凍る様に冷たい手で、使い慣れた長方形の「携帯」という名が付いていながらさして携帯していないそれで、貴方を呼び出した。いつか遊んだ公園で。少し遠いけど、きっと来てくれるでしょう。
カレンダーに書き込む予定が何もなくて、変わるんだなと、今更実感した。小さくバイブレーターが鳴った。やはり来たか、と悟ったように感情を殺した。指定された場所は、ここからは少し離れた公園だった。確かにあそこなら人通りは少ないし、景色も綺麗だ。待たせては悪いと、急いで家をでた。
きっと私はフラれるだろう。私は、フラれるだろう。そんな事は分かってた事だ。それでも良いと思って、今ここにいるんだ。ゆっくり来てほしい。焦らず来て欲しい。ちゃんと考えてほしい。
俺はあいつをフルんだろうな。きっと冷たくフルんだろうな。それはあいつも分かってるだろうから、これはけじめをつけるためのものだ。昨日の卒業式となんら変わらない、終わりを実感させる儀式だ。急いで行こう。全力で急いで行こう。答えは決まってるんだ。
来た。来た。来てくれた。肩で呼吸しているところを見ると、相当急いで来たのだろう。焦りなのか、早く終わって欲しいという気持ちなのか、そう考えると悲しくなる。
私は伝えた。きちんと目を見て伝えた。全然スッキリなんてしなかったし、考えてた言葉は言えなかったけど、伝えることはできた。
来た。来てしまった。頬や耳が赤い、ずっと待っててくれたんだろう。早く来て良かった。俺の頬も相当に赤いだろう。それはきっと走ったからか、寒いからか、それとも別の理由なのか。あいつにはどう見えているのだろうか。伝えられた。あいつに伝えられた。目をじっと見て言われた。俺も目を離さなかった。きっと耐えられないほどの緊張を味わっているのだろう。俺も緊張している。
「ごめんなさい、僕には好きな人がいるんです。その人を好きでいながら、貴女の気持ちに応えるなんて、僕には出来ません。だからごめんなさい。」
「謝らないで下さい。来てくれて嬉しかったです。その優しさが嬉しいです。そんな堅苦しくならないで下さいよ。ほら、笑って下さい。ねえ、笑って下さい。」
「泣かないで下さい。そんな悲しい目で僕を見ないで下さい。笑って下さいよ。ねぇ、笑ってよ。」
この時、私が泣き出さなかったのは、貴方が笑ってくれたからだ。だから私も笑い返して、さようならを伝えようと思った。
「さようなら。それと、頑張って下さい。」
「ありがと。」
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