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"全世界は一つの舞台であって、すべての男女は、その役者にすぎない。"
とある有名な詩人が残した名言だ。歳によって様々な役を演じ、舞台に登場して、舞台から退場する。
この世界も、物語のようなもの。物語の住人は、語り手によって与えられた役を演じ、いつしかその役を終えた者は退場する。
私はいくつかの疑問が湧いた。物語の住人達は、語り手から役を与えられる……なら、私達は…誰から役を与えられているのだろう?登場したその時から、役を決められていたのか?それとも……最初からそんな物は無かったのか?
その疑問の答えはきっと、人それぞれだろう。
これから語られる物語も、その疑問の答えの一つでもあるだろう……。
とある草原にて…
「よし、お仕事終わり〜。大変だったなぁ…」
と、軽く背伸びをしながら、仕事が終わり家へ帰る最中の少女…この少女の名前は「羅夢」。一見どこにでもいるような女の子に見えるが、彼女は殺し屋である。殺し屋という稼業は、お金はかなり入ってくる方だが…
羅夢「こんなにお金が入ったし、何か食べて帰ろうかな〜♪」
こんな具合で、すぐ使ってしまい金欠になることがしばしばある。
何を食べようかと考えながら歩いていると、近くから走る足音が聞こえる…だが、羅夢は気づいていない様子。
お互い相手の存在には気づかず…
ドンッ!
羅夢「わっ!?」
「うゎっ!?」
ぶつかってしまった。
「いてて……どこ見て歩いてるんだよ!」
と、羅夢に怒鳴る。相手を見ると、10代前半くらいの少年と思われる。
羅夢「ご、ごめん!…って、君がぶつかってきたんでしょ…」
羅夢は立ち上がりながらそう言う。すると少年は立ち上がり
「いや、お前が…!って、こんなことしてる場合じゃない、早く逃げないと…!」
羅夢「誰かに追われるの?」
走ってきた方向を見てる少年に尋ねる。
「あぁ…数が多くて…!」
話してる途中で途切れる。その方向を見ると、複数の狼がこちらに向かって走ってきてる。
羅夢「わわ、いっぱいいるよ!?」
「クソ!もう追いつかれた…!」
少年は、持っていた分厚い本を開く。羅夢はその本を見たが、見たことのない言語が書いてある…恐らくは、魔導書の類だろう。
そして、何かを魔導書にかざす
「もう一回、足止めするか…!」
あれは何…?バッジ…じゃ無さそうだけど…
少年が持ってるバッジのような物を不思議そうに見ていると、そのバッジが光り出し……
羅夢「…!」
少年の姿が変わっていた。
羅夢「え…姿が変わった…」
驚いている様子の羅夢には見向きもせず、少年は詠唱を始める。
「また拘束してやる…!」
そう言うと、狼の足元が白くなり、狼が前に進まなくなる。
「次の魔法を使うか…いや、逃げた方が…」
羅夢「ね、ねぇ!」
羅夢が少年に話しかける。
羅夢「私も手伝うよ!」
「お前…手伝うのはいいけど、"エンブレム"は持ってるのか?」
羅夢「エンブレム?」
エンブレムとは、おそらく先程少年が使っていたバッジのような物のことだろう。少年は羅夢がエンブレムを持ってないことを察する。羅夢を数秒見た後
「仕方ない…これを使え」
と、羅夢にエンブレムを渡す。剣の形をしたエンブレムだ。
羅夢「ありがとう!えっと、こうかな…」
先程少年がやっていたのを真似るように、自分の武器…剣にエンブレムをかざす。すると、エンブレムは光り出し……光が消えると羅夢の姿が変わっていた。
羅夢「おぉ…!」
「早く敵を片付けてくれ!」
羅夢「うん!」
少年の術によって、動けなくなった狼に斬りかかる。斬られた狼は、紫色のきりになり、消えた…
羅夢「やぁっ!」
次々に狼を倒していく。羅夢は思った、自分の体じゃないみたいだ…と。
そして、最後の一匹を斬る。
「……」
少年は羅夢の戦う姿を見て少し驚いたが、元の姿に戻り羅夢に近づき
「思ったよりやるな…」
と、声をかける。
羅夢「ふふ、そうでしょ〜」
と、得意げに返す羅夢
羅夢「ところで、どうやったら元の姿に戻れるの?」
「"元の姿に戻りたい"って思えば、戻るよ。」
教えられた通りにすると、元に戻った。
「おーい!レミー!」
遠くから声が聞こえ、こちらに走ってくる足音が聞こえる。その方向を見ると、二人の人影が見えた。
「なんか狼の声とか聞こえたけど、大丈夫だった?」
猫耳を生やした少女が、少年…レミーに声をかける。
レミー「なんとかね。」
何事もなかったかのように返事をするが、だいぶ苦戦していたレミー。
「おい、そっちの女は誰だ?」
高身長の少年が羅夢を見て、レミーに問いかける。
レミー「狼を倒すのを手伝った奴だよ。」
「へぇ、君もそれを使えるんだね??」
猫耳の少女が、羅夢の持ってるエンブレムを見る。
羅夢「これは、レミーから借りたんだよ」
「そっかそっか。あ、紹介が遅れたね。私は葵、こっちのでかいのがグスタフで、君と一緒に戦ってた子がレミーだよ。」
と、葵が簡単に紹介をする。
羅夢「私は羅夢だよ〜」
羅夢も自己紹介をする。
葵「よろしく♪レミー、この子も連れてかない?」
レミー「は!?なんで…」
葵「見た所、割と腕が立ちそうじゃない?剣のエンブレムも使えるっぽいし」
グスタフ「お?お前強いの?じゃあ、俺と1試合しねーか?」
にやりと笑いながら羅夢に試合をやらないかと言うが、羅夢は苦笑いで
羅夢「え…遠慮しとく…」
と言った。
葵「レミー、こっちは1人でも戦力が欲しいところでしょ??」
レミー「…わかったよ。」
葵「よし!」
にこりと笑って、羅夢に近づく
葵「羅夢ちゃん、だったね。お願いがあるんだけど、いいかな??」
グスタフにしつこく申請されてる羅夢に声をかける
羅夢「え、何?」
葵「私達、とある旅をしててね…羅夢ちゃんの腕を見込んで、私達と一緒に来て欲しいんだ。いいかな?」
と、にこにこ笑いながら両手を合わせて「お願い」というように。
羅夢「いいよ?」
葵「ほんと?ありがとう!」
レミー「決まったな…じゃあ、そろそろ次の世界に行くよ。」
そう言うとレミーの前に、妙な空間が現れる。恐らくは異世界に繋がってるのだろう。
羅夢「ねぇ、何これ?」
葵に尋ねる。
葵「異世界への入り口かな。詳しいことは、歩きながら話すよ。さぁさぁ、入った入った」
羅夢の背中を軽く押しながら進む。
グスタフ「よっしゃ、次はどんな世界だろうな〜」
そう言ってグスタフもその空間に入り、レミーも続いて入る。
レミーが入った後、その空間は消えた…
つづく
17/07/07 19:53更新 / 青猫