連載小説
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6
非常に大きなチャイムのような音が鳴り、僕はベットから起き上がる。
壁にかかった時計を見ると、7時を指していた。
意識が少しずつ覚醒し、昨日のことを思い出す。
昨日は3人が帰ってから……そう、疲れたのでシャワーを浴びてそのまま寝たんだったな。
この部屋にはクローゼットと箪笥があるが、中には部屋着のようなものだったりスーツだったりTシャツだったり下着だったりと、生活に必要そうな服が大体常備されている。便利なものだ。
ベットから起き上がり、洗面台に向かい顔を洗う。顔を上げると鏡に映る自分が目に入った。
偶然とは不思議なものだ。ついこの前まで僕は村に迫害され、ろくな服を与えられず、寝床すら与えられなかった。人ともまともにかかわることがなかった。そんな人間に今は誰かよくわからない人たちに良くされ、衣食住を与えられている。改めて考えると、よくわからなすぎる展開だ。
……………………。
ここで、一つ僕は疑問を感じた。明らかにおかしい、僕の人生に矛盾した記憶。
「僕はどこで『朝になったら顔を洗う』なんて覚えたんだ………?」
独り呟くと、それに反応するように僕の腹が鳴った。そういえば、昨日から何も食べてないな………。
「衣食住……」
またぽつりとつぶやくと、タイミングを見計らったかのようにドアからノック音が聞こえる。ドアを開けると、例の三人がドア前で待ち構えていた。
「ようフェルディ!まだ着替えてなかったのか!早く着替えろ!」
マルセルの元気な声は朝でも変わらないようだ。
「着替えろって……今からどこに行くんだよ……」
「決まってるだろう!朝メシを食いに行くんだよ!」
僕が気だるそうに答えたことなど気にも留めずに大声で伝えてくる。
「ごめんねフェルディ…そういえば食事どうするかを伝えてなかったってのを今日の朝気付いて、丁度マルセルが朝食誘ってきたからいい機会だと思って」
横からジャッキーが申し訳なさそうにフォローを入れてくる。
「そういうこと。じゃあすぐ着替えるから待ってて」
そう言って窓を閉めようとすると、レイラの声がボソッと聞こえた。
「早く」
非常に気まずい朝食になりそうな予感がした。

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着替えを終え、4人でエレベーターに乗る。
「今日の朝メシは何にするかね〜」
「はい!私はパンケーキの気分です!」
「パンケーキかぁ〜〜〜……俺ァ今甘いものの気分じゃねえからなあ…」
ジャッキーとマルセルが楽しそうに話している。その後ろで、僕とレイラはだんまりしていた。その様子に気付いてか気付かずか、マルセルがこちらに話題を振ってくる。
「お前らは何にするよ?」
「う〜ん…まあ無難にパンでも食べようかな」
適当に答えておく。
「パンかぁ〜確かに無難だな〜〜。リーはどうするんだよ。てかしゃべらなさすぎだろ!フェルディに人見知りするのはわかるけどなぁ〜いくらなんでもテンション変わらなさすぎだぞ??」
え、レイラってそんなに普段は元気なのか。なんかショックだ。嫌われてるのだろうか。
「別にいいじゃん…………ごはんとみそ汁。」
レイラはそっぽを向いて答えた。しかも意外なチョイス。この場にいた全員がそう思ったのか、ジャッキーもマルセルも吹き出す。
「ははははは!!また想像の斜め上の返答だな!!お前もパンケーキとかそこらへんだと思ってたよ!!」
「あぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜もうこういう反応が嫌だったから会話に入らなかったんだよ……あとで覚えとけよ」
レイラは顔を両手で覆う。素振りがいちいちかわいい。また顔も格好もいいから余計に可愛く見える。
レイラは僕の視線に気付いたみたいで、僕と目が合うと
「…………あんまこっち見ないで」
とにらまれた。鋭い目つきをされたが、顔が真っ赤だから全然怖くない。
「ほらほらみんな着いたよ、降りよう」
ジャッキーがエレベーターから出るのを促す。いわれるとおりにエレベーターを降りると、だだっ広い食堂が視界に飛び込んできた。
「ここにタッチパネルがあるから、ここにあるものでほしいものを押して……全部頼み終えたら決定ボタンをおして、しばらく待つと隣の取り出し口から頼んだのが出るからね」
ジャッキーが実演しながら説明をしてくれる。ちなみにジャッキーが頼んだのはご飯とみそ汁、焼鮭とほうれん草のお浸しだった。
「おいおいおい、リーと似たようなチョイスじゃねえか!パンケーキじゃなかったのかよ」
「なんかリーのチョイス聞いて私も和食を食べたくなってね。ふふ、リーとおそろだよ〜ん」
ジャッキーとマルセルの会話を片耳に、僕はディスプレイの方へ視線を落とす。和洋中ジャンルはバラエティに富んでおり、何にするかパッと見ただけでは決められない。僕はとりあえずパンケーキとフレンチサラダ、ベーコンを注文した。すると、まもなく隣の取り出し口から頼んだものがトレーの上に乗って出てくる。出てきた朝食を取り、ジャッキーたちが座る席に腰を下ろす。マルセルが前、右隣にジャッキー、対角線上にレイラ、といった位置取りだ。
「今日は訓練日だからなあ〜みんなにボコされなきゃいかんのかぁ〜」
マルセルがぼやく。みんなにボコされる、とはどういうことだろうか。
隣からジャッキーが補足を入れてくれる。
「わたしたちは週に4日訓練日ってのがあってね、午前中は私たち同士で戦って、午後からはボスの掛かり稽古。なかなかきついから楽しみにしててね〜〜〜」
戦う……。なんだか僕にできるのかよくわからないが、この組織に入った以上は仕方ない、か。あまり乗り気でいないでいると、マルセルが話しかけてくる。
「こいつら華奢な女の子に見えるけど、こと戦闘においてはこの国でもトップクラスの人間だからな、女だと思って手加減はしない方がいいぞ!かわいい女の皮をかぶったゴリラだからなぁ!」
「誰がゴリラだってぇ……???」
マルセルの隣にいたジャッキーがマルセルの耳をつまみ上げる。イタイイタイ!とマルセルはじたばたしている。
ほんとに、この二人はそんなに強いのか……。
「まあフェルディは初めてだし、そんながちがちの稽古はしないと思うから安心して!大丈夫!ロブエ族だし!私たちなんかよりきっと強いよ!」
「まあロブエ族の中で最弱だったんだけどね僕……張り合えるといいね……はは…」
ジャッキーのフォローに空返事を返して、僕はこの先にある試練を憂いだ。

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朝食を済ませると、ジャッキーたちに連れられて地下3階にある道場に連れられてきた。床は木製で、天井はかなり高く、照明がまぶしい。道場の中心で胡坐をかいてうでを組んでいるタンクトップの男が一人。ボスだ。下を向いているので表情がよく見えないが、重苦しい雰囲気をまとっている。
「じゃあみんな、一列にならんで」
ジャッキーがみんなに整列を促し、四人でボスの前に整列する。右から、ジャッキー、僕、マルセル、レイラの順だ。
「今日もよろしくお願いします!」
ジャッキーが大きな声で言い、礼をする。
「「よろしくお願いします!!」」
マルセルとレイラも続いて礼をする。
僕もあわててそれに続き礼をする。
「………こんな感じで最初始まるから、次からよろしくね〜」
ジャッキーに小声で言われる。
「あ、ボス寝てるぞ、襲いかかろうぜ」
「いつも通り……一本取った奴の言うことは絶対」
「よ〜〜し、じゃあみんなで囲もうか」
みんながなんか不穏な会話を始める。ボスを中心に、3人が三角形状に囲む。間合いはボスから5歩程度。
「あ、フェルディはちょっと離れたところで見ててね〜!これボスが寝てるときの恒例行事だから!離れたところから見てるとみんなの強さも分かると思うし!」
ジャッキーにそう言われ、僕は何が何かわからずみんなから距離をとった。
「じゃあ、せーのでいくよ」
ジャッキーの言葉を最後に、場の空気が凍り付く。みんなの表情が変わる。先ほどまで笑って話してた人とは思えない。正に獲物を狩る狼のようだった。各々が構えを取り、全員の意識がボス一人に集中していた。
「せーのッッッ!!!!!」
刹那、爆音が響き渡る。床を蹴る音だ。
そして―――――襲い掛かられたボスは三人の攻撃を順々に受け止めてゆく。
そして、最後には三人の攻撃を止めるボスの姿が現れていた。
マルセルの背中を踏み、左手で拳を握りしめていたレイラの腕を掴み、ジャッキーの蹴りを右腕で受け止めていた。めっちゃムキムキな腕で。
「……まだ攻撃のタイミングがそろってない。これでは個別に対処できてしまう。一対一を三回行っているのと変わらないぞ。まだまだ練習が必要だな」
ボスが重たく口を開く。すると、空気が緩み、皆がゆっくりボスから離れる。
「攻撃の重さ、速さは申し分ない!うんうん、日に日に強くなっていってるのが俺はとてもうれしいぞ!日々精進することだ!」
ボスは腕を組んで仁王立ちし、がっはっはっと笑った。
「あ〜あ〜また負けちゃったねぇ〜〜…」
「俺……踏んづけられたぞ……チクショウ…」
「ボスを倒せる生命体なんていないでしょやっぱ…」
各々が各々らしい感想を漏らす。それでもみんな尋常じゃない速さだった。それを受け切ったボスはもっと化け物だ。
みんなロブエ族と戦えるといっても過言じゃない。
「んじゃまあ午前中は適当に戦っといて〜俺は部屋に戻るから何かあったら呼びに来てくれ〜」
そう言ってボスは道場を後にした。ボスが去るのを見送り、ジャッキーが「じゃあいつも通り総当たりでやろうか」と試合を始めることとなった。
21/08/16 14:47更新 / Catll> (らゐる)
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