作者:銃太郎(SIG550)さん

おでこちゃん伝説 2


 《バーン!!》
大音響と共に扉が蹴破られ、葉月が室内に突入してきた。
腰まで伸びた艶やかなストレートの黒髪、胸に赤いリボンの付いたセーラー服を
着て、左足には緩く巻かれた包帯、右手には愛刀の抜き身を携えている。
端正な顔立ちの中に輝く瞳は、いつもはクールな中に優しさを秘めているのだが
、今日ばかりは怒りに燃えて妖しい光を帯びていた。

「お、おまえは…いつの間に封印を解いたのよ!?」

驚愕した妖魔スキュアが叫ぶ。

葉月は、スキュアにゆっくりと歩み寄りながら無表情に言った。

「ねえオバサン、今までずいぶん可愛がってくれたよね。
結構キツい責めだったから、ボク、すごく感じちゃったよ。」

しれっとして言う葉月にたじろぐスキュア。

「あれだけいやらしく痛め付けたのに、まだ刃向かう気力が残っているなんて…
なんて変態娘なの」

「ボクがあれくらいの拷問で落ちる訳ないだろ。
よくも初美の写真を冒涜してくれたね …今、お礼をあげるから受け取ってよ。」

《ブンッ!》

言い終わると同時に斬り掛かる葉月。
しかし、一瞬早くスキュアは葉月の視界から消えた。
次の瞬間、頭上に気配を感じた葉月は、咄嗟に左へと跳び退いた。
と、ほぼ同時に葉月が立っていた場所の床に大きな穴が開く。

葉月はもといた方へ向き直って睨みつけた。
そこにはスキュアが欲深そうな顔に薄笑いをうかべてこちらに向かって身構えて
いて、その両手には鋭く光る大きな斧のような武器を構えている。

葉月は敵に向かって果敢に突進した。
スキュアは防御態勢を取りつつ反撃しようとするが、葉月の超人的に早い動きを
捉らえることができない。

「たぁぁぁ!」

葉月の刀が一閃した。
次の瞬間、スキュアの両手首が切断されて吹き飛んだ。

「ひいっ!」

焦ったスキュアは両腕を顔の前でクロスさせて、
眼からソーマを込めたエネルギー弾を放った。 

「これでも喰らえ、きぇぇぇえぃっ!」
「ぼっこ〜ん」

金切り声とともに、静脈血のような暗赤色の光球が葉月めがけて襲いかかる。

「はっ!」
「バシュッ!」

しかし、ソーマの密度の低いへなちょこ魔法弾は葉月が気合いを込めて振るった
刀にあえなく弾き返されてしまった。

「ば、化け物!?」(←お前が言うな)

スキュアは、血相を変えてじりじりと後退りしながら早口で言った。

「あ、あんた、女の子好きなんでしょう?だったら男が憎い筈よね?
だったら何故私たちに刃向かうの?何故男を追放して女だけの百合百合世界を作
る計画を邪魔するの!」

「勘違いするな。ボクはレズじゃない!
それに男の子を憎んだ事なんて一度もない(山口以外はな)。
ただ、興味がないだけだ。
貴様の味方なんかしない。
ボクは愛する人を守るためだけに戦う。」

ふん、愛なんて幻想よ!人を愛するなんてバカのすること、
この世で確かな物は金と権力しか無いのよ!
金と権力を手にする者が正義を握るのだよ!」

「五月蝿い黙れ!!!」

葉月は一喝し、スキュアを壁際に追い詰めて喉元に刀の切っ先を突き付けた。

「ひぃぃっ、み、見逃してっ 私には85才で寝たきりの娘と中学三年生の母親が居るの。
だから命だけは助けて、お願い!」

苦し紛れに支離滅裂な出まかせで懐柔を試みるスキュア。
しかし葉月がそんなデタラメに騙される筈はなかった。

「女らしくない」

《ブンッ!》

へたり込んで命乞いするスキュアに容赦なく刀を振り下ろす葉月。 
しかし、何故か敵には傷一つつかなかった。

「はっ、何ともない。はひひひっ、笑わせるわ。何がイブのソーマよ。
ただのなまくら刀じゃないの!
この変態娘、とんだ食わせ者だわ!」

態度を豹変させて侮った口調で嘲笑う妖魔スキュアに、
葉月は凜とした美しい顔を向けて冷酷に告げた。

「安心するのは早いよ、おまえはもう死んでる。」

「ふん、そんなはったりなんか言っ…ぐ…」

スキュアが言い終わらないうちに、そいつの全身がぎしぎしとにぶい音を立てて
軋み始め、醜い顔が恐怖で更に醜く歪んだ。

「な、何をしたぁ?」

そしてスキュアは急に苦しみ出した。

「ひ、や、やめて、たすけて、暴力反対、弁護士呼んでぇ〜、う゛ぶ、ぶぐ、ぐ
うぁぶぁげごぅぇぇーっ!」

《ブシュッ!!》

肺の奥から絞り出すようなキモい叫び声とともにばらばらに飛び散る妖魔スキュア。


「あれぇ〜、もぉ片付いちゃったんだぁ。」

脳天気な明るい声に葉月が振り向くと、部屋の入口に肩をすくめ、
小首を傾げたポーズでリリスが立っていた。

「いや〜ん葉月ぃ〜素敵ぃ 
リリスちゃん惚れ直しちゃったぁ〜」

そう叫びながらリリスは葉月に駆け寄り、背後から葉月の体をぎゅっと抱き締めた。

「リリスちゃん、葉月にぃご褒美あげちゃおっかなぁ〜」

と可愛く言いつつリリスはどさくさまぎれに葉月の胸を触った。

「や、やめろリリス胸をさわるな!」

少し頬を染めながらリリスの手を振り解き後ろを向く葉月。
と同時にリリスは葉月の首に両腕でしがみついていきなり唇にキスをした。

葉月は不意を突かれてリリスに唇を奪われてしまった。

「むぐ、むぅ、んー、んんん…ん…」

葉月は、何をする、やめてくれリリス、と言おうとしたが、
リリスの唇に口の自由を奪われて
言葉はくぐもったうめき声にしかならなかった。

葉月は顔を背けようとしたが、リリスの腕はしっかりと葉月の首を抱え込んで唇を離すことが出来ない。

(いつもと様子が違う、こいつ…マジだ。リリス、まさか…)

葉月はリリスのただならぬ様子を感じ取って激しく焦った。

実はリリスは【おでこちゃん官能写真集】をコルセットの下の背中に隠し持っていて、
そのため葉月は能力を封じられリリスに抵抗出来なくなっていたのだ。

リリスの胸が葉月の胸にぎゅっと押し付けられている。その感触がセーラー服を
通して伝わってくる。
脈拍が早くなり、体がかあっと熱くほてってくる。
頭の芯が痺れる感覚に葉月は思わず目を閉じる

(柔らかい…)

既に抵抗する気は失せていた。

地の底に堕ちていくような感覚がして、
葉月はリリスを抱き締めたい衝動に駆られた。

(だ、駄目だ、抱き締めちゃ ボクには初美がいるのに…)

しかし、葉月の心の中の葛藤は、長くは続かなかった。

(も、もうだめだ…ごめん、初美)

ついに葉月は誘惑に負けて右手に刀を握り締めたまま、
両手を回してリリスの体を抱き締めた。

リリスの体は暖かくて、触れ合っている胸が痛いほどどきどきして、
葉月の心の中は愛しさで一杯になった。

さっきの拷問で全身が敏感になっていたので、
リリスちゃんの強引なキスに思わず感じてしまったHな葉月たんだった。

 と、その時、リリスは右手をこっそり下へ延ばして葉月の制服のスカートのホックを外し、
ジッパーをゆっくりと降ろし始めた。

ジッパーは下まで降ろされてしまったが、二人の下半身は密着していたので、
スカートは下には落ちなかった。

そのためリリスはスカートを脱がせるつもりで、
右手を開いたジッパーから中へ滑り込ませようとした…

「パシッ!」

が、それに気付いた葉月の左手に思い切り叩かれてしまった。

(いった〜い!もぉ〜葉月ったらぁ本気で叩くんだから、ぷんぷん。
でもぉ、焦らなくてもあと一押しで葉月はリリスちゃんのもの。
今日こそぜ〜ったいらぶらぶになってやるんだからぁ。
リリスちゃんのらぶらぶ大作戦、ミッション1コンプリートよん。)

リリスはひりひり痛む右手を空中で泳がせながら、目的を果たすのをひとまず断念した。

数分たって ようやくリリスが唇を離すと、二人の舌の間に唾液が糸を引いた。
葉月がゆっくりと目を開く。何か言おうとするが、言葉が出てこない。
リリスが葉月の首に手を回したままじっと瞳を見つめ、
悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。

「図書館で続き、しよ」

葉月はスカートがずり落ちそうなのを左手で押さえながら、
放心状態で立ち尽くしていた。

再びリリスは葉月にぎゅっと抱き着いたが、こんどは葉月は抵抗しなかった。
抱き合ったままふたりは眩しい光に包まれて図書館へと帰って行った。


「わぁー!ちょっとねえさん!わいをここから出してぇなぁー
あんさん方だけで盛り上がってからに 殺生や〜
わいも二人の胸の間に挟まれたかったのにぃ〜
おにぃ〜(泣)
こんなんばっかりや〜
もういやじゃ〜こんな生活!」

部屋の片隅にぽつんと残された鳥籠の中で、一人嘆くケンちゃんの声だけが、
無人の室内に空しくこだましていた…。


…その後図書館に戻った二人はというと…

 「さあ、葉月、用意はいいわね?
だいじょうぶ。リリスちゃんに任せなさ〜い。」

葉月のセーラー服のリボンを解きながら、リリスは耳元で囁いた。

(いや〜ん、初めて会った時からこの瞬間を待ってたの。よ〜しミッション2発動〜!
むふふふ〜葉月うまそうだぜ〜。じゅるる)
って、リリスちゃんキャラ変わってるし…

「ゴン」

いきなり二人の目の前にたくさんの星が飛んだ。
リリスが葉月を押し倒そうとした途端、葉月が足を滑らし二人一緒に転倒、
葉月は頭を書架の角にぶつけてしまったのだ。

そのショックでリリスがコルセットに隠していた【おでこちゃん官能写真集】が
床に落ち、葉月の封印が解けた。

「痛ったー…あれ、ボク…何してたんだ?…スカート脱げてるし…って…あっ、
リリス!」

頭をぶつけた痛みで我に帰った葉月。

「よくもボクの唇を!
ゆ・る・さ・ん」

乱れた服を直しながら葉月は、額にスジを立ててリリスを睨みつけた。

「やっばー」

危険を感じて逃げ出すリリス。

「待て、リリス!」

「あ〜ん、葉月許してぇ〜。あれは冗談よぉ〜!(ちっ!もうちょっとだったのに)」

図書館中を逃げ回るリリス、刀をかざして追い掛ける葉月。

「冗談で済むかー!もうちょっとでボクはリリスにHな事を!」

「や〜ん!何でクィルや藤姫としたのにリリスちゃんだけダメなのよぉ〜!」

追い掛けっこは少しの間続いたが、体力の無いリリスはすぐにバテてあっさりと
葉月に捕まってしまった。

「ふにゃ〜、ごめんなさい葉月ぃ〜。」

「もぉ、今回は元はといえばリリスが原因なんだからね!それなのにキミはHな事ばっかして!
大体リリスはさぁ、何時も何時もふざけてばかりで、本当に初美を探す気があるの?!」

リリスの襟首をまるで子猫を持つように捕まえながら葉月が問い詰める。

「だってぇ、葉月がちっともリリスちゃんのこと見てくれないから寂しかったのぉ〜 ぐすん。」

「ウソ泣きしたってダメだよ!」

(バレテーラ)

「今日という今日は許さないからね。今からボクが調教してやる!」

「えっ、マジで?」

怖がってるような嬉しいようなリリスちゃん。

「それから、この写真集はボクがもらうからね。」

「え〜!それだけは許してよ〜、お願い」

「だめだよ、リリスが持ってるとまたボクにいたずらするのに使うからね。
これはボクの宝物にするんだ。」
すりすり「あぁ〜初美」

葉月は遠い目をしながら愛おしそうに写真集を抱いてほお擦りした。

こうして、[リリスちゃんのらぶらぶ大作戦]は失敗に終わったのだが…

 リリスは罰としてお尻百叩きの刑に処せられた。

「あぁ〜ん葉月ぃ、痛いけど気持ちいいの〜、もっとぶってぇ〜ん
葉月になら、いくらいぢめられてもいいの〜」

「お尻をぶたれて感じるなんて、リリスは変態だね!」

毒舌を吐きながらもなぜか葉月の目は優しかった。葉月の胸に懐かしい初美との
思い出が甦って来たからだ。

(こんなに思いっきり喧嘩したのは小学校4年の時以来かな。
もっとも、お尻を叩かれるのはボクの方だったけどね。)

いつの頃からか、葉月が初美に特別な感情を抱くようになってからは、
こんな形の姉妹喧嘩をしなくなっていた。

…それは嫉妬と呼ぶにはあまりにも幼い感情だった。

一方的に初美を責める葉月

そんな時初美はただ悲しそうな顔をするだけだった。

初美が消えたあの日の夜、激昂して初美を傷つけたボク

誰よりも大切で愛しい初美…もう一度会って謝りたい。

(ごめんね、初美…会いたいよ。)

葉月はリリス愛用の鞭で彼女のお尻を叩きながら、心の中で呟いた。

 「ああ〜ん、いた〜い、止めて〜、いや〜ん、止めないで〜」

図書館の静寂を破って、リリスの悶える声が小一時間響き渡った。

その後、お尻が二倍に腫れ上がったリリスは
一週間程椅子に座ることが出来なかったのはいうまでもない。


≫その日の夜≪

 図書館でお茶を飲みながら一休みする葉月。
その横でお尻を突き出して左右にぷりぷり振るリリス。

「ねぇ葉月ぃ〜、リリスちゃん、お尻がこ〜んなに腫れちゃった。
痛くてたまんないのぉ、さすってさすってぇ〜」

「五月蝿い黙れ」

「もお〜、葉月まだ怒ってるの?いいかげん機嫌直しなさいよぉ〜」

「本当、リリスって懲りないよね。
ま、その前向きなとこがいい所なんだけどね。」

「えっ!いや〜ん嬉し〜い。初めて葉月がリリスちゃんのこと褒めてくれたぁ。
あのね、葉月あれから元気無いからさ〜、元気付けてあげようと思って〜。」

「ああ、ちょっと小さい頃の事を思い出してたんだ。」

「ふ〜ん、そうなんだ〜、って葉月〜その唇、ひょっとして?」

「な、なんだよその目は、勿体ないから試しにつけてみただけだ。」

「うふふ、葉月もやっぱり女の子なんだ〜。」

「あ、当たり前だろ。…そうだ、ねえリリス」

「な〜に?」

【チュッ】

葉月はリリスの額に軽くキスをした。

「助けてくれたお礼だよ。」

「は、葉月が自分からキスしてくれた〜!リリスちゃんしあわせぇ〜
ふぅ〜」
バタッ!

喜びのあまり気絶するリリス。
せっかくのらぶらぶになれるチャンスを二度も逃
してしまったマヌケなリリスだった。

「リリス、もう寝ちゃったのか?しょうがないなー。
よいしょ!う、リリスって以外と重いなー。胸がおっきいせいかな。」

葉月はリリスを抱え上げてベッドへと運び、そのまま寝かし付けた。

そして自分もいつものように長椅子に毛布を被って横になった。

「明日は初美に会えますように。おやすみ、初美、リリス」

その夜は一晩中、二人の少女が今日の出来事を思い出しながら喘ぐ声が、
静かな図書館に響き渡ったという。

END

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By よっくん・K