Page.12『エレガンスレディ〜そして大陸へ〜』
エピソード孤島の世界・後編:エニア
2004年11月09日更新


「ん…眩しい
 朝なのか…」
ミルカの看病に付っきりになってた葉月に日がさして来た
「ガルルル」
ラスカレスが葉月に擦り寄る
「おはよう、ラスカレス
 ミルカは?」
「ガルル…」
「まだ目を覚まさないのか」
「葉月〜お疲れ様
 はい、コーヒー
 ラスカレスには、美味しい木の実よ」
エプロンをしたリリスが、ミルカの看病をする葉月達に食事を持ってくる
「ありがとう…リリス」
「あら?今日はやけに素直なのね」
少し意地悪そうにリリスが葉月の顔を覗きこむ
「…五月蝿いな 別にいいだろ」
少しふて腐れる葉月に笑顔を見せるリリス
「もう3日間も眠りっぱなしね…」
ミルカを心配そうに見つめるリリス
「ああ…
 でも、何であの時コゲちびが…」
「そうね、ちびには帰ったらお仕置きしないとね」
葉月に笑顔を向けるリリス

「ミルカさま〜〜ごめんなさい私が全て悪いの
 だから目を覚まして、ミルカさま〜〜〜」
セイレンが情けない声で、ミルカの手を強く握り締める
「止めないさいよ、セイレン」
リリスが止めるも
「あんたの指図は受けないわ
 そもそも、ミルカさまがこんな事になったのだって
 リリス!あんたのせいでしょ!!」
セイレンの八つ当たりがリリスに炸裂する
「いや、なんであたし??」
「そもそも、あんたがこの世界にさえ来なければ
 ブツブツブツ」
「あ…あははは
 はぁ〜」
疲れるリリスに葉月がポンと肩を叩き
ふるふるを首を振る
それにリリスも頷く
「何だかんだ言って、セイレンはミルカが大好きなんだよ」
葉月はリリスの肩を抱き寄せミルカベットに泣きじゃくる
セイレンからリリスを離した…




「ミルカさま…」
エニアがミルカの着替えを持って部屋へ来る
「エニアか…キミはさ
 セイレンの僕じゃないのか?
 なのに、随分ミルカに熱心の様だけど
 それに、ラスカレスも警戒してない様だし
 キミは本当は…」
葉月がエニアに話かけるとエニアはその口を開いた
「私は元来はミルカさまの兄上に生み出された存在」
「ミルカのお兄さんに?
 じゃ…セイレンとは」
「セイレンさまは、私が孤島に入るため…
 貴方はミルカさまをお守りしてくださいました
 ミルカさまも、貴方の名前を呼んでいました
 全て話しましょう…
 そう、あれは」






あ〜心配だ心配だ〜ミルカはまだ3歳なんだぞ〜
そんなミルカを人里離れた孤島に、いくら養生の為とは言え…
あーー私も付いていく〜〜

お止めください王子

止めるな〜止めないでくれ〜

今王子が孤島に行かれてしまっては
時の秘術を誰が唱えるのですか

うぅ…ミルカ兄は必ずミルカを助ける方法を見つけ出すよ
それまでは、隔離世の世界で幸せに暮らしておくれ…


ミルカさまは生まれながらに病弱な赤子だったと言います。
そしてある発作を期に、大きな病気が見つかりました
その病気はミルカさまが成人する頃に発病し
死に至らしめる恐ろしい病気でした。
ミルカさまの兄上様はミルカさまを助けるべく
無人島であったこの島にミルカさまを閉じ込め
その流れる時間をゆっくりにさせる魔法をかけました
少しでも長い時間、ミルカさまが生きられるように
同時に、自らがその病気を治す方法を見つける為に…

ミルカさまの兄上様は、寝る間も惜しんで研究に没頭しました
10年が経ち、20年が経ち…
そして、50年以上の歳月が経ち、遂にミルカさまを救う薬を
作り出したのです。

しかし、自らがかけた魔法を解いても島に着く事が出来無い
兄上様はそのクスリを作り出す際、様々な黒魔術の勉強をなさいました
その時造られたのが、この私エニアでした。
同時に兄上様はある存在に気づいていました
異世界の存在です。
その時兄上様はもしかしたら異世界の者ならば
あの島へ辿り着く事が出来るかもしれないと思ったのです。

その島の少女は強い魔力を持った存在だと
諸国へ噂を流しました…
そして兄上様の前へ現れたのが、妖魔セイレンだったのです。

兄上様はセイレンに私、エニアを仕えさせ
ミルカさまの住む孤島へと向わせました…
しかし、セイレンは自分のみ孤島へ入り
ミルカさまを手中に収めるべく行動を始めたのです…



「…まさか、ミルカにそんな過去があったなんて」
葉月はエニアの話に胸が熱くなっていた
「そうか…この島の時間を遅らせていたのは初美ではなかったんだ…」
葉月は少し残念そうな顔をしたのだが…
「葉月、その話だけど」
リリスが何かを言おうとした時だった

「ミルカさま!!」
セイレンの大声が部屋に響く
「うぅ、セイレン声大きすぎるなの」
「ミルカさま〜〜〜良かったミルカさま〜〜」
起き上がったミルカを泣きながら抱きしめるセイレン

「ミルカ…おはよう」
葉月は優しい表情でミルカに挨拶をした
「おはようなの〜」
ミルカも笑顔で挨拶を交わす

「ミルカさま」
エニアも嬉しそうに微笑んだ

「貴方がエニアなの?
 ミルカ夢を見たなの…
 大好きなお兄ちゃんの夢なの
 夢の中では、ミルカ大人のレディになってて
 大好きなお兄ちゃんのお嫁さんになってたなの
 二人でたくさんお話して
 たくさん色んな世界を回って…
 ミルカ…凄く…しあわせ…うぅ」
ミルカの目には大粒の涙が溢れていた
「ガルルル」
ミルカを慰めるように、ラスカレスがミルカの顔を覗き込む
ミルカは堪らなくなり、ラスカレスに抱きつき
泣き崩れる

「ミルカ…」
葉月はそれを見守る事しか出来なかった…
そう、真実を知ってしまった葉月には…


ミルカはラスカレスと二人で
おばあさんのお墓へと向った
それは、葉月に渡されたおばあさんの日記を読んだからであった




「リリス話ってなに?」
葉月はリリスと二人海岸に来ていた
「夕日が綺麗だね」
「あぁ」
二人で夕日を眺める
「ミルカのおばあさんの事だけど」
リリスが話を切り出す
「いいよ、何となくだけど分かるから
 なんでラスカレスが特別だったのか
 ミルカが何であんなに元気なのか…
 初美はさ
 体の弱かったミルカを、少しでも強い子にしようとしたんだと思う
 ボクも、幼い頃は体が弱くて何時も初美の後ろにばかり隠れてた
 そんなボクをさ…
 初美は引き離すんだ
 強くなりなさいって
 最初は、何でそんな意地悪するのってボクは泣いてた
 でも、それが初美の優しさなんだって分かった
 今こうしてボクが元気でいれるのは、全部初美のお陰なんだ
 だから…ミルカにもそれを知って欲しかった…」
葉月は夕日を眺めながら
自分に言い聞かせる様にリリスに話した
「うん…そうだね
 ミルカも何時かは…葉月みたいな
 強くて、綺麗な女性になれるよ…きっと」
葉月を優しく見つめるリリス…だが
「てかさー
 前から思ってたんだけど、リリスってさー
 ボクの事凄い年寄り扱いしてないか?
 ボクこう見えても、まだ14なんだけど」
「あ…えーと、その
 そう、葉月って〜凄い美人だし〜
 なんて言うか〜美少女って言うより
 美人さんって言うか〜〜」
リリスの懸命な言い訳が始まる
「…クスクス」
「へ?葉月?」
「ハハハハハ」
「クス…ハハハハハ」
二人は顔を見合わせて笑い出す
「てか、リリス笑い過ぎ」
「ごめんなさい」





おばあさんのお墓の前
ミルカとラスカレスは墓標の前に立つ
「ミルカ知ってるよラスカレスがあのおばあさんを
 居なくしてくれたんだよね
 ずっと、ずっとミルカの一番の友達はラスカレスなの
 でもね…
 ミルカもう大丈夫だから
 また誰かに嫌な事されても
 ミルカ、今度は自分でなんとか出来るような
 そんな気がするから…
 だからね」
泣きながらラスカレスに話すミルカ
その涙を拭いて立ち上がる
「ラスカレス、もうあんな怖いことしないで欲しいの
 ミルカきっと大丈夫だから
 それでね、ミルカが本当に困った時には
 ラスカレスが助けてくれると、嬉しいの」
「ガルル」
「どうしてかな
 ミルカ今とても素敵な気分なの
 葉月とリリスが来てくれたからかな」
抱き合う二人…

「そうだ、ラスカレスご本読んであげるなの」
ミルカはその場に座り込むと
ラスカレスにおばあさんの日記を読んで聞かせた…




その日の夜、葉月はセイレンとエニアに手伝ってもらい
盛大なご馳走でミルカを持て成した
そう、ミルカの誕生日パーティであった
その日葉月は朝までミルカにたくさん話を聞かせてあげた
初美の事、自分の事、今までの旅の事
ミルカに何かを託すようにたくさん話をした
そんなミルカは疲れたのか、葉月の胸の中で眠る…
葉月は昔を思い出しながら目を閉じた
「初美…お休み」



翌日の朝、葉月とリリスは海岸に止めていた船の準備をしていた
「葉月〜話ってなに〜?」
ミルカはラスカレスとエニアを引きつれ
葉月の元へやって来た
「ミルカ、ボク達そろそろ旅立たないといけないんだ」
葉月はミルカに言う
「もう帰っちゃうの?」
「あぁ…恋人がまだ…見つかってないから」
「葉月…」
「ミルカ、セイレンもね身支度したら
 島を出て行ってしまうの」
「リリス?…セイレン居なくなっちゃうの?
 そしたら、ミルカ一人ぼっちになっちゃうの」
「そんな事ないよミルカ」
葉月はエニアと、ラスカレスを見つめ頷く
「ミルカさま、私は一生ミルカさまにお使え致します」
エニアはミルカに跪く
「…エニア、気持ちは嬉しいけど
 お断りなの」
「ミルカさま?」
「お使えなんてされたって、ちっとも嬉しくないなの
 エニアはミルカのお友達なの」
ミルカは慢心の笑顔をエニアに向けた
「ミルカさま…はい」

「ミルカ、あたし達の乗ってきた船あげるから
 大陸へ向うといいわ
 そこにはきっと、貴方を待ってる人が居るから」
リリスはそう言うと、船を魔法で巨大な豪華客船に変身させる

「エニア、ミルカの事たのんだよ」
「はい」
「ミルカ…その日記大切にするんだよ
 何時か…ミルカにも分かる日が来るから」
「葉月…うぅ」
「ラスカレス、ミルカを守ってあげてね」
「ガルルル〜〜〜」
ラスカレスは涙を流し葉月に抱きつく
葉月は、そんなラスカレスの鼻にキスをしをリリスの元へ行く
「ばいばいみんな」


ミルカ達は、船に乗り込み島を後にした
「さてと、あたし達も帰りましょうか」
「あぁ、次の旅が待ってるからね」
葉月はおばあさんのうさぎのぬいぐるみを抱きしめこの世界を去った



図書館にて
「さーてと、コゲちび
 覚悟はできてるんでしょうね!」
リリスはコゲちびを摘み上げると、お仕置きポーズを取る
「お仕置きいや〜〜〜」
逃げるコゲちびを追い掛け回すリリス

葉月はイヴのぬいぐるみをラミアから貰った人形達の隣りに並べ
それを眺めていた
「ミルカどうなったんだろうな…」
葉月はミルカの本の次のページを眺める
そこに書かれた言葉は分からないが
ミルカが幸せになれた事は何となく分かった
葉月はミルカの本を閉じ
少し疲れたのか、あくびをしながらベットへ向った

「捕まえたわよコゲちび!
 さーケンちゃん!縄持ってきなさい
 ケンちゃん!
 …ケンちゃん?」
その後ミルカの本から干からびたケンちゃんが見つかった事は
言うまでもない






大陸へ向う船の中、ミルカは急速に成長をしていた
大陸に着く頃には、誰が見ても美しい姫君へと成長を遂げていた
そう、止まっていた時間が一気に進み出したのだ
ミルカはエニアから薬を貰い、本来なるべきであった病を克服
ミルカ一行は、ミルカの兄の待つ国へと向った

その国の王様は齢100を越えても生きていた
王の前にミルカ達が姿を現すと、王は微笑みこう言った
「お帰りミルカ」
「はい、お兄ちゃん」
王はその言葉を最後にこの世を去る
だが、その表情はとても幸福に満ちていた。

その後ミルカはエニアとラスカレスに守られ
この国を導く事になるのだが…
それはまた、別のお話





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