走る。月が地を照らす闇夜をただただ走る。
「!車だ!」
右からリーの声がする。言われた通り、確かに車がある。いつもの黒塗りの車だ。
僕とリーは一目散に車に乗り込んだ。
「シーカ!全速力で本部まで走って!!すぐ!!」
「目的地が設定されました。場所 座標 本部ビル 。発進します」
間もなく車は発進した。後ろを振り返るが、先ほどの少女の姿はどこにもなかった。
走って荒んだ呼吸リズムをゆっくり整える。
「……さっきの女の子、誰なの…」
リーの取り乱し方は半端ではなかった。きっと以前に何かあったのだろう。
問いただすと、案の定の返事が返ってくる。
「………あれは…二人がかりじゃ倒せない……4人で相手しても…今の私たちじゃ倒せない………」
「……………」
「ほら……前に言ったでしょ?半年前、機動班4人が犠牲になった事件。『片割れ鋏』……あいつが、その女……」
「あれが…………」
あの小さな少女が、4人も、しかも鍛えられた機動班の人間を殺したというのか。
「……信じられないでしょ?でもやるんだよ、あいつ。人は見かけによらないね、ホント……まあ人じゃないんだけど………」
だんだんリーの呼吸は落ち着いてきていた。僕も普通に話せるくらいになる。
「まぁ……とりあえず任務自体は果たせたってことで………いいのかな?」
「…………多分」
リーは少し曖昧な返事をする。僕はその返事に引っ掛かりを感じたので、少し掘り下げる。
「多分、って?」
「まあ詳細を話してからあの家族は逃げようとしたわけだから、大方今回のマトってことで間違いないだろうけど……今回のタイプの奴がガラディーナにたくさんいてもおかしくない。貧困街は……吸血鬼だとかに関わらず、いろんな罪を持った人間が隠れやすいからね。だからまた誰かが派遣される可能性はないわけじゃない」
リーはガラディーナに別の吸血鬼が存在している可能性を示唆した。
僕はガラディーナでの一日を思い出し、可能性はあると思った。あれだけたくさんの人間が死の淵で生活しているのだ。それでいて吸血鬼の有無にかかわらず殺人や失踪が頻発しているときたら、それはそれは隠れやすいに違いないだろう。
僕は、またガラディーナでの任務にあたることがないように祈った。
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ガラディーナでの一件から一週間が経過した。僕はあの日から毎日『片割れ鋏』とのシミュレーション訓練を行い続けている。もちろん、ずっと道場を占領し続けるわけにもいかないので、極力みんなが道場を使わない時間帯――――深夜や朝方に行っている。
「はぁ………はぁ……」
今も絶賛その訓練中だ。時間は夜11時半。訓練を始めてから30分が経過していた。
シミュレーション訓練はあくまで僕たちの戦闘データ(スマホや衛星、車からデータを得て総合的に評価してるみたいだ。相変わらずエラムの技術力はすさまじい…)を基に作られた疑似的なT型生命体だ。強さはもちろんオリジナルよりも弱くなる。
『片割れ鋏』も例外ではない。例外ではないはずなのだが、一向に勝つことができない。
色々シミュレーションを積み重ね、過去データの生命体は倒すことができるようになったが、奴だけは例外だった。動きの機敏さ、攻撃の強度、自身の変形能力どれを見ても他の生命体より抜きんでている。文字通り、人智を超越した存在だった。
僕は訓練に一区
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