作者:銃太郎(SIG550)さん

葉月の世界 第11話 『新学期』


今年の誕生日はボクにとって生涯最高の日だった。
何たって初美が戻ってきたんだから。しかもついに恋人同士に♪
でも初美(イブ)が実は分身で、本体はこの世界のどこかに隠れているって知った時はかなりこたえた。
しかもこの世界がボクの生まれた世界じゃないなんて…
全てはイブとリリスが創ったコピーだったなんて…
父さんも母さんも、学校のみんなも既に…
ボクは二人の前では気丈に振る舞っていたけど、心の中では初美一人を手に入れる為に失った物の、あまりの大きさに途方に暮れていた。
そんなボクの気持ちを察したのか、リリスと初美は夏休みの間、いろんな所へボクを誘ってくれた。
海や山や遊園地、夏祭りに花火大会、ラーメン食べ歩きツアー(リリスは絶対B級グルメだな)
カラオケ(ボクはちょっと苦手、初美は一度来たかったのっていいつつ一人で歌いまくってた。ていうかピンクレディーってだれ?)
にコミケ?(初美は怪しげな同人誌を買いまくってた…)なんてとこまで三人で遊びまくった。
二人の気遣いに、次第にボクの気持ちも落ち着いて行った。
まだ気持ちの整理はつかないけど、他に帰る世界は無いし、二人がボクを思ってしてくれた事には感謝している。
そういえば、こんなに楽しく夏休みを過ごした事はなかったな…

そんなこんなで夏休みは終わり、今日からニ学期。

「ねえ葉月〜、何ぼんやりしてるの?毎晩おでこちゃんとHしてるから疲れたんじゃな〜い?」

リリスが電車を待つボクの顔を覗き込んだ。
リリスの言うとおり、ボクは毎晩初美に可愛がって貰ってるんだ。しかし…

「何言ってるんだ。疲れてる原因は、初美が眠ってしまった後でリリスが夜ばいに来るからじゃん。」

時々夜中にリリスがボクの部屋へ甘えに来るから相手してあげるんだ。
リリスはキスがすごく上手で、キスされると頭が痺れて体が熱くなって、止まらなくなって、ボクの方から求めてしまう。
それにリリスの身体は柔らかくてとても抱き心地がいいんだ。
まあ、それもこれも初美にはかなわないけどな。
こんなことで感じてしまうボクって変かな?
ボクは初美が大好きで、リリスはボクが大好きで、ボクもリリスが嫌いな訳じゃない。
初美とリリスは仲がいいし、二人はボクを愛してくれる。これはこれで居心地がいいんだけど…
この不思議な三角関係はいつまで続くんだろう?

「だって〜、葉月はおでこちゃん一人じゃ物足りないんじゃないの〜?
葉月がいつも終わった後に一人でしてるから〜、リリスちゃんが慰めてあげてるんじゃない。」

「そんな事言ってリリスがしたいだけだろ。ボクは付き合ってあげてるだけなんだからね。」

「へぇ〜、その割にはすごく感じてるじゃな〜い。やらしい声まで出して〜。」

リリスがボクの首筋を人差し指でなぞりながら耳元で囁く。

「やめろ!人前なんだぞ。」

ホームに並んだサラリーマンや学生がちらちらこっちを見る。
ボクを見ながらひそひそ話をしている女子高生もいる。

「ボク達が百合カップルだと思われるじゃないか。」

「え〜?その通りじゃないの〜、いつもHしてるんだから〜。」

「声がでかいよリリス!」
ボクは顔中を熱くしながら慌ててリリスの口を塞いだ。

「ていうか何でリリスが学校についてくるんだ?
しっかり制服まで着て、それ初美のだろ?」

「一度葉月の学校へ行ってみたかったのよね〜。
それにいつ奴らが襲って来るかもわからないし〜。」
「そういえばあいつら、夏休み中は襲って来なかったな。仲間割れしてそれどころじゃないのかな。」

「そうかも〜。連中は自己中なやつばかりだからね〜。でも学校は前にもフェンリルに襲われてるから警戒しないとね〜。」

「ボクは久しぶりに初美と登校できると思ってたのに。」

「しかたないわよ〜。我慢して葉月〜。
おでこちゃんは留守の間本体に隠れてるって。どこにいるんだかわかんないけどね〜。
あいつ、リリスちゃんにも教えてくんないのよ〜、ほんとケチなんだから〜。
ぷんぷん」

「ちぇっ、しかたないな…あ、電車が来たよ。」

ボク達は人波に押されながら電車に乗り込んだ。
ボク達はドアの側に立つ事になったんだけど、周りは女子中高生ばかりだ。
ボクが電車に乗るといつも女の子に囲まれてしまうんだ。それも上は20代から下は小学生まで幅広い。
噂では沿線の女子中高生の間でボクのファンクラブが出来ているとかいないとか。
それで男の人をボクに近づけないようにガードしてるらしい。
気持ちは有り難いけど、何だかなー…

「ねえねえ葉月?葉月はかわいい制服着てみたいと思わない〜?」

リリスが他校生を見ながら聞いて来た。

「べつに。何でそんな事きくんだ?」

「リリスちゃん一度セーラー服着て見たかったのよね〜。でも〜、葉月だったらミニに生足の制服も似合うと思うの〜。
どうして葉月の学校はスカート長いの〜?」

「お嬢様学校だからね。校則が厳しいんだ。」

「そんなのつまんな〜い。じゃあリリスちゃんがヤミの権限で校則を書き換えて〜…」

「思いつきで余計な事しなくていい。」

「何で〜?葉月の綺麗な脚を他校生にも自慢すればいいのに〜。」

「恥ずかしいよそんなの。」

「ちぇ〜、可愛いのに〜」

口を尖らせて拗ねるリリス。

「それにそんな事したらファンクラブの子が失神するかも。」

「葉月女の子にモテるもんね〜、周りみんな葉月のファンなの〜?」

「これ以上モテても困るよ。今でもバレンタインには部屋がチョコで一杯になるし。」

「それじゃあ、来年はトラック一台分くらいに増えたりして〜。」

「冗談じゃないよ、ジャ◯ーズじゃあるまいし。」

「ていうかさっきから視線が刺さるんですけど…」

周りの女子がリリスを睨んでる。

「ファンの子がリリスを妬いてるんだ。初美は公認カップルだけどリリスは認められてないからね。」

「え〜、そんな〜」

「だから初美と行きたかったんだ。
話は戻るけどリリスはどうしてミニスカにこだわるんだ?そんなにボクのふとも
も見たいのか?」
「それもあるけど〜、人間にミニスカを広めたのはリリスちゃんだから、葉月にも穿いてもらいたいのよ〜。」

「またいい加減な事を。」

「本当だってば〜!ヤミのコスチュームはミニスカの元祖なんだからね〜。」

「だったら余計やだ!」

「お願い葉月〜、リリスちゃんの野望を実現する為なの〜。」

ボクの手を取って懇願するリリス。

「野望って、どんな?」

「は〜い!ヤミことリリスちゃんは〜本の世界の女の子の服を全部ミニスカにする事をここに誓いま〜す!。
起てよ国民!
ジ〜クミニスカ!
パンツスーツ撲滅〜!」

リリスが右手を挙げて高らかに宣言した。

「くだらん野望だ…」

ボクは頭痛がしてきた。

「死んでもお断りだね。」
(ちっ、頑固物〜。よ〜し、こうなったら意地でも葉月にヤミのコスチューム着せてやるわ〜)
リリスが小声で独り言を言った。

「なんか言った?」

「ううん、何にも〜」

笑ってごまかすリリス。
絶対リリスと同じ格好なんかするか!

「はぁ〜…ほんと葉月が素直なのはベッドの上だけね〜。」

「そんな事ここで言っていいのか?」

ボクを囲んだ女子の間に殺気が漲る…

「あ〜アハハ〜…これは葉月が風邪で寝込んだ時の話で〜(滝汗)」

冷汗を流しながら苦しい言い訳をするリリス。

「どうやら完全にファンクラブを敵に回したようだね、リリス。」

「ほええ〜(T-T)」

リリスといると退屈しないけど、かなり疲れる…


その後リリスとは学校に着くまで口を聞かなかった。
朝から一日分の疲れがどっと出た気がしたからだ。
いつものように沿道にたむろするヤンキーに睨みを効かせつつ校門をくぐると、なにやら校内が騒がしい。
「おはよう、美奈。今日も可愛いね。騒がしいけど何かあったの?」

教室には友達の相澤美奈が先に来ていたので尋ねてみた。

「おはよう葉月(ポッ)。なんかグラウンドに面白い物があるらしいよ。
あたしも今から見に行くの、一緒に行こ。」

「面白い物?何だろ」

ボクとリリスは美奈に付いて行く事にした。

(ねえリリス、怪しいと思わないか?)

(そうね〜、やはり敵の罠かも知れないわね〜。)

グラウンドに出て見ると、沢山の人だかりが出来ていた。
その中心に見えた物は…

「あれは確か[クマちゃん二世]!」

巨大なピンクのクマのぬいぐるみがグラウンドの真ん中に…
皆がそれを見て『きゃー、何これー、かわいいー』と騒いでる。

「あれはガルガンチュアが乗ってた時空間移動装置だったな。」

ボクは人垣をくぐり抜けてそれの側まで出た。

「おい、ガルガンチュア、リツコ、大丈夫か?いるんだろ!」

ボクが呼び掛けると腹部のドアが開いた。

「おお!葉月ではないか。おーいリツコ!助かったぞ。」

「まあ、よかったわね、ガルガンチュア。あら、葉月さんにリリスさん、こんなに大勢でお出迎え頂いて恐縮ですわ。」

「リツコは相変わらずマイペースだね。ていうかアルカディアに帰ったんじゃなかったの?」

「クマちゃん二世が故障して、あちこちの世界を漂流した揚句にここへ戻って来てしまったんです。」

「故障?それでステルス装置も働かないのか。」

やはりボクが心配した通りだ…

「まあ、マウの発明だけに最初から怪しかったんだけどね〜。」

見回すと、生徒達が呆気に取られて立ち尽くしている。

「このままじゃまずいな…ねえリリス、これどうしようか?」

「う〜ん、そうね〜」

ボク達が思案していると…

「あなたたち、一体そこで何をなさってるの?」

「あ、今出川先輩、ごきげんよう。」

生徒会長の今出川彩花先輩がボクらの背後に立っていた。
今出川先輩は三年生で、ボクと同じ黒髪ロング、背はボクより少し低く、近視なので眼鏡を掛けている。
成績優秀な大金持ちのお嬢様だ。高潔な人柄で生徒からの信頼が厚く、ボクと並んで学園の二大クールビューティーと呼ばれている。

「ごきげんよう、東葉月さん。朝から随分騒がしいわね。こちら、あなたのお知り合い?」

「何だこの生意気な小娘は?」

「生意気な小娘ですって?。
あなたはここが何処かお分かりでないようね。
ここは女子校ですから教職員と父兄以外の殿方は、学院長の許可無しに校内に立入る事は禁じられていますのよ。
何なら、今すぐ警察を呼んでもよろしくってよ。」

「何だと?この私を犯罪者呼ばわりすると言うのか?いい度胸だ、貴様などわが錬金術でカエルにしてくれる!」

ガルがクルクル回りながら怒り出した。ヤバイ雰囲気だな…

「東さん、一体何なの?この方々は。」

先輩は困惑している。どうしよう…そうだ!

「今出川先輩、これは今日編入したこのリリスが連れて来たマジックの一座なんです。
挨拶代わりとして放課後皆にイリュージョンを見せてくれるらしいんです。」

「この子が?本当なの?」

ボクはリリスに目配せをした。

(そっか、葉月、わかったわ〜。リリスちゃんに任せて。)

「そうなんです〜、リリスちゃんのお父様が雇っている専属の芸人達なんですよ〜。
今日は〜皆に楽しんで貰うために海外から連れてきました〜。」


「…そうでしたか。これは失礼しました。
では、放課後を楽しみにしていますね。」

そう言うと今出川先輩は校舎へ戻って行った。

「いやにすんなり解ってくれたな…出まかせなのに…リリス、なんかした?」

「ああ〜、魔眼を使って暗示の魔法を掛けたの。
あの娘すっかりリリスちゃんを転入生と思い込んでるわ〜。
でも〜、これで堂々と葉月と一緒に学校に通えるわね〜。いや〜ん嬉しい〜。」

顎の両側に拳を作って喜ぶリリス。
しまったー、ボク、自ら墓穴を掘ってしまったか…
…また頭痛が…

「おい、この偉大な錬金術師ガルガンチュアを芸人呼ばわりするとは何たる侮辱!」

怒るガル。

「まあガル、怒らないで、これで全国を回ればいいお金儲けになると思うわ。修理の為の部品代ももうないんだし。」

「そういうこと。さすがはリツコ、融通が効くわね〜、ガル、あんたも見習いなさいよ〜。」

という訳でガル達はイリュージョニストとして全国公演へ、その間クマちゃん二世は校庭に置かれて、生徒たちのマスコットとして人気者になった。


〈その後教室にて〉

「今日からこのクラスに編入してきた、大魔神リリスちゃんで〜っす!よろしくね。うふっ」

右手を挙げてみんなに挨拶するリリス。

「大魔神と書いて〜[おおまがみ]と読みます〜。意味は〜、偉大なる魔王にしてかわいい女神、リリスちゃんで〜す。」

ああ、また頭痛が…


〈帰りの電車にて〉

「ねぇ葉月〜、いつもファンクラブ女の子に守られて、痴漢に遭わなくて安心ね〜。」

「それはいいんだけど、ちょっと物足りないって言うか…」

「ええ〜?葉月痴漢されたいんだ〜。」

「いや…夜行列車の世界でサイガに触られたのを思いだしちゃってさ」

「確かあの時感じちゃったのよね〜。葉月は全身が性感帯だから〜痴漢されたら電車でイッちゃうかもね〜。
でもそれって痴女じゃない〜?」

「痴女って言うな!」

「じゃあ、気持ち良くなる事は何でも経験したい、エロスの探求者、略してエロ探〜。」

「嫌なニックネーム付けるな。」

「葉月はエロ探〜、や〜いエロ探エロ探〜。」

「五月蝿い黙れ」

【ボコッ】

ボクは顔を真っ赤にしながらリリスの頭をグーで殴った。


つづく

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