出撃の任務を終えた瑞鶴は部屋に戻る為、廊下を歩いていると見慣れた後ろ姿を見つけて、普通に声を掛けようと思ったが、途端にふつふつと沸き起こってきた好奇心。
「しょーかくねぇっ!」
ガバッと翔鶴姉の背中を後ろから抱きついた。
「きゃっ! もう、瑞鶴ったら」
突然の後ろからの衝撃に、顔が見えない瑞鶴に「吃驚するじゃない……」と。
「えへへ、翔鶴姉の後ろ姿が見えたから、つい飛びついちゃった」
もう、しょうがない子ね。と嗜めるが姉は姉で妹が可愛く、それを拒んだりはしない。されるままである。
顔を翔鶴の背中に埋めながらぐりぐりとこすりつける。そんな瑞鶴に「今日は甘えん坊さんね」と柔らかくて優しい声が耳に届く。
「瑞鶴。怪我はしてない?」
「うん、平気ー」
ぎゅうと後ろから翔鶴姉の身体を抱きしめる。
体重をかけないように翔鶴姉の背中に少しだけもたれ掛かる。
「翔鶴姉って、私より少し背が高いよね」
「ふふっそうね」
姉妹だからかしら? と翔鶴姉は言うけど船だった頃は同じ型の艦船で大きさも外見も一緒だった。今のこの人の姿になってからというもの、見た目はあまり似ていない。
背の高さも違うし、肌の色や髪の色、身体付きだって違う。
翔鶴姉は何時だって、私を守ってくれる。だけど私だって翔鶴姉を守りたい。
(ああー、翔鶴姉の身体、柔らかくて気持ちいいなぁ)
サラサラな銀髪を肌で感じながら、出撃していた疲れも抜けていくようだ。
そのまま暫く後ろから抱きついて癒やされていたら。
「瑞鶴? やっぱり、どこか怪我でもしてるの?」
「え!? ううん、何でもない!」
いけない、つい長く抱きしめてしまったようで翔鶴姉の声で我に返り、身体を離した。
できればもっとくっ付いていたかったけど。
「本当に?」
何時までも翔鶴の背中に抱きついたまま離れない瑞鶴の様子にもしかしたら「出撃で怪我をして、身体がつらいからずっと私にもたれ掛かっているのでは?」と心配した翔鶴がくるりと瑞鶴の正面に向き直り、真剣な表情で瑞鶴の身体を触れて確認していく。
どうやら余計な心配をさせてしまったようだ。できれば姉にはあまり心配をかけたくない。
「大丈夫だって、ほら! 何処も怪我なんてしてないから!」
少しだけ大げさにぶんぶんと両手を動かして元気なのをアピールした。
その様子を見た翔鶴はほっとして、気遣いと不安を纏わせていた表情はふふっと笑い。
「……そう、よかった。おかえりなさい、瑞鶴」
両手を胸元の前に握り、ふんわりと微笑む。
何時もの優しい穏やかな笑みを瑞鶴に向ける。
(っ……〜! ぐうかわ!)
この不意打ちの笑顔は反則である。この間、夕張と秋雲がTVアニメについて熱く語っている時に、ぐうかわという言葉を使っていたが、確かにぐうかわである!ぐうの音が出ない程、うちの姉は可愛い!
私と二人っきりの時にしか見られない表情、生まれた時から与えられた妹という立場の特権。私しか知らない姉の表情を独り占めにできる、それが凄く嬉しい。
「えへへ、ただいま! それに今日はMVPだったよ!」
ふふんと、誇らしげに語る。
「まあ、凄いわ。瑞鶴、頑張ったのね」
細くて白い指で私の前髪をそっと優しく撫でてくれる。翔鶴姉に撫でられるのは好きだけど、別にくすぐったい訳じゃないのに、心がこそばゆく、温かい気持ちになる。とても幸せだなぁ。
暫く撫でられていると、そうだわ。と翔鶴が何か思いついたように言った。
「これから一緒に間宮に行って、甘いものでも食べ行きましょ。お姉ちゃんがご馳走するわ」
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