連載小説
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第10話






ある日のことだった。急遽、ノノが別の施設に移ることになった。理由は病気が少し治ってきたからと言われたらしいが、実際はそんな理由ではない。
前の実験施設で検査を行い、その別の施設の実験を行えるサンプルのみその施設へ行くのだ。実験ができないサンプルは、体から刃や銃や鎖が出せるような生物兵器にする。
ノノを含めた複数の子供達は、その施設の部屋に入っていた。そして、一人一人…実験をされている。検査と聞かされているが……



ビットは今施設の人に呼ばれているため、部屋にはノノ一人だ。ぼーっとしていると、部屋の扉が開く。
アレックス「よっ、ノノ!」
アレックスだ、アレックスが一人で部屋に入ってくる。恐らく、アレックスのアンドロイドも呼ばれているのだろう。
ノノ「アレックスお兄ちゃん!お兄ちゃんもここに来てたの?」
明るい顔で、アレックスに近づく。
アレックス「あぁ、そうだぜ!これで、レイより俺の方がすげーことがわかったな!…まぉ、レイの奴はシグナさんと一緒に、この施設から脱走したらしいけど…」
ノノ「二人とも、どこかへ行っちゃったの…?」
アレックス「そうだ…さっきあんなこと言ったけど、レイは賢い。あの歳に似合わないくらいな…」
ノノ「そっかぁ………」
どこか寂しそうな表情のアレックスを、ただじっと見ていた…
そうしていると、部屋の扉が開く。そこには、アレックスのアンドロイドがいた。
アンドロイド「ここにいましたか、アレックス。検査の番が、アレックスに廻ってきました。」
アレックス「もう俺の番か…じゃ、ちょっと行ってくるぜ。」
ノノ「うん…お兄ちゃん、ノノはずっとここにいるからね…?」
アレックス「……おう、わかった。ありがとな。」
ノノが気遣ってくれたことに気づき、笑みを浮かべてその部屋から出た。













少し経つと、また部屋の扉が開く。そこには、ビットがいた。
ビット「おまたせ、ノノ。ノノの番だよ」
ノノ「うん…」
ノノはビットと手を繋いで、部屋から出て…実験室へ向かう。

向かう途中、ノノがビットにあることを聞く。
ノノ「ねぇ…アレックスお兄ちゃんは……?」
ビットは笑顔で、前を向いたまま話す。
ビット「検査が終わって、休んでるよ。」
ノノ「……けんさって、痛くない…?」
ビット「うん、痛くないしすぐに終わるよ。」
笑顔のままだ。その表情から変わらない……
まっすぐ進んでいて、左に曲がり角がある。そこは曲がらないが、なんとなくそっちを向いた。
手術をする時の格好をした複数の大人が、ベッドを押している。ベッドの上は、誰かが寝ている…布を被せられて誰なのかはわからないが、右手が布から力なく垂れている。
ノノ「………」
布の上の方が、振動で少しずつずれていく……髪が見えて…顔も見えてきた………


ノノ「…!」
その顔は、生を感じられないような顔…そう、死んでいる顔だ。どこを見ているかわからない目に、力なく半開きの口……しかしノノは、それに驚いたのではない。そのベッドに寝ている人は……間違いない……

































アレックスだ。

ノノ「…っ…ねぇ…今、アレックスお兄ちゃんが…!」
ビット「アレックスは、検査が終わって休んでるよ。」
ノノ「でも、今…ベッドに寝てて、運ばれてて…おかしな顔してて……」
ビット「休んでるだけだよ。」
先ほどから、まったく表情が変わっていない…それが不気味に思えてきた…
ノノは、直感で…あれは休んでるんじゃない。検査で「怖い」以上の何かがあった…そう思っていた。

そして、実験室前に着いた。
ビット「さ、ノノ。このベッドに寝転がって。」
ノノ「………っ…」
ノノは寝転がろうとしない。
ビット「どうしたの?」
ノノ「こわい……っ…」
ビット「……」
ビットがノノに近づいて、しゃがむ。さっきの笑顔のままだ。
ビット「大丈夫、本当に痛いことなんてしないから。何も怖くないし、すぐに終わっちゃうよ?」
ノノ「………」
ビット「…アレックスが待ってるよ?検査しないと、アレックスに会えないよ?」
ノノ「……」
ビット「………」
なかなかノノが寝転がろうとしない。すると、実験室から複数の大人が現れる。さっきアレックスを運んでた人と、同じ服装だ。
ノノ「!!」
研究員「さぁ、ノノちゃん。中に入ろうねぇ?」
ノノぃや…やだ…っ…!」
大人達も笑顔で話しているが…怖い……具体的にはわからないが…

研究員「…おい、麻酔持ってこい。」
研究員「あぁ。」
そこから、無理矢理麻酔の装置を口につけられ、眠らされた……

研究員「さてと、現段階で誰も成功例がない……」
研究員「この「悪魔因子」を投入された実験体は、全員死んでる…今回は、成功して欲しいがな…」
その悪魔因子が入った注射器を手に持つ。注射器の中には、黒に近い紫の液体が入っている……。
その注射器を、ノノの左手首に刺し、液体をゆっくり入れていく………
全部入れ終わると、注射器を抜いて絆創膏を貼り、様子を見る……

研究員「……」
心臓の鼓動は一定……本来ならここで止まるはずだが……止まらない…。
研究員「おぉ……成功か…!」
研究員「やった…!」
研究員達は喜んだ、何度もこの実験をして……初めての成功だったのだから。
そして…それが最後だということは、誰も気付きもしない


ノノの左手の人差し指から、黒い目が生える





























ノノ「………」
ノノが気がついた時には……絶望が広がっていた。建物は壊れ、研究員や子供達の死体やアンドロイドの残骸が地面に散らばっていた……
ノノ「なに……これ………」
立ち上がって、周りを見る。なにも聞こえず、静寂が続く……

ノノ「アレックスお兄ちゃん……ビット……?」
自分が信頼している二人の名前を口にしたが、当然返事なんて帰ってこない……
ノノ「どこ…みんな……」
少し歩くと、足に何か当たる。足元を見ると……ビットの頭があった。顔のパーツがほとんど剥がれ、ひび割れている…
ノノ「ビット……」

ビット「…生命体かクにん……危険度A…じバクをかいシしマす…。」
ノノ「ビット…?ねぇ、なにがあったの…?お兄ちゃんは…?」
左手で頭部を触っている…ビットはなにも答えず、頭部が光り始める……。























凄まじい爆発が起きた。辺り一面にあった残骸は吹き飛び、クレーターができた……
そのクレーターの真ん中に、黒い球体がある…それが少しずつ無くなっていき、ノノが見えてくる……黒い球体は、左手に収まり、ノノは無傷のままだ。

ノノ「…っ…」
なにが起こったのかわからない、そういう顔をしていた。それを理解する前に…目から涙が流れる。もうみんなは、ここにいない……それを先に理解してしまったのだから…

ノノ「…ぅ…うぅ……うわあぁぁぁぁ………」















実験結果としては、十分すぎる結果が出た。だが、失うものが大きすぎた……。

つづく

16/08/20 23:07更新 / 青猫
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