ヤミと帽子と本の旅人〜ショートストーリーズ〜
作者:零亜さん
第六章「図書館の魔女」 |
ここは海鳴の商店街を外れた高台。 その高台をゆっくりと降りてくる金髪の美女と一匹のオカメインコ・・・・リリスとケンちゃんがいた。 買い物帰りか、リリスは買い物袋を持っている。 「あ〜ん、リリスちゃん疲れた〜。・・・・ねぇケンちゃ〜ん、ついでにこれも持って〜♪」 「む、無理ですって、これ以上持ったら羽がもげてしまうがな・・・」 ケンちゃんの羽(?)にはリリスの倍の荷物が巻きつけられていた。巻きつけた犯人はもちろんリリスである。 これは明らかにこの世界の物理法定を無視している。もっとも、インコにこんな芸当は不可能であるのだが・・・ しかし、リリスはそんなことなどお構いなしにケンちゃんの羽に荷物を巻きつける。 一瞬、重さに耐え切れず、荷物を巻かれた羽からケンちゃんの体が沈むが、羽をバタつかせ何とか体を元の位置まで戻る。 すばらしいバランス感覚だ。 「へぇ〜、ケンちゃんって意外と力持ちなのね〜」 (・・・このアマ、いつか動物虐待で訴えたる・・・) ふと、ケンちゃんの頭の中にそんな考えたよぎり、消えた・・・・ そうやって高台から降りていく一人と一匹の足と羽が止まる。 二人の視線の先には金髪でショートカットの美女がいる。手すりにもたれながら遠くの方を見ているその姿は一枚の絵に見えるくらいだ。 美女はリリス達に気づいたのか駆け寄ってきた。 「ねぇねぇ、ここで吸血鬼とか見なかった?」 実にあっけらかんとした感じで、その美女は尋ねてきた。 「・・・・・さぁ?」 リリスもそれに負けないほど、あっけらかんに答える。 (・・・・・姉さんが二人いる・・・) ・・・それが、二人のやり取りを隣で眺めていたケンちゃんの率直な感想だった。 「う〜ん、ここじゃないのかな〜。まぁ、いいか。それじゃっ。」 美女はそう言い残すと、手すりを飛び越えた。 いや、ここは高台である。この場合は・・・・飛び降りた、が正しいのだろう。 「あ〜〜〜〜〜」 「と、飛び降り自殺〜!!」 落ちていく美女をまるで、物が落ちていくかのようにのほほんと眺めるリリスと、悲鳴を上げるケンちゃん、対称という言葉はこういう時のためにあるのであろう。 「う〜ん、この道で合ってると思うんだけどな〜」 その頃、志貴とレンは商店街を少し離れた所を地図を片手に歩いていた。どうやら道に迷ってしまったようだ。 誰かに道を尋ねようと辺りを見回していると、前方から人が歩いているのを発見した。 いや、よく目を凝らして見ると、一匹の鳥が近くにいるのがわかる。 しかもその鳥(?)は羽に買い物袋をぶら下げているにも関らず、飛んでいるではないか。 明らかに異様な光景である。 「だから、はよ探しにいきましょうや。」 「も〜、何度言わせたら気が済むの〜。リリスちゃん疲れたの〜」 しかもその二人(一人と一匹)は何やら言い争っているようであった。 (インコか?それにしてはよく喋るインコだな・・・) 少なくとも、テレビの投稿ビデオとかで出てくるインコでも、これほど喋るインコはいないだろうな、と志貴は思った。 そう思っている刹那、そのインコと目が合った。「おお、人が居った。」 そう言い、ケンちゃんは志貴に近づこうとし、そして固まる。 いや、正確には、志貴ではなく、志貴の隣にいる少女・・・レンを見て固まったのである。 (な、なんや、この感覚は・・・) ケンちゃんの第六感が自身の危険を感知した。 「・・・・・・・」 対するレンはケンちゃんから視線をそらさない。 それはまさに蛇と蛙に睨み合いである。 (あ・・・なるほど) その光景を見て、志貴は心の中で何かを納得した。 「で、何かあったんですか?」 「そうや!にいさん聞いてくれや」 「もう、ケンちゃんったらおおげさ。ただ人が高台から飛び降りただけじゃない。」 ・・・人が・・・高台から・・・飛び降りた・・・ そのキーワードから連想されるものはただ一つ 「飛び降り自殺じゃないですか!?」 絶叫する志貴。 「どうして!人が飛び降りたのに!そんなのほほんとしていられるんですか!?」 彼女が発するノーテンオーラから、一瞬一週間前から行方知らずのアーパー吸血鬼を思い出す。が、今は関係ないため志貴は忘れることにした。 どうも志貴は金髪の美女に振り回される星の下に生まれたようだ。 こういった時、携帯電話があると警察とか呼べて便利なのであるが、残念ながら万年金欠の志貴にはそれを買う余裕はない。 秋葉に頼み込めば買ってくれるであろうが、それでは兄として、男としての立場がない。 「どこで起きたんですか?」 お人よしなのか、それとも押しに弱いのか、結局協力してしまう遠野志貴の長所であり、短所であるいい人根性精神。 「お、にいさん話のわかる人で助かるわ。ワイが道案内しますさかい・・・あ、すんませんがこのビニール袋取ってもらえますか?」 「あ、ああ、いいけど・・・」 志貴はケンちゃんの羽から丁寧に買い物袋を外していった。 「ちゅうわけで姉さん、この荷物頼みましたで!」 「え!?ち、ちょっとケンちゃん!待ちなさい〜!!」 ケンちゃんは、後ろからリリスの声はあえて無視した。 高台の下、おそらくその金髪の美女が飛び降りたであろう場所をうろついている志貴とケンちゃん。 辺りは、草木や林で覆われ視界がよくない。 「そういえば、その飛び降りた人ってどんな人ななんだ?」 相手が分からなければ探しようもない。 「え〜と、すっごいべっぴんさんで、金髪のショートカットで、白い服を着ていて・・・なんか、すっごいあっけらかんして・・・・そういえば、吸血鬼がどうとか言うとりましたな。」 金髪のショートで、白い服を着ていてる美女で吸血鬼がどうとか言う人物・・・・幸いにも志貴には心当たりがあった。 「アルクェイド・・・そうか、あいつこの町に来ていたのか・・・」 突然脱力を起こしたと思えば木に持たれかかり、志貴は呟いた。 「って兄さん、木に持たれかかっとる場合じゃありまへんって。というか、その人は兄さんのお知り合いでっか?」 隣で辺りを見回していたケンちゃんが問いかける。 「いや、大丈夫。そう・・・あいつならあそこから飛び降りたって平気だろう。」 さらりと、本当にさらりと、とんでもない事を志貴は言い切った。 「なんや、にいさんのお知り合いでっか・・・・って・・・え!?」 それを聞いたケンちゃんが固まる。 「だってあんさん、あの高さでっせ。普通は死にまっせ」 ケンちゃんは、おそらくそこから飛び降りたであろう、場所を指差す。 「ああ、あれより高いビルから飛び降りたりしている所、何度も見てるから・・・」 またしても、とんでもない事を言い切る志貴。 「ま・・・・まぁ、にいさんがそう言いはるなら・・・」 かなり腑に落ちないが、相手を知っている人物が言い切っているので引き下がった。 言われてみれば、確かに飛び降り自殺するような素振りは見れなかった。 「はぁ〜〜」 志貴の口から特大のため息がこぼれる。 一週間行方知れずだった相手が、たまたま来た町に来ていたのだ。志貴の心中は計り知れない。 そうすると一つの疑問が生まれる。 (だいたいアルクの奴、どうしてここに来たんだ?) 自分たちがいる町からかなり遠くに位置するこの海鳴にどうしてアルクェイドはいるのであろうか? それは自分たちも同意義であるが・・・・ (いや、俺がこの林にいるのは、飛び降り自殺した人がいると聞いてきたからだから・・・) もっともその事件は自己解決している。そもそも事件でもないが・・・ (そうだ!確か道に迷って、それで人に聞こうとして・・・) そうやって記憶を辿っていくと何か重大なことを忘れているような気がしてきた。 (そもそもこの町に来たのだってレンが来たがってい・・・た・・・・か、ら?) そして、全ての思考と記憶が今日の出来事の出発点に集中した。 その刹那、志貴は辺りを見回した。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・いない? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰が? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・レンが 「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!レン〜〜〜〜〜〜〜!!!」 多い茂る森林の中、志貴の悲痛の叫びだけがこだました。 一方、その頃遠野家では・・・・・ 「何、この凄まじい悪寒は・・・」 妹センサーがかつてない反応を示していた。 |