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退魔神学園編
ACT1 『落し物』


 ジリリリリリリリ。
耳障りな目覚まし時計の音が安眠していた私の耳に突き刺さった。
「なんや、もう朝かいな……」
 しぶとくハンマーでベルを叩き続ける目覚ましを手探りで停止させてから、私はのそのそとベッドからはい出した。
部屋の壁にかけてある時計にぼんやりと視線をやると針は6時30分を少し回ったところだ。
 いつも通り私は冷蔵庫を漁り、昨日残しておいたポトフを温め、買い置きしておいたバゲットを口に含む。
 今日は日曜で学園は休みである。だが、休日だからと言って遅くまで寝ているのは性に合わない。私は貴重な時間をロスすることには我慢がならない性分だった。授業の復習に予習、あと自分に課している自主トレーニングなど、したい事は挙げて行けばキリがない。
「みずきとの待ち合わせは9時に寮の前やったから……まだ時間あるな。よっしゃ…アレやろか」
 私が小学校から高校まで一貫教育のこの退魔神学園に入学したのは、小学校の入学と同時だから、今、私が高等部の3年生だということを考えると、私はこの学園都市でもう10年以上一人暮らしを続けていることになる。
小学生のころから一人暮らし、というと奇妙に感じるかもしれない、私のように家が遠くて通えない生徒が学校の寮を使わせてもらう事は結構多いパターンで、実際、学園寮は私と同じような生徒で概に埋まってしまっている。もちろん、学園側の配慮も行き届いており、寮のスタッフは私たち生徒の素行にいつも目を光らせている。学年が低いうちは、寮というよりも、もはや合宿所に近い感覚で、皆数十人単位の集団生活をしていた。今にして思えばなかなか合理的だが、当時は嫌で仕方なった記憶がある。
 もっとも、私たち高等部にもなると、そこまで私生活に介入される事は無くなるので昔の苦労も今となっては良い思い出だ。それに、こんな破格で住める所が確保できるのは寮くらいのものだ。感謝することはあっても、文句を言うのは筋違いといえる。

「ハッ!」
 勢いよく突き出した拳がベランダの朝の空気を震わせる。
 交互に両方の拳を向かいのベランダに向かって突き出す。
私が中等部に上がってから毎朝欠かさず続けているトレーニングだ。きっかけは武術の授業で落第点を貰ったためだったが、今ではライフワークになってしまっている。自分の部屋のベランダでするから、雨の日も関係ないし、それにこうしていると雑念を振り切って、とても澄んだ気もちになるのだ。
「アレス先輩、今日も自主トレーニングですか?」
アレス・ウォーターフィールド、私の名前だ。
「ああ、みずきか……知らん間に人のウチに上がり込むなんてどういう了見や?」
 軽口とともに振り返るとそこには今日会う予定の友人、石鎚山瑞棋の姿があった。私はなんとなく厳めしい名字だな、と密かに思っている。
「大体、待ち合わせは9時やった筈や? 今はまだ8時、それともウチにある時計が全部1時間ずれてたんか?」
 わざとしかめっ面をつくり、肩を竦めてみせる。
「今日は早く目が覚めちゃったから迎えに来ちゃいました♪ えっと、迷惑でしたか?」
 悪びれる様子もなく、みずきは笑顔で舌を出した。
「ええ迷惑や、まったく……」
 口では悪態をつきながらも、みずきがニヤニヤするのを見ると、悪い気はしなかった。
 みずきも私と同じ退魔神学園へ通う生徒だ。私とは違い、魔法などは使えないため進学クラスに所属している。学年も私より2つ下の1年生だ。
彼女との出会いには色々あったのだが…ここで語ると長くなるから、またの機会にすることにしよう。
「折角のテスト開けなのに、先輩はまた勉強ですか?」
 私の机の上に開きっぱなしで置いてあった魔導書を目ざとく見つけたみずきが、半ばあきれたような顔で言う。
「違う、たまたま開いとっただけや、勉強なんかしてへん」
 まったく少し油断するとこれだ。恥ずかしいと言ったらない。
「ふふ、アレスさんはいつもそう言いますよね? 私に位、隠さなくったって良いじゃないですか?」
 口調こそ敬語だが、悪戯っぽい笑みを浮かべてこっちを見るみずき。なんとなく面白くない。
「ほら、着替えるさかい、あっちへ行っとき」
 しっし、と手を振る。
「えー、いいじゃないですか。私がここに居ても。先輩の着替え見たいかなって思いまして」
「そんな顔しても無駄や! ええからあっち行きっ!」
 私は近くにあったはんなり豆腐のクッションをみずきに投げつけた。

 私たち2人は一緒に出かける事が割と多い。なんというか、みずきの前では自然体で居られる。そのことがとても楽なのだ。
今日は一昨日まで続いた学校の定期試験が明けたということで、街での買い物に付き合って貰おうと私がみずきに声をかけたのだ。彼女も暇を持て余していたから、私の提案に1も2もなく食いついてきた。
みずきは新しい服を欲しがっていたし、私も服屋とHMVには用事があった。欲しくて注文していたGreen Dayのアルバムが届いたのだ。勉強のお供にすると、きっと捗るに違いない。


「大体こんなもんか…それにしても、今日はようさん買うたな」
「うん私もお金使いすぎちゃったな…しばらく節約しないと。」
 手元のプリンパフェをスプーンでつき崩しながら、みずきは大袈裟にジェスチャーしてみせた。私たちは一通り買い物を終え、今は良く行く喫茶店で一服しているところだ。
「そんなもん注文しながら言うても説得力無いけどな?」
「先輩の意地悪―」
 みずきは私の軽口に軽くスネた様な顔をして、そっぽを向いた。念のため補足するとこれは怒っているのではなく、所謂お約束のやりとり、みたいなものだ。こんな所が可愛いな、と偶に思ってしまう。
「あらあら今日も仲が良さそうね、アレスちゃんにみずきちゃん、今日は2人で買い物かしら?」
 突然落ち着いた声が、私の思考に割りこんできた。不意に聞こえた声の方に視線を送ると、ニコニコと柔和な微笑みを浮かべた女性が御盆を手に乗せて、私たちのテーブルの傍に立っている。
「ああ、マスターこんにちは」
「はい、おはよう♪」
 マスターはにこやかにお辞儀してみせた。ここのマスターはその日初めて会った相手には必ずおはよう、と挨拶する。初めは少し気になっていたが、最近では私もそれに感化され、おはよう、と挨拶してしまうときがあり、たまに友人からのツッコミを受ける事がある。まあ、これは別にどうでもいいことだが。
彼女はここの店のマスターであり、沢山のウエイトレス達を纏めて、繁盛しているこの店を一人で切り盛りしている。眼鏡に青のロングヘアーがとても良く似合っていた。
「この間までテストだったのよね? お疲れ様。試作品のパイ焼いたんだけど、食べるかしら? 2人にモニターして欲しいのよ」
「ええ、本当に良いんですか、マスター?」
 目を輝かせてみずきが言う。
「ええ♪ お二人は常連さんですから♪」
「ほんまに、ありがとうございます」
 私も一礼して、パイをいただく事にした。
「マスター、これ…たこ焼きみたいな味するんやけど…」
「うふふ、ある常連さんのオーダーなのよ」
 マスターは軽くウインクしてみせた。
「変わった方も居るんですねぇ…」
 みずきも感心したような顔でパイを食べる。
「あ、でも、これは美味しいですね…」
「そうかしら、じゃあこれをメニューに追加してもいいわね、みずきちゃん、アレスちゃん2人ともありがとう♪」
 マスターはニコニコと、嬉しそうにお皿を下げると厨房の方へと帰っていた。
「ここのマスター、一体何歳なんやろな、みずき?」
「若いですよね…、噂によると娘さんがいるとか…」
「とてもそうは見えへんよな…若いわ…」
 私とみずきは思わず顔を見合わせた。

 私とみずきが喫茶店を出たのは、少し外が暗くなったころだった。あの後、私とみずき、それにあの喫茶店に良く来る常連と話しが弾み過ぎてしまい、ついつい長居してしまったのだ。マスターも私たちの会話に時折口を挟みながら、店の仕事をしていた。もっとも店員が多いため、やることはそこまで多くはなさそうだったが。
「あー、明日はまた授業ですねぇ、今日が土曜なら良かったです。」
 みずきが私の横でぼやく。
「まあ、学生の本分は勉強やからな、しゃーない、しゃーない」
口ではそう答えたものの、私も少しだけみずきと同じ感想を感じないわけでは無かった。だが、それはそれだけ今日が楽しかったという証だ。
もしも休みに終わりが無くて――やらないといけない事がずっと何も無かったら――こういう時間の有り難さが摩耗して無くなってしまだろう。人間は飽きやすい動物だから。Eフロムはこう言った、人間は自由の刑に処されているのだと。
「先輩、一体どうしたんですか? 考えごとしちゃって…」
「あ、なんでもないんや、ちょっとどうでもええこと考えとった」
 どうやら考え事をしている間、相当ぼんやりしていてしまったらしい。
「先輩、たまにありますよね、そういう時♪」
「自覚はあんまり無いんやけどな…」
 私たちが歩いていたのは川沿いの割りと大きい路地で、この時間でも私たちの他にもたくさんの人影があった。買い物を済ませて自宅へと急ぐらしい主婦や、塾などの帰りだろうか、カバンをもった少年、それに、日曜日なのにスーツに身を包み、不自然に周りをキョロキョロしている男。
「何や? あのおっさん…妙な感じやな」
「うん…そういえばキョロキョロして変な感じだね…」
 その男は大事そうにジュラルミンケースを抱えていた。余程大事なものらしい。
 その時だ、私は我が目を疑った。突然、道を歩いていたシャツの男がスーツの男が持っているジュラルミンケースを奪い、走り出したのだ。
「ひったくりだ!!」
 余程動転しているらしく、しりもちをついたまま男は叫んだ。
「みずき」
「ウン」
 私たちは2人で軽いアイコンタクトをとった。これだけで合図は十分だ。私はこういう時みずきがどう考えるか把握している。おそらくみずきも私がどう行動するかわかっている筈だ。
「あのシャツのおっさん、私らでとっ捕まえるで」
「OK、私後を走って追いかけますから、先輩は魔法でバックアップ宜しくお願いします」
 言うが早いか、みずきは一目散に男を追いかける。
「まかしとき……私も一丁はじめよか」
 私は肩から掛けていたバッグから、カードを出して構えた。

一般的に、魔法を行使しようとすれば、それ相応の準備が必要になってくる。ある程度有用な魔法には必ずと言っていいほど、面倒な呪文の詠唱が必要となるのだ。余程の才能のある魔法使いならば、精神で呪文を全て編み上げるため驚くほど簡単なキーワードで魔法を発動することが出来るが、アレスにはそのような能力はない。では、どうするか。
 その答えがこのスペルカードである。このカードには、術者の血液を混ぜた特別なインクで呪文が全て刻み込まれており、これにより、口頭や、精神で呪文を編みあげる作業を省く事が出来る。ただ、これに用いるインクはかなりデリケートな代物で、調整に非常に手間がかかる上に、ある程度の魔力を持っている人間にしか作る事ができない。
 さらに、術者の血液をインクにまぜることから、作った当人にしか使う事が出来ない。いわばこのカードも、一種の魔法なのだ。分類するとすれば、スペルを召喚するための召喚魔法、といったところだろうか。

「水よ……地を這う蛇となれ!」
 私の呪文を受けて、水路の水が生き物のように動き、ひったくりの犯人の前へと躍り出た。そう、まるで蛇のように。ひったくり犯にしてみれば、自分の隣を流れている川の水が突然自分の方に襲いかかってきたような形になる。
「う、うわ…」
 男は思わず尻もちをついた。
「つかまえたわよ!」
 その隙に、後を追いかけていたみずきが男に飛びかかり、ケースを取り返した。
「…ちぃっ」
 が、いくら体力があるとはいえ、みずきはただの女学生である。水泳を長い事してきたことから、みずきは体力には自信を持っていたが、男との力比べではやはり分が悪い。ケースだけはなんとかみずきが取り上げたものの、男を取り押さえるには至らなかった。
「先輩っ、なんとかしてください! その蛇で取り押さえるとか…」
 起きあがり走り去っていく男を指さしながらみずきは叫ぶ。みずきは、まだ起きあがれていない。
「えらい悪いな…この水蛇、見かけだけ厳ついけど、実はただの水の塊なんや。ぶつかっても大したダメージないし」
 私の位置からも遠すぎて犯人を追う事は不可能だった。それに、既に人ごみに紛れ、犯人の行方は既に分からない。
「先輩の魔法って…いつもそんな感じですよね」
 戻ってきたみずきがジト目で私を非難してきた。
「あんな一瞬で大魔法使えるわけ無いやないか…いつもそんなに魔法の用意なんかしてへんし。たまたま持ってたスペルカードで、使えそうなものはこれしか無かったもんやから…」
 我ながら情けないと思うがこればかりは仕方がない。なにしろ、スペルカードは作るのに時間がかかる上に、基本的に使い捨てなのだ。そんな大魔法の用意をショッピングのためにしておくなんて普通あり得ない。足止めに利用出来ただけ僥倖だ。
 私は溜息をつきつつ、蛇をもとの水に戻した。
「先輩、ケースは取り戻しましたけど、さっきの男の人…逃げられちゃいましたね」
「もう見つかれへんな…まあ、ケースは戻ったわけやし、さっきのおじさんにこれを…」
振り返って確認する、が、そこにはさっきの男の影は消えていた。
「みずき、さっきまでそこで腰ぬかしとったおじさん知らんか?」
「私に分かるわけありませんよ、第一、私は犯人を追いかけて、向こうに行ってたんだから、先輩に分からないもの、私にわかるわけ無いです」
 面倒なことになった。どうやら、元の持ち主がどこかに行ってしまったらしい。
「こうなったら手分けしてさっきの人探すしかあらへんな…ん…みずき、そのケース?」
 ふと違和感を覚える。ケースに一瞬妙な気配がしたのだ。
「へ? なんですかいきなり…」
「ちょっと見せてくれへんか? 気になる事あんねん」
気になり、手にとって良く見るとただのジュラルミンケースではなかった。表面に妙な魔術文字が書かれている。魔道兵器などの類についているマークだ。
「…これはアーティファクト!?」
「アーティファクトって言うと…古代の人が残した兵器、みたいなものでしたっけ?」
「大体そんな感じや、正直私たちの手に余る代物やわ…今日は厄日かもしれへんな」
 私はこめかみを押さえた。私程度の知識では詳しい事は分からないが、危険なものでありそうな気配がプンプンする。とりあえずこれをどうすれば良いんだろうか、警察に届ける?
だがここは学園都市、日本とは治外法権にあたる。ならば…
「みずき、今から学園に行くで?」
「え…ウン」
 専門家に助力してもらうしかない。少なくとも色々ある選択肢の中で、現段階では一番すぐれたものだと、私には思えた。これがあんな事件を引き起こすとは、この時の私は知るよしもなかった。



ACT2
銃太郎さん、よろしくお願いします^^
<12/10/30 15:01 作:フィウ (代理投稿者よっくん・K)> 編集
ACT2 『学園都市』                   執筆者 銃太郎

私、石鎚山瑞棋は今、先輩であり親友のアレス・ウォーターフィールドと共に先ほどひょんな事から拾ってしまった謎のジュラルミンケースを抱えて学園へと向かう電車に乗る為に駅のホームで電車を待っていた。
私たちはケースを守るように二人の間に置いてベンチに腰掛けた。さっきの柄シャツの男が奪回の機会を密かに付け狙っているかも知れないからだ。
10分…20分…待てども電車は一向に来る気配がない。
「なあみずき、おかしいと思えへんか?」
携帯の画面を覗き込んでいたアレス先輩が私の方を向いて小声で囁いた。
「うん、さっきから私たち以外にホームに人が居ませんよね。」
そうなのだ。さっきまで帰宅を急ぐ乗客で賑わっていたプラットホームだが、いつの間にか人影が見えなくなっていた。そのに間電車が来た記憶は私にも先輩にも無かった。
「やっぱりタクシーに乗ればよかったんじゃないですか。 それとも学園に連絡して先生方に迎えに来てもらうとか…」
「そう言うけどな、さっき買い物し過ぎてうちの財布はからっぽなんや。 残り少ないお金もみずきのプリンパフェに消えてしもたしな。」
あうう…それを言われると返す言葉がありません…
「それにさっきから携帯も繋がらんみたいや。電車の運行情報も見れんようになってる*。」
携帯が繋がらないなんて、ますますおかしい。私は悪い予感で胸騒ぎを覚えた。
「みずき!空を見てみ!」
突然先輩が空を指さして叫んだ。見上げると夕焼けに染まっていた筈の空が一面灰色になり、まるで天から薄いベールを被せられたかのようにぼんやりと淡い光を放っていた。
「これは! まさか閉鎖空間!?」
「閉鎖…空間…?何なんですか?一体何が起きて…」
耳慣れない言葉に不安がよぎり、先輩の方を見た。だが先輩の目は私の肩越しの遠くに釘付けになっている。
「みずき、下がっとり!」
先輩は私を自分の背後へと押しやった。声からは緊張しているのが分かる。
「やっぱりあんたの仕業やったんか。何のつもりや?、って言うても無駄か…目的はこのジュラルミンケースやろ?」
先輩が20m程離れて立っている黒いスーツ姿の男に向かって話しかけた。さっきこのケースを若い男に奪われた本人だった。
「ほう、よく分かってるじゃねえか。人の物をネコババしようたぁ、学園都市の住人は泥棒揃だぜ。 さあ、ケースを返して貰おうか。」
背の高いスーツ男がゆっくりとこちらへ歩いて来る。 近づくにつれて次第に顔がはっきり見えて来る。
顔は20代後半位に見えるが、髪は銀髪というか白髪頭のように見えるが、染めているのかどうかは分からない。体つきは手足が長くひょろりとしているが、眼光は鋭く異様な威圧感を放っている。とても堅気の人間でないことは私の目にもわかる。
魔術や超能力は全然使えない私でも危険を感じて体がすくむ。
「それは出来んな。このケースの中身はアーティファクトやろ? 古代の魔術兵器なんて物は学園都市の博物館か研究所の人間しか扱ったらいかん、一般の人間には触れることさえ禁じられてる位ヤバい代物や。 そんな物を持ち歩いてる怪しいオッサンにすんなり返す訳にはいかんな!」
って、先輩、威勢のいい事言ってますけどすごくヤバそうですよあの人!?
「ふん、そんな事貴様が知る必要はない。 どうやら痛い目に会いたいようだな。 それじゃぁ望み通り可愛がってやるぜ。」
男はじりじりとこちらへ迫って来る。どうしよう…先輩はこうなったら意地でも引かない人だし…助けを呼ぼうにも携帯が通じないし…
「しゃあないな…みずき、伏せとき!」
先輩はスペルカードを取りだして呪文を詠唱した。 すると線路に敷かれた砂利が浮き上がり、弾幕のように男へ向かって降り注ぐ!
しかし…男が無言で右手を翳すと黒い円形の魔法陣が現れ、それにぶつかった砂利の弾幕はバラバラとホームの上に落下してしまった。
ああ…だから言ったじゃないでですか…
「どははは、この程度でこの俺に勝てると思ってんのか?。ざけんじゃねえぞクソが!」
男がダッシュして先輩の前に移動した。 
「よくも舐めた真似してくれたな小娘!。この落とし前は着けさせて貰うぜ!!」
男の手が先輩の顎を掴んで空中へ持ちあげた。 苦しそうにぐぅっとうめき声を上げる先輩。先輩を助けなきゃ! 先輩を放せ!! 
私は男に向かって全力でタックルを食らわせた。だが男が腕をまるで蠅を払うかのように振り払うと、私の体は宙に持ち上げられてそのままホームに叩きつけられた。
「ぐぅぅ…」
いくら体力に自信があると言っても所詮ただの人間、魔導師相手じゃ歯が立たない…
その時、鈍く光る灰色の空にぴりぴりと亀裂が走った。 それは瞬く間に空一面を蜘蛛の巣のように覆い尽くした次の瞬間ガラガラと崩壊して消滅してしまい、その後には星が瞬く夜空が現れた。
「な…何だと!」
何が起きたか分からず狼狽する男の手の力が緩み、先輩はホームへと崩れ落ちた。私は先輩へ駆け寄って助け起こした。
どうやら意識はあるらしく、これくらい平気や、と笑いかけてくれた。もう、先輩ったら強がりなんだから。
ふと男を見ると夜空に浮かび上がる青白く光る巨人の姿を見て驚愕している。というか私も驚いている。今度は一体何なの?
その光の巨人はのしのしとこちらに近づき、男に向かって手を伸ばして男を掴もうとした。
「あれは!?、ソウルフレイム!」
男がジャンプして回避しながら大量の光る弾幕のような物を巨人に向けて放つ。しかしそれは巨人の体に吸いこまれるようにして消えてしまう。
一体何が起こってるの?普通科進学クラスに通うただの女子高生の私の理解を超えた現象が目の前で次々と起こって頭の中が混乱する。
男は巨人の腕を機敏に避けながら攻撃を続けるが、一向に決着が着く様子がない。次第に男は疲れたのか動きが鈍くなった。
肩で息をしながら男の動きが一瞬止まった。
とりゃー!!
突然奇声とともに黒い影が私の視界をよぎった。不意を突かれた男の体が真横に数メートル弾け飛んだ。
「ふん、甘いわ!神人に気を取られてあたしの気配に気づかないなんてとんだ3流魔法使いね!」
男を蹴り飛ばした黒い影はスタッと着地を決めると、倒れ込んで呻いている男へ向かって仁王立ちして言い放った。
「うちの生徒に手を出すとはいい度胸ね! あんた一体何者? 学園の平和を乱す悪の組織かしら? そんな物はこのあたしが許さないわよ!」
生徒会長!
学園の制服に身を包み、長い黒髪を夜風に靡かせてすっくと立つ麗しきその姿は紛れもなく我が退魔神学園の全生徒を束ねる生徒会長**にして全生徒の憧れの先輩そのものだった。

「二人とも怪我はないかしら。強力な魔力反応を感じて追っている途中にこの駅の辺りで急に反応が消えたと思ったら、まさか学園都市内にあたし以外に閉鎖空間を発生させるヤツがいたとは驚きね。」
目元涼しく笑いかけてくれるその綺麗な顔を黄色のカチューシャがより一層引き立てている。何だかこの人の笑顔を見ると元気が湧いて来るんだよね。
「私は怪我はありません、けどアレス先輩が…」
「う…うちはもう大丈夫やで、ほらこの通り…」
先輩は立ちあがって生徒会長に向かって笑って見せたが、足元はふらついている。
「あんた達良い根性してるわね〜、テロリストに生徒だけで立ち向かうなんて。でも、もうこんな無謀な真似しちゃダメよ。 もしあたしが来るのが遅かったら命を落としてる所よ!」
「すみません会長。ほら先輩、会長から叱られちゃったじゃないですか。だから学園に連絡しようと言ったのに。」
「うー…ごめんなみずき。うちの判断ミスのせいであんたまで危ない目に合わせてしまって…。」
しゅんとうなだれる先輩。先輩が時々見せる気弱な表情は、普段の元気のいい姿からは思いもよらない程寂しげだ。
先輩には悪いが私はその表情が好きだったりする。なのでその顔を見たさに時々わざと意地悪な事を言って困らせたりもする。
「まあいいわ、今度から気をつけなさいね。それより魔力の元はこの金属の箱ね?」
「はい、うちらはそれを学園に届けようとしてて襲われたんです。」
「ふーん、それでこんな面白そうな物をどこで手に入れたのかしら? 」
会長が目を輝かせてケースを見ている。不思議な物事が大好物だと言う会長らしい表情だ。
私たちがこのケースを入手した経緯を会長に話すとますます興味をそそられたらしく、あちこち触りまくっている。
「ふーん…アーティファクトね…ますます興味深いわ。古代魔術で封印されてるわね。 これはあたしの手にも負えないかも…この文字は!?」
会長が何かに気付いたように目を見開き、慌てて携帯を取り出してどこかへ電話を掛け始めた。
「……ええ、そうよ。今すぐお願い。だから緊急事態なの!あたしの命令よ、つべこべ言ってないで30秒で来なさい!遅れたら罰金よ!!」
最初は小声で会話の内容は聞き取れなかったが、最後の方の怒号は少し離れた私たちの耳にもすぐそばで喋っているかのようにはっきりと聞き取れた。 

「てめぇら動くんじゃねぇぞおらぁぁぁぁ!!」
今まで気絶していた件の男が線路を背にして立ち上がり、上着を脱ぎ捨てて怒鳴った。
「ちょっと!あんたそれマジなの!?」
会長がその姿を見て呆れたように声を上げた。ていうか私と先輩も驚いて開いた口が塞がらなかった。 なぜなら男は腹に大量のダイナマイトを紐で巻き付けており、それらから伸びた導火線に火の点いたライターを近づけて私たちを威嚇していたからだ。
「しょっっぼい下っ端魔導師だと油断してたらとんでもない隠し玉を持ってたわね***。 というか何でダイナマイト? 仮にもテロリストならC4火薬くらい使いなさいよ…」
「五月蝿い、ソウルフレイム使い相手じゃ手段を選んでられねえんだよ!そのケースをこっちへ投げろ!変な真似するとドカーンだぞ!」
「ふん、命を捨ててもケースを守ろうとする根性だけは褒めてあげるわ。でももうゲームオーバーよ。」
会長は意外にも冷静沈着だった。それもそのはず、上のセリフを喋り終えるや否や完全装備の対能力者特殊部隊が線路から突入して来たからだ。
男が驚いて振り向いた隙に会長の右回し蹴りがまたもや男の腹部に炸裂、ダイナマイトがホームに散らばり、昏倒した男はあえなく取り押さえられてしまったのだった。
「わー!カッコいいですね!ね?先輩?」
「うーん、会長の今日の下着は黒か…なかなかアダルティーやな。この学園の制服のスカートが短くて****ホンマよかったわ。」
って、どこ見てるんですか先輩!

連行されるダイナマイト野郎を見送った私たちは、学園からの迎えの車に乗って学園都市の中心部へと急行した。私たちの乗る車の前後は特殊部隊の車両が警護している。なんだかエライ事になってるんだという実感が今更湧いてくる。
正門をくぐると普段私たちが通う校舎が立ち並ぶ学校エリアがあり、車はそこを通り抜けて更に奥、学園都市の中枢である管理エリアへと進んだ。
ここには学園都市のトップである学園理事長の公邸や、学園理事会の本部や各種行政機関や研究所などが集中するこの都市の運営を司る重要なエリアだ。
私や先輩はここへは入った事がない、というか一般生徒の立ち入りは厳格に制限されていて、限られた場所にしか入る事は出来ない。
しかし生徒会長はここにも自由に入れるらしく、途中の検問で顔を見せると警備員が敬礼をして車を通してくれた。
車はとある白亜のコリント様式の円柱が立ち並ぶ豪華なビルの前で止まった。 私たちが車を降りた時は既に辺りは夜の帳が下りていたが、その建物だけはライトアップされていて、夜の闇にその姿を白く浮かび上がらせていた。
「さあ着いたわ、ここが学園理事会本部よ。」
会長に案内されて中へと入る。建物の中は不思議な記号や模様が刻まれた壁や、古い肖像画や胸像が並んでいる廊下など見た事も無い物だらけだった。
中には私たちが持ってきたケースの表に書かれた魔道文字に似た模様もあった。
会長がとある重厚な木の扉をぎぎぃーっと開いて中へと招き入れる。
「さ、入りなさい。」
私と先輩は恐縮しながら中へと入る。
「あ〜ん会長会いたかったわ〜♪」
いきなり奥から金髪の女性が飛び出してきて会長に抱きついた。
「理事長*****、只今戻りました。っていうか会うたびにハグするの止めてもらえないかしら?」
「だって〜、会長のお肌ってすごくすべすべなんだもの〜。」
会長は理事長に頬ずりされて困っている。
「先輩、理事長って普段もこんな人だったんですね…」
「ああ、うちもビックリやわ…」
先輩も目を丸くしている。学園での理事長は生徒に親しまれるようにぶりっ娘をしてると思ってた。実際生徒たちからは可愛いと人気で、『りり長』とか『りりちゃん』と呼ばれて親しまれているのだが、まさか素でこんな性格だったとは…
「いい加減にしろ!」
背後から理事長の頭にチョップを食らわしたのは長い黒髪の長身の女性だった。 そのスーツ姿のクールな美人はこの学園の学園長だ。
「いた〜い!もう、学園長******の意地悪〜りりちゃんプンプン、」
子供みたいにほっぺを膨らませて拗ねる理事長。なんだか可愛い。

「話は彼から聞いたよ。」
学園長が指さした先には、夕方にこのケースを奪おうとしたシャツの男が腕に包帯を巻いて立っていた。 彼は学園風紀委員会のメンバーだと言う。
「いやー、先ほどは不覚でした。なにしろすごいタックルでしたので転んだ弾みできき腕を脱臼してしまい、魔法が使えなくなったので退散するしかありませんでした。」
頭を掻きながらバツの悪そうに笑うシャツ男。
私たちはそうと知らずに泥棒扱いして怪我をさせてしまったのだった。 私と先輩は彼に平謝りをしたが、秘密任務なので止むをえませんよと笑って許してくれた。

「ところで〜学園内に閉鎖空間が発生したそうね?捕まえた男が犯人なの?」
理事長が頭のたんこぶをさすりながら会長に聞いた。
「いえ、彼はただの雑魚、能力者は別に居るわ。あたしが新人で閉鎖空間を破った瞬間に感じた気配がすぐに消えたから恐らく現場から逃亡したはずよ。」
「じゃあ学園都市にまだ居る可能性大ね〜。外部との防御結界が破られるなんて…もっと結界を強化しないといけないわね。 りりちゃん今夜は徹夜かしら〜、あ〜ん徹夜はお肌の大敵なのに〜。」
理事長、お肌を気にしてる場合なんでしょうか…

ところで例のケースの中身の事なのだが、理事長によれば古代に異空間からこの世界に現れた種族が持っていた文明の遺物だそうで、その存在は古代文献には記述されているが実際に見たという証言は無く、国際魔導師協会が血眼になって探している物だと言う。

「そんな超レア物がなんでこの学園都市に現れたんや?」
「あれじゃない?りりちゃんの日ごろの行いが良いから〜、神様がプレゼントしてくれたのかも〜。」
理事長ってお気楽なのか真面目なのか分からない…本当に謎な人だ。
「これが学園都市の存在を快く思わない連中*******の手に渡れば厄介な事になる。その前に手に入った事は幸運だと思うしかないな。」
理事長の頭を後ろから平手で叩きながら学園長が言った。この二人は中が良いらしい。というかボケと突っ込み?

「3人とも今日はお疲れ様、お腹空いただろ? 夕食を一緒にどうかな。」
学園長がディナーに招待してくれるなんて感激だ。先輩と会長も喜んで招待を受けることにした。
「食べよう食べよう〜♪」
理事長も大はしゃぎだ。 って、ケース開けちゃっていいんですか!?
いつの間にか理事長によってケースの魔術封印が開けられていた。 
「理事長…その中身は一体…」
中には一着の見覚えのある物が入っていた。
「みずき…あれ、どう見てもスクール水着に見えるんやけど、しかも旧型の。あれがアーティファクトなんか?」
「あたしが聞きたいですよ先輩。ていうか知ってたんじゃないんですか?」
「いや…授業で習ったんはもっとカッコええ形しとったんやけどな…」
「旧スク水ね…古代人も萌えを分かってるじゃないの!なかなかやるわね!」
いや会長、突っ込む所はそこじゃないです。
「りりちゃんどっちかと言うとビキニが好きだな〜、思いっきり布が小さいやつ。」
理事長も何言ってんですか…
「ねえ、誰かこれ着てみない?あなた、みずきって言ったわね、どうかしら?」
古代のスク水を持った理事長が私に迫ってくる。一体私はこれからどうなるのだろうか。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
脚注

*ここ学園都市はちょっとした地方都市並みの広さがあり、そこに暮らす学生や職員とその家族のために独自の都市機能を持っている。水道や電気、鉄道などそれらのインフラは学園理事会管轄下の行政組織の手で維持管理されている。もし異常が発生すれば直ちに携帯やネット、街頭のモニターなどで告知がされると同時に、能力を持つ学生で組織された学園風紀委員会が出動して住民の安全確保に当たることになっていた。

**アレス先輩によれば生徒会長は通称『神人使い』と呼ばれる能力者で、ソーマと呼ばれる一種の生命エネルギーを実体化させて操る事が出来るのだ。 その形は会長の意志で自由自在に変形可能で、先ほどの青く光る巨人『神人』もその一形態で最も会長が好んで使う形態であり、別名ソウルフレイム(魂の炎)とも呼ばれている。
それともう一つ、閉鎖空間というこの世界とは隔絶された空間を作り出す能力も持っていて、その力は世界をまるごと破壊して再構成出来るほどだと先輩は言っていた。だが何の能力も持たないただの人間の私には途方もない話でとても信じることは出来ないのだが…

***ミッションが失敗したら自爆テロでもやるつもりだったのだろうか…。

****退魔神学園の女子制服のスカート丈は膝上20センチ以上と校則で定められている。 能力者の戦闘訓練や、魔導師の授業で箒に乗るのに丈が長いと邪魔になるというのがその主な理由だ。しかし、戦闘訓練も箒に乗る事も無い普通科の生徒にとってはそんな校則は無意味だと思う。
まあ、この学園の制服はデザインが可愛いくて私もお気に入りだから別に短くても構わないのだが。
ちなみに上記の訓練がある特殊能力科や魔法科の女子はスカートの下にブルマを履くのが一般的なのだが、生徒会長だけは何故かブルマを履いていない。
理由はよく分からないのだが、一説には面倒くさいからだとか…会長は細かいところには頓着しない性格なのか?
魔法科のアレス先輩が言うには会長は男子が居る前でも平気で着替えを始めるらしいから、やっぱりそうなのかもしれない。

*****理事長はウエーブの掛った金髪と巨乳をいつも自慢している。服装はフリルのついた白いブラウスに黒いタイトなミニスカート、ガーターベルトと黒いハーフタイツというセクシーな服装と裏腹にとても童顔で、私たちと同じ年ごろにも見える程だ。
大きな目玉の付いた黒い帽子を被り、黒マントを着ている姿を見た事があるから魔法使いなんだと思う。 本人は朝礼でりりちゃん17歳で〜す、とか言ってるけどネタだろう。同じ事を言うベテラン声優さんを真似してるに違いない。
実際はもっとずっと年上だという噂だが、年齢の事を聞いた者は呪いを掛けられてキイロイトリの姿にされると言われている。けどこれも都市伝説だと思う。
弥彌山莉々(やみやまりり)という日本風の名前なのだが、どう見ても日本人には見えない。一言で言うと謎な人だ。

*******退魔神学園は日本を守る特殊能力者を養成するために古くからあった秘密の機関が母体だ。学園都市が治外法権になった理由はその存在を脅威とする周辺諸国やその手先の様々な団体、組織の攻撃から自衛するためだ。
日本国の法律では魔導師や妖術使い、超能力者による攻撃を撃退する事が出来ないからである。
現在、時の政権が学園都市の秘密を金のために外国へ売ろうと様々な政治的圧力を掛けているが、治外法権に阻まれて上手く行っていない。
その理由として、学園内の食糧は魔力によって維持される専属農場で賄われおり、またとある財閥が全面的に支援している事が挙げられる。


ACT3 次はよっくん・Kさんです よろしくお願いします^^
<12/10/30 15:03 作:銃太郎 (代理投稿者よっくん・K)> 編集
地球儀を回していると気づくことだが、高い文化基準を持つ国は横一列に並んでいる。
地中海を隔てたヨーロッパ諸国、中国、日本、そしてアメリカ合衆国。
地球気象からみても、四季があり土地が豊かであることが、それらの文化圏を誕生させた要因と考えて間違いはない。
それらを総括して「文化発達圏」とでも呼称しようか。
しかしその中にあり、ひとつの例外がある。そう北アメリカ大陸こと、アメリカ合衆国の国土である。
今でこそ北アメリカ大陸は高い栄耀栄華を築いているが、コロンブスがアメリカ大陸を発見したときは見渡す限りの荒野であったことは有名である。
アメリカ人はそれを開拓し、文明を築いたわけだが…

「オーパツ」と言葉は古代文明の遺産として認知されることが多い。
実際にはオーパーツとは、場違いな異物とされその存在が不確定なものを呼称する言葉である。
UFO〜未確認飛行物体=宇宙人の乗り物、と言う刷り込み思考と同じである。
しかしながら、やはりその存在に古代文明の存在を夢見てしまうのは、これは致し方ない人間の性である。
古代文明や幻の大陸は諸説諸々存在するが、その中でもやはり根強いものが「ムー大陸」である。

ムー大陸は太平洋に存在していたとされる、巨大な大陸とされており、本来はフィクションの存在なのだが未だその存在を肯定するものは多い。
その理由のひとつに、大陸地理を完全に否定することが出来ないというものがある。
アトランティスはそれこそ、分かりやすいほどにでっち上げられたような大陸である。
レムリア大陸は一部の生物学者に存在を支持されたが、近年の研究により大陸移動説でそれらの支持されていた事の大方の解決を見ることで、幻の大陸が本当に幻の陸地として人々の記憶

から消えてしまったといえる。
なぜ、ムー大陸は近年においても肯定されることが多いのか、それはやはりイースター島などに残るモアイなどの巨大オーパーツがその信憑性を出しているからである。

しかし、ムー大陸がどこに消えたのか?それが大きな謎となっている。
恐怖小説クゥトルーシリーズをはじめ、フィクションの世界において「南極大陸こそがムー大陸である」
という発想が多く世の中には出回っている。
さて、ここで一つ提案を出そう。
そう「北アメリカ大陸こそが、ムー大陸である」と、言う新たな説である。
北アメリカ大陸は文明発達圏でありながら荒野である、その理由を古代文明の超兵器により文明ごと破壊されたことに帰結するとする説である。
仮に想像もつかないような、物質を原子レベルで破壊しその残りかすが塩になってしまう兵器があったとすればその破壊終焉後の大津波で残りかすである塩が海に流されても、証拠一つ残さず、文明は消えうせることになる。
アメリカの秘密とされる「エリアXX」そこには宇宙人が住んでいるなど面白い話が数多く飛び交っている。
もし、そのエリアXXに、古代人であるムーの民が生き延びていたのなら…宇宙人=古代人の説を説いても面白いかもしれない。









王立退魔神学園 ACT3 『アーティファクト』

「だから、うちは言ったんや 仮にもアーティファクトを着るなんてのはありえへんって」
「そんな、過ぎちゃった事をぐちぐち言わないで下さいよ〜
 先輩はいいですよね!私なんて、ひょっとしたら一生スクール水着着て暮らさなきゃいけないかも知れないんですよーー!!」
「ぷ・・・・」
「あ、今笑いましたね!! うがーーー笑うなーーー!!」
理事長であるリリスによりスクール水着(旧式)を着せられたみずきは、事もあろうかそれを脱ぐことが出来なくなってしまった。
その解決策を探し回るみずきとアレスなのだが、周りから見ればお笑いコンビにしか見えない滑稽な風景であった。

「まぁ古代文明の遺産ゆーたら、此処しかないわな」
「そうですよ!!月乃宮先輩なら助けてくれますよ!!そして、たくさんお菓子をくれる筈です!!」
その人物に会うことを快く思わないアレスに対し、目を輝かせ違う方向に喜びを向けるみずき。
「みずきは、脱ぐのが目的なんか?それとも、ケーキが目的なんか!?」
「当然、両方ですよ!
 人間どんな状況だろうが、いや 困難な状況であればあるほどに、一石二鳥を目指すものです!」
みずきの言葉に頭を抱え込むアレスであった。
「おまえ、アホやろ」

そんな二人の前に、水色の長い髪をなびかせた美少女が話しかけてきた。
「石鎚山さんと・・・確か、3年のウォーターフィールドさん?
 部長に何か用ですか? 
 石鎚山さん、その衣装部長が見たらすごい喜びますよ」
彼女の名前は七尾彼方(ななおかなた)今二人が行こうとしている部活動の部員である。
「いや、彼方さんこれにはいろいろ事情がありまして…決してコスプレなどでは」
あたふたしながら七尾彼方へ弁明するみずきであるのだが。
「ところで、寒くありませんか?」
七尾彼方のごく普通の言葉に、唖然とするみずき。
「て言うか、脱げないだけなんだから 別に上に服着ててもよかったんじゃ…」
ぷ・・・・ぷぷぷぷ
みずきの自分突っ込みに、笑いが堪えなれなくなるアレスに対し、頬を膨らませ怒り出すみずき。
「先輩!!気づいてたんなら速く言ってくださいよ!!
 あ〜〜ん、もうお嫁にいけない〜〜」

「お嫁なら、私がもらいますから安心してください」
3人の背後から、長い黒髪をなびかせ美しい美貌で言葉を放つのは
RPG研究会部長である、月乃宮龍之介その人であった。

「げっ 月乃宮・・・」
龍之介を見るなり嫌そうな顔をするアレス。
「あ、部長おはようございます」
笑顔で挨拶をするのは七尾彼方。
「あ・・・えーと その 助けてください!!!」
みずきは、お嫁にもらうということに赤面しながらも、龍之介に助けを求めた。

4人が入っていった建物は学園の中心区に位置する巨大な施設であり
その施設そのものが月乃宮龍之介が率いるRPG研究会の建物そのものである。
本来RPG研究会とは、テーブルトークRPGやコンピュターRPGを制作する部活動であるのが
その施設には龍之介のコレクションである、歴代アニメ作品の数え切れないほどのLDやDVDをはじめ
レトロなゲーム機から、最新機種、果てにはゲームセンターの筐体まで完備されている。
オタクとされるものにとっては、まさに理想郷そのものであった。

「それで、この水着がアーティファクトなんですね」
龍之介はみずきの水着姿を真剣に眺めている。
「はい、お茶です!」
ドン!とテーブルの上に飲み物を運んできた七尾彼方はその龍之介の行動に不信感をあらわにしていた。
「部長!スクール水着なら私が着ますから、なにも石鎚山さんをそんなにガン見しなくてもいいじゃないですか!」
七尾彼方は赤面し、涙を目にためながら龍之介に言い放った。
「あははは ごめんなさい、では明日にでもお願いしますね 彼方さん」
龍之介が笑顔で答えると、七尾彼方の機嫌はたちまちよくなるのであった。

「で、なんとかなりそうなんか?」
一連のやりとりを尻目に、机に腰掛けてコーヒーをすするアレスは、龍之介に単刀直入に質問をぶつけた。
当事者であるみずきは、七尾彼方の行動にはらはらしたり、龍之介の対応に嫉妬心を見せたり大忙しである。
「そうですね・・・結論から言うなら おそらく、不可能ですね」
龍之介はみずきとアレスにその言葉を躊躇なく、投げかけた。

「しょんにゃ〜〜私一生スクール水着なんてイヤですよ〜せめて、せめて競泳水着がいいです!」
「いや、競泳水着ならいいんかい!!」
みずぎのボケに鋭い突っ込みのアレス。
そんな二人の行動をクスクス笑いながら、龍之介は側近のメイドにケーキの用意をするように指示を出した。

丸いテーブルを4人で囲むように座り、くつろぎだす。
アレスは龍之介に詳しい経緯を話しながら、みずきに自分の分のケーキを取られないよう見張っている。
みずきはと言うと、スクール水着のまま出されるケーキを食べるわ食べるわで、何度のおかわりを頼んでいた。

「なるほど・・・・ふむ
 おそらく、そのアーティファクトは本来の姿ではないですね」
龍之介が顎に手を添えながら、難しい顔で答える。
「本来の姿やないって、どー言うことや?」
アレスが立ち上がり質問を返す。
「そうですね 最初にそれ(アーティファクト)をケースから出したのが理事長ですよね。
 それなら話は簡単です。その水着の形状は理事長の思考をトレースしたからです。
 あの人の性格から考えれば、マニア受けがいい旧式のスクール水着の形状もうなずけますし」
龍之介は、淡々と語る。
「それって!別の姿にもかえれるんですか!例えば競泳水着とかにも!!」
龍之介の話に興奮気味に食いつくみずき。
アレスはいい加減そのボケはやめいと、みずきを呆れ顔で見ていた。

龍之介は立ち上がり、3人に説明をはじめた。
そのいでたちは長い黒髪をなびかせ、顔には眼鏡がかけられ
短いスカートから覗かせるすらっと長い黒い足は、それらの言葉の説得力を高めるほどに美しいものであった。

 
そのアーティファクトの本来の使用方法は、重要なものを半永久的に元の状態を維持するためのものです。
生地に見えるそれは、ナノレベルで構築された特殊な繊維で、物質の細胞レベルにまで入り込み
その物の状態を半永久的に維持させることが可能と推測されます。
守るべき物質の内部に入り状態を半永久的に補完しつつ、外覧は繭のように包み込み保存物質を守ります。
形状変化を得意とするその繊維は、あらゆる形状に変化し、時にはダイヤモンド以上の強度にもなり
核爆発すら無効化するほどの防御本能を見せるでしょう。
絶対零度でさえも、その繊維を破壊することは不可能であり、この宇宙上で一度それに保護された物質を破壊する方法は無いでしょうね。
みずきさんは、それを着るときに何を思いましたか?
そう、今のスタイル美貌を保ち続けたい!と願っていたはずです。
それが証拠に、先ほどから2ケースはくだらないケーキを食べても、お腹が一切膨れていません。
それは、それ(アーティファクト)が、みずきさんそものを半永久的に補完する活動をしているからです。
つまり、それに保護されている限り みずきさんは半永久的に今の身体が保たれるということです。


「それってつまり みずきが・・・・不老不死になったゆーことか!?」
アレスは目を見開き、驚きを隠せない。
「事実上、そう言うことになりますね。
 もっとも、見たところ保護期間はおよそ54億年程度と言ったところですか。
 おそらくは、長時間の宇宙航行用に開発された保護装置を模した物がこれなんでしょうね。
 エスタニア文明の遺品は、たいていそうした、ありえないような文明のレプリカであることが多いですから」
龍之介は物事を語りだすとき、半分は周りが知らないような言い回しをあえてするクセがあるのだが…
「いやいや、54億年って うちらにしたら、永遠と大差ないから」
アレスが手をふり、否定を伸べた。
「そうですか?私としたら54億年じゃ足りないですね〜
 なんせ、この宇宙を掌握するには1000億年あっても足りないくらいですから」
笑顔で頬に手をおき得意の殺し笑顔で恐ろしいことを言ってのける龍之介であった。

「あの!ぶっちゃけ、ぜんぜん意味わかんないんすけど」
みずきがノー天気に質問をする。

みずきの言葉に興味をまったく示さない七尾彼方は、手にしてた文庫本を読み始めていた。
アレスはというと、みずきらしいという感じか、あまり気にしていない。

「まず、水着のままでは いろいろと大変でしょうから
 そうですね、髪を束ねるリボンにでも変化させましょうか」
龍之介がみずきの肩に手を乗せ、その髪を束ねるようなしぐさをする。
その行動の中で憂いの視線をみずきに向け、みずきの心配を払拭していた。
「いいですか、まず 心の中で 変えたい形状の知識を想像してください
 それが、いわゆるコンプリート(設計図)の雛形となります。
 そして頭で形状を考えながら、変化させる言葉を放てば実行できます。
 言わば、考えたものがそのまま実体になるんです」
龍之介は優しくレクチャーをみずきへとした。
「えーと、じゃ リボンの形を考えて・・・」
「形だけではいけません、リボンでしたら繊維なども考えなければ。
 そうですね、生地の形状を想像するだけでも、十分だと思います」
「はい!!やってみますね!!

「えーと、なんて言えば変わるんですか??」
みずきは、う〜と唸りながら念じたが、肝心の言葉が出てこない。
「そうか、変化の言葉が分からないんですね・・・・
 理事長が最初にこれを見たとき、なんと言いましたか??」
龍之介はアレスの方を振り向き、質問をする。
「こないな時はうちに聞くんやな…
 まぁええけど

 って、覚えとらんわ・・・すまん」
アレスは、引きつりながら返答する。
「なるほど・・・ふむ」
龍之介はアレスのひきつった顔と、みずきのそっぽを向き口笛吹いて誤魔化してるのを見て気づく。
「さぁ みずきさん 
 萌え萌えきゅん☆
 と、言ってみましょうか」
龍之介は笑顔でありながら、恐ろしい威圧感でみずきに命じた。
「やっ・・・・やっぱり言わなきゃダメですか・・・」
みずきが恐怖しながら龍之介に問うが、龍之介は笑顔で頷くのみだった。

「ええええい!女は度胸!
 リボンになれ!萌え萌えきゅん☆!!」
みずきは大きな声で叫んだ。
すると、体を覆っていた水着は皮膚からはなれ、髪を束ねるオレンジのリボンへと変化した。

「やった!!!やりましたよアレス先輩!!」
みずきは、おおはしゃぎで喜ぶも
「みずき・・・・裸」
アレスは目線をそらしつつ、全裸となってるみずきに言った。

「あは〜ん」
よだれをたらしながら、全裸のみずきをガン見する龍之介
「(あれ、絶対わかってやってますよね)」
二人をにらみながら七尾彼方はぶつぶつつぶやいてた。

「パチン」
龍之介の指示で、R研の女部員達がみずぎにセーラー服を着せる。
「似合ってますよ、セーラー服」
笑顔で言い放つ龍之介。
「あの、ありがたいんですけど なぜに?セーラー服?」
「あら、お気に召しませんでしたか
 では、スクール水着にしましょうか」
龍之介に間髪要れずに否定するみずき
「絶対イヤです!」

「しかし、あれやな
 月乃宮はホンマ誘導尋問っちゅーか、心理誘導が得意やな・・・悪い意味で」
アレスが呆れながらつぶやく。

「はっ!ひょっとして」
みずきが何かたくらむ
「萌え萌えきゅん☆!!」
みずきの言葉でアーティファクトが大型のハリセンへと姿を変えた。

スパコーーーン
「いたいやないか!!なにすんねんボケ!!!」
みずきがハリセンでアレスの後頭部をぶちかますも
それに即突っ込むアレス。

「なるほど、私の知識では薄い紙にしかできないんですね・・・」
みずきは、真剣な表情でぶつぶつ言っている。
「あんたは、うちを実験台にしたんかーー また裸にひんむいて、公衆にさらしたるわ!」
「残念でしたーー!!
 先輩が脱がせても、私が別な服を考えれば脱がせれないんでーーす」
みずきは、あっかんべーをしながら 追いかけてくるアレスから逃げている。


「そう、みずきさん
 あなたの発想と知識が、そのままあなたの力になるんです」
二人を見つめながら龍之介が締めの言葉に入っていた。
「部長・・・いいんですか?
 あのアイテム、本当は部長が欲しいんじゃないんですか?」
七尾彼方が龍之介に言うも
「ん?いいんですよ
 私は私の力で不死を実現するんですから
 それに、54億年もこんな女の姿なんかでいたら、飽きちゃいますよ」
龍之介の野望を秘めた瞳を見つめながら七尾彼方は思った。
「(それでも私は”今”の部長が好きです)」









ACT4は、みなみちゃん事 D.E.Aさんです。
<12/10/30 15:06 よっくん・K> 編集

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