊織も初美同様、ボクにとって大切な人だから
町のネオンの明りをうっとりしながら見つめる伊織の唇にボクは軽い口付けをした
「…え…葉月…今」
「じゃっとっておきも見たことだし帰ろうか
 初美も心配してる頃だし」
「葉月…待ってよ葉月〜〜もっとこ〜〜ぶちゅ〜〜って
 舌入れたりさ〜〜〜」
じゃれ合いながら二人の姿は夜の闇に溶けていった




チュンチュンチュン
「う〜〜ん朝か…ふわ〜〜ぁ
 そう言えば昨日は初美帰って来なかったな〜
 ミコトに電話しても通じなかったし…まっいっか」
「ふん〜〜葉月〜〜むにゃむにゃむにゃ」
そう言えば、昨日は伊織と一緒に寝たんだっけ…
あっそう言えば…昨日は一度もしていない
ここは不味いし…じゃトイレで…

「あ〜んむにゃむにゃむにゃ〜葉月〜トイレでオナニーしゃダメでしょ〜
 むにゃむにゃむにゃ」
まるで分かっているかのような伊織ちゃん
当然その頃葉月たんがトイレで頑張っていた事は言うまでも無い



「はぁはぁ…お姉さまっやっと見えて来ましたよ」
「はふーまさかあの後道に迷うとは…流石東京ダンジョン侮れない」
「って言うかお姉さまが変な男に財布やら携帯奪われるからこう言う事になるんですよー」
「まーまー家には付いたんだし〜いいとしましょう〜
 でないと、おでこちゃん特製ホットケーキ食べさせちゃうぞ!」
「あの初美さん…それ笑えない」
道に迷いに迷って辿りついた先の東邸で葉月たん特製の朝ごはんに
喜び飛びつく初美とミコトであった
二人には葉月が救いの女神に映ったに違いない

「あ〜んよく寝た〜って朝ご飯!!葉月に怒られるって
 ここ葉月の部屋よね…葉月が居ない?
 と言うか、くんくん良いにおい
 そーか、葉月が朝ごはん作ってくれてるんだわ〜〜
 あーん葉月愛してる〜〜〜」
だが伊織の目の前には修羅場の様に初美とミコトの食い荒した後しかなかった
「あーおはよう伊織
 悪いんだけど、後片付け手伝ってくれるかな〜」
「ってあたし一口も食べてないじゃん!!!」
そう嘆いている伊織ちゃんを後目に初美とミコトの二人が抱き合いながら
微笑ましく寝ている姿は葉月には嬉しく映ったと言う

「まったくもー何で何時も何時も伊織ちゃんばっかりーーー
 とは言え…うぅまー今回だけは許してあげるわっおでこちゃん」
「そうだ伊織…」
「え?何葉月〜〜」
「…いや…何でもない」
葉月は昨日の手紙が初美が用意した物だと喉まで出かかったが
それを言わない事にした

「伊織御免今日朝早いんだ
 後片付けと昼のお弁当〜後二人を時間になったら起しておいて〜じゃ〜〜」
「って葉月ーーーー
 仕方がないな〜ケンちゃん」
「はいな〜ってこれ全部ワテがやるんでっか!!」
「あたり前じゃない〜リリスちゃんは今から愛妻お弁当作るんだから〜」
「何か言ってる事凶暴ですが、めちゃ嬉しそうやん…」






朝誰も居ない学校
ボクは屋上で大の字になり空を見上げる
そう言えば…もう少しであの旅から3ヶ月が経つのか…
ボクは目を閉じ思い返す
今の幸せが何時まで続くんだろ…
初美…何時かボクは初美を卒業しないといけないんだよね
ボクは今まで初美の後を追い続けてきた
でも本当は追ってるだけじゃだめなんだ
同じ所に立って初めてボクは言えるんだ
初美が好きだって
やっぱり決めた、ボクは…




晴れた秋の朝空に何かを誓う葉月であった



















え?その後時間まで葉月たんがナニしてたかって
そりゃも〜〜






-----------次回予告
ヤミと帽子と月影の少女〜顔のない月三部作第2回!
倉木の山で起こった事件
巻き込まれる葉月と伊織
そこに待ち受けるものとはっ!
穢れが羽山達を襲う!

「ララ!魔術王国の世界765!ドロッセルハウスト!!」
リリスの召喚魔法が炸裂する!

次回ヤミと帽子と月影の少女〜第8話〜『衣緒』に、乞うご期待

目次に戻る 第6話へ戻る 第8話へ進む

TOPへ戻る

フレームつきページ
By よっくん・K