作者:銃太郎(SIG550)さん
葉月の世界 第14話 『迷』 |
あまりの眩しさにボクは目を開ける事が出来ず、初美の肩をぎゅっと抱きしめながら、身をすくめていた。 どれくらいの時間が経ったんだろう…ボクはそっと目を開けてみた。 ボクは心臓が止まりそうになった。 初美がいない!! さっきまでボクの手の中に確かに居たのに! 「初美!初美!」 初美を探してあたりを見回して息を呑んだ。 辺り一面白い霧のようなもので覆われて何も見えない。 「何があったんだ!リリス!!」 呼び掛けても返事は返って来ない。 ボクの叫びは霧の中へ吸い込まれて消えるだけだった。 「初美ー!リリスー!」 狂ったようにボクは二人を探して歩き回った。だが辺りに命の気配は全く感じられない。 おかしいな…家の中に居た筈なのに行けども行けども壁がない。 視界を覆い尽くす白い霧で方向感覚が麻痺している。 足に触れる地面の感触だけがボクが立っている事を教えている。 ボクは立ち止まって足元を見た。靴を履いている。 室内履きを履いてた筈なのに何故… そうだ、刀! 刀は? ボクは両方の掌に何も握られていないのに気付き、愕然として地面にひざまづいた。 初美…もう二度と離さないって誓ったのに…しかも大事な刀までなくしてしまった… 初美のソーマを浴びて不思議な力を持ったペーパーナイフ。 ボクの意思とシンクロして日本刀の形に変化してボクを守ってくれた。 あれは初美が確かにボクの側に居た証。ボクと初美を繋ぐ絆… あれがあったからボクは初美の所へ辿り着けたのに…その刀さえなくしたらどうやって初美を見つけられるの? 絶望の二文字が脳裏に浮かんだ。 ボクは地面に突っ伏して幼子のように大声で泣きじゃくった。 泣いて泣いて、喉の奥がカラカラに渇いて血を吐きそうになってもまだ泣きじゃくった。 どのくらい泣いていたんだろう…体中の水分が出尽くしてしまったように涙が涸れてしまって、ボクは地面に倒れ伏していた。 何も考えられずただぼーっとしていると、遠くから微かに音が聞こえてきた。 何の音だろう?誰か居るのか? 力無く身体を起こし、音のする方向に目をこらす。 霧の中に微かに明かりが見える。 ボクは反射的にその明かりの方へよろよろと歩き出した。 しばらく歩いていると、音がだんだんはっきり聞き取れるようになってきた。 どうやら人のざわめきみたいだ。誰かいる、しかも大勢。 あそこに初美とリリスも居るかもしれない。微かな希望を託してボクは足を進めた。 すると突然霧の中に石造りの立派な建物が浮かび上がった。 その建物は正面に広い入口があって、奥に沢山の人が見える。 ボクは「初美!」と叫ぼうとしたけど、声が枯れてしまってかすれた小さい声しか出ない。 ボクはもどかしくて口をぱくぱくしていた。すると… 「間もなく列車が参ります。ご乗車のお客様は危険ですから白線の内側に下がってお待ち下さい。」 突然マイクを通した男の声が響き渡った。 ここは駅なのか? ボクは初美を探そうと駅舎の中へ入った。そして乗客をみて愕然とした。 皆青黒くのっべりした顔をしている。目と口が無く、人形のように無機質な感じの人ばかりだ。 「これは…人間じゃないのか…」 ボクが立ちすくんでいると、突然「ポーッ」という耳をつんざく汽笛が鳴って列車がホームに到着する音が聞こえた。 ボクは改札越しにホームの様子をうかがった。 そこには写真でしか見たことのない、蒸気機関車に引かれた古めかしい客車が停車していた。 奇妙な乗客達は黙々とその列車に乗り込んで行く。 乗客が皆乗り終わると発車のベルが鳴り、鳴り止むと同時に汽車は再び大きな汽笛を鳴らしてゆっくりと動き出し、霧の中へと消えて行った。 煙の残る構内にボツンと取り残されたボク。 するとホームから紺の上下に金ボタンの制服、頭に制帽を被り、右手にランプを提げた駅員らしき男が戻ってきた。 「おや?お客様、お乗り遅れになられましたか。申し訳ございません。生憎今のが本日の最終列車でございます。 次の列車は12時間後になりますのでどうぞ待合室でお待ちになって下さい。」 丁寧な物腰で話し掛けてくるその駅員の容貌を見てボクはある事に気付いた。 長身にヒゲを蓄えた中年男…夜行列車の世界で出会ったあいつにそっくりだ。 「お前は…サイガ!サイガじゃないか!スパイのお前がなぜここに居るんだ。」 かすれた声でボクが言うと、男は怪訝な顔をして答えた。 「お客様、どうもお人違いをされているようですな。 私は当駅の駅長をしておりますジギスムントと申す者、スパイなどとんでもございません。」 「すまない…ボクの勘違いだった。」 「何やらお疲れのご様子ですな、お嬢さん。よろしければあちらに売店がございますので、お弁当とお飲みものなどお求めになってお休みになられては?」 男が指し示す方には[KIOSK]と書かれた売店があった。 ボクは食事は喉を通りそうになかったけど、とにかく喉がカラカラに渇いてたまらなかったので、ジュースでも買おうとそちらへ向かった。 売店を覗き込んで声を掛ける。 「すみません、ジュースください。」 すると奥から法被を着た店員が現れた。 「はい、いらっしゃいませー!」 「ってあんた、さっきの…ジギスムントじゃないか!」 「いやー、お恥ずかしい。なにしろ駅長と申しましても、私一人でこの駅を切り盛りしておりますからな。 改札から掃除、売店の売り子まであらゆる仕事をこなさねばならないという訳でして。」 「た、大変なんだね…。」 「以前はもっと人のいる駅に居たんですがねえ…ここは新しく出来た駅なんですが、経費節約で人員を増やせなくて…。おかげで忙しいのなんの。 でも今はすっかり慣れましたよ。はははは」 後頭部に手を当てて照れ笑いをするジギスムント。 「ところでお嬢さん、切符を拝見させていただきたいのですが。」 「え?切符?」 「切符をお持ちでない方にはお売り出来ない規則になっておりますので。」 「そんなの、ボク持ってないよ。」 「無賃乗車とはいけませんな。ここへ来る途中で死神に切符を貰いませんでしたか?」 「死神…ってどういう事だ?ここは一体どこなんだ!」 思いがけない言葉にボクは混乱していた。 「ご存知無いのですか?ここは死者の魂が別の世界へと転生するために旅立つ場所なのですよ。 人間が死ぬとその魂と引き換えに切符を3枚与えられます。それを使ってここから列車に乗って別の世界へと転生するのです。 死神は…これは人間界での呼び名で、私共魔族は[魂狩り(ガイストイェーガー)]と呼んでおりますが、死者の魂を集め、切符を持たせてこの駅まで連れてくるのが主な仕事なのです。」 列車…そういえばリリスが図書館でそんな話ししてたっけ。 「…ですがお嬢さん、さっきからどーも変だと感じていたのですが…貴女はとても強い精気を発していらっしゃる。そのせいでで私はクラクラしますよ。 貴女、まだ死んでませんね。 生きた人間はここへは来れない筈なんですが…変ですねぇ。」 ジギスムントがボクをしげしげと見ながら首を傾げる。 「一体ボクはどうなったんだ…? …そうだ!あんた、今魔族って言ったね?じゃあリリス、どこに居るか知らない?」 「な…リリスですと?何故その名をご存知で…あなたは一体何者なんです?」 驚いて売店のカウンターから身を乗り出すジギスムント。 「ボクは東葉月。初美…いやイブとリリスを探してる。」 「なな…イブをお探しですと?お二人とはどういう御関係で?」 「リリスとボクは友達なんだ。 イブはある世界で初美という名前でボクと一緒に暮らしてた。ボクの一番大切な人なんだ。」 何だか顔が熱い。初美の事を話す時、ボクはいつも顔が赤くなるんだ。 「ななな…なんと!噂には聞いておりましたが… 女神イブのソーマを浴びて不死身となった人間の少女が、魔王リリスとともにイブを探して本の世界を旅して回っていると。 貴女がその…道理で強いソーマを感じる筈です。」 「うん、そうだよ。ボクはソーマを浴びて不思議な力を身につけた。だからヤミの図書館へも行けたんだ。 ていうかボクの事、魔界で噂になってるんだ。」 「それはもう、魔王リリスは我々魔族の頭領である三大魔王の一人ですから有名人なのですよ。 特にリリスさんはヤミとして魂の転生を管理する立場にありますから私どもの仕事に関わりが深いのです。 で、今日はご一緒ではないのですか?」 「二人ともいなくなった。何故なのか思い出せないんだ。何故ボクがここに居るのかも。」 「どうやら訳ありのようですな。 立ち話も何ですから駅長室へご案内致しましょう。どうぞこちらへ。」 ジギスムントが促す。 ボクは彼を完全に信用した訳じゃなかったけど、ひょっとして手掛かりが得られるかも知れないので、ついて行く事にした。 駅長室に入ると、ジギスムントに勧められるままにソファーに腰を下ろした。 「いやー、こんな所でリリスさんの恋人にお会い出来るなんて光栄です。」 お茶とお菓子をボクに勧めながらジギスムントが言った。 「いや…だから…ボクは恋人じゃないし。 …どっちかと言うとセフレかな…って、何言わせるんだ!」 「おや?魔界TVのワイドショーではそう言ってましたが…」 「ボクの恋人は初美だけだ!」 わー、言っちゃった。 「なるほど、やはりそうでしたか。はっはっは」 こいつ、わざとカマを掛けたな。 「いじわるだな。」 「いやぁ、失敬失敬。ついいつもの悪戯心が出てしまいました。 しかし若い娘さんの恥じらう姿はいつ見ても可愛いですな。」 お茶をすすりながらしれっとして笑うジギスムント。 このオヤジ、やっぱりサイガに性格似てる。 「冗談はこのくらいにして、葉月さんはなぜここへ来られたか記憶がないとおっしゃいましたが…」 「うん、三人で家に居たんだ。そしたら強い光に目が眩んで…気が付いたらここに居たんだ。」 「ふむ、その時に何か大きなショックを受けたかあるいは…誰かに記憶を消されたか…」 ジギスムントが腕組みしながら思案する。 「元の世界に戻れないのか?」 「それは出来ません。ここへ足を踏み入れた人間は元の世界へ帰してはならない規則になっておりますから…」 「そんな…そうだ!図書館に行けばケンちゃんが居る! ねえジギスムント、この列車は図書館へも通じてるんだろ?乗せてくれないか?」 「葉月さんは切符をお持ちでないので車掌に車外へほうり出されてしまいますよ。」 「切符はどうしたら手に入るんだ?」 「それは…死んだ人間にしかお売り出来ない規則になって…葉月さんはリリスさんから切符をもらっておられないので?」 「うん、ボク達はリリスのゲート能力で直接本の中へ入ってたから列車は使わなかったんだ。」 「それは困りましたねぇ…」 「ジギスムント、さっきから規則規則って、融通の効かないヤツだな。」 ボクはだんだんムカついて来た。 「これが仕事ですから。 ですが条件次第で切符を都合させていただいても良いのですが…」 いきなりジギスムントがボクの横に密着して肩を抱いて来た。 「な、何をする!」 「葉月さん、貴女、私にそっくりなサイガとやらに痴漢された事を思い出してちょっと濡れましたね?」 ボクの耳元で囁きながら胸とお尻を触ってくるジギスムント。 ボクは抵抗しようとしたけど、体がピクッと痙攣して力が入らない… 「なぜ…それを知ってる?」 「私は人の記憶が読めるんです。貴女がさっき記憶が無いとおっしゃったので、本当がどうかちょっと頭の中をサーチさせていただいたんですよ。 貴女はあの時、銃で脅されていたにも拘らず、サイガに身体を触られて感じてしまいましたね?」 「ち…ちがっ…」 「ほう、なら何故こんなにぱんつがぐっしょりなのですかな?」 ジギスムントがぱんつの中へ手を入れて来た… 「あ…いや」 「貴女はもっと続きをされたった。あの巨乳女スパイが乱入して来なければね。」 た…確かに蓉子が現れた時ホッとした半面ちょっと残念だったけど… 「葉月さんはすごく敏感なのですね。噂通りです。」 「あ…そこダメェ」 ジギスムントの指にボクの身体は敏感に反応してしまう。 イヤな筈なのに身体が言うことを聞かない…刀がないと力が出ないのかな… 「私があの時の続きをして差し上げますよ。 ハハハハハ。」 スケベったらしく笑うジギスムント。 やだ、ボク、でも気持ちいい… もう頭が痺れて何も考えられ… そしてボクはセーラー服の胸をはだけられてソファに押し倒されてしまったんだ。 【2時間後】 「ハアハアハア…もうダメ…限界…無理…」 「なんだつまんない、もう降参?もっと楽しませてよ。」 「勘弁して〜これ以上したら…私…確実に死にます〜」 ボクの足元でヘロヘロになったジギスムントが息も絶え絶えに転がっている。 「ハアハア…いつもこんなに激しいセックスをされてるのですか…」 「まだ初美との半分もしてないよ。男の癖にだらしないな。」 ボクは乱れた服を整えながら半ば呆れて答えた。 「半分?」 「これにリリスも加わるから実際は今の3倍はするかな。」 「さん?!Σ(゜Д゜;)恐るべき…」 「女神イブの恋人で魔王リリスにため口を聞くボクをナメたからそんな目に遭うんだよ。」 「恐れ入りました〜。久しぶりに生きた人間の精気を吸えると思ったのに〜トホホ…」 「ボク、疲れてたから逆にあんたの精気を吸っちゃったみたいだね。おあいにくさま。 おかげで元気が出たよ、ありがと。」 「ダメだこりゃ…」 いけない!リリスなんかとエッチしてたらボクまで悪魔っぽくなってる。気をつけなきゃ。 「あの…葉月さん、お願いがあるのですが。奥のバスルームに私を運んでお湯に浸けてくださいませんか? 干からびてしまってこのままでは仕事が出来ません〜。」 「切符をくれたら連れてってあげてもいいけどなー。」 「差し上げます〜、ですからお願いします〜葉月さま〜」 懇願するジギスムントをお湯に浸けてから、ボクは始発列車の時間までソファで眠る事にしたんだ。 つづく |