作者:銃太郎(SIG550)さん

葉月の世界 第7話 『贖罪』


7月20日 ボクと相澤美奈は海に来ている。
期末試験を挟んだこの半月、フェンリルが襲って来る気配は無く、ボクは平穏な日々を送っていた。
ガルガンチュア達は無事クマちゃん二世の修理を終えて、アルカディアへ帰って行ったし、
リリスは毎朝、ボクの溢れ出すソーマを”葉月の本”に封じ込めてから図書館に通っている。
ボクはと言えば、あちこちの部活から頼まれる試合の助っ人の為に、休みにもかかわらず毎日学校へ顔を出している。
先輩の話だと、ボクは他校生の間で『F女(聖フェミニン女子学院のことね)の秘密兵器』と恐れられているらしい。
なんだかなー。
まあ、そんなこんなで海へ来るのが今日になってしまったんだ。
「あー、気持ちいー。
いい天気ねー。海はきれいだし、少し遠くまで来てよかったね、葉月。」

「そうだね。でも、みんながボク達の事見てるような気がする。」

「みんな葉月に見取れてるんだよ。
葉月ったら超スタイルいい上に、こんなセクシーな黒のビキニ着てるんだもの、
私までドキドキしちゃう。」

そう言う美奈は身長160センチ、胸はボクより少し小さい。(多分Dだと思う)
いつも背中まである髪をツインテールにしている。
かわいい系なので、ボクと並ぶと美奈は幼く見える。もっとも、ボクが大人びているだけで、美奈の方が歳相応な感じなんだけど。
水着は、淡いピンクに胸に小さなリボンが付いたビキニ。
かわいい色だけど以外と大胆なカットだ。なにげにスタイルには自信があるみたいだな。

「冗談はよせ!」

「ふふっ、ごめんね。
でも、葉月の眼力でナンパ野郎が寄ってこないから安心だけどね。」

「ボクは美奈の虫よけになってるって事だね。」

美奈は他の中学からの外部入学で、高等部に知り合いがいなかったから、
ボクがこの学校での最初の友達という訳だ。
何時もなにかとボクの事を気遣ってくれて、世話を焼いてくれる。
この前なんかは、サンドイッチばかり食べてちゃ駄目よって、お弁当を作って来てくれたんだ。
見た目はイマイチだったけど、とても美味しかった。
普段人に食事を作ってもらうことがないから、新鮮だったのかも知れない。
だけど、美奈の優しい気持ちが伝わって来るようで、とても嬉しかったんだ。

「クラスの子がね、最近葉月が変わったねって言ってたよ。」

「そうかな。」

「うん。前より明るくなったよ。
自分から皆に話し掛けるようになったし、嫌がってた部活にも顔を出すようになったしね。」

「たぶんそれは、ボクの心を開いてくれた美奈のおかげだよ。そうだ、お礼をあげるよ。」

《チュッ》

ボクが美奈の頬にキスをすると、美奈は照れ隠しの為か、泳ぎに行こうと言い出した。
ボク達がひと泳ぎしてパラソルの所に戻って一休みしていたその時だった。

「葉月ぃ〜!やっと見つけたわよ〜。」

「うわっ、リリス!なんでお前がいるんだ!」

「もぉ〜!リリスちゃんに内緒で海に行こうったってそうはいかないんだからね〜!」

リリスにはウソの日にちを教えてあったのに、何故わかったんだ?
「あの…葉月、こちらどなた?」

「あ〜んたが相澤美奈ね〜。
いい〜?あたしは葉月の〜…」「居候だろ!
ボクの父さんの知り合いの娘さんで、家に下宿してるんだ。」

「あっ、そうなんですか。失礼しました。
はじめまして、聖フェミニン女子学院高等部1年百合組出席番号1番 相澤美奈と申します。」

美奈は砂の上に正座して、かわいくペコリとお辞儀した。
「あのー…リリスさんは外国の方なんですか?」

「このあいだ日本に来たばかりなんだ。
まだ日本に慣れてないからときどき変な事言うかも知れないけど、気にしなくていいよ。」

「そーなんですかー。分からないことがあったら何でも聞いてくださいね。
…そうだ、私、アイス買ってきますね。」

美奈が海の家の方へ歩いて行った。

「もぉ〜、なんであたしに喋らせないのよ〜。」

「変な事言ってリリスの正体がばれたら困るだろ。」
リリスは赤のビキニを着て頭にヤミの帽子を被ってる。
これじゃどっから見ても怪しいヤツだ。

「ここはリリスの秘密のビーチじゃないんだからね!」

「まあまあ葉月姐さん、そない怒らんと。」

「ケンちゃんまで来てたのか!」

「いやー、見つからんように尾行するのは苦労しましたでー。
なんせ、海と聞いたらプレイボーイの乾達婆としては、黙ってられまへんさかいなー。
ピチピチギャルの水着姿を拝むためやったらたとえ火の中水の中。」

「あほか。」

「せっかく水着選んであげたんだから〜、リリスちゃんにも見る権利あると思わない?」

「そうでっせ!わても葉月姐さんとさっきの姐さんの胸の間に挟まれてウハウハしたいがなー。」

《ムギュー!》

ボクはケンちゃんを右手で握り潰し、その辺に落ちていたペットボトルに詰めて海に流してやった。

「久しぶりの出番やったのにー、やっぱりこうなるんかいなー。こうなったらハワイまで行ったるー!」

泣きながらケンちゃんは沖へ流されて行った。

「ねぇ葉月ぃ、邪魔者は消えたから〜、リリスちゃんとラブラブしよぉ。」

またリリスはボクに擦り寄って来た。

「気色悪い声を出すな!
リリス、まさかボクと美奈の友情を壊しに来たんじゃないだろうな?」

「それもあるけど〜葉月が心配だから、これを持って来たの〜。」
リリスは”葉月の本”を取り出した。

「上級神が相手だと今の力だけじゃ不安だからね〜。
この本に封じ込めた葉月のソーマでパワーアップしようと思って〜。
葉月も大分ソーマをコントロールできるようになったから〜、今日はちょうどい
いからテストしてみようと思うの〜。」

ソーマをコントロールできる…ボクもそれを感じていた。
だから部活の助っ人に出て、ボク自身を試していたんだ。そうでなければ人知を超える力が暴走して、怪我人続出どころか、人を死なせてる所だ。

「ところでリリスさあ、何故ボクの事がそんなに心配なんだ?」

「あ〜ん、そんなの決まってるじゃない〜。
葉月を〜あ・い・し・て・る・か・ら。」

リリスが唇の前に人差し指を立ててウインクしながら言う。

「なんでそういう結論になる?」
「だって〜、誰かに何かをしてあげたいと思う事が愛、でしょ〜。」

「ボクを一度捨てたのにか?」
「え…(゜Д゜;)」
「…リリスはあの時、玉藻の前に帽子を取り上げられて、布団部屋で泣いてたんだよね。
そこにイブが迎えに来て一緒に図書館に帰った。
そして二人でラブラブしてる内に、すっかりボクの事を忘れてしまったんだ。」

「ど、どうしてそんな事知ってるのよ〜?」

「作者が言ってた。
ボクにエロい事ばかりさせるから、ヤキを入れに行った時に聞いたんだ。
あんなにボクに纏わり付いてたくせに、リリスはあっさりとボクを見限ったんだ。
でも、イブがまた家出して寂しくなったから、罪滅ぼしを兼ねてボクの所に来た…そうだろ?」

「そ、それは…」

さっきまでのテンションが嘘のように、リリスはしゅんとなってしまった。

「結局リリスがボクを手助けしたのは、ただの気まぐれで、イブを見つけた後の事は何も考えていなかったんだ。

…生きていればいつかは会えるって玉藻の前は言ってたけど、ボク達人間の時間は有限なんだ。
だから、いつかは会えるかもしれないって事は、二度と会えないという事に限り無く近いんだ。
ひょっとして明日死ぬかもわからないんだからね。
そんな人間にとっては、今この瞬間に一緒に生きる事がとても大事なんだ。
永遠に生きるキミ達には、それが分からない。
だから別れを軽く考えてるんじゃないのか?
初美と別れた後、記憶を消されるまで、ボクがどんなに辛かったかリリスには分からないだろ?

…けど、そんな事はもうどうでもいい。
今のボクにはイブ=初美と図書館世界を守る事が何よりも大切なんだ。
それが人類の母を愛してしまったボクの、罪の償いになるかもしれない。
だからもっと強くなりたい。そのためにはリリスの力が必要なんだ。
それに、このまま初美に逢えずにヴォータンの仲間に負けたんじゃ、死んでも死に切れないじゃないか。」

「そんな〜、死ぬだなんて、葉月はもう…葉月〜、ごめんね。あなたの気持ちも考えずに、あたし…」

リリスは今にも泣きそうな顔で、目に一杯涙を溜めている。

「お待たせー!もぅー、売店がすっごい行列なんだよー。」

突然、美奈がコーンに乗ったアイスを三つ持って戻ってきた。

「ありがとう美奈。」

「言っとくけど〜、リリスちゃんはアイスくらいで懐柔されないんだからね〜!


リリスは手の甲で涙を拭きながら少し涙声で美奈に言った。

「えっ?怪獣って、アイス食べるんですか?」

「ふ〜んだ!ボケでごまかそうったってそうは行かないわよ〜…
《ペロリ》
何?このアイス美味しい〜!」

「わぁ、お口に合ってよかったですー。
リリスさんは、たぶんアイスがお好きなんじゃないかと思いまして。
ここの海の家の自家製アイス、凄くおいしいって評判で、雑誌にも載ったんですよ。」

「うふふ〜。あなた、グルメのリリスちゃんのツボを心得てるじゃな〜い。
っていうか結構いいヤツ?」

言った矢先から懐柔されてるリリス。もうニコニコ顔になってるし、さっきの泣き顔は何だったんだ。
本当、立ち直りが早いっていうか、超打たれ強いヤツだな。

「そんな『グルメのリリスちゃん』にひとつ頼みがあるんだけど。」

「な〜に?葉月〜。葉月の頼みなら何でも聞いちゃうわよ〜。」(お調子者)

「焼きそばとたこ焼き買ってきてくれる?
ちょうどお昼だし、いっぱい泳いでお腹が空いたから。」(食べ盛り)

「ちょっと葉月〜、グルメに向かって焼きそばとたこ焼きってどういう事〜?
せめてイタリアンとかなら分かるけどさ〜。」(わがまま)

「ここは田舎なんだから、そんな気の利いた店は無い。
嫌なら後でお仕置きな。」(無理矢理)

「分かったわよ〜、行けばいいんでしょ〜、もぉ〜。
でも〜、ちょっとお仕置きされたいかも〜。
あぁ〜ん、葉月ぃ。あたしをぶってぶって〜!
気の済むまでいけないリリスちゃんを辱めてぇ〜ん!」(……。)

いきなり悶え始めるリリス。喜怒哀楽激し過ぎ。
しかし、ボクが、持って来た布袋に包んだ刀を掴んでゆらりと立ち上がると、リリスは猛ダッシュで海の家へと駆けて行った。
ほんっと手間の掛かるヤツだ。

「リリスさんって面白い人ね。変わった帽子かぶってるし。」

「ああ、父親がパリで帽子のデザイナーしてるんだ。
あれは誕生日のプレゼントで、世界にひとつしかないオリジナルなんだって。」(出まかせ)

「ま、まあほかに欲しがる人は居ないかも…。」

「アイツ、変態だからあまり近づかない方がいいよ。」

「ふーん、リリスさんって変態なんだー。じゃあ、葉月とどっちが上?」

「え?何の事だ?」

「お昼休みに屋上でオナってる葉月と、どっちが変態なのかなーって。」

美奈が悪戯っぽく笑いながら、ボクの目を覗き込む。

「見てたのか、美奈。」

「この間偶然にね。」

「いや、あれは…何と言うか…その」

「うふふっ、照れなくてもいいよ。私だってオナニーくらいするもん。
ねえ、初美さんって誰〜?恋人?」

「あぁ、まあ…そんなとこだ。今は離れて暮らしてる。」
「遠距離恋愛なの?それで淋しいから学校でしてたんだ。
…そうだ、そんなに溜まってるんなら、私が慰めてあげよっか。」
耳元で囁きながらボクに体を密着させて来る美奈。
腕に美奈の胸の感触が…
汗ばんだ肌が触れ合う感触に、ボクの鼓動も早くなって来た。
「え、あ、ちょ…待…や、やめ…」

美奈はいきなりボクの胸を触って来た。しかももう片方の手が、ボクの太ももから股間へと滑って来る。
あ…美奈の指がボクの水着の中に…
「どうしたんだ…今日の美奈…あ…凄く…ん…変」

「だって、葉月のえっちな体見てたらドキドキしちゃって…
それなのに、葉月がキスなんかするから、私、もう…変な気持ちになっちゃった。」

耳元で囁きながら美奈は、ボクの感じる所を責め始める。
美奈の指の動きにボクの体も反応してる。このままじゃ、ボクも変になってしまう…

「はあはあ、美奈って…ん…本当は…えっちな子だっ…たんだね。
なら…ボクもお返しだ。
えーい!こうしてやるー!」

ボクは、美奈を押し倒して逆襲に出た。
動いた弾みでパラソルが倒れてちょうどボク達を隠してくれた。
ボクは美奈に覆い被さって、胸と股間を刺激する。
「これでおあいこだよ。
ボクだけ気持ちよくなっちゃ悪いからね。」

美奈は苦しそうに荒い息遣いをしている。
「いや、葉月…やめて…ん、んんー…」
ボクはビーチマットを頭から被り、声を立てないように美奈の口をボクの唇で塞いだ。

それからボク達は、キスをしながら激しくお互いを責め合い続けた。

二人の触りっこはボクが6回、美奈が3回果てるまで続いた。
ボクの方が3回多くイカされてしまった。少し悔しい。
ボク達が、疲れて砂の上に仰向けに寝転んでいたその時だった。
突然海の中から巨大な物体が現れた。
あれは人狼形態のフェンリル!
それだけじゃない、全部で4体も居る。

悲鳴をあげて逃げ惑う人でビーチはパニックになっている。

「な、何なのあれー!葉月、怖いよ」
「美奈、早く逃げろ!」

「えっ!葉月は?」

「詳しくは後で話す。美奈は隠れてて!」

ボクは刀を引っつかみ、波打ち際へ走り出した。


〔その少し前、海の家の前で3人分の焼きそばとたこ焼きを抱えたリリス〕

「もぉ〜、何でたこ焼き買うのに、1時間も並ばなきゃなんないのよ〜。
このビーチ人多すぎ!しかもカップルだらけだし〜。
こ〜んなかわいいリリスちゃんが、一人で居るっていうのに〜、
ナンパしようって男はどこにもいないの〜?ほんっと失礼な所ね〜!ぷんぷん」

〔その時、砂浜のほうから悲鳴が…〕

「なんか騒がしいわね〜。ってあれ、この間のバカ犬じゃないの〜!
しかも、仲間連れてるし〜。葉月が危ないわ!
葉月〜、今行くからね〜!」

〔葉月の元へ駆け寄るリリス。しかし、その時、二人を赤い光が包み込み、透明
な膜の中に閉じ込めてしまった。〕

「何だこれ!」

つづく

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