第7話 邪神編 『初美V』

グガガガガ!!
辺り一面赤く爛れた死の世界
巨大な魔方陣により開かれたゲートにより
禍々しい姿をした異形の物が姿を現す
そう、葉月の世界より門を潜りやって来るは
アヌビス…
それを追い、葉月の駆る人型兵器シャドーブレイカーと
ミコト、レイカ、そしてアリスとおじ様も姿を現す

アヌビスは周囲よりエネルギーを喰らうべく
無数の触手を伸ばした
「アンギャグガガガガ」
超音波とも言える叫び声が大気を振るわす

「くっなんだこの叫びは」
葉月達は耳を抑え何とか耐え凌ぐ
「あれを見て下さい」
シャドーブレイカーの手の平からレイカが叫んだ
「どんどん巨大化してる!?」
葉月は驚きを隠せない
「おじ様!?」
「あう?」
「どーなってるのさー」
「あう、まーとりあえず、好きなだけ食べさせてやんな
 ここじゃ所詮、ろくな栄養になはらんけどなー」
おじ様はアリスの肩でふんずり返り偉そうに言った
葉月は周りを見渡す
「おじ様…ひょっとして?」
葉月は気づいた、おそらくおじ様はこの世界にアヌビスを引き込む事により
本来日本で起こっていたであろう悲劇を回避したのだと
「おじ様…」
葉月はおじ様を少し尊敬の眼差しで見つめた

「さて、そろそろやね」
おじ様が起き上がると同時に、アヌビスの巨大化が止まる
「これ以上は大きくならないんですかぁ〜」
レイカがとろくさく言う
「ククク所詮こんな廃墟世界じゃ、喰う餌も無いだわさ
 (クククさて、その体いただこうかしらんククク)」
レイカの肩に乗ったゴゲリリスが嬉しそうに、そして怪しく呟いた

「さーハヅたん今だおー」
おじ様が葉月に号令をした瞬間だった
「ガーーーーーウーーーーーーアーーーーーーー」
アヌビスの体から無数の光の柱が煌く
「なっ!!」







ピカっ








辺りは閃光に包まれた…


























スーパーガール葉月が一番!エルシオン
第7話『初美…』








葉月ちゃん…葉月ちゃん?

葉月の耳元で声がする

あっ葉月ちゃん

葉月の目の前には美しい少女の顔が覗きこんでいた
「はつ…み?」
葉月がそう言うと、少女はニコと微笑んだ

ガバっ
葉月はその場から起き上がった
少女はそれを見て、キョトンとしたが
再び笑顔に戻る
そして、横に置いていた花飾りを葉月の頭に乗せた
「初美…ボクの為に作ってくれたの?」
葉月は少しポーっとして聞いた
少女はうんと頷くと立ち上がり
舞い散る桜の中、まるで桜の花びらと戯れるかのように
舞いを踊る
その穢れ無き姿はまるで純心な天使の様であった

少女に見惚れる葉月
辺り一面は桜の園
そう懐かしい景色
それは葉月達が学び舎とした女学院の庭
少女と葉月が隠れては戯れた思い出の桜の木の下
葉月は、はっと思い出したかのように
桜の木の下に書かれた文字を探した
そう、葉月が少女と悪戯で書いた文字

葉月
初美
二人の名が彫られていた

「あった…」
葉月はそれを見つめると隣りには少女が居た
「初美…あ…
 これ憶えてる」
少女は頷く、そして葉月の頭を撫でると再び葉月を
自分の膝へと誘う
葉月はそれに導かれ、少女の膝に抱かれた

とても懐かしく、愛しい匂いが葉月を包む
少女は美しい声で歌を奏でる
少女は言葉を話す事が出来無い
だが、その美しい歌声は葉月には聞こえた
昔、何度も何度も聞いた懐かしい歌声
葉月を救い、守り続けてきた声
葉月の心に鳴り響く、愛する者の声
「初美…」
葉月は少女の膝にうずくまり涙を流す

大丈夫よ葉月ちゃん
全部大丈夫だから

少女の声が葉月に届く

「初美…ボク」
葉月は起き上がり、少女を抱きしめた
「この感触、忘れないよ、忘れるものか」
葉月は少女を強く、強く抱きしめた…
二人の時間はまるで止まったかのように長い抱擁が続いた

桜の花がそれを祝福するかのように
美しく舞い散るのであった


葉月は少女にたくさんの話をした
「初美…ボク長い夢を見ていたんだ」
葉月は少女に自分の冒険の話や、出会った人々の話を
何時間も何時間も話す…
本の世界の事
日本で起った様々な事件
倉木の山の思い出
由利子さんの事
リリスの事
伊織の事…

「でもボク一人になっちゃった…
 でもね、今度はボクの前におじ様が
 そうだ初美
 ボクね…
 ボクね…」
葉月はその言葉を出そうとして涙が止まらなかった
全てを思い出したからだ
今が夢であり、ここが現実ではない事を
そして、目の前の初美は幻だって事を
でも葉月は言いたかった
聞いて欲しかった
溢れた涙を初美が受け止める
「初美ボク
 好きな人ができたよ」

初美はその言葉に頷き
憂いの表情を見せ
葉月の唇にキスをした…

初美の唇が葉月の唇から離れる
そして、手話で「さよなら」…と

「初美!!!!!!!」

















「ハヅたん!ハヅたん!!」
おじ様が葉月のほっぺを可愛い手でペシペシ叩く
「うぬ、こうなれば
 ハヅた〜〜〜ん
 むちゅ〜〜〜〜」
おじ様の唇?が葉月に迫る、その瞬間
「はつ…おじ…様?」
「あっ」
おじ様が止まる
だが、次の瞬間葉月の唇がおじ様の口?に重なる
「愛してるよおじ様
 ボクの…ボクの大好きなおじ様」
「むぐぐぐぐーーーー
 くはーーー
 ハヅたん、俺鼻使え無いんだから口閉めたら息できんやろっ」
実は凄く嬉しいおじ様がバタバタしながら言った
おじ様は冷静になりつつ、横目で葉月を覗く
葉月はじーっとおじ様を見つめる
少し照れくさそうなおじ様
「…まー何だ、目覚ましてよかったよ…
 夢見てたの?
 初美って言ってた」
おじ様は少し拗ねた感じで尋ねた
「うん…少しね
 でも夢だよ…そうあれは夢
 でも…ううん
 ボクは振り返らない、約束したんだ初美と
 ボクは前に向って進むんだって
 きっと天国のお姉ちゃんもそれを望んでる」
葉月のその言葉に滝の様な涙を流すおじ様
「うじゅ〜〜なんて健気なんだぁ〜〜」
そう、葉月には二人の姉が居た
一人は東伊織
葉月の姉であると同時に一番のパートナーだった女性
そしてもう一人、東初美
葉月を育て、そして葉月が愛した唯一の女性
しかし二人はもう居ない
何処にも居ない
彼女達は不幸な飛行機事故に合い
その若く美しい人生を終えてしまった
二人を救えなかった葉月はそれがトラウマとして残っている
だからこそ、葉月は二人の姉の愛したこの世界を守ろうと
誰よりも強い意志を持っているのだ

おじ様は葉月の心を見ていた
その悲しい過去を、同時に封じられた真実を
そう、葉月は記憶の一部を失っていた
だがそれは彼女の為であると、おじ様もあえて話そうとはしない
初美はイヴとして、まだどこかに存在する事、伊織こそリリスである事
本の世界の旅はまだ終わっていない事を

葉月は初美は亡くなったと思い込む事で生きていける
それが葉月の幸せなら、それを守ろうとおじ様は思っていたのかもしれない









巨大化を止めたアヌビス
ミコト、レイカの二人はオーバマシンで戦っていた
「葉月ちゃん、流石に二人じゃキツいよ」
「あーん葉月さぁ〜ん」
二人は既に限界に来ていた
その時

「待たせたね、ミコト!レイカ!
 アヌビス、コゲちびを返してもらうよ!!!
 ララ!増幅回路最大!!」
「はい!葉月」
「うおぉ!!!!!!」
葉月はシャドーブレイカーに自らの力を注ぎ込んだ
シャドーブレイカーが持つソードがみるみる巨大な姿と化す

「あれが、葉月ちゃんの力」

葉月の持つギフト(天恵)は武器を進化させる能力と
周囲の力を取り込み、武器とする力があった
葉月の能力により巨大化したソードがアヌビスを切り裂く

「ギャーーーールルルルーーーー」
アヌビスの胸部が裂け、再びコゲちびが姿を現す
「今だ!ミコっちゃん!!
 こんな事もあろうかと、キミのマシンにも
 フォトンドライブを装備しといたんだ
 そのまま突っ込め!!」
おじ様の号令で、ミコトのオーバーマシン
ブルーコスモスはその名が示すかの如く
蒼い閃光と化し、アヌビスを貫く

「やったのか?」
葉月はミコトを呼んだ
「くっきゅるる〜〜
 葉月ー葉月ーおじたんおじたん」
「こらっコゲちび〜そんな懐くなー」
ミコトの手で救い出されたコゲちびが葉月とおじ様にじゃれつく
「ちゅーか、俺の耳を引っ張るなーーー」
コゲちびはおじ様の頭の上に陣取った
「あいつ悪いやつ、葉月あれ倒す」
コゲちびはアヌビスを指差し言った
「でもあれはコゲちびの力であぁなってたんだろ?ならもう…」
葉月がそう言った瞬間、アヌビスが更に禍々しい姿に豹変する
「なな何あれー気持ち悪いぃ」
レイカは脅えながら言った

「チッ、邪神の核がちびを取り除いた事で発動しただわさね」
コゲリリスは嫌そうにブツブツ言ったが誰も聞いてない

「コゲちびちゃんっこっち」
シャドーブレイカーのコックピットからミコトが
コゲちびを呼び、自分の肩に乗せ後方に下がった

「おじ様」
葉月は禍々しい形相のアヌビスを睨んだ
「あぁ、あれがヤツの本当の姿
 そう、邪神アヌビス」
「一平さんから話は聞いてた、アヌビスって名前聞いた時そうだと思った
 倉木の山に何千年も封印されていた穢れを生み出した存在
 この国の奈落であり、人の邪な心を喰らい生き続ける邪悪な思念
 そう、それが何者かに持ち去られたって
 本来倉木家はこの国の邪悪から人々を守る一族だと
 だから羽山さんはダークエンジェルを創った
 こいつを倒すのはボクの使命」
葉月の目に迷いは無い
「おうっ、こんな事もあろうとかと
 回収した雷鳴剣を改造しといたよんっ
 その名も!!ゴットサンダーブレード!!!」
「ありがとう、おじ様
 行くよ、真・雷鳴剣!我が力受け、その真の姿を現せ!!」
葉月は天に向け真・雷鳴剣を翳す、するとそれは巨大化し眩い光を放った
「だからーゴットライトニングソードなんだってー」
「おじ様、さっきと名前が違いますよ」
「あうーララー堅い事言うなよ〜
 …うじゅ〜
 …あう
 アリスぅ〜〜〜」
アリスはうん、と頷くと再び巨大な魔方陣を葉月の翳した刀の頂点に展開した

「何をするの?
 そうか…今度は葉月ちゃんの為に」
ミコトの察した通り、葉月の頭上には日本が映る
「えええ〜どうなってるんですか〜〜」
レイカはもう何がなんだか…

「葉月ちゃんは世界から力を集める事が出来るの
 皆の力を葉月ちゃんへ!レイカさん私達も」
「はははは、はいーー」
ミコトに言われたままレイカは葉月に力を送る

「感じるよ、皆の心が今一つに」
葉月の頭上の魔方陣から覗く日本中から光が集まる
それは葉月の真・雷鳴剣へ集う
その光は蒼く輝く

「ソーマの緑の光ではない、青い輝き
 青の一族の血を引く日本の民の持つ希望の光
 …なる程ね、やっぱハヅたんは凄いや
 倉木の正統後継者しか受け継がない輝きをたった一人で受け止めるなんて」

葉月の目には一人の少女が映っていた
「…水菜来てくれたんだね」
少女は頷く

「ハヅたんの本当の姉、倉木水菜…
 成る程、はつみんにそっくりだ」
おじ様には見えていたのだろう
その幻が

「行くよ!皆!!!」
極限にまで輝きを増した葉月の一閃が邪神アヌビスを捉える!
「クハハハハ!!!ソードブレイカー東葉月よ!
 その力我がいただく!我こそが、全ての世界に君臨する
 王に…な…る…の…だぁ……」
最後の一瞬アヌビスからケルベロスの意思を感じた










「どうやら、ソードブレイカー東葉月により、消滅したようですね」
「はい、メタトロン
 所詮あの様な者の力では、あヤツは倒せますまい」
「では、頼みましたよミカエル」
「はい、メタトロン
 我ら天使会の栄光の為に
 オペレーションミレニアム、発動します」













再び魔方陣の門を潜り帰って来る一行
「ハヅたんよかったの?」
おじ様は葉月の肩に乗り、アリスは葉月に抱き抱えられていた
「うん、もう二度と蘇らないように…
 さよなら雷鳴剣
 もう一人のボクのお母さん…」
葉月の目には少し涙が浮かんでいた

葉月は邪神を封じ込めた雷鳴剣を邪神の散った世界に置いて来た
もしも邪神が蘇る事があっても、それを再び封じる為に…
葉月と雷鳴剣には様々な思い出があった
それは葉月が生まれた時より…
まーこのエピソードはまた何処かで語る事にしよう
そう今は…







葉月は初美と伊織の墓前に立っていた
おじ様とアリスを連れて
「初美、紹介するね
 ボクの旦那様と、ボク達の子供アリス」
アリスはうん、頷き初美の墓に頭を下げる
「初美、ボクは今幸せだよ
 新しい、本当の家族が出来たから
 初美…また来るね
 今度はそうだな
 うん
 ………」
葉月の最後の言葉は口だけ動いていた
「はふ?ハヅたん最後何て言ったの?」
不思議そうにアリスの頭の上に乗っかったおじ様が聞いた
「…ん?
 ひ・み・つ」
そう言うと、人差し指を自分の唇にあて
それをおじ様の口にあてた
そして後ろを振り向き去る葉月の表情は、可愛い少女の顔であった

「あーーハヅたんーー
 アリスーー追いかけるんだーー」
おじ様はアリスの頭に乗っかったまま、腕をぶんぶんさせ
葉月をアリスに追いかけさせるのであった

夕空に消えていく3人の姿を
初美のお墓はただ見守っている…

そして
季節は夏の終わりを告げていた









 
------------次回予告
くっきゅるる〜〜葉月〜遊ぶ・葉月・遊ぶ〜
くっきゅるる〜〜〜
あーもーコゲちびちゃん、次回予告15秒しかないんだからー
って
くっきゅるる〜〜
って一人二役は大変なんだから〜って
違う違う〜それは声優ネターー
あーんと
えーと、
次回!ボクのお姉ちゃん第2話
葉月、アナル覚えるにイッツショータイム〜〜〜


ミコト、それ違う
葉月ちゃーーーん

次回第8話 バンド編 『ユダヤ』
乞うご期待〜きゅるる〜〜☆キラン


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〜TVアニメ『ヤミと帽子と本の旅人』より〜