連載小説
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26
ジャッキーが消えた。



一番最初に気付いたのはマルセルだった。最初、マルセルは展望台を見て回っていたが、展望台内を3周したところで、ジャッキーの姿が見当たらないことに気が付いたようだ。僕とリーはそもそもずっと同じ場所にいたのでジャッキーの行方を知らない。最初は「トイレだろう」ということでしばらく待っていたが、15分経ってもジャッキーは現れなかった。

続いて僕たちは、二手に分かれて行動した。僕たちは消えたジャッキーを探しに行くことになったが、入れ違いになるとまずいので、僕がは展望台に残り、マルセルとリーの二人が下に探しに行くことになった。僕はチャットで、そして仕事で使うメールでもジャッキーの安否を確認したが、反応がない。

展望台内にはトイレがないので、一階の方のトイレを二人に探してもらったが、ジャッキーはいなかったらしい。僕たちは打つ手なしの状態に追い込まれた。



いったん展望台で三人で集まる。

「メールは送ったんだよね?」

リーが僕に確認をする。

「うん。仕事で使う方だよね?送ったけど返信は来てない……」

僕は改めてメールボックスを確認する。新しいメールは届いていない。

「メールで送っても返信来てないのか……いよいよ心配だな」

基本能天気なマルセルも緊張が見え隠れし始めていた。

「まさかとは思うけど……生命体と交戦中、なんてことはないよね」

リーが不穏なことを口にした。まさかな……。

「それはないと思うぞ。もし交戦に入ったなら俺たちに救難信号を送るはずだ。ほら、スマホの電源ボタンの話。あれ5回押したら救難信号だせるだろ?」

マルセルの話の通り、僕たちは万が一の事態に遭遇した場合、スマホを使って救難信号を出せる。それが来ていない以上、その線は薄いだろう。

リーがそんなことはない、と食い気味に言う。

「私は急に襲われたときそんなことする余裕はないよ。忘れたの?今日だってそうだったじゃん。相手が人間だったから使えなかったとはいえ……最悪の事態はいつだって起こりうる」

リーの言うことは確かにもっともだ。とりあえず、最悪の事態を想定して、僕たちはランチバーク市街の周りを散り散りに捜索することにした。







捜索開始から15分後。ジャッキーから返事があった。今から電波塔の方へ戻る、とのことだった。

僕はとりあえずジャッキーから返事があったことに安堵し、電波塔に戻った。

戻ると、マルセルとリーの姿が見えた。だが、その場にジャッキーの姿はない。

「……あれ?ジャッキーは?」

「まだ来てねぇな……どこ行ってんだ、あいつ。」

「…………」

リーの顔は真っ青だ。心配しているんだろう。

すると、ジャッキーが遠方から走ってくるのが見えた。リーがそれに走って駆け寄る。僕とマルセルもリーに続いた。

「ごめんごめん、心配かけちゃったね〜」

呑気に駆け寄ってくるジャッキー。まあ、元気そうで何よりだった。

リーは駆け寄ってしばらく黙ってジャッキーを見ていた。

「?リー、どうしたの?」

不思議そうにジャッキーがリーのことを見る。

パチン!

ジャッキーに一発平手打ちをお見舞いしていた。

ジャッキーの右頬が赤くなる。目元は髪に隠れ、当たりの暗さもあいまってよく見えない。

「私たちは命をかけた仕事をしてる。もしジャッキーが襲われてて連絡できないくらい危険な状態にあったら、ここにいる市民も、ジャッキーも、私たちも手遅れだったかもしれない。オフの日だから気が緩むのはわかる。けどそれとこれは違う。無事なら連絡くらい寄越して。」

リーの叱責に、ジャッキーは黙っていた。首は叩かれて横を向いたまま動かない。

「でも……」

リーはジャッキーを抱き寄せる。ぎゅっと、力強くハグした。

「………無事でよかった」

「…………ごめん。ありがとう」

いまだにジャッキーの顔はよく見えない。意図的に顔をその長い髪で隠そうとしている、そんな気がした。





僕たちはそのまま車の方へ戻り、本部ビルへと帰宅(?)した。

ジャッキーがいなくなっていたのは、展望台下一階のトイレがその時込んでいたらしく、どうしても入りたかったので別のところへ行ったとのことだった。その時携帯の通知には気付かなかったらしく、そのまま放置していたそうだ。

車の中でジャッキーは珍しくしょんぼりというか、あまり元気のないように見えた。

僕は少しその様子のジャッキーが気がかりだったが、変なことを言ってしまうのも嫌だったので、特に触れないでいた。



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みんなでランチバークに行ってからしばらくして。いつものごとくボスから僕たちに招集がかかった。

「今回の事件はあまり難しいものじゃない。担当はジャッキーとフェルディだ。詳細は配ったファイルに書いてあるから、よく読んでおくように」

いつもの号令と共に、ボスの部屋を出る。僕はエレベーターのなかでファイルに目を通した。



バスク街殺人事件

事件場所:カイオワ バスク街イーガル通り二番地前

被害人数:1人(死亡)

現場状況:犯行現場は監視カメラ映像で録画されている。被害者と容疑者が口論の後、殴り合いに発展した模様。その際、被害者の頭が容疑者の殴打一発で外れたため、T型生命体である可能性が高い。

犯行時刻:6/17 4:27

容疑者:バリ 女 27歳

会社員

犯行現場から被害者の遺体を持ち出し自宅に帰っていることがわかっている。なお、血痕も残っていた。

(現場状況からほぼ確定であるが、念のため事情徴収を行い、銀製針でT型生命体検査を行うこと。)

その他の情報:犯人の自宅は特定済みで、バスク街ツァイナ橋通り32番地マンション502号である。同建物には防犯カメラが付いており、家から逃げ出している可能性は低いと考えられる。なお、逃亡していた場合は聞き込み等を行い犯人の場所を特定すること。



以前僕が担当したガラディーナでの任務に比べて、割とわかっていることが多い。これは確かにスムーズに解決できそうだった。

「じゃあ、準備ができたら一階エントランスで……いい?」

エレベーターを降り、ジャッキーに確認をとろうとしたが、ジャッキーは遠くどこかをみつめて、僕の声に反応していない。

「ジャッキー……?」

「ん?あぁごめん、少し考え事してて。準備が終わったら一階だね!了解!じゃ、またあとで!」

ジャッキーは少し慌てたようにして自室へ戻った。

いつものジャッキーらしくない、少し不思議な感じだった。

「………なんか、ランチバークに行ってから少し変だよな、あいつ」

「うん。少し、というかかなり変」

マルセルもリーもどうやら同じことを考えていたようだ。

ランチバークに行った次の日から、ジャッキーの様子が少しおかしかった。日常会話や訓練などで、ぼーっとして人の話を聞いていなかったことが多く、同僚として不安になる場面が多々あったのだ。

「まあ……がんばれよ、フェルディ」

マルセルから元気のない激励をもらい、僕たちはそれぞれの部屋に戻った。
21/10/14 02:19更新 / Catll> (らゐる)
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