28
しばらくして、調査班の人間が部屋に来た。そこには、ソフィアさんの姿もあった。
「あぁ……今回の担当は、ジャクリーヌさんと……えー……」
「フェルディです。この前図書室で自己紹介したじゃないですか……」
ソフィアさんは忘れっぽいようだ。頭の上ではてなが浮かんでいるのが見てわかる。
「はて……図書室?会いましたっけ?」
「え……会いましたよ。ソフィアさんの名前もそこで知りましたけど」
「………私はソフィアではないです。『ソフィヤ』ですよ?まあ似てますけど。それに、やはり図書室であった覚えはないですね。夢と錯覚なされてるのでは?」
どうも話が食い違ってしまっている。図書室は暗がりだったし、誰かと間違えたのだろうか……?まあそれは重要ではないので、あまり深く掘り下げないでおこう。めんどくさそうだし。
ジャッキーは座ったまま動かないでいた。俯いたまま、石造のように固まっている。討伐の報告も僕が入れたのだ。
「ジャクリーヌさん……なんか元気ないですね。喧嘩でもしましたか?」
「いや………」
ジャッキー、どうしてしまったんだろう。この任務が始まってから、いつも変だった様子がさらに変になった。心配だ。
すると、急にジャッキーが立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「ソフィヤさん。彼女たちの遺体は、丁重に葬ってください。」
ソフィア……改め、ソフィヤさんは、びっくりした顔をしたが、すぐにいつもの調子に戻る。
「かしこまりました。丁重に葬らせていただきます」
「よろしくお願いします………フェルディ、いこっか」
ジャッキーはそういい、部屋から出ようとする。が、ドアの一歩手前で立ち止まった。
「……ソフィヤさんは、知ってるんですか」
ソフィヤさんに、振り返らず尋ねるジャッキー。ソフィヤさんはまたもやびっくりした顔をしたが、目を細めて答える。
「……………さて。なんのことですか?」
「……いこ、フェルディ」
ジャッキーは足早に部屋を後にした。僕はあわててソフィヤさんに一礼し、ジャッキーの跡を追った。
ジャッキーと共に、ホテルに戻った。移動中、僕たちはしゃべらなかった。ジャッキーは俯いたまま、黙って静かに歩いていた。部屋に戻る際、「今日は一泊して帰ろう。ちょっと疲れちゃった。」と一言いって別れた。
僕は自室でシャワーを浴び、ホテル備え付けの服を着て、ベッドに横たわる。
……こういう時、どうするのが正解なんだろう。
僕はベッドの上で横になりながら、ジャッキーのことを考えた。
しばらく考えて、僕はジャッキーの部屋に行くことを決意する。きっとフェルディには何か悩みがあるのだろう、それならば誰かが話し相手になるべきだ、と考えた。
思い立ったら即行動。ジャッキーにメッセージを送る。が、しばらくたっても返信は来ないし、既読もつかなかった。不安に思った僕は、ジャッキーの部屋の前まで行き、コンコン、とノックする。しかし、こちらも反応がなかった。唐突に嫌な予感がした僕は、「入るよ」と一声かけ、部屋に入った。
部屋に入ると、備え付けの机の上に沢山の空き缶と灰皿の上に吸い殻の小山があった。が、中には人の気配がない。
背筋が凍る。またジャッキーが消えた。心配になり、洗面台のドアを開ける。
「ジャッキー!!!」
僕はジャッキーの名前を叫びながらドアを開けた。
そこには――――。
ジャッキーがいた。
腕のあたり、白い肌が、ほんのり赤く染まっている。つややかな、そしてすらっとした脚がタオルから見え隠れしていた。顔もほんのり赤くそまっている。髪の毛はタオルを巻いてたくし上げられており、美しい形のうなじが丸見えになっていた。
最初は思考が追いついていなかったが、徐々に現状を頭が理解し始める。そして、頭の中がフル回転したときには――――遅かった。
「すみませんでしたァ!!!!!」
僕は大声で謝り勢いよくドアを閉じた。
ジャッキー、シャワー浴びた後だったんだ……。そりゃメッセージにも気づかないわけだ。
僕は取り返しのつかないことをしてしまったと後悔する。同僚の裸を、出張先(?)のホテルで、二人きりで、のぞき見……というかガン見してしまった!!なんかこんな感じのシチュエーション、何かの本で見たことあるぞ!?!?
ホテルに穴掘って入りてえ!!と思っていたその時、後ろで扉の開いた音がした。
「……ごめん。メッセージ送っても反応なかったから………心配になって……」
フェルディから返事は帰ってこない。僕の後ろで、どんな表情をしてみているのだろうか。蔑んでいるのだろう。僕はその視線を見るのが怖くてジャッキーの方を向けなかった。
「………!?!?!?」
後ろから、両手で背中を触られた。というより、背中に手をのせられた。そして、硬い何かが背中に当たる。頭だ。
僕は何か何だかわからず、黙りこくってしまった。
「…………ごめんね。私、変だよね……」
ジャッキーが背中の後ろから謝ってくる。僕はその声をきき、少し落ち着きを取り戻した。
「…ごめん」
「………何かあったの……?」
「…………」
ジャッキーから返事は帰ってこない。額を両手を僕の背中に押し当てられたままだった。
「……ごめん。やっぱ…話せない」
「……………」
「……これはね、フェルディのことを信じてないからとか、そういうことじゃないの。これは、私の問題。私が独りで抱えなきゃいけないの。」
「………でも、それって大変じゃない?」
「…………」
「……僕たち……僕が、力になれることはないの?なんでも……なんでもいいんだよ。僕は今のジャッキーを見てるのは……辛いよ」
「……………」
ジャッキーはまた静かになってしまった。
「たぶんみんな、そう思ってる。ジャッキー……僕たちにできることはないの?」
「………大丈夫。ごめんね、心配かけちゃって。明日から。明日からは、いつもの私の戻るから」
ジャッキーの言葉は、僕に言っているようで、自分に言い聞かせているもののように聞こえた。弱々しい、小声で自分を鼓舞するジャッキーを見ていられない。
「……………」
でも、僕は、そんなジャッキーに何一つ声をかけてあげられなかった。
そんな僕に、僕は嫌気がさした。
根性無し。
「……ごめん。今日だけ。今日だけ、甘えさせて。」
後ろから腰辺りに手を回される。背中に密着されたのが布一枚越しに伝わった。
自身の鼓動が速くなる。僕の心臓が大きく脈打っていることがわかる。
背中に胸を押し当てられ、顔をうずめられている。
いつもは気にならなかったけど、おっぱいおっきいんだな……とか邪心丸出しのことを考えてしまった。
ジャッキーは確かに強い。けど、それはあくまで身体の話。心は、純粋華憐で、彼岸に咲く一輪の花のように、どこか儚げな一人の女の子なのだ。
「ふふ……フェルディの背中って、おっきい」
僕はドキドキしすぎてもう何が何だか分からなくなってきていた。
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
「よし!もうおっけい!」
しばらくの間抱きつかれていたが、その言葉を合図のようにして、ジャッキーは僕の背中から離れ、背中を両手でポンと叩かれる。
振り向くと、ジャッキーはいつもの元気な顔に戻っていた。でも少し、目頭が紅い。泣いていたのだろうか。タオル一枚に身をくるんでいる。
「…………独りで抱え込むの、やっぱ僕はよくないと思う。」
僕の今の気持ちを、正直に伝えた。
「うん。ありがとう。でも、もう大丈夫だから。」
ジャッキーも、しっかりと僕の方を見て答えてくれる。この前までの、俯いたジャッキーとは違う、何かを見失ってなさそうな顔だ。その姿を見て少し安心した。
「じゃあ、僕、部屋に戻るね。」
「あ、まって!」
帰ろうとする僕をジャッキーは僕の腕を掴んで引き留める。
「今日だけ、わがまま聞いてよ」
ジャッキーが、意地悪そうなにやけ顔をこちらに向けてきた。その後ろにある空き缶と、灰皿の山がちらっと見える。
僕は少し、嫌な予感がした。
「あぁ……今回の担当は、ジャクリーヌさんと……えー……」
「フェルディです。この前図書室で自己紹介したじゃないですか……」
ソフィアさんは忘れっぽいようだ。頭の上ではてなが浮かんでいるのが見てわかる。
「はて……図書室?会いましたっけ?」
「え……会いましたよ。ソフィアさんの名前もそこで知りましたけど」
「………私はソフィアではないです。『ソフィヤ』ですよ?まあ似てますけど。それに、やはり図書室であった覚えはないですね。夢と錯覚なされてるのでは?」
どうも話が食い違ってしまっている。図書室は暗がりだったし、誰かと間違えたのだろうか……?まあそれは重要ではないので、あまり深く掘り下げないでおこう。めんどくさそうだし。
ジャッキーは座ったまま動かないでいた。俯いたまま、石造のように固まっている。討伐の報告も僕が入れたのだ。
「ジャクリーヌさん……なんか元気ないですね。喧嘩でもしましたか?」
「いや………」
ジャッキー、どうしてしまったんだろう。この任務が始まってから、いつも変だった様子がさらに変になった。心配だ。
すると、急にジャッキーが立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「ソフィヤさん。彼女たちの遺体は、丁重に葬ってください。」
ソフィア……改め、ソフィヤさんは、びっくりした顔をしたが、すぐにいつもの調子に戻る。
「かしこまりました。丁重に葬らせていただきます」
「よろしくお願いします………フェルディ、いこっか」
ジャッキーはそういい、部屋から出ようとする。が、ドアの一歩手前で立ち止まった。
「……ソフィヤさんは、知ってるんですか」
ソフィヤさんに、振り返らず尋ねるジャッキー。ソフィヤさんはまたもやびっくりした顔をしたが、目を細めて答える。
「……………さて。なんのことですか?」
「……いこ、フェルディ」
ジャッキーは足早に部屋を後にした。僕はあわててソフィヤさんに一礼し、ジャッキーの跡を追った。
ジャッキーと共に、ホテルに戻った。移動中、僕たちはしゃべらなかった。ジャッキーは俯いたまま、黙って静かに歩いていた。部屋に戻る際、「今日は一泊して帰ろう。ちょっと疲れちゃった。」と一言いって別れた。
僕は自室でシャワーを浴び、ホテル備え付けの服を着て、ベッドに横たわる。
……こういう時、どうするのが正解なんだろう。
僕はベッドの上で横になりながら、ジャッキーのことを考えた。
しばらく考えて、僕はジャッキーの部屋に行くことを決意する。きっとフェルディには何か悩みがあるのだろう、それならば誰かが話し相手になるべきだ、と考えた。
思い立ったら即行動。ジャッキーにメッセージを送る。が、しばらくたっても返信は来ないし、既読もつかなかった。不安に思った僕は、ジャッキーの部屋の前まで行き、コンコン、とノックする。しかし、こちらも反応がなかった。唐突に嫌な予感がした僕は、「入るよ」と一声かけ、部屋に入った。
部屋に入ると、備え付けの机の上に沢山の空き缶と灰皿の上に吸い殻の小山があった。が、中には人の気配がない。
背筋が凍る。またジャッキーが消えた。心配になり、洗面台のドアを開ける。
「ジャッキー!!!」
僕はジャッキーの名前を叫びながらドアを開けた。
そこには――――。
ジャッキーがいた。
腕のあたり、白い肌が、ほんのり赤く染まっている。つややかな、そしてすらっとした脚がタオルから見え隠れしていた。顔もほんのり赤くそまっている。髪の毛はタオルを巻いてたくし上げられており、美しい形のうなじが丸見えになっていた。
最初は思考が追いついていなかったが、徐々に現状を頭が理解し始める。そして、頭の中がフル回転したときには――――遅かった。
「すみませんでしたァ!!!!!」
僕は大声で謝り勢いよくドアを閉じた。
ジャッキー、シャワー浴びた後だったんだ……。そりゃメッセージにも気づかないわけだ。
僕は取り返しのつかないことをしてしまったと後悔する。同僚の裸を、出張先(?)のホテルで、二人きりで、のぞき見……というかガン見してしまった!!なんかこんな感じのシチュエーション、何かの本で見たことあるぞ!?!?
ホテルに穴掘って入りてえ!!と思っていたその時、後ろで扉の開いた音がした。
「……ごめん。メッセージ送っても反応なかったから………心配になって……」
フェルディから返事は帰ってこない。僕の後ろで、どんな表情をしてみているのだろうか。蔑んでいるのだろう。僕はその視線を見るのが怖くてジャッキーの方を向けなかった。
「………!?!?!?」
後ろから、両手で背中を触られた。というより、背中に手をのせられた。そして、硬い何かが背中に当たる。頭だ。
僕は何か何だかわからず、黙りこくってしまった。
「…………ごめんね。私、変だよね……」
ジャッキーが背中の後ろから謝ってくる。僕はその声をきき、少し落ち着きを取り戻した。
「…ごめん」
「………何かあったの……?」
「…………」
ジャッキーから返事は帰ってこない。額を両手を僕の背中に押し当てられたままだった。
「……ごめん。やっぱ…話せない」
「……………」
「……これはね、フェルディのことを信じてないからとか、そういうことじゃないの。これは、私の問題。私が独りで抱えなきゃいけないの。」
「………でも、それって大変じゃない?」
「…………」
「……僕たち……僕が、力になれることはないの?なんでも……なんでもいいんだよ。僕は今のジャッキーを見てるのは……辛いよ」
「……………」
ジャッキーはまた静かになってしまった。
「たぶんみんな、そう思ってる。ジャッキー……僕たちにできることはないの?」
「………大丈夫。ごめんね、心配かけちゃって。明日から。明日からは、いつもの私の戻るから」
ジャッキーの言葉は、僕に言っているようで、自分に言い聞かせているもののように聞こえた。弱々しい、小声で自分を鼓舞するジャッキーを見ていられない。
「……………」
でも、僕は、そんなジャッキーに何一つ声をかけてあげられなかった。
そんな僕に、僕は嫌気がさした。
根性無し。
「……ごめん。今日だけ。今日だけ、甘えさせて。」
後ろから腰辺りに手を回される。背中に密着されたのが布一枚越しに伝わった。
自身の鼓動が速くなる。僕の心臓が大きく脈打っていることがわかる。
背中に胸を押し当てられ、顔をうずめられている。
いつもは気にならなかったけど、おっぱいおっきいんだな……とか邪心丸出しのことを考えてしまった。
ジャッキーは確かに強い。けど、それはあくまで身体の話。心は、純粋華憐で、彼岸に咲く一輪の花のように、どこか儚げな一人の女の子なのだ。
「ふふ……フェルディの背中って、おっきい」
僕はドキドキしすぎてもう何が何だか分からなくなってきていた。
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「よし!もうおっけい!」
しばらくの間抱きつかれていたが、その言葉を合図のようにして、ジャッキーは僕の背中から離れ、背中を両手でポンと叩かれる。
振り向くと、ジャッキーはいつもの元気な顔に戻っていた。でも少し、目頭が紅い。泣いていたのだろうか。タオル一枚に身をくるんでいる。
「…………独りで抱え込むの、やっぱ僕はよくないと思う。」
僕の今の気持ちを、正直に伝えた。
「うん。ありがとう。でも、もう大丈夫だから。」
ジャッキーも、しっかりと僕の方を見て答えてくれる。この前までの、俯いたジャッキーとは違う、何かを見失ってなさそうな顔だ。その姿を見て少し安心した。
「じゃあ、僕、部屋に戻るね。」
「あ、まって!」
帰ろうとする僕をジャッキーは僕の腕を掴んで引き留める。
「今日だけ、わがまま聞いてよ」
ジャッキーが、意地悪そうなにやけ顔をこちらに向けてきた。その後ろにある空き缶と、灰皿の山がちらっと見える。
僕は少し、嫌な予感がした。
21/11/04 22:49更新 / Catll> (らゐる)