作者:銃太郎(SIG550)さん

葉月の世界 第16話 『列車』


それから何時間経ったんだろう。ボクはリリスの相手に疲れ、窓ガラスに寄りかかってウトウト居眠りをしてしまったみたい。
目を覚ましてみたら、向かいの席で翡翠が琥珀の肩にもたれかかっていた。翡翠は琥珀の手をしっかり握りしめ、琥珀は翡翠の髪を優しく撫でてる。
時々翡翠が琥珀の耳元で何かを囁くと、琥珀が翡翠の目を見つめて微笑む。そして琥珀の唇が動いて何か言葉を発した。
列車の音でボクの耳には聞こえなかったけど、その動きは間違いなく「好きだよ」と言ってる…
翡翠が頬を真っ赤にしてもじもじし出した。とても嬉しそうにしてる。
あ…琥珀が翡翠の顔に自分の顔を近づけた。翡翠がうっとりと目を閉じた。二人の口が吸い寄せられるように接近してく!
その時、列車が揺れてボクは窓ガラスに頭をゴツンとぶつけた。

「痛っ」

いけない、思わず声が出ちゃった。

「わあ!は、葉月さん!お…お目覚めですか…」

「よ…よく眠れた?アハ…アハハハ…(汗)」

キスする寸前だった二人は慌てて離れて冷や汗をかきながら照れ笑いをしてる。
なんか二人とも可愛いな…

「さっきから起きてたんだけど、邪魔しちゃ悪いと思って…薄目を開けて見てた。すまない。」

な…なんかすごく気まずいぞ(汗)
話題を変えよう。そういえばボクの隣に座ってたはずのアイツが居ない。

「と…ところでリリスが居ないけど知らない?」

「リリスちゃん様なら先程からどこかに行かれたままですわ。」

「なんか顔色が悪かったよね。大丈夫かなぁリリスちゃん様。」
琥珀は心配そうに通路の向こうを窺った。

「あたしら気に障る事しちゃったかな?」
琥珀は怪訝な顔で翡翠を見やる。

あれだけ目の前でラブラブされたら、いくら図太いリリスだっていたたまれないだろ…
「にしてもリリスちゃん様って呼び方、変じゃないか?」

「ワタクシもそう思うのですが…魔王なんだから敬意を込めて呼ぶようにとご本人が…ね?琥珀ちゃん。」
「しかも同時に可愛さも表現するようにって言われたから、仕方なくこう呼んでるんだよね?翡翠。」

「わがままなヤツだな…でもリリスにふさわしい間抜けな呼び方だ。」

「だ〜れが間抜けですって〜?」

気が付くとリリスがふらふらとよろけながらこちらに歩いて来ていた。

「うわあ!リリス!何だよその顔?」

リリスの顔は土色で頬はげっそりとこけて、長い金色の巻き毛が無ければ周りの乗客達と見分けがつかない…

「リリスちゃん様!まるで死者の魂のようになられて…一体何があったんですの?」

翡翠がリリスの肩を抱きかかえて座席に座らせた。

「まさか!フライアの手先に?」

「う〜…違うの〜。
あのね、葉月は寝ちゃうし〜、翡翠と琥珀は二人の世界を作っちゃってるし〜、リリスちゃんつまんなかったの〜。
そしたらアーヤが車内販売に来たのね〜。で、図書館唐揚げ弁当と〜図書館あたりめと〜図書館水割りを買って食べたの〜。そしたら急にお腹が痛くなって…今までトイレとお友達になってたの〜。
おかげでこんなにダイエットしちゃった(T_T)。」

いつもは無駄に元気なリリスの声に全く生気が感じられない…ほんとに幽霊みたいだ。

「またアーヤが?何でそんな怪しい物買うんだ!」

「だって〜葉月にお弁当没収されたからお腹空いてたんだもん。
それにアーヤが買え買えって五月蝿いから…
あ、そうだ〜、はい〜、葉月の分。起きたら必ず食べさせるようにってアーヤが言ったの〜。」

リリスが椅子の下から弁当とあたりめを出してボクの前に突き出した。

「んな物誰が食うか!」

アーヤの奴、ボクが夜行列車でおもちゃのお札を渡したのをまだ根に持ってるんだな。

「リリスはからかわれたんだよ。退屈そうにしてたからカモにされたんだ。」

「ひど〜い!あのコスプレ野郎、今度会ったらぶっ飛ばしてやるんだから!ぷんぷん!
ねぇ‥葉月〜あたしの傷ついた心を慰めてぇ〜ん」

急にリリスがキモい声で甘えながらボクに抱きついて顔に頬ずりしてきた。
「うわ!止めろ!くっつくな!みんなが見てるだろ!」

「みんな死んでるんだから意識なんて無いわよ〜?ねぇ葉月ぃ〜」

「気持ち悪い声を出すな!離れろって!
あ、そんなとこ触るな…」
いつの間にかリリスの手がボクのお尻と胸に…

「本当にお二人は仲が良いですわ。ワタクシ達も負けてはいられませんわ、ね?琥珀ちゃん?」

「そうだね翡翠、さっきの続き…しよっか」

翡翠と琥珀はもう抱き合ってキスしてるし…

「ていうか助けろお前ら!…あ…リリス…そこダメ…いや…やめて…」

「ん…チュッ…はあ…翡翠…すき…」

「あ…あん…ワタクシも…琥珀ちゃん…大好き…もっと…触って…」

琥珀は翡翠の胸を弄り、翡翠は琥珀の革のパンツに手を入れている…二人とも凄くエッチだ。
あ、リリスのてがボクのセーラー服の中に…

「あ…ああん…やめて…やめないで…いいよぉ…」

死んだ人の魂で満席の車内は、裸電球の薄暗い光の中で陰気なムードなんだけど、ボク達の座ってる一角だけは、ピンク色の別世界が形成されていたんだ。

それかはボクは頭の中が真っ白になってよく覚えてない。
ていうか、意識が無いと言っても、大勢の前でエッチな事されるなんて…死ぬ程恥ずかしい…

気がつくと、ボクは座席に横たわってハアハアと肩で息をしていた。
リリスは床にへたり込んでるし、琥珀は翡翠を膝枕しながら二人でうっとりしていた。
ボクはゆっくりと立ち上がると、車両の端にあるトイレへ向かった。

「またリリスにイかされちゃった…。あいつマジでエロいよな、なんか悔しい。
ていうか、リリスが来てからボク、だんだんエロくなってる気がするよ。
これって、あいつに調教されてるって事かな?」
ボクは独り言を呟きながら乱れた髪と服を整えた。
座席に戻ると、もうリリスは悪魔カップルと楽しそうにおしゃべりしてる。
魔界つながりだから気が合うらしい。

「…でね?葉月ったらエッチの時にね、こんな所が感じるらしいの〜
そこを触ってあげると〜スッゴいいい声で鳴くのよ〜。」

「へえーそうなんですの?意外ですわ〜。葉月様ってエロいんですのね。」
「葉月様って普段はクールだけど、エッチの時は凄く可愛いよね。ツンデレって言うのかな?さっきもさ…」

って何て話してるんだ!

「コ…コホン」

「あ!葉月様、お帰りなさいませ。」

「葉月おかえり〜。今ね〜葉月の性癖の話題で盛り上がってた所なの。」
「お前ら、ボクの恥ずかしい話を肴にするな!
ていうか、リリスはもう大丈夫なのか?
すっかり顔色が良くなったけど。」

リリスの顔は元の血色が戻ってる。肌もつやつやしてるし。

「おかげ様で、葉月の精気をたっぷり頂いちゃったからすっかり元気よ〜。
ごちそうさまでした。」

「人に向かって合掌するな!
リリスは凄い生命力だな。流石に『金色(こんじき)のゴキブリ』の二つ名を持つだけの事はある。」

「ちょっと葉月!勝手に命名しないでくれる?」

「まあ!葉月様、素晴らしいネーミングセンスですわ!ワタクシ感動致しました。」

「金色のゴキブリ…プッ…」

翡翠が大袈裟にボクを褒め称え、琥珀は必死に笑いを堪えている。

「ハイそこ!笑わない!」

リリスが両頬をぷっと膨らませて琥珀を睨みつける。

「でも、葉月様がギャグを言うなんて意外っつーか…」

「そうですわ、お会いした時は気難しい方とお見受け致しましたが…」

「そうかな?コイツと長く付き合ってるからおバカが伝染したかな?」

「なる程、それはあり得るっすね、な、翡翠?」
「ええ、絶対そうですわ。」

「ちょっとあんた達失礼ね〜!誰がおバカ…」

【ガクン!】

リリスがほっぺたを膨らませて文句を言おうとした矢先、列車が大きく揺れて急停止した。
と同時に照明が消えて車内が真っ暗に!
乗客たちはパニックに…ならないのは死んでるからか?

「どうした!?」

「いや〜ん!リリスちゃん怖い〜!」

怖がるふりをしながらリリスはボクの胸にしがみついて来る。
すると、隣の車両から懐中電灯を持った車掌がやって来て、ボク達に頭を下げて言った。

「お客様に申し上げます。只今、機関車に技術的トラブルが発生しまして、緊急停止致しました。
お急ぎの所誠に申し訳ございませんが、復旧まで暫くお待ち下さい。」

「いつ直るんだ!ボク達急いでるんだ!急いで図書館へ行かないと初美が!」

ボクは車掌に食ってかかった。そうだ!今まで三人のペースに巻き込まれて忘れかけてかけど、ボクは急いでるんだ!

「そう言われましても…」

言葉を濁す車掌。
懐中電灯に照らされた彼は、紺のダブルの制服と制帽を着用してるが、顔ははっきりとは見えない。
暗闇の中で二つの目が光っているように見える。

「ねえ、技術的トラブルって何ですの?」

翡翠が車掌に問いただした。ボクも車掌を睨みつける。

「そ…それが…原因が不明でして…」

「なら早く救援を呼べ!!」

「運転指令室に連絡がつかないんです…」

「え〜!?じゃあリリスちゃん達列車に閉じ込められちゃったの?どうしよう葉月〜」

「まあ、その内助けが来ますよ。皆さん亡くなられた方ばかりですから、急ぐ旅でもありませんし…」

「ボクはまだ死んでない!!初美を助けに行かなくちゃならないんだ!
でないと世界が大変な事になるんだ!!」

ボクは車掌の襟首を掴んで怒鳴った。

「そう申されましても…機関車の反応炉が落ちてしまってエネルギーの供給が停止してるんで、私にはどうする事も…」

「じゃあとにかく機関車に行ってみよう!
何か原因が判るかも知れない!」

琥珀が立ち上がって車掌を殴りつけようとしたボクを引き離した。

「そうね。論より証拠、案ずるより産むが易しかもよ〜。さ、行きましょう?葉月〜。」

リリスが意味が有るような無いような事を言ってボクを促す。

「わかった。機関車に行ってみよう!でもボク、メカは苦手なんだけどなー…。」

しかし議論してても始まらないので、ボク達は機関車へと向かう事にした。
ボク達4人は車掌から借りた懐中電灯を手に、列車の中を先頭に向かって歩いた。
そして一両目の通路の扉を開いたボクの前に見えた物は…
真っ黒い壁。よく見ると、その壁には【C62 666】と書かれたプレートが掛かってる。

「何だこれ?行き止まりか?」

「これはテンダー、走行用のエネルギーを積む部分ですの。機関室はこれを乗り越えた向こう側に有りますわ。」

「へえ、翡翠って詳しいんだね。」

「翡翠は人間だった時に鉄道とアニメが大好きだったんです。
部屋中鉄道模型とフィギュアだらけでさー。」

「嫌だ、琥珀ちゃんたら、恥ずかしいですわ。」
後半はわからなくもないけど、前半は意外な趣味だな…

「ここの上を通って行くんだね?ボクが先に行くよ!」

「じゃあリリスちゃんが二番〜!」

ボクがテンダーによじ登っていると。

「うふ、葉月のお尻、かわいい♪」

リリスがボクの尻に頬ずりしてきた…全くこんな時に不謹慎なヤツ!
ボクは無言で蹴りを入れた。

「痛〜い!頭蹴らないで〜」

リリスの鳴き声を無視してボクは機関室へ向かった。

機関室は、見たこともない機械で一杯で、ボクには何がなんだか全く解らない。
だけど、全く音がしない静まり返った機関室…なんだか機械が動いている感じがしない。

「う〜ん、エネルギーゲージが0になってるわ。」

リリスが機械を眺めながら呟いた。

「解るのか?リリス!」
「一応はね〜。」

「見たところ、壊れたような所は見当たりませんわ。」

機関車の周りを点検していた翡翠と琥珀が戻って来た。

「てことは〜、何らかの原因でエネルギーが漏れて空になったのね〜。」
リリスは反応炉らしき部分の蓋を開けて中を覗いている。

「じゃあボク達ここで遭難したの?どうする事も出来ないのか?」

ボクは目の前が真っ暗になった。

「解決策は無くはないんだけど〜…その前に〜…」

リリスは反応炉の中に向かって声を張り上げた。

「そこに居るのはわかってんのよ!出て来なさ〜い!」

「あはは、見つかっちゃった。さすがリリスだね。」

中から頭を掻き掻き出て来たのは、アーヤだった。

「アーヤ!あんたでしょ!?機関車にイタズラしたのは!」

リリスがアーヤの襟を掴んで詰問する。別人みたいたな迫力だ。
さっきの弁当の恨みがこもってるんだな。

「僕はただ機関室の掃除のバイトをしてただけだよ。」

「じゃあ何でここに隠れてんのよ〜?」

「いやー、反応炉の火で焼き芋を作ろうと思ってさ。そしたら急に火が消えちゃったんだ。一体何が起こったか僕にもさっぱり解らないのさ。」

「な〜んかイマイチ信用できないのよね〜、そのニヤケ顔は〜(-_-)。」

「酷いなー。こんないい男をつかまえてあんまりだよね。
ねえ、そこのかわいい魔族のお嬢さん。キミ達なら僕の無実をわかってくれるよね?(^_-)☆」

アーヤが翡翠と琥珀の前に跪いてウインクした。
が、二人は困惑してる。

「誘惑してもムダよ!この娘達はラブラブ百合カップルなんだからね〜!」

「こんなに美しい女性が三人も居るのに、みんな同性にしか興味が無いなんて…ああ…僕はなんて不幸なんだ!」

大袈裟に嘆くアーヤ。

「4人の間違いでしょ〜!?」

「あれ?リリスって女だったんだ?」

「むっかー!!もう許さないんだから!」

「おっと!」

リリスがアーヤに平手打ちを食らわそうとしたが、アーヤにあっさり交わされた。

「こら〜!待ちなさい!」

「嫌だよー!ここまでおいでー」

逃げるアーヤを追い掛けて機関車の屋根に上がるリリス。完全におちょくられてるな…

「リリス!もうほっとけよ!戻って……!」

後を追って屋根に上がったボクの目に飛び込んだのは、マッチョな大男に襟首を捕まえられたアーヤと、ソイツと睨み合うリリスの姿だった。
マッチョ男は、身長3メートルはありそうで、黒いビキニパンツだけを穿いている以外は裸だった。

「誰だお前!」

「気をつけて葉月!こいつフライアの仲間よ!」

「そうか!お前が機関車に細工を!アーヤを放せ!」


するとマッチョはボクの方へ向かって来た。

「ホゥーー」

奇声を上げながら腰を前後に振り振りボクに迫るマッチョ!
丸腰であんな大男、しかも神族にかなうわけない…足がすくむ…ああ…刀が有ったなら…

ああ!もっこり膨らんだマッチョの股間が目の前に!キモいよ!!

助けて…初美!

「出でよ!屠龍!!」

突然琥珀の声がして何かがマッチョにぶつかった!
翡翠が召還した魔界のドラゴンがマッチョの顔にアタックを掛けたんだ。

「ホゥ?ホゥーー!!!」

怒ったマッチョは翡翠の首を掴もうとした。

「翡翠!危ない!!」

琥珀がマッチョに跳び蹴りを食らわした!

一瞬ひるんだが、再び怒り狂うマッチョ。

「琥珀、ボクも戦う!」
「葉月様!」

ボクは琥珀と顔を見合わせた。
そしてボク達は同時に屋根を蹴った。

「はああああっ!!!」
【ドビシィィィ!!!!】

二人のキックが同時にマッチョの顔面に決まった!

「ホゥゥゥゥ!!!」

「効いてない!そんな…」

益々怒り狂うマッチョ、高くジャンプしてボクと琥珀にフライングアタックを掛けてきた!
このままじゃボク達は汗臭そうなマッチョのもっこりの下敷きに…!!

「屠龍火焔の舞!」

その時翡翠の召還獣が全身から炎を吹き出しながらマッチョにアタックした。
瞬く間に火だるまになるマッチョ。

「アチャーーー!!」

「今だ!」

ボクと琥珀は転がるようにして左右に交わした。直後にマッチョは屋根に叩きつけられた。

「ホゥーー!」

パンツが燃えて全裸になったマッチョ神族は、股間を手で押さえながら奇声を残して何処へともなく逃げ去った。

しかし、さっきの弾みで空間に高く放り投げられたアーヤがクルクル回転しながらこっちに落下して来る!
しかも、彼も服が燃えて真っ裸だ…

「うわぁ!象さんが!」

「いやぁぁぁ!変態!」

琥珀と翡翠は手で顔を覆う。

全裸アーヤは腰を抜かしてへたり込んでいるリリス目掛けて落下してゆく。

「わあぁー!落ちるー!!」

「リリス!逃げろ!」

「んなこと言われても〜腰が…いやあ!来ないで!象さんがぁぁぁ!」

【びたーん!!】

「ああっ!アーヤさんの股間がちょうどリリスちゃん様のお顔に…」

「も…もが〜」

「は、ははは…股お会いしましたねリリスさん。」

寒いダジャレを言うアーヤの下敷きになってもがくリリス。

「ああん…リリス、そんなにしたら僕…出ちゃう…」

………………(=_=;)

「って一人で感じてないでどきなさいよ!」

リリスがアーヤを突き飛ばして起き上がった。

「もう少しだったのにー、リリスってせっかちなんだね。もっと素直におねだりしてごらん?」

「するかー!何人の口の中でおっきくしてんのよ!この変態!!」

【ゲシッ!!!】

リリスの右脚から繰り出された渾身のローキックがアーヤの股間に決まった!
衝撃で空間に飛ばされるアーヤ。

「葉月ー、タ・ジーマに気をつけるんだよーーー!じゃー股会おうねーー…」

謎の言葉と下ネタを残してアーヤは何処かへと消えて行った。

「おえ〜…アーヤの象さんくわえちゃったよ〜(TOT)」

ボクはしゃがみ込んで泣くリリスの背中をさすってやった。
リリス、今日ばかりはキミの事を心から可哀想だと思うぞ。



機関室に戻ってからもリリスはしくしく泣いていた。

「もう泣き止みなよ、あれは不幸な事故なんだからさ。」

「だって〜皮かぶってたし〜ちょっと臭うし〜口の中でムクムクと〜」

「う…リアルな話しするな!それより機関車をどうするんだよ。
さっき解決策があるって言ってたよね?」

するとリリスがいきなり笑顔になって言った。

「それなんだけど〜、反応炉に火をつけるのは、あたしと葉月の愛の炎なのよね〜。」

「はぁ?こんな状況でギャグかよ。ぶつよ!
ボクは真剣なんだ。」

「つまりこれよ」

リリスは胸の谷間から一冊の本を取り出した。
それはボクから溢れ出したソーマを封じ込めた本。
リリスが言うには、機関車を動かしてるエネルギーの素はソーマなんだそうだ。
だから、この本に封じ込められたソーマを使えば列車を動かせるはず、なんだって。そんなに上手く行くのかな…

「今まででかなり沢山溜まってるしね〜。それに、葉月のソーマは外に流れ出しやすい性質みたいだから〜、エネルギータンクに充填するのも簡単そうだし〜、ま、何とかなると思うわよ〜。」

何とかなるって…いい加減だな…

リリスが本を開き、ボクが封印解除の言葉を唱える。
すると辺りが眩しい光に包まれた。
数分後、光が収まったと思ったら、機関室の計器に一斉に灯が点った。

「動きましたわ!流石は葉月様!素敵ですわー!そう思いませんこと?琥珀ちゃん。」

「ホント!こんな力があるなんて、カッコいいっす!葉月様。あたしら心から尊敬します。ね?翡翠。」

「いや…そんなに誉められる程じゃ…照れくさいよ。」


「ねえ、リリスちゃんは?リリスちゃんも誉めてよ〜。」

リリスがまた膨れてる。わかってるって。キミのおかげだよ。でも面白いからこのまま黙っていようっと。

【エネルギーレベル常用域を確認。セーフティーロック解除。システムを再起動します。】

「うわ!機関車が喋った!」

驚くボクに翡翠が解説してくれた。

「この列車は人工知能による完全自動運転なんですの。ですからエネルギーさえあれば、機関車の判断で自動的に走り出してくれるんですのよ。」

すごい…ハイテクなんだ!よくわからないけど…
【システム再起動完了。反応炉臨界点に到達しました。全パラメータ正常値を確認。障害物センサー作動。進路前方軌道内に障害物なし。非常制動解除。
C62 666号機発進します。】

「出発進行ー!ですわ。」
翡翠が右手を前に出して進行方向を指差した。
通学で使う電車の運転士そっくりの仕草だ。
【ポオーー!】

列車は汽笛と共に再び闇の中へと走り出した。

「やれやれ、これで一安心ね〜。
て事で葉月〜、図書館に着くまでエッチしよっか?」

「いい加減にしろ。」

って翡翠と琥珀はまた抱き合ってキスしてるし…
ボクも変な気分になって…
り、リリス…そこ…ダメ…あん


つづく

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