いらっしゃいと、どこからともなく嗄れた声が聞こえた。
気付けば僕は知らない民家の、開いたドアの前に倒れていて、そのドアは白髪混じりのお婆さんが、力なく支えていた。どうも。と一応挨拶をしてみると、君は困った様に笑うねぇと笑われた。入っておいでと言われ、ほかに何をするかも思い付かなかったのでお邪魔することにした。ようやく立ち上がると随分と体が軽く違和感を覚えた。
お前はどこまで覚えてる?
老女は席に着くなり組んだ手に顎を預けて、僕にそう尋ねた。
「何をですか?」
と返しても返事をくれず、代わりに自分で考えろという目を向けてきた。
「僕が覚えているのは、昼寝をする直前までです。その後のことは覚えていません。」
もしかしてこれは…と言いかけたが喉の奥に留めておいた。
「そうか…」
組んでいた右手で顔を覆い、その指の隙間から僕を睨んだ。
「もう時間もない。すぐ次に向かうからな」
意味がわからなかった。
「最後にこれだけ言っておこう。」
僕は怖くなって目を逸らしていた。趣味の悪いオブジェが目に入った。
「逃げるな」
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