オムニバス
葉月ちゃん一番勝負
作:葉月の神官さん

葉月ちゃん一番勝負


こんにちは〜りりすちゃんで〜す
いきなりだけれどみんな葉月のこと酷い噂を立てているわよね
一年間で53人男をシメたとか、ヤクザに姉さんとか呼ばれているとか
休日は一日中おな2−しているとか…
私の葉月なのに。失礼しちゃうわ。ぷんぷん!

…え?おな2−はホントだって?
え〜っと、とにかく葉月は平和主義者で暴力を振ったりなんかしないし
本当はとっても優しくておしとやかなのよ。

…なによ。信じていないわね。
じゃあ葉月が決闘を申し込まれた日の出来事を紹介してあげる


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暮六つ刻*の鐘が鳴る頃、夕焼けを背に受けた数十人の学ラン男たちは河川敷に集まっていた。
漢達は物々しくバット・警棒・メリケンサック・チェーン・ナイフ等各々武装していた。
彼らが待つ相手はただ一人。だがその場にいる者達の表情は緊張に満ちていた
その地域では名を馳せた愚連隊(死語)として知られていた彼らも今度ばかりは相手が悪すぎると考えていた

「土谷さん…この程度の人数で大丈夫でしょうか?」

フルフェイスのヘルメットから顔を覗かせた男は、
制服の上からでもそれと分かる筋肉質で長身の漢に恐る恐る訊ねた

「お前たちは手を出すな。今日はステゴロのタイマンだ」

二メートル近い土谷は、微かに肩を震わせ脅えるヘルメット男を見下ろした。

「今時ステゴロだなんて若い人は知りませんよ…それに相手はあの東葉月ですよ?
尋常のタイマンじゃ勝負になりませんよ。」

ヘルメットの男は葉月にまつわる様々な伝説を思い出していた

「潰されたチーマー・暴走族・暴力団は数知れず。下北ヤンキー狩りをシメたとか、
路上のカリスマを病院送りにしたとか…とにかくタイマンはヤバイッス!」

「…多分このHPにお越しの方はホーリーランドのネタは分からないような気が…」

「と…とにかくタイマンだけは…ん…なんだ?」

その時周りが騒つき、武器を構える不良少年どもの人ごみが二つに分かれた。
ヘルメットの漢は何がおきたのか状況を理解すると土谷の背に隠れるように回った。

男達の中心から夕日を背に受けたセーラー服の美少女葉月は
腿までかかる長い髪を風になびかせながらが有象無象たちを掻き分けるように登場し、
雑魚どもには目もくれず土谷に近づいた。

「待っていたぞ…東葉月!さあ勝負しろ!」

土谷は葉月の姿を見るのは初めてだった。
宝石の輝きさえ消え失せてしまうような美しく意志が強そうな漆黒の瞳、
そのまなこよりも小さい唇は夕焼けを受け妖しげに輝いていた。
性別を問わずに見とれてしまうようなスラリと延びた手足。
そして中学生とは思えないほど発達した胸部の膨らみ

土谷は勇ましい挑戦の台詞とは裏腹に噂に聞いた美少女の余りもの美しさにガチ惚れしそうになっていた。

「キミかい?ボクに果たし状を送ったのは?」

葉月は口を開いた。
葉月の下駄箱には毎朝ラブレターが届いている。
その九割以上は公認ストーカーのあのお方に閲覧され処分されてしまう運命なのだが、
たまに女装して紛れ込むヤンキーの果たし状だけは何故か面白がって放置しているようだ
おかげで彼女は最近果たし状しかお目にかかった事がなかった。

「そうだ!漢たるもの伝説の喧嘩屋東葉月と一度はタイマンをしてみたいものだ
それに俺がアンタを倒せばハクが上がる。」

決闘を申し込まれるたびに聞かされる台詞に飽きた葉月は深い溜息をついた。

「…ボクは初美に手を出す奴が許せないだけなのに
…なんで関係無い男たちがボクと勝負したがるんだい?
…どうしても勝負したいのなら喧嘩じゃなくて他に良い方法がある。」

「逃げる気か?東葉月?」

「ボクの提案する勝負に勝てたらボクの体を好きにしていいから。どう?」

葉月は悪戯っぽい目つきをしながら世に言うフェティッシュボイスで訊ねた。
土谷はその声を聞いただけで股間が刺激されたような気分になっていた。

「土谷さん!なんか裏があるに違いありません…そんな提案聞かないでください!」

ヘルメット男はビクつきながら土谷の顔を覗きこんだ。
土谷は拳を握り締めるとその頭に叩き付けた
メットは落石を受けたような衝撃が加わり、生卵を割った殻のように真っ二つになった。
用を成さなくなったフルフェイスから素顔を表わした男は白目を剥きその場に倒れこんだ。

「その提案乗ってやろう」




「なんじゃい!こんな姿させて!」

土谷達はテニスコートに招かれた。
物騒な姿の男達は少々呆れながら土谷の姿を見ていた。

土谷はテニスコートで待っていたリリスという少女から着替えを渡され、
白に統一されたスポーツシャツにショートパンツ・ソックスにテニスシューズの
姿に着替えさせられていた。

普段硬派を自認する彼はこのような爽やか(?)な格好とは今まで無縁だった

「あら〜ショタの基本は短パンとか誰かが言っていたけれど貴方ぜんぜん可愛くないわね。」

リリスは余計な感想を漏らしていた

「五月蝿い!それよりか東葉月はどうした?」

土谷はタイマン勝負のつもりがエライ方向に話が流れたと思っていた

「お待たせ」

土谷の背中に葉月は例のフェティシュボイスで話し掛けた
彼は葉月の姿を見て思わず息を呑んだ

「ブ…ブルマ?」

葉月はスポーツシャツと白のソックスは土谷と似たようなものだが下半身は青のブルマだった

土谷は生ブルマを拝むのは初めてだった。
現代体育の授業において朱鷺並に希少な存在と化したブルマ姿は
土谷の硬派という偽りの仮面を打ち破るのに充分な衝撃を与えた。
下着を着けていないのか?彼女の上半身の膨らみは、苺のような先端部が尖がって見えた。
彼は右ストレートを喰らった後のように鼻から流れる血を止められずにいた。

「ハ〜イじゃあリリスちゃんがルールの説明しま〜す。ルールは簡単。
葉月が撃つサーブをゴリラのお兄さんが返せばいいだけで〜す。
…ちょっとお兄さん聞いてる?」

「ああ…テニスとは違うのか?」

「そうよ。葉月の球を返せばいいだけ。
ラインを割っても構わないのよ…って葉月の胸と腰ばっかり見てるんじゃないわよ!」

「そんなことは無い!俺は硬派だ!」

「鼻血垂らしておいて何が硬派なのよ?」

「…いいからさっさと始めて帰ろうよ。ボク七時から時代劇見なきゃならないんだ。」

葉月は自分のブルマ姿に鼻血を流す女も珍しくないので、
男が同じような反応を示しても当然と言った感じで驚かなかった。
もっとも葉月自身も初美の裸同然の姿を目にした時は貧血気味になり、
特に月物の時は輸血が必要と周りを心配させることもしばしばあった。

「俺に負けたときの約束は覚えているのか?七時で帰すつもりは無いぞ。」

「ハイハイ。ボクの球を返せたらね。さっさと始めようか。」

「あ…葉月。ちょっと待ってね。そこの鳥さん。ちょっとコレ持っていてくれない?」

リリスはモヒカンヘッドにリベッドナックル姿の男を恐れ気も無く鳥呼ばわりした
モヒカンは頭に血を上らせる猶予すらなく銃のような形の筒型の物を渡された

「何だよコレ?」

「コレ。スピードガンよ。この中に野球少年いる?」

「俺野球でピッチャーやってた。」

スポーツ刈りの男が何故か素直に応じた

「そう。じゃあ球全力で投げてみて。鳥さんは少し離れた場所から横に立って」

リリスはテニスボールを野球少年に渡した。
彼は何故こんなことをするのか戸惑いながら言われるがままにボールを投げた

オーバーハンドから振り下ろされた球は真っ直ぐとモヒカンの横を通り抜けた

「時速は何キロ?鳥さん?」

「129キロ」

「へ〜凄いわね。ヤンキーなんかやめて甲子園目指せば?
あ…鳥さん。今度はネットポストの近くに立っていてね。」

リリスに言われるがまま、モヒカンはネットポスト付近に立った

「じゃあ準備は出来たし始めようか。…あっ。大事なこと忘れてた。
ゴリラのお兄さん。この軍手しといて」

「ゴリラはやめろ…っていうか何で球受けるだけなのに軍手が必要なんだ?」

「葉月が傷害罪で御用にならないために決まっているじゃない!
さあさあ!男はウダウダ言わないでさっさと着けて。」

リリスは不吉なことをさらりと言った。なんとなく空寒い気分がした土谷は軍手を着用した
土谷が大人しく軍手をつけたことを確認するとリリスは二人にラケットを渡した。

「それではこれから新競技サービスNo1を始めま〜す。
スポーツマンシップに乗っ取り、お互い正々堂々と戦い、どちらが勝っても恨みっこ無しで…」

「いいから早く始めよう。“野牛八番勝負”が始まっちゃうよ」

「勝つのは俺だ。漢なら約束忘れるなよ?」

「…どうしたらボクが男に見えるんだい?」

「も〜読者の皆様はさっさと話を進めろって焦れてるわよ。さあ始めましょう。」

「お前が言うなーっ!」

この時ばかりは葉月と土谷は声をそろえた。



葉月はベースラインに立つと表情が殺気立ったものに変わった。
軽く二、三回テニスボールを弾ませると、球を手に取った
土谷の方にチラリと鋭い目を向ける

その視線を浴びた土谷は知らずに背筋が凍るような気分がしていた。

(この俺が…数々の修羅場を潜り抜けてきた俺が恐れているのか?)

葉月の伝説には劣るが、幾つもの暴走族を傘下に治め
複数の中学と高校まで自分の足元にひれ伏せさせた彼が恐怖を感じていた。

それは野生の勘とでも言うべきだろうか?
自然に沸き起こる震え、いくら唾を飲んでも収まらぬ喉の乾き、
心拍数が上がり額から流れ落ちる汗が止まらず、六感がこの場から早く立ち去れと伝えていた。
以前も彼が名の知れたワルの高校生達に待ち伏せされた時に同じような症状が起きた。

だが今感じる悪寒はそれどころではない。
生命まで危ぶまれるような危機感に襲われていた


そんな土谷の内心の動揺を知る由もなく葉月はゆったりとしたモーションでボールをあげた。
ロシアの妖精シャラポワですら霞んで見えるような美しいホームを模り、
上向きになった勢いでシャツからかすかに切れ長のヘソが覗いた
ひじから持ち上げるように引き上げられたラケットは高い打点でボールに接触し
肘から質量感がある胸の重みまで全体重を乗せたラケットはスナップを利かせ
一連の動作により発生した全てのエネルギーを伝えられた球はわずかに下向きの角度で弾かれた

ガットから飛び立ったボールは目の錯覚なのか?まるで炎に包まれた虎を模っていた
風速数十メートルの台風が通過したような突風と共に猛虎は土谷を目掛けて襲い掛かった

大風でポストが抜けそうになり根元の土が盛り上がり、ネットが破けそうなほどの勢いでなびいていた。
ポスト横のモヒカンはその突っ立った髪が稲穂のように横に垂れ、如何にも痛んでいる髪は次々と抜けていった。

ボールが通過した後スピードガンは限界の時速300キロまで表示すると派手な音を立てて爆発した。

モヒカンはその衝撃で腰を抜かし、強風に煽られた体が凧のように宙に舞った

土煙を上げながら迫りくるボールは、唖然とする土谷のラケットのガットに狙いを誤らずに命中した
握力八十五キロを誇る彼の両腕も、まるで像に引っ張られたかのような重量を感じた
両腕に太い血管が浮かび出し、今にもはちきれんばかりだった。

ガットが軋み、サッカーゴールのネットのように延びきり、焦げ臭い匂いがする。
土谷はボールに押され、踏みとどまることが出来なかった。
彼の足元はモグラが通過した穴跡のようにズルズルと引きずられていた

シャフトとラケットヘッドにヒビが入り、上昇気流に煽られた彼の髪は逆立ち、
突風と恐怖のためなのか?やはり抜けていった。

ラケットの強度が限界を迎えて壊れる前に勢いに耐えかねた土谷が背をそらすと
抜けた軍手ごとラケットが飛んでいった。

凄まじい音を立ててラケットごと金網に衝突したボールは
強烈な摩擦熱でガットを焼きながら十数秒の間回転し続けていた
ボールの勢いもやがては収まるかと思いきや今度は金網を突き破り、
逆回転をさせたビデオ画像の流星の如く天高く飛び立っていった。

住職のような頭になった土谷と元モヒカンは呆けた様に口を開き、ボールを見送っていた
わずか直径6.86センチ重さ58.5グラムの球により
人為的に引き起こされた嵐が過ぎ去ったその場所は信じられないぐらい静まり返っていた。

「さあ…他にも挑戦者はいるかい?」

葉月の一言でその場にいるヤンキーどもは我に返った

「ひっ…ひとごろし〜」

「うわぁぁぁぁん!おかあーさーん!」

男達はほうぼうの体で逃げ出し、その場には腰を抜かした土谷と元モヒカンだけが取り残された



「あらら?皆冷たいのねぇー。葉月ぃ〜ゴリラと鳥さんどうするの?」

「鳥はとにかくゴリラは煮ても焼いても食えないだろ?何か良い調理法でもあるのかい?」

「…リリスちゃん食欲な〜い」

「そうだ!急がなきゃ “野牛八番勝負”始まっちゃうよ。
主演は村下弘明さんだから見逃せないよ…帰ろうか。」

「趣味がおばさん臭いんじゃ無いの…でも今日も相手を怪我させなくてよかったね。」

リリスは心からほっとしたような表情を浮かべていた

「それよりかさぁ…ブルマ姿はどうにかならないの?スコートかせめてスパッツを準備してよ」

「え〜リリスちゃんブルマのが絶対に良いの〜葉月の神官とか言ういい歳こいたオッサン**もそう言ってるよ。
神官の中学生の頃は女子体育の授業はブルマだったらしくって美術の時間になると抜け出して
覗きに行ってた本物の変態さんだからね〜」

こんな会話をしながら二人は何事もなかったかのように、
手に火傷を負った土谷と腰が抜けた元モヒカンを置き去りにしていった
リリスは二人の惨状が目に入らなかったらしい…


夕日が沈み、控えめに月がその姿を現す頃、
テニスコートに放置された二人の少年はたまたま通りかかった巡回の警察に発見された。
当初の調査ではテニスコートの荒れ具合から暴走族同士の大規模な紛争と睨んでいたが
事情聴取で言語不明瞭意味不明なことを口走る二人の少年から聴取不可と判断され、
結局その日のうちに二人は釈放された。
そして警察に紛れ込んだアーヤにより事件は揉み潰されたのであった。


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どお?葉月の優しさが分かったでしょ?
今回も犠牲者ゼロ。
どうしたらあんな酷い噂が立つのかわからないわよね〜

…あれ葉月?どうしたの?

パンチパーマの怖そうなお兄さんと何か言い合ってるみたいね?

ちょっと!刀抜いてどうするの…力技は駄目だって!

あちゃ〜…お兄さんの2トントラックの荷台がスパッと…

あーあ。またやっちゃった。

パンチの兄さん土下座してるし…

も〜この事実を皆に知られたらどうするのよ!

必死に隠蔽工作している私の身にもなってね!

それにしても今日で何回目かしら?
3時間前は…(以下略)



*暮六つ刻・・・夕方の五時の事
**いい歳こいたオッサン・・・まだ二十代なんですが精神年齢は完全に十代以下ですね(汗)

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By よっくん・K