護
紅魔館、咲夜の自室にて
文「とりあえず、応急処置はできました…。」
咲夜は自分のベットに寝かせており、包帯等の医療器具を使って、応急処置を済ませる。咲夜は現在、気を失っている…。
フラン「ねぇ、咲夜は大丈夫なの…?」
眠っている咲夜から、文の方へ向きを変える。不安そうな表情を、文に向けている。
文は安心させようと、しゃがんで視線を合わせて笑みを向ける。
文「大丈夫、命に別状はありませんよ。安静にしてれば、すぐに元気になります。」
フラン「よかったぁ…」
少し安心したような表情になるフラン。
レミリア「私のせいよ…」
レミリアは俯き、拳を握りしめながら静かにそう呟いた。
レミリア「私がしっかりしてなかったから、咲夜は……」
文「自分を責めないでください、レミリアさん。」
立ち上がって、レミリアに向けてそう言う。
文「あなたは悪くない…悪いのは、あの包帯女ですよ。それに…咲夜さんは立派ですよ。体を張って、主を守った……従者の鏡ですよ。」
レミリアに歩み寄りながら、そのまま続ける。
文「咲夜さんのためにできることは……あの包帯女を、あなたが倒すこと…もちろん、倒し方が判明してからですよ?」
レミリア「……えぇ…」
俯いたまま、そう返事した。文は皆の方を向く。
文「場所を移しましょう。ここに、敵が襲いに来る可能性が高いです…」
美鈴「でも、何処へ…?」
応急処置の最中、今幻想郷で起きていること…天使と名乗る殺戮集団が、この幻想郷に降り立ち、見境なく殺害を繰り返していることを説明された紅魔館の一同。外には天使達がいて、遭遇する可能性も高い…。
文「…妖怪の山の近くに、緊急の避難所があります。その場所を知ってるのは、山に住んでいる者のみ…目立たない場所にありますから、奴等に見つかる心配はありません。そこへ移動しましょう。」
紅魔館の裏口から出て、周りを警戒しながら進む。咲夜は、レミリアが運んでいる。
美鈴「お嬢様、咲夜さんは私が運びますよ?」
レミリア「…いえ、これくらいのことは…させてちょうだい…。」
美鈴「でも…」
パチュリー「無駄よ、美鈴。」
美鈴の後ろを歩くパチュリーが、美鈴にそう言う。
パチュリー「こういう時のレミィは、頑固よ…それに、日光のことなら大丈夫。日光遮断の薬は飲んでるし、予備もあるし…無くなれば、私が魔法をかけるわ。」
そう説明すると、美鈴も納得したようでそれ以上は言わなくなる。
パチュリー「それにしても、紅魔館でそんなことが起きてたなんてね…。レミィとフランのスペルを受けても無傷なんて、どんな化け物かしら…その包帯女…。何か、トリックでもあるのかしら…」
レミリア「関係ないわ。」
パチュリーが、紅魔館に襲撃してきた包帯女のことを考え始めようとしたとき、レミリアが口を開く。
レミリア「アイツは、私が必ず殺す…どんな手を使っても…」
パチュリー「……」
前を向いていたが、レミリアの後ろ姿から底知れない怒りを感じた……。
文「幸い、この辺には天使がいないみたいですね…」
文を先頭に、周りを警戒しながら森の中を進む一同。紅魔館付近には天使達がいたが、この森の中ではまだ一度も遭遇していない。恐らく、この森にはいない…若しくは、いても少数なのだろう…。
文「だからと言って、警戒を解くわけではありませんが……」
フラン「もし、現れたらどうするの?私達の攻撃も、効かないんでしょ…?」
文「…その時は…」
「文!!」
少し離れた場所から、聞きなれた声が聞こえる。その方角を向くと、はたてがこちらに向かってきている。
文「はたて!無事だったのね…!」
今この状況、妖怪の山に住む者達のことも気になっていた文。知り合いが無事だとわかれば、ひとまず安心した様子ではたてに近づき、レミリア達も文に着いていく。
はたて「えぇ、なんとか…山にあの白い奴等が来て、さっきみんなの避難が終わったところよ。途中見かけた、人形使いと氷の妖精も、避難所に案内したわ。」
文「ありがとう、はたて。…やっぱり、山にも現れたのね…」
山に降り立ち、山に住む者達を襲う光景が、一瞬だけ頭の中に思い浮かんだ……
文「けど、ちょうどよかったわ。はたて、皆さんを…!!」
ドォン!!
天使達の存在にいち早く気づいた文が、弾幕を放って天使が放った弾幕を相殺し、皆の前立つ。
茂みから天使が三体…その内の一体は、他の天使と少し違う…。銃も持っている様子もない…。
美鈴「これが、天使…!」
文「皆さん、行ってください!はたて、案内は頼んだわよ!!」
はたて「けど、文は…!」
静かにはたての方を向き、ニッと笑う文。
文「大丈夫、逃げるのは得意な方だから。こんな奴等、すぐに撒いてそっちに合流するわ。」
レミリア「私も、戦うわ…!」
自分達を襲った張本人ではないが、包帯女の仲間だということはわかり殺意の籠った目で天使達を見るレミリア。
文「ダメです…皆さんと一緒に逃げてください…!」
レミリア「どうしてよ!!」
こちらに背中を向けてる文を睨むレミリア。文は静かに、口を開く。
文「…"従者を守るのが、主の勤め"でしょう…あなたが、咲夜さんを安全なところまで運んであげてください…。」
レミリア「…………」
文「さあ, 早く行ってください!!」
そう言うと、はたて達は避難所の方へ向けて走り去って行った…。
目の前にいる天使達は、文に銃口を向ける。
「…Black,Lv:0.」
真ん中の天使が、文を見て一言そう言う。
文「…何のことか知りませんが…あなた方の相手をするつもりはありませんよ!!」
扇を横に振り、突風を放つ。その突風は地面に命中し、砂煙を上げる……。
「…Left,2.5km…Chase.」
「OK」
天使二体が、左へ進む。残った一体が、晴れてきた砂煙の中に文がいないことを確認する。
「…Wave1,Wave2…Send data」
Name:Syameimaru Aya
Lv:0
Attribute:Wind
Type:Sprinter
【Parameter】(MAX:2.50)
Power:1.00
Defence:0.50
Speed:2.50
「Execute.」
森の中を飛んで逃げながら、後ろを見る。天使達の姿は見えない…追ってきているかどうかも、不明である。
…とりあえずは、撒いた…ということでいいんでしょうか。案外、簡単に逃げられましたね…。にしても、あの武器持っていない天使…他の天使達と違いましたね。あの天使の方が上というか…
「Die」
ドォン!!
文「っ!!」
木の陰に隠れていた天使達に気づかず、放たれた弾幕が足を貫く…。
文「くっ…!!」
苦痛に顔を歪めながらも、方向転換して逃げる……だが、前方の木の陰から四体の天使が現れる……
はたて「もうすぐよ、もうすぐ着くわ!」
はたてと紅魔館一同は、妖怪の山付近まで来ていた。妖怪の山の入り口の横、森の中へ入る。
小悪魔「途中、天使に遭遇しませんでしたね…!」
文と別れてから、天使と遭遇していない…元々目立たないルートを進んでいたおかげかもしれない。
フランが、後ろを気にしながら進んでいる…
パチュリー「…どうしたの、フラン。」
それに気がついたパチュリーが、フランに問いかける。フランはパチュリーの方を向いて
フラン「…さっきの天狗のお姉さん、大丈夫かなって…」
恐らく戦いはせず、天使達を撒いてるだろうが…何をされても復活する上、強力な武器を所持している天使達が相手、無事に合流できるかを心配している様子。
はたて「大丈夫よ。」
先頭を進むはたてが、前を向いたままそう言う。全員、はたてを見る…
はたて「大丈夫…文は足が速いのと、逃げるのが上手いし、しぶとい…おまけに次期大天狗に任命されるくらいの実力もあるから、あんなのにやられたりなんかしないわ。」
昔から文のことをよく知っていて、実力を認めているはたて。そんな彼女がそう言うと、フランも不安や心配が消えたようで
フラン「…うん!そうだよね!」
と、笑顔でそう言った。
大丈夫…アイツは、あんなので死んだりするような奴じゃない…
きっと、大丈夫。何事もなかったかのように、いつものアホ面を見せてくれる…!
絶対、死んだりなんかしない…!
ある森の中、木や地面に血が飛び散っており、血溜まりも広がっている…
その血溜まりの上に…文が倒れており、文を囲うように天使達が立っている。
「Great」
先程の武器を持たない天使が合流しており、そう呟く。て前側にいる天使が、ゆっくりと…文の前に投げ出された黒い結晶に近づく。
……私…死ぬんでしょうか…。
霞んでよく見えない視界に、天使の姿と…黒い結晶が映る。逃げ出そうにも、体が動かない…。
コイツ等…私を殺したら…はたて達を、狙うんでしょうか……。
……次期大天狗に任命されましたけど…私には、大した力なんてない…ないから、皆を護れない…。
天使が、黒い結晶を拾う。
私に…もっと力があれば、変わっていたんでしょうか…?皆を、護れていたんでしょうか…?
もしそうなら…力が欲しい…。
私はどうなっても、いい…ただ、皆を護れる…
力が…欲しい…!!
「What?」
突如、黒い結晶を持っている天使が"何か"に体を貫かれる。そして、その天使は倒れて結晶が落ちて、文の前まで転がる。
「…!Danger!!」
その"何か"が、次々天使達の体を貫き…文の前に着地する。
…何…?何が起こって…?
何とか頭を動かして見上げると…真っ黒な鴉が、黒い結晶を口に咥えている。
そして、その結晶を…食べてしまう。
…鴉……?それにしては、真っ黒…まるで、影みたいに…
鴉は流動体に変わり、文を包む。
……え…?
文を包んだ影は膨張し、破裂する。中からは…姿の変わった文がいた…。
「…Black Lv:3…!」
文「…何が…起きて…」
立ち上がるが、どこも痛みはない…怪我が治っている。両手を胸下くらいの高さまで上げて、掌をじっと見る。
…姿が、変わってる…?おまけに、怪我が治ってる…。
何が起きてるのか、さっぱりわかりませんが…力が、体の奥底から沸き上がってくる…!
今なら、やれる…!!
つづく
20/07/05 10:48更新 / 青猫