作者:銃太郎(SIG550)さん

葉月の世界 第6話 『神剣』


 【狭間の世界にあるヴォータンの居城ワルハラ
玉座に座るヴォータンと、その足元にかしずくフェンリル
彼は普段、人型形態を取っており、戦闘時のみ狼の姿に変化する。】

「それはまことであろうな。」

「はい、ヴォータン様。この目で確かに見ました。あれは神々の王のみが持つ事を許された剣、
我らアスガルド族で言う所のノートゥングに相違ありません。」

「しかし、何故人間の娘がそれを持っておるのだ。」

「わかりません。しかし、あの娘が現在のヤミであるリリスの想い人である事と、あるいは関わりがあるかと…。
しかし、まだあの剣は本来の力を持つには至っておりませぬ故、
この次は必ずやヴォータン様の御前に。」

「当たり前だ!たかが人間に神をも滅ぼす神剣を操れる筈がない。
大方、リリスが影で操っているのであろう。

ヤミ・ヤーマとの戦いに敗れてより数十万年、僅かに生き残った手勢を連れてここまで帰り着いたが、
戦闘でソーマを失いついに力尽きて眠りについてしもうた。
しかし一年前、ノートゥング復活の気配が儂を永き眠りから醒まさせた。
これこそ我が一族を再びこの宇宙の覇者たらしめるに欠かせぬアイテム。
よもや人間の娘が持っておるとは思わなんだが、ついに儂が再びそれを手にする時が来たのだ。
必ずやノートゥングもろともその娘とリリスを捕らえて参れ!
イブ探策はその後でもよい。
図書館を手中に収めれば、イブは最早捕らえたも同然。
じわじわと追い詰めて、きっとそのソーマを奪い尽くしてくれるわ。」

「御意。」

【玉座の間を辞したフェンリル。城の長い回廊を歩いていると、背後から一人の女神に呼び止められる。】
「ヴォータンは随分勢いづいているようね。」

「フライア…お主、聞いておったのか。」

「ノートゥングが見つかったんだって?」

「ああ、我が一族復活の為に不可欠のアイテム、
何としてでも手に入れねばならん。」

「ヴォータンなんかに持たせても無駄よ。
あんな男が王だからヤミ・ヤーマに負けたのさ。
私が王だったらあんなヘマはしないわ。」

「大層な自信だな。」

「男がダメだからアスガルド族が滅びかけたのよ。
大体ヴォータンなんて、たいして能力が優れてる訳でもないのに、知謀と策略で王になった男じゃない。
全然たいした事ないわ。これからは女の時代よ。私が権力を握れば理想の宇宙が実現するわ。
だから私こそノートゥングを持つべきなのよ。」

「ふっ…似ているな。昔のヴォータンに。
人望がないくせに自意識過剰で、権力欲は人一倍旺盛だ。」

「なんですって!侮辱すると許さないわよ!」

「俺はお主が王の器とは思わん。
お主がヤミ・ヤーマとの戦いに反対したのは、ヴォータンを失脚させて自らが後を襲う企てがあっての事であろう?
ヴォータンが勝って英雄になればその企ては潰えるからな。
お主は一族の名誉より己が欲望を重んじたのだ。
遺憾な事に戦いはお主の期待通り我らの敗北に終わった。
ただ、一族の大半が滅び、その余波を受けてお主までもが永い眠りにつくことになったのは致命的な誤算だったがな。
だが過ぎた事を今更問うても無意味だ。
俺は現実的な男だ、その時の最も強い者につく。
お主がノートゥングを欲するならば、他人の批判ばかりせず、俺がそれを持ち帰る時までせいぜい己を磨いて置く事だな。」

【そう言い残すとフェンリルは去って行った。】

「ふん、いけ好かない男!覚えているがいいわ。」


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7月4日 日曜日 ボクは東京のデパートに来ていた。
クラスメイトの相澤美奈に、梅雨が明けたら海へ行こうと誘われたので水着を買いに来たんだ。

「ねぇ葉月ぃ〜、明日から試験だって言ってたのにお買い物してて平気なの〜?


「ボクは普段から勉強してるから直前に慌てなくてもいい。
これでも95点以下は取ったことないんだからね。
ていうかなんでリリスがついてくるんだ!」

「だって〜、葉月の水着姿は初めて会った日以来だもの〜。リリスちゃん興味津々。」
リリスは一昨日以来、ボクの事が心配だからって、勝手に家に住み込んで、
家から図書館に“通勤”するんだと言っている。
《リリスちゃんと葉月のドキドキ同棲生活の始まりよ〜♪》
なんて浮かれてるけど、ただの居候だろ!一回Hしたからって調子こいてんじゃ
ねー!
コイツとは一度拳で語り合っておく必要があるな。

「ところで相澤美奈って何者〜?」

リリスが不機嫌そうに聞いてくる。

「高等部で初めて出来た友達。いつもボクの事を気遣ってくれる優しい子なんだ。
屋上で一人お昼してたら、一緒に食べようって声を掛けて来たんだ。」

「それって告白?」

「違う!付き合ってくれじゃなくて、友達になってって言われたから断らなかったんだ。
こんな事言われたの、入学して初めてだった。」

「葉月、今までお友達いなかったの〜?
まぁ、確かに近寄りがたい感じするもんね〜。」

「リリスが言っても説得力無い。会っていきなり抱き着いて来たくせに。」

「ま、まぁただの友達でよかったわ〜。
あたし、てっきり葉月に彼女が出来たかと思っちゃった〜。」

「あほか。」

なんて言ってるうちにボク達は水着売場に着いた。

「うわ〜!沢山あるわね〜。ねえねえ、どんな水着買うの〜?」

「地味なのでいいよ。」

「え〜!せっかく海へ行くのにダメよ〜。」

「どうしてさ?本当はスクール水着でいいんだけど、
美奈がそれじゃ格好悪いって言うから買いに来ただけなんだ。」

「スク水なんて〜マニア受け狙ってんならともかく、やっぱビキニでしょ、ビ・キ・ニ」

「そんなの恥ずかしいじゃないかっ。」

「なに恥ずかしがってんのよ〜。イケてる女は夏は大胆になるものよ〜。
今だっておへそが見えるタンクトップに超ミニのスカートはいてるくせに〜。」
そういうリリスは去年初美がデートに行く時に着てた服を着ている。
スカートが短すぎるってボクが注意したやつだ。
「リリスが魔法で、ボクの服をこんなのばかりに変えたんだろ!」

「まあまあ、ここはリリスちゃんにど〜んとまかせなさ〜い!。葉月にぴったりのを選んであげるから。」

「リリス、最近某まんがのキャラに性格似てきてないか?
気をつけないと嫌われるよ。」

ボクの言う事も聞かずにリリスは勝手に水着を選び始めた。
やはり一度じっくり調教してやらなきゃダメだな。

まず全裸にして全身を縛り上げ、柱に縛り付けて放置プレイだ。
けど、これじゃかえってアイツ、喜ぶかもしれないな。前もお尻を叩かれて感じてたし…
って何考えてるんだボクは!リリスの変態がうつったんだ。いかんいかん。
…でも、初美がボクを調教してくれたらちょっとうれしいかも…
ああー!最近ボク壊れてきてるよー!どうしようー!
作者のせいだ!アイツ今度ヤキ決定な。(ドキッ)

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「ねえねえ葉月〜、これ着てみて〜。」

リリスの声にボクは我に返った。アイツ、黒のビキニを手にして立っている。

「え、これ着るのか?」

「さ〜、遠慮せずに早く早く〜。」

リリスが強引にボクを試着室に連れていく。
まあ、いいや。自分で選ぶの面倒だし、とりあえず着てみるか。

「覗くなよ!」

「覗かないわよ〜。葉月ったらお買い物にまで刀を持って来てるんだから〜。」

「当たり前だろ。こないだの狼はまだ生きてるんだ。
いつまた襲って来るかわからないじゃないか。」

ってこれ着るのかー?
恥ずかしいなあ。

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「どう?葉月〜。」

リリスがいきなり試着室のカーテンを開けた。

「いや〜ん!素敵〜!すごくセクシ〜!
やっぱり葉月は黒のビキニが似合うわ〜。」

「なんかさ、これ、面積小さ過ぎないか?お尻とか胸とかはみ出てるし。」

「そ〜いうデザインなの。それに〜、お尻なんか半分隠れてたら充分よ〜。
葉月のパーフェクトボディを皆に見せ付けてやりなさ〜い。」

「でも、いきなりこんな露出度の高いのは…」

「あっ!そう言えば〜、イブは黒の水着が好きだって言ってたわ〜。
一度でいいから葉月ちゃんが黒のビキニ着てる所を見たかったわー、って図書館で言ってたな〜。」

「初美が!?じゃあこれにするよ!
すいませーん!これくださーい!」

ボクは嬉しくて水着のままレジに駆け出してしまった。
「あ〜ん葉月〜!お勘定は脱いでからよ〜。」

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水着を買うとすぐにボク達はデパートを後にした。

「もう帰るの〜?リリスちゃんデパ地下へ行ってみたかったな〜。
日本のデパートの地下は〜、タダで美味しいものが食べられる食の殿堂なんでしょ〜?」

タダって試食の事か?どこでそんな誤った知識を仕入れて来るんだか。

「それにしてもあの女子店員、葉月のことをうっとりして見てたわね〜。
どこ行っても葉月は女の子にモテるんだから〜。」

「関係ない。ボクは初美一筋だから。」

「相変わらずストイックね〜。もっと他にも目を向けてみな〜い?
あなたを大切に思う人は、いつも傍にいるわ。」

と言いつつボクの腕にしがみつくリリス。

「何それ?あほか。」

「がっくし…と、とにかくこれで〜、ビーチの視線は独り占めよ〜。」

「そんなの嬉しくない。」

「もっと自分の美しさに自信を持ちなさ〜い。
葉月もそのうち見られることが快感になるわよ〜。
あなたにはその素質があるわ。」

「意味わかんないよ。」

それからボク達は喉が渇いたので、カフェで一休みすることにした。

「リリスちゃんは〜、アイスミントティーとフランボワーズのタルト〜。」

「ボクはエスプレッソとホットケーキ。」

「また〜?葉月ってホント、ホットケーキが好きね〜。」

その時ウエイターの目が紅く異様に光ったのにボクは気付いた。
咄嗟に刀を手に取る。

「感づいたか、東葉月。」

「ボクの名前を調べたようだな、フェンリル。」

「よくぞ見破った。褒めてやるぞ。」

「人間に擬態しても、その目の輝きはあの時と同じだからな。」

ボクは抜刀して身構えた。
「ならば話は早い。リリス共々ヴォータン様の許へ来てもらうぞ!」

そう言いながらフェンリルは狼の姿に変形した。

「なによ〜、なんであたし達が行かなきゃなんないのよ〜!このバカ犬〜!」

「減らず口を叩くのも今の内だ!
貴様らをワルハラに監禁して、ヴォータン様復活の為にソーマを捧げる奴隷となって奉仕してもらう。
そしてわが王復活の暁には、イブをおびき寄せる為の餌にしてくれる。」

「そんな事させるか!」

チラッと辺りを見ると、人々は動きを止めている。コイツ、本の世界の時間を操る能力があるらしい。

「先日は油断したが、今日はそうはいかんぞ!来い!」

そう言うとフェンリルは姿を消した。

「瞬間移動か?」

「葉月、つかまって!」

リリスも既にヤミの姿に変身していた。
ボクはリリスの手を握った。

「移動しても大丈夫なのか?」

「短距離なら危険は少ない筈よ。いいわね?いくわよ〜!」

ボク達もフェンリルを追ってテレポートした。

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 移動した先は高層ビルの屋上。フェンリルは向かいのビルの屋上にいる。
ボクは刀の力を発動させて対峙する。

「やはり前よりソーマが増しているな。王に相応しい捧げ物だ。」

「たああああ!」

ボクはジャンプして斬り掛かった。しかしヤツの張ったバリアに弾き返されてしまった。
フェンリルは後足で立ち上がり、右腕を剣に変化させて、人型と狼のハイブリッドのような姿になって襲い掛かって来た。
ボクは刀でヤツの斬撃を受け止めた。物凄い力だ。後ろに押されて行く。
ボクは渾身の力を込めてヤツを弾き返して体勢を立て直した。
それから暫くボクは右腕の剣を激しく振り回してくるフェンリルと渡り合った。
ボク達はビルからビルへ跳び移りながら剣の応酬を展開したが、なかなか決着がつかない。
しかし、ついにボクはフェンス際に追い詰められてしまった。

「なかなかしぶとい娘だ。だがお主らに勝ち目は無い。
観念してわが王の奴隷となれ!」

「ボクは絶対にヴォータンなんかに屈服しない!」

「ほほう、ご主人様を呼び捨てにするとは生意気な奴隷だ。
きつくお仕置きしてやらねばなるまい。」

「五月蝿い黙れ!!ボクがご主人様と呼べるのは初美だけだ!!」

侮辱されたボクの怒りが通じたのか、刀が激しい閃光を発しながら強力なソーマを放ち始めた。
ボクはそれを脇に構えてフェンリルに向かって突進した。

「はああああ!!」

「な、なに!」

ボクの刀がフェンリルの展開したバリアを突き破り、ヤツの腹部に突き刺さった。

「ばかな…これほどまで力を。貴様、何者だ?」

フェンリルの腹を貫いた刀は強烈な光を発し始めた。

「ぬおおおお!」

フェンリルが苦悶の表情を浮かべる。
次の瞬間ヤツの体が青い光に包まれたかと思うと、跡形も無く消えてしまった。

「はあはあはあ…ふうー」
ボクは大きく深呼吸して乱れた息を整えた。

「葉月ぃ、終わった?あのバカ犬逃げちゃったのね〜。」

どこに隠れてたのかリリスがやっと顔を出した。

「上級神があれ位で死ぬ筈はないわ〜。また襲って来るでしょうね〜。」

「でも、ボク達を囮に使わなきゃいけないって事は、奴らもイブの居場所は捜し当てられないみたいだね。」

「おでこちゃんは、完全に気配を消して人間に同化しちゃってるからね〜。
今までに見つけられたのは葉月だけよ〜。」

「奴ら、その事を知っててボク達を拉致しようとしたんだ。」

「葉月の事調べたみたいだからまず間違いないわね〜。」

「リリスの帽子も狙ってるんじゃないか?」

「これを欲しがる奴は多いからね〜。
でもジョウ君はそう簡単には使いこなせないわよ〜。
それにしても上級神相手に互角に渡り合えるようになったのね〜。あたしの思った通りだわ。」

「いや、もう少しでボクはヤバかった。多分アイツ、まだ本気出してない。」

「あたし達を生け捕りにする為に手加減してるのかしら〜。
それはともかく〜、」

にやにやしながらボクの目を見るリリス。

「ボクのご主人様は初美だけだなんて、
やっぱり葉月は初美ちゃんの愛の奴隷なのね〜。リツコの言う通りだわ〜。うふ。」

しまった!その場の勢いとはいえ、とんでもない事を口走ってしまった。

「あれは売り言葉に買い言葉だ。」

「隠さなくてもいいわよ〜。葉月ってそうなんだ〜。
なんでそんなに初美に執着するのか分かっちゃったな〜。」

「あほか!もう帰る。」

ビルから出ると、梅雨の雲が晴れて夏の日が射していた。

「ケーキ食べそこなっちゃったね〜。」

「リリスって食いしんぼうだな。」

「グルメって言ってよ〜。」

「グルメがデパ地下の試食巡りなんかするか!」

「あっ、そうだ〜!葉月ぃカラオケ寄ってかない?」

「んなとこ行くか!」

相変わらず脳天気なリリスに一抹の不安を感じるボクだった。


つづく

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