連載小説
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777 殺ッタネ








人間の里にて

現在、人間の里には人間や妖怪達は居らず、静寂だけが鳴り響いてる…今の里に有るのは、無数の死体のみ…。
先程まで天使達もいたのだが、標的がもうここには居ないと判断したのか、里に天使達は居ない。

「さとり様ー!!」
その里に響く静寂を裂く、誰かの声が聞こえる。
「さとり様〜!どこ〜!!」
その声の主は、自分の主を探している火焔猫燐と霊烏路空だ。お凜は地上からさとりを探しており、お空は空から里を広範囲に見て探している。
探し始めてから数十分経つが、呼び掛けに返ってくる声はなく現れるのは天使に殺された何かの亡骸のみ。本来ならお燐の本業である死体回収をするところなのだが、当然そんなことをしている暇はない。一刻も早く、行方を眩ましている主を探し、見つけなければならない。

大丈夫、自分達の主は強い…そう信じてはいるのだが、この屍の山を見ていたらどうしても不安になる…。これは間違いなく異変だ…だが、今までのような異変とは違う。大量の犠牲者を出してる上、この異変の首謀者達は正体不明、力や勢力も未知数の敵だ…。正直、いつも異変解決に向けて動く博麗の巫女達でも…今回ばかりは無理なのではないのだろうか…?

博麗の巫女でも敵わない相手なら、さとり様はもう……


立ち止まって、そんな最悪な状況を考えてしまう…だが、それを否定するように軽く首を振り
お燐「…いや、そんなことない…。さとり様は力だけじゃない、頭だって回るし、心だって読める…だから、どこか安全な場所に身を隠してる筈…!」

一人、そう呟く。自分自身に言い聞かせるように…。
再びさとりを探しだそうと、歩き始める…だが、爪先に何かが当たる。
恐らく、里に住んでいた人間か妖怪だろうと思い足元を見下ろす。




















お空「見つかんないなぁ…何処にいるんだろ…ん?」
空からさとりを探していたお空だが、地面に座り込んでるお燐が視界に映り込む。
お空「お燐〜、何してるの?さとり様、見つかったの?」
お燐の所まで降りると、座り込む相手に主が見つかったかを尋ねる。
お燐「………。」
だが返事が返ってこず、ずっと下を見ている。
お空「お燐??」
流石に様子がおかしいと思い、お燐の前まで廻ろうとお燐の横を通ろうとする……

お空「…え?」
お燐がずっと見ていた"何か"を、お空も見てしまった……。


































お空「お燐……何それ…?その死体、なんでさとり様と同じ服着てるの……?」
お燐の目の前に、さとりと同じ服を着た頭部のない死体が転がっている。

お空「ねぇ、お燐…それ……さとり様…」
お燐「違うっ!!」
お空がそう言いかけると、怒鳴って否定する。まるで、目の前にある現実すらも否定するように…。
お燐「そんなわけないでしょ!さとり様が死ぬ筈ない!!これはさとり様なんかじゃない!」
地に堕ちた、血塗れの虚ろな眼を見ながらお空に怒鳴る。
お空「そ……そうだよね…!さとり様じゃないよね!それじゃあ、向こう探してくる!」
そう伝えると、お空は再び翼を広げて空へ向けて飛んでいった…。














本当は、気づいていた。

気づいているのに、気づいてない振りをした。

…いや、違う……認めたくなかったんだ。


お燐の眼から溢れた大粒の涙が、さとりのサードアイに落ちる。いくら涙を落としたところで、その眼に光が戻ることはない、逝ってしまった主が戻ってくることなんてない。そんなことはわかっているのに……瞳から溢れ出る雫は止まってくれない…。

お燐「あたいが…っ…あたいがっもっと早く来てれば…っ……!さとり様ぁ…っ…ごめんなさい……っ…!」

もう返事が返ってくることがない主に対して、泣きながら謝り続けるお燐。





「泣〜いてばかりいる子猫ちゃん♪」
お燐「…っ!!」
「殺人鬼のウサギさん、困っちゃうなぁ〜?」
自分の正面から聞こえた声によって、止まってしまう。ゆっくりと顔をあげると、そこには三本の手斧を持った白い兎がいた。
そう、先程永遠亭襲撃した兎だ…。

お燐は咄嗟に、目の前にいる兎が敵だと認識して距離を置く。兎はゆっくりと立ち上がって左手に持っている三本の手斧をぷらぷらと振っている。

「ありゃ、めっちゃ警戒されてる。まぁ、無理もないかぁ…。」
お燐「あんた、誰…!あの天使の仲間…!?」
目の前にいる兎を睨みながら、警戒してる様子で問いかける。兎は相変わらず手斧を振って適当な態度をとっており
「あー…一応そんな感じ?まぁ、あたしは動きたいように動いてるだけなんだけどねぇ…にしても、この辺の奴等ほとんどやられちゃってるなぁ、あたしが殺りたかったのに。おまけに、相手は一人かぁ…。」
一応お燐の問いかけには答えたが、後半は手斧でジャグリングしながら独り言を呟いている。
お燐「何を言って…」
「ま、いいや。」
お燐の台詞を無視して、そう呟くと自身の両手の平と頭の上に斧を立てて見せて

「お前を777等分すれば、いいだけの話だし。」
と、仮面から覗く半分の顔が不気味な笑みを浮かべる。お燐は相手の顔を、目を見ると背筋が凍りつくような悪寒が走る。

あの兎の目は、殺人鬼なんて呼び名で収まりきるものじゃない。あの目からは、底知れない憎悪や邪念、殺意…様々な負の感情が混ざっている目だ。
そう、まるで……この幻想郷の住民を、全員殺すと言う思念が、目から伝わってくる……。


「どうしたの、泣き虫の子猫ちゃん。何か、考え事?」
いつの間にか兎が後ろにいて、こちらに背中を向けている。先程手の平に持っていた手斧は握られており、頭に乗せていたのは口にくわえている。
お燐「…っ!!」
背後にいる兎の方を向こうとする…が、少し動いた瞬間顔から何かが落ちる。目だけを動かして下を見ると、自分の足元に細切れの肉片が転がっているのが見える。

「777(セブンスタッド)〜!」
陽気に兎がそう言うと、お燐の体がどんどん崩れ落ちていき、細切れの肉片と、赤色の猫の紅い血が広がっていく…。


「殺ッタネ♪」





















少し経つと、兎の元に真っ白の戦闘機が降りてきて、兎から少し離れた場所で着陸する。
「Killer」
戦闘機から降りてきた一人の天使が、兎…Killerに近づく。Killerは先程777等分したお燐の肉片を全て並べて、777という数字にしている。
Killer「もう終わり〜?まだ一人しかやってないし……そっちに転がってるのは?」
戦闘機の近くに転がっている、黒焦げの遺体を指差す。大きな翼や高めな身長から、恐らくはお燐と共に主を探していた、お空だろう…。

Killer「そっちも譲ってくれればいいのに…まぁいいか。」
肉片を並べ終わると立ち上がり、天使の方へ向けて歩き出す。

Killer「これから、楽しくなりそうだしね…♪」


つづく





〜おまけ〜

『エレンの幻想郷滞在記録』

こんにちは、私の名前はエレンです。
…え?誰だって?…前回、あのBlack crowとの戦いで、一人撤退した上位天使がいましたよね?あれが私です。
にしても、想定外でした…まさか、あの死に損ないが思念石に適合してしまうとは…おまけに、いきなりレベル3。一体どういうことなのでしょう…普通なら、最初はレベル1の筈…。
いや、それよりも今最悪な状況に。私の頭部についていた、通信用の思念石が破壊されてしまいました。あれは思念石適合者や天使達に通信できる上、我が主から力も供給されていたというのに…私の動力源である思念石は体内にありますが、今の私は何の力も持っていません(元々戦闘用ではありませんし)。

一応、記録を書き残すつもりですが…一体、どうすれば……

「おや、こんなところに人が来るなんて、珍しいねぇ。」
気がつくと、目の前に中年の男性が。格好からして農夫…でしょうか。
どうやら私は、考え事をしている内にこの農夫の畑に来てしまったようですね。こんな漫画みたいなこと、実際にあるんですね…。

農夫「お嬢ちゃん、迷子かい?どこの子だい?」
何も知らずに話しかけてる…まさか、今幻想郷で起きていることを知らない…?
…まぁ、関係ありません。都合よく、農具を置こうと私に背中を向けてる。確かに私は無力ですが、配管工をやってそうな双子の兄弟の弟みたいな雰囲気の農夫ぐらい、素手で殺せます…。

さぁ、畑仕事の続きはあの世でやりなさい…!!




















ポカッ

農夫「ん?肩叩きをしてくれるのかい?嬉しいねぇ、もうちょい右の方をお願いするよ。」
最悪ですね、全力で殴ったのに肩叩き程度……私、どれだけ力ないんでしょうか…。

その後、一時間程肩を叩かされました…手が痛い…
農夫「あ〜、そこそこ。もうちょい強めで頼むよ。」
黙りなさい。


つづく
20/12/12 14:27更新 / 青猫
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