30
次の日。僕とジャッキーはボスにある場所に呼び出されたので、二人で車でその場所に向かうことになった。
「………これって、たぶん昨日の話だよね」
「……うん。でも、どうしてビルで話さないんだろうね………?」
僕とジャッキーが呼び出された場所。それは、ダニールの鍛冶場だった。
車の中で、僕たちは静かに目的地に着くのを待った。
前行った時はすぐに着いたのに、今回の移動はとても長く感じた。
「……ごめんね。なんか、巻き込んじゃって」
ジャッキーが申し訳なさそうにしている。
「……謝りすぎだよ。僕も『保管庫』?のことは気になってたし。それに……ジャッキーの助けができるなら、僕は嬉しいね」
僕は、対策本部の仲間のために、そのためにここにいる、と誓ったんだ。ジャッキーの手助けができるのなら何よりだ。
「………うん。ありがとう」
そうこうしているうちに、車が目的地に着いた。車を降りると、そこには変わらない、きれいな草原と、小さな一軒家が建っている。
「ここは、何も変わらないね」
ジャッキーがしんみりと言う。僕と同じことを考えていたようだ。
「でも………あの車、なんでだろう。」
ジャッキーが指をさした先には、二台の車があった。
「本当だ……片方の車は………ボスのものだとして……もう一つあるのは?」
以前来た時には車はなかった。とすると、もう一人、来客が来ているということだ。
「片方の車………あれ、キリルさんのやつと同じ。」
ここで、考えもしていない名前が出てきた。キリルさんが来ているのだろうか。でもどうして………?
「………どういうことだろう。」
「ま、考えても仕方ないし!車が同じだけかもしれないしね。どうせ家入ったらわかることだよ。いこう」
僕とジャッキーは、ダニールの家へと向かった。
木製のドアをコンコン、とノックをする。すぐにドアが開いた。
「おう。よく来たな。まあ入れや」
ダニールが出迎えてくれる。その声は心なしか、緊張しているようだった。
促されるまま中に入り、リビングへ進むと、そこには既に二人、来客が来ていた。ボスとキリルさんだ。キリルさんは腕を組んで、壁にもたれかかっている。ボスはリビングの椅子に座っていた。
キリルさんの様子がいつもと違う。いつも優しそうなキリルさんだが、今日は真剣な顔で、口元に手を当てて何かを考えているような表情だ。
「お前さんたちはこっちに座ってくれ」
ダニールが案内してくれた方に僕たち二人は座る。ボスの側に並ぶようにダニールは座った。僕はジャッキーの隣で、ボスとダニールと対面するように座った。テーブルには既に紅茶が置かれている。
「………お前さんも座ったらどうだ。なあ、キリルさんよ」
ダニールがキリルさんの声をかけるが、キリルさんは腕を組み、首を横に振った。どうやら座る気はないらしい。
「さて。人がそろったところで……。どこから話そうか。」
「待って。私、別に話すことに同意したわけじゃないんだけど。」
ボスが話そうとしたところを、キリルさんが割って入る。なんだかピリピリした空気だ。
「私は嫌。この二人のことを考えて。私はエラムのためにこれ以上二人が犠牲になるのは違うと思う」
「………俺だって、こんなこと話したくない。でもこいつらももう大人だ。そろそろ自分たちについて知ってもいいと思う」
「そんなのあんたの都合でしょ。ふざけないで。私は……この子たちが、幸せになってくれれば、それだけでいいの。」
キリルさんの言葉に、ボスが舌打ちをして、キリルさんを睨む。空気が急激に冷えたように感じる。殺気だ。
「俺がこいつらの幸せを願ってない、とでも言いたいのか?調子に乗るなよ。そもそも、こんなことになったのはお前たち、『研究所』の人間共の所為だろう。責任の所在を忘れるな」
僕に向けられてるさっきでもないのに、凄まじい殺気を感じる。脳が、今すぐ逃げろと、本能的に言っているように感じる。だが、キリルさんはそんなのお構いなしに続ける。
「確かに私は研究に携わった。でも私は反対してたけど。無理やりやらせたのはあの頭のイカれたあんたのお友達と、人間の感情がないあのクソ国王でしょ?」
バン!と爆音が響き渡る。ジャッキーが肩をビクンとさせた。僕も反射的に肩をびくっとさせた。ボスが机を叩き、立ち上がってキリルさんに詰め寄った。
「……俺の友人まで馬鹿にするとはな…死にてえか」
「いや、死にたくないけど。私の育てた子供たちが幸せに一生を終えるまで、私は死ねない」
「まぁまぁまぁ!お二人さん、そこまで!」
ダニールが明るく二人の間に割って入る。
「ほら………アレックス、落ち着けや。ジャッキーもフェルディもびびっちまってるだろう。」
ボスは、何か言いたげだったが、すとんと肩を下ろし、席に戻った。
「…………すまん。大人気なかったな」
「………いえ……」
ジャッキーが細い声を返す。僕たちは普段の姿からは想像もつかない二人の様子に縮みあがっていた。
「……キリル。お前さんの気持ちもわかるが……自身の親のことも、自身のことすら知らない子どもなんて、そっちの方がかわいそうじゃないか?」
ダニールの問いかけに、キリルさんは黙ったまま腕を組んで壁にもたれかかっている。
「………さっきアレックスも言ってたが、こいつらも、もう成人してるんだ。真実を受け止める力はあるだろ。それだったら……教えてやってもいいんじゃないか」
キリルさんは徐々に険しい顔になる。そして、両手で顔を両手で覆い、俯いた。
「……………どうしていつもこうなるの……」
キリルさんは小さな声で呟く。そして、顔をあげて腕を組みなおした。
「わかった。もういいよ、教える。でも、私は諦めないから。」
ダニールは二人が落ち着いたところで、先ほどの席に戻った。お誕生日席に椅子が置いてある。ダニールはキリルさんにそこに座るよう勧めたが、首を横に振って断った。
ダニールは、ゆっくりと話し始める。
「………さて、落ち着いたことだし、話そうか。この国の……エラム連邦のこと。そして、お前たち………ジャクリーヌ、フェルディのことを。」
「………これって、たぶん昨日の話だよね」
「……うん。でも、どうしてビルで話さないんだろうね………?」
僕とジャッキーが呼び出された場所。それは、ダニールの鍛冶場だった。
車の中で、僕たちは静かに目的地に着くのを待った。
前行った時はすぐに着いたのに、今回の移動はとても長く感じた。
「……ごめんね。なんか、巻き込んじゃって」
ジャッキーが申し訳なさそうにしている。
「……謝りすぎだよ。僕も『保管庫』?のことは気になってたし。それに……ジャッキーの助けができるなら、僕は嬉しいね」
僕は、対策本部の仲間のために、そのためにここにいる、と誓ったんだ。ジャッキーの手助けができるのなら何よりだ。
「………うん。ありがとう」
そうこうしているうちに、車が目的地に着いた。車を降りると、そこには変わらない、きれいな草原と、小さな一軒家が建っている。
「ここは、何も変わらないね」
ジャッキーがしんみりと言う。僕と同じことを考えていたようだ。
「でも………あの車、なんでだろう。」
ジャッキーが指をさした先には、二台の車があった。
「本当だ……片方の車は………ボスのものだとして……もう一つあるのは?」
以前来た時には車はなかった。とすると、もう一人、来客が来ているということだ。
「片方の車………あれ、キリルさんのやつと同じ。」
ここで、考えもしていない名前が出てきた。キリルさんが来ているのだろうか。でもどうして………?
「………どういうことだろう。」
「ま、考えても仕方ないし!車が同じだけかもしれないしね。どうせ家入ったらわかることだよ。いこう」
僕とジャッキーは、ダニールの家へと向かった。
木製のドアをコンコン、とノックをする。すぐにドアが開いた。
「おう。よく来たな。まあ入れや」
ダニールが出迎えてくれる。その声は心なしか、緊張しているようだった。
促されるまま中に入り、リビングへ進むと、そこには既に二人、来客が来ていた。ボスとキリルさんだ。キリルさんは腕を組んで、壁にもたれかかっている。ボスはリビングの椅子に座っていた。
キリルさんの様子がいつもと違う。いつも優しそうなキリルさんだが、今日は真剣な顔で、口元に手を当てて何かを考えているような表情だ。
「お前さんたちはこっちに座ってくれ」
ダニールが案内してくれた方に僕たち二人は座る。ボスの側に並ぶようにダニールは座った。僕はジャッキーの隣で、ボスとダニールと対面するように座った。テーブルには既に紅茶が置かれている。
「………お前さんも座ったらどうだ。なあ、キリルさんよ」
ダニールがキリルさんの声をかけるが、キリルさんは腕を組み、首を横に振った。どうやら座る気はないらしい。
「さて。人がそろったところで……。どこから話そうか。」
「待って。私、別に話すことに同意したわけじゃないんだけど。」
ボスが話そうとしたところを、キリルさんが割って入る。なんだかピリピリした空気だ。
「私は嫌。この二人のことを考えて。私はエラムのためにこれ以上二人が犠牲になるのは違うと思う」
「………俺だって、こんなこと話したくない。でもこいつらももう大人だ。そろそろ自分たちについて知ってもいいと思う」
「そんなのあんたの都合でしょ。ふざけないで。私は……この子たちが、幸せになってくれれば、それだけでいいの。」
キリルさんの言葉に、ボスが舌打ちをして、キリルさんを睨む。空気が急激に冷えたように感じる。殺気だ。
「俺がこいつらの幸せを願ってない、とでも言いたいのか?調子に乗るなよ。そもそも、こんなことになったのはお前たち、『研究所』の人間共の所為だろう。責任の所在を忘れるな」
僕に向けられてるさっきでもないのに、凄まじい殺気を感じる。脳が、今すぐ逃げろと、本能的に言っているように感じる。だが、キリルさんはそんなのお構いなしに続ける。
「確かに私は研究に携わった。でも私は反対してたけど。無理やりやらせたのはあの頭のイカれたあんたのお友達と、人間の感情がないあのクソ国王でしょ?」
バン!と爆音が響き渡る。ジャッキーが肩をビクンとさせた。僕も反射的に肩をびくっとさせた。ボスが机を叩き、立ち上がってキリルさんに詰め寄った。
「……俺の友人まで馬鹿にするとはな…死にてえか」
「いや、死にたくないけど。私の育てた子供たちが幸せに一生を終えるまで、私は死ねない」
「まぁまぁまぁ!お二人さん、そこまで!」
ダニールが明るく二人の間に割って入る。
「ほら………アレックス、落ち着けや。ジャッキーもフェルディもびびっちまってるだろう。」
ボスは、何か言いたげだったが、すとんと肩を下ろし、席に戻った。
「…………すまん。大人気なかったな」
「………いえ……」
ジャッキーが細い声を返す。僕たちは普段の姿からは想像もつかない二人の様子に縮みあがっていた。
「……キリル。お前さんの気持ちもわかるが……自身の親のことも、自身のことすら知らない子どもなんて、そっちの方がかわいそうじゃないか?」
ダニールの問いかけに、キリルさんは黙ったまま腕を組んで壁にもたれかかっている。
「………さっきアレックスも言ってたが、こいつらも、もう成人してるんだ。真実を受け止める力はあるだろ。それだったら……教えてやってもいいんじゃないか」
キリルさんは徐々に険しい顔になる。そして、両手で顔を両手で覆い、俯いた。
「……………どうしていつもこうなるの……」
キリルさんは小さな声で呟く。そして、顔をあげて腕を組みなおした。
「わかった。もういいよ、教える。でも、私は諦めないから。」
ダニールは二人が落ち着いたところで、先ほどの席に戻った。お誕生日席に椅子が置いてある。ダニールはキリルさんにそこに座るよう勧めたが、首を横に振って断った。
ダニールは、ゆっくりと話し始める。
「………さて、落ち着いたことだし、話そうか。この国の……エラム連邦のこと。そして、お前たち………ジャクリーヌ、フェルディのことを。」
21/11/04 22:52更新 / Catll> (らゐる)