蝉の声が響いてる。夜の蝉の声だ。
いや、きっと蝉だけじゃない、色んな虫の色んな声だ。
僕が歌ったら虫にはどう聞こえるだろうか。虫も歌っているのかもしれない。
そう思うと可笑しくてわ…
「あ、笑った」
僕の心の声を遮って嘲笑とともにそう言った僕と同い年くらいの少女。
「なんだよ…」
「あんたが笑うのを待ってたの、まあそこ座りなよ」
と言って自分の隣のブランコを示した。今更ここが公園なことに気づいた。
その少女がなんだか怖かったので僕は従うことにした。
その子は軽く漕ぎながら、僕に何を言おうか考えているようだった。
代わりに僕が聞いてみた。僕のことを知っているのかどうか。
そういえばその灰色のパーカーには見覚えがある。
誘うような短いジーパンもどこかで…
「知ってると思う?」
色気のあるJKは急に真剣な眼差しで僕をみた。観察しているようだ。
「知らない。それか覚えてない」
茶髪の少女は少し驚いたような顔をした。
「やっぱりそうなんだ」
「知り合いだったならごめん。でもやっぱり知らない。」
「そっか。」
とても悲しそうな顔を残して
「もう時間か。」
と言って月の方へ歩いて行ってしまった。
力なく上げた左手は僕に手を振っていたのかもしれない。
僕は追いかけはせず、何だったんだと呆れたように上をみた。
北極星はどれだっただろうか。
いつのまにか、虫の声は止んでいて、僕はブランコを降りた。
2つのブランコが揺れている。
少女がブランコに乗る前にいた場所をみた。そこには砂を少し削って文字が書かれていた。
倉間大也
江本黒羽
ーー羽痕
僕は頭を抱え込み発狂した。
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