「君が好き」
その「君」と呼べる相手が、誰なのか。僕は分からなかった。
突然、身体の感覚が戻ってきて、冷たくなった両手の先を毛布に包む。
鳴り止むどころか音の間隔が早くなる「ピピ-ピピ」という音にうんざりしながら、包んだばかりの手で、目覚まし時計を止める。
「スッ」という寒気に首だけで振り返る。勿論誰もいない。
ビビりすぎだと呆れていると、毛布を解いたはずの両手が不意に温まる。
その優しい感覚に懐かしさを覚え、目を閉じる。
この手を握る人を、僕は一人しか知らない。
耳元で「君」が何か囁く。小さすぎる囁きに耳を澄ませ、聞き取ろうとする。
「………………」
目を開けた先には、誰もいなかった。
君は、いなかった
何かが唇に触れる。何かが身体を抱きしめる。何かが涙を流す。掠れ声は聞き取れなくて。代わりに、きっとこんな事かと予想し、僕は呟く。
「好きだったよ」
感覚が消えた。
焦燥感のみが、頭を巡る。体を毛布に包み、目を瞑る。
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