連載小説
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"いかなる状況でも、不屈の思念を抱き続けろ"

大天狗様が、私に言った最初で最後の言葉。
当時の私は、この言葉の意味を「どんな時でも挫けるな。」と思っていた。けど…この状況になって、漸くこの言葉の意味を理解した。
…大天狗様は、偶然この言葉を送っただけなのだろうか?それとも…こうなることが、わかっていたのだろうか…?
その謎は解けることはなく、謎のままだ…。






あれから少し休んだ文は、妖怪の山の近くにある避難所の前まで来ていた。
先に行ったはたてと紅魔館一同が、此処に辿り着いているはず……。

文「…皆さん、無事に辿り着いたのでしょうか…。」
此処に来るまでの道中、戦闘をしたと思われる形跡は見当たらなかった。恐らくは大丈夫だろうが、万が一天使に接触していたら?という、嫌な想像が脳裏を過る。
かと言って、ここでじっとしているわけにもいかない…もし帰っていないのなら、急いで探しに行く…体力も大分戻った、黒装化できる…あまり長くは使えなさそうだが…。

心臓の鼓動が、鮮明に、体内で大きく鳴り響いてるように聞こえる…扉にかけた手に、鼓動が伝わってくる…。文は、ゆっくりと扉を開けた…。




はたて「…!…文!」
扉を開けて、一番最初に見えたはたてがこちらを向きこちらに駆け寄る。
フラン「天狗のお姉さん!」
美鈴「よかった、無事だったんですね…!」
はたての発言に気づき、手前の部屋からフランと美鈴が顔を出す。二人も文の近くに駆け寄る。
文「よかった…皆さん、無事にたどり着いてて…。」
安心したのか、無意識に肩の力を抜いて笑みを三人に向ける。

はたて「それはこっちの台詞よ!…まぁでも、あんたなら逃げ切れると思ってたけどね!」
美鈴「そんなこと言って、心配してずっと入り口の前で射命丸さんを待ってたじゃないですか。」
はたて「ちょっ…!?」
苦笑いしながら、はたてがずっと…なかなか戻ってこない文を心配して入り口の前で文のことを待っていたことを明かすと、はたては赤面になりながら美鈴の方を見る。文はその様子を見て、笑っている。

文「いつもならからかうところだけど…今は、純粋に嬉しい。ありがとう、はたて…。」
はたて「う、うん……どう、いたしまして…。」
素直にお礼を言われたはたては、照れ臭そうに少し視線を逸らして頬を人差し指でぽりぽりと掻いてる。

文「そうだ、咲夜さんは?」
紅魔館にて、主人を庇い意識を失ってしまった状態の咲夜。もう意識を取り戻したか気になったため、はたて達に問いかける。
すると、先程フラン達がいた部屋から鈴仙が出てくる。

鈴仙「咲夜さんなら、大丈夫よ。治療も終わって、意識も戻ってる。安静にしてれば、すぐに治るわ…。」
文「本当ですか!」
文は三人がいた部屋に入ると、治療が終わりベッドで横たわってる咲夜と、その隣の椅子に座ってるレミリアがこちらを見る。
文「よかった…。」
命に別状がなさそうな咲夜を見ては、安心したような笑みを向ける。すると、咲夜が口を開く。

咲夜「心配かけたわね…けど、もう大丈夫よ…。」
まだ傷が癒えていない状態ということもあり、弱々しい笑みを向ける…だが、永琳の弟子である鈴仙が診たのだ、大丈夫だと判断する。

レミリア「咲夜…。」
咲夜が主人であるレミリアの方を向く。レミリアはうつ向いており、謝罪の言葉を咲夜に伝えようとした…。
だが、今近くにいる文の言葉が頭の中で響いた。




"咲夜さんは立派ですよ。体を張って、主を守った……従者の鏡ですよ。"



レミリア「……ありがとう、私を守ってくれて…。本当に、貴方は立派よ…主を、命懸けで守って…だから、今度は」
レミリアは顔を上げ、寝ている咲夜に顔を見せる。

レミリア「今度は、私が咲夜を守る番。貴方を…いいえ、誰も死なせたりなんかしない。」
口許に笑みを浮かばせている…だが、その紅い瞳には強く、固い"決意"があった…。

咲夜「お嬢様…。」
咲夜は、目元に少し涙を浮かべてレミリアを見ていた……ついでに、鼻から鼻血も流していた。

文「台無しでしょうが!」











文は、避難所の中を歩き回っていた。避難所に、どれだけ集まっているかを見て回っている。
しかし、数が少ない…もちろん、此処以外で生き残っている者もいるだろうが…正直、生き残っている可能性も低い。あの天使達がどれだけいるかはわからない…もしかすると、幻想郷全域に現れ、今もそこにいる者達を襲い、殺しているのかもしれない…。

「あれ、天狗のお姉さん?」


どこかから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。声がした方を向けば、そこには…古明地こいしがいた。だが、いつもとは違い…両目を閉じて、彼女達さとり妖怪特有のサードアイが開いている。
文「こいしさん!無事だったんですね!よかった…他の皆さんは?」
他の皆…地霊殿に住むこいしの姉、古明地さとりや、ペットである火焔猫燐や霊烏路空のことを言っており、見当たらない辺り別の部屋にいるのか、それとも………

こいし「お燐達は、お姉ちゃんを探しに行ったよ。早く、戻ってこないかなぁ…」
文から視線を…というより、顔を逸らして三人の帰りを待っている様子。だがこいしのサードアイは、文のことを見ている。
文は、先程から気になっていたことを聞くことにした。

文「その…こいしさん、目を閉じてますけど…どうしたんですか?サードアイも、開いてますし…。」
この状況だ、大体想像はついてしまうが…聞きにくそうにそのことを尋ねる。こいしは目を閉じているにも関わらず、正確に文の顔を見上げて

こい「…白い、よくわからない奴にやられてね。両目が見えなくなっちゃった…。サードアイも無事だったし、お燐達が助けてくれたから、なんとか助かったの。」

文「…そうでしたか…ごめんなさい。」
こいし「いいよ、気にしてないから。それより……。」
今度は皆がいる方を向き、サードアイはじっと見つめている…。

こいし「私は、お姉ちゃんほど見えてないけど…それでもわかるよ。皆の心から、不安や恐怖、絶望が…。「これからどうなるんだろう」「次は私達が死ぬかもしれない」「もう終わりだ」って…。」
こいしと同じように、皆の方を向く。皆俯き、暗い顔をしている…無理もない、こんな状況だ……先程天使達に対抗できる手段を見つけたが、それでも皆と同じ気持ちだ。この幻想郷に降りてきたのは、天使達だけじゃない…もっと、強い力を持つ者達が、幻想郷のどこかに潜んでいる…。

ふと隣を見ると、サードアイは驚いたように目を見開いており、こいしの顔も同じように、驚いた表情をしている。

こいし「天狗さん、あの白い人の倒し方…知ってるの…!?それに、その思念石って……。」
文「あぁ、そういえば今は心が読めるんでしたね。皆さんにも教えるつもりでしたし…まぁ、詳しいことは別の部屋でお話しましょうか。」
今現在二人がいるのは廊下、とりあえず落ち着いて話すために部屋に移って話をしようと提案し、こいしもそれに同意したようで頷き、二人は廊下を歩き始めた。


















同時刻、避難所内の部屋にて
ベッドに座り、俯き暗い表情を浮かべている氷の妖精…チルノがいた。チルノも此処に来るまで天使達と遭遇し、上級天使と思われる獣と戦闘し、無事に勝利した…。
……だが、彼女にとって…失ったものが大きすぎた…。他の妖精や、自分と同じように寺子屋に通うルーミア、そして…自分の親友でもあり、「最強」に拘るようになった…例え自分よりも遥かに強い敵が現れても…絶対に護りたい存在でもあった、大妖精の死…。

チルノ「……。」

こちらに助けを求めたが、殺された妖精…森の中に転がる複数の死体…差し出した手を、涙に濡れた安堵の表情を浮かべて手を伸ばす大妖精…そして、その手は届かず…目の前で散る…そんな映像が、脳内に鮮明に映し出される。



自分がもっと強ければ、本当に「最強」なら……皆を失わずにすんだのだろうか?あの化け物達を、全員倒すことができたのだろうか?
いくら後悔したところで、皆は帰ってこない…今までのように、最強の自分を演じたところで…どうにもならない。結局、自分は無力なのだ……そんなことを、ずっと考えてしまう。考える度、自分の無力さを思い知らされる…。

…これから、自分はどうするべきなのだろうか……。



「…チルノ。」
部屋の入り口から声が聞こえる。チルノは顔を上げず、ずっと俯いたままだ…見なくてもわかる、声の主がアリスだと言うことが。
アリスはチルノに歩み寄り、チルノの前に立てばしゃがみ、俯いたままのチルノの顔を覗く。
アリス「…あの森を見て、何があったかは察したわ。……本当、なんでこんなことになったのかしらね…。」
此処に来るまでのことを思い出しながら、暗い顔をしてずっと俯いてるチルノに話し続ける。
森に転がっていた無数の死体、自分達を襲った天使達。そして……森を消し飛ばした、謎の飛行物体…どれも、頭の中で鮮明に映し出される。

頭の中にある、記憶の映像が"ある場面"で止まる。……こちらに笑顔を向け、お礼を言う上海人形の映像だ。
シャンハイの笑顔を見ると、少し俯いて口を開く。

アリス「…私もね、目の前で…大事な人を失った。」
その言葉を聞いたチルノはゆっくりと、少しだけ顔を上げたように見えた。
アリスはそれに気づいたかどうかはわからないが、そのまま話しを続ける。
アリス「命に変えても、護りたい人だった…。けど、逆に護られて…できることなら、今すぐに会いたい。会って「護ってあげられなくて、ごめんなさい」って、謝りたい。…けど、もう会うこともできないし、声を聞くこともできない……私は、大切な人の命を奪った、奴等を許せない。だから…」
再び顔を上げて、チルノの顔を見る。

アリス「だから…私は戦う。先に逝った人達のために、奴等と戦う。」
チルノの暗い瞳に映ったアリスの目は、決意に満ち溢れていた。アリスは本気だ、本気で奴等と戦うつもりだ…強さも未知数な相手に、立ち向かうつもりだ……。

チルノ「…アリスは、強いね…。けど、あたいには無理だよ…あたいがアイツ等に、勝てるわけない…。」

アリス「…大丈夫、チルノにもやれる。だって、チルノは…」
そう話しながら、アリスはチルノの右手首に何かを巻き始めて、蝶々結びにする。何を結んだのか右手首を見ると…そこには…

アリス「"最強"なんでしょ?」
そこには、大妖精のリボンが結ばれていた。
そのリボンを見ると、大妖精と過ごした記憶が溢れてくる。どんなときでも、一緒にいた…大妖精との記憶が。
大妖精が、こちらに笑顔を向ける映像が最後に流れた。その映像を観たチルノは、自然と目から涙が溢れ、流れ落ちた。

チルノ「うん…っ…うんっ……。」
チルノは、涙を流しながらアリスの言葉に何度も頷いた。アリスも目に少し涙を浮かべながら、左手首に結んである上海人形のリボンに目をやる。
アリス「…見ててね、シャンハイ…。」







少し経つと、文とこいしが二人の部屋の前を通りかかる。
アリス「あ、文!」
それに気づいたアリスとチルノは、二人に歩み寄る。
アリス「よかった、無事だったのね!」
文「えぇ、なんとか。お二人も、ご無事で何よりです。」
知ってる相手が此処にたどり着いてたことを知れば、安堵した笑みを向けた。

文「ちょうどよかった、お二人にも天使の弱点等をお話ししましょう。部屋に上がっても、いいですか?」
天使に弱点があること、それを知っていることに驚くが、チルノとアリスは二人を部屋へ上がるように促した。


つづく




〜おまけ〜

『エレンの幻想郷滞在記録』

苦しい……どうにかなってしまいそうです…。
先住民め、天使である私にこんなことをするとは…!正しく拷問!!この農夫、こんな無害そうな顔をしておきながら、こんなことをする人間だったとは…!!


農夫「いや〜、悪いねお嬢ちゃん!畑仕事まで手伝わせちゃって。」
エレン「No…No problem….」


※エレンちゃんがジャガイモが大量に入ったカゴを運んで苦しんでる間、どうしてこうなったか説明するよ。

前回農夫を暗殺するつもりが、力が無さすぎて失敗した上に肩叩きをさせられたエレン。ここからさっさと離れようとしたところ、敵に出会ってしまう可能性を考慮して、敵も味方も来る可能性が低い此処にいた方がいいと判断し、農夫に頼み農夫の家に居候することに。流石に何もしないわけにもいかないため、畑仕事を手伝うと言ったところ、こうなりました☆



にしても、私力が無さすぎでは…?力を供給してもらっていれば、こんなの片手で運べるのに…というより、まず農夫を暗殺しますが…。できないからこうなってるんですよね…誰ですか、畑仕事手伝うと言った馬鹿は。

※あなたです。


よろよろと飛びながら、漸く野菜置き場が見えてくる。

おぉ、見つけた…!私のオアシス…!!

オアシス(野菜置き場)にカゴを置くと、その場にへたれ込む。

死ぬかと思いました…。

農夫「お疲れ様、家に戻って休憩しよう。」




農夫がキッチンで何か作ってますね。何やら料理の匂いがしますが…。

農夫「おまたせ、久しぶりにこれを作ったよ。」
農夫はエレンのいるリビングに行き、テーブルに先程作った料理をエレンの分と自分の分を置く。

なんでしょうか、これ…ジャガイモのスープ?

農夫「妻が先立って、僕一人で娘を育ててね…娘がそのスープが大好きでね、よく作っていたよ。…まぁ、娘も病で僕よりも先に逝ってしまったけど…。」

もしかして、娘と私を重ねているのでしょうか。全く別人なのに、それをする意味が理解できませんね。私に、心というものがないからでしょうか?

農夫「おいしいかい?」
エレンがスープの具材を食べてるのを見て、微笑みながら問いかける。

正直、美味しいかどうかはわかりませんが、とりあえず美味しいと言っておきましょう。
エレン「Tasty.」

農夫「そうかい?口に合ってよかったよ。」
嬉しそうな顔をして微笑む農夫。
農夫「そうだ、自己紹介がまだだったね。僕はアルヴィン、君は?」
農夫…アルヴィンが簡単な自己紹介をする。

エレン「…Elen.」
アルヴィン「エレンだね、これからよろしくねエレン。」


まぁ…仲間が来るまで、亡き娘と重ねていることに付き合いますか…。


つづく

21/03/30 16:00更新 / 青猫
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