第13話
霊華「わかりましたか?次からは気をつけてくださいね?」
妖怪「はい…気をつけます……」
霊華が妖怪退治……というよりお説教をしている。そのお説教で改心したかどうかはわからないが、その妖怪が何処かへ飛んで行った。
霊華「ふぅ…依頼達成ですね。」
仕事が終わったため、自分の家に向けて歩いて帰ろうとした。
人間「た、大変だぁ!」
恐らくここから少し離れた場所にある里で暮らしているであろう男性が、慌てた様子でこちらへ走ってきた。
霊華「どうされましたか!?」
人間「あ…悪霊だ!悪霊が、里で暴れてるんだ…!!」
息を切らしているため、少し途切れながら話している。
霊華「悪霊…どんな悪霊ですか…!?」
男性に暴れている悪霊の特徴を聞く霊華
人間「銀髪で、黒い犬耳と尻尾で、白い衣を羽織ってて、刀を持ってる悪霊だ…!」
霊華「…!」
その特徴すべてに当てはまる人を、霊華は知っていた。知ってるからこそ…信じたくなかった。きっと違う悪霊だ、その知り合いと偶然特徴が被ってる悪霊だ……心の中で自分に言い聞かせながら、その里へ走った…。
その里は、民家すべてが崩れていて、以前の里の面影がない状態だった。その里の中心に立つ……狗神が目に入った。
霊華「狗神……」
狗神「…」
その声に反応した狗神が、こちらを向く。いつもと少し目つきが違うように見えたが…すぐにいつもの狗神の目に戻った。
狗神「…ついに、見られたか………」
霊華に背を向ける形でそう呟いた。
霊華「狗神…一体…何が………。そうだ、ここで暴れていた悪霊はどこですか!?もしかして、狗神が倒してくれたんですか!?」
心の中ではとっくに気付いていた…その気付いたことを否定するかのような発言だった。狗神は少し間を空けて口を開く。
狗神「その暴れている悪霊とやらは、まだここにいる。」
霊華「どこですか!?早く、退治しないと…!」
狗神「探す必要は無い。だって、その暴れている悪霊とやらは…」
狗神が霊華に体を向ける。
狗神「この私だからな。」
霊華「…!」
認めたくないことを、狗神は言った。狗神は鞘から刀を抜く。
狗神「10年前にお前の家族を殺したのも私だ…このことを見られたからには、貴様も、ここの人間も殺す。」
刀を霊華に向けている。霊華は錫杖を構えず、ただ狗神を見ている。まだ狗神がやったということを否定している様子…。
狗神「来ないなら…こちらから行くぞ!!」
狗神が霊華に斬りかかる。霊華は少し遅れたが錫杖で攻撃を防ぐ。
霊華「嫌だ…!私は狗神と戦いたくない…!!」
狗神「何を甘いことを…!霊媒師だろう!!こんな霊を退治できなくてどうする!!」
霊華は狗神を押し返して距離をとる。
霊華「狗神…嘘ですよね…?狗神がやったって、嘘なんですよね……?」
狗神「本当のことだ、私がやった!人が悲鳴をあげて逃げるところ、身を焼かれ力なく倒れていく人間…ハッキリと覚えているよ、人の肉を切った感触もなぁっ!!」
狗神は刀に妖力を流し込む。
狗神「さぁ、立ったままか!?私を殺さないと、人がどんどん死んでいくぞ!!」
再び斬りかかる狗神
私は、ずっと死に場所を探していた……。人を何人も葬ってきた私の最後は、人の手によって迎えたかった。
もう…生きることが嫌だった……。
狗神「………」
まだ幼い狗神が、空を見上げたままぼーっとしている。そこに複数の子供達がやってくる。
子供「なにしてるのー?」
一番前の少女が狗神に話しかける。
狗神「別に…」
子供「ねぇ、一緒に遊ぼ!」
その少女が元気よく笑顔で遊ぼうと誘った。
狗神「え…いいの?」
子供「うん♪一緒に遊ぼ!」
少女に手を引かれ、子供達と遊んだ……
次に気がついた時、目に映った光景は…絶望だった。先ほどまで一緒に遊んでた子供達が倒れており、地面には子供達の血肉が広がっていて……自分の手には、刀身が血塗れの刀が……
なんでこんなことになったのか、わからない……自分がやったということだけは、わかった……
これは、後からわかったことだ。狗神は、人に一時の幸福をもたらし、絶望を与える憑き物。今まで狗神は、狗神らしいことをしていない……だから、狗神の本能が暴走し…みんなを殺した……
「お嬢ちゃん、何かよくないことでもあったのかぇ?」
木陰で1人座っている狗神の隣に、狸の尻尾が生えた女の妖怪が座る。若いような見た目だが、妖怪は見た目が若くても歳はそうとは限らない。現に、この妖怪は年寄りのような話し方をしている。
狗神「……」
「…その耳と尻尾、顔のアザと特有の黄色い瞳…狗神かのぉ…」
その妖怪は、狗神のことを知っているようだった。
「もしかして、狗神の本能で悩んでるのかぇ〜?」
狗神「…うん……」
俯いたまま、少し頷いた。
狗神「…どうすればいいのかな…私…」
「難しい話じゃの……ワシから言えることは、少しずつ絶望を与えること…そうすれば、暴走はせんかもしれん…」
その妖怪は、微笑み狗神の頭を撫でる。
「その絶望は人間に向けず、悪さをしとる妖怪を退治するんじゃ。妖怪からすれば、絶望じゃからのぉ…」
狗神「………」
狗神「やってみる…」
そこから私は、人間に悪さをする妖怪を退治していった。何体も…人間から感謝されて、もう暴走はすることないだろうと、そう思っていた…。けど……
狗神「…っ……」
目の前の民家が燃えており、転がってる複数の死体は、火で燃えている…。そして、自分の手には…血塗れの刀が……
狗神は、静かに涙を流していた…
結局、なにも変わることができなかった。
いくら妖怪を退治したところで、なにも変わらない。よく考えれば、変わるはずなんかない…だってそれが、私の「存在理由」だから…
あの時霊華を殺さなかったのは、正気に戻ったから…?理由はわからない…もう大切な者なんて作らないと固く決意したはずなのに、また作ってしまった。作ったところで、悲しい結末は変えることなんかできないんだからな…
霊華…あの時、優しい顔をしてるって言ってくれたな。そんなことを言ったのは、お前が初めてだよ…本当に嬉しかった。
そして……私の最後を看取ってくれる人が…お前で……
本当に…よかった。
折れた刃は地面に突き刺さり、狗神は倒れた。霊華は狗神の近くまで歩く……
狗神「…どうした…早く……トドメを刺せ…」
霊華「…っ」
霊華は涙を流しており、トドメを刺そうとしない。
狗神「…私か、人か……どっちを救うべきか、お前ならわかるだろう…」
霊華「………」
霊華は狗神の近くに座り、地面に手を置く
霊華「…どっちかしか救えないなんて…そんなの…選べません……だから………」
突如、術式が現れる。見たところ封印術の術式だ。
狗神「お前…まさか……!!」
霊華「…どっちも救います…!」
狗神の体が光り、術式も狗神に反応して光り始める。
霊華は狗神に近づき、涙で濡れた笑顔を向けた。
霊華「犬神が再び目覚めた時……………辛く残酷な道ではなく、幸せな道を歩むことを…祈っています…!」
狗神の体と狗神の本能が分かれ、封印された。
霊夢「狗神……大好きですよ…っ…!」
どこまでも甘い奴だ……こんな悪霊を生かすとは……
………
ありがとう。
建物に到着した文と幽香。
文「…!霊夢さん!」
倒れている霊夢に近づく文。気を失ってるだけのようだ。
文「霊夢さんが倒れているということは……」
幽香「…」
幽香が2人の横を通り過ぎて、扉の前まで行く。
幽香「射命丸、その子をお願い。」
文「幽香さん……」
幽香は扉に手をかける。
幽香「…あの子を…椿を連れ戻してくる。」
現在ノ修復率………99%…
つづく
16/09/03 13:41更新 / 青猫