連載小説
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21
走る。月が地を照らす闇夜をただただ走る。

「!車だ!」

右からリーの声がする。言われた通り、確かに車がある。いつもの黒塗りの車だ。

僕とリーは一目散に車に乗り込んだ。

「シーカ!全速力で本部まで走って!!すぐ!!」

「目的地が設定されました。場所 座標 本部ビル 。発進します」

間もなく車は発進した。後ろを振り返るが、先ほどの少女の姿はどこにもなかった。

走って荒んだ呼吸リズムをゆっくり整える。

「……さっきの女の子、誰なの…」

リーの取り乱し方は半端ではなかった。きっと以前に何かあったのだろう。

問いただすと、案の定の返事が返ってくる。

「………あれは…二人がかりじゃ倒せない……4人で相手しても…今の私たちじゃ倒せない………」

「……………」

「ほら……前に言ったでしょ?半年前、機動班4人が犠牲になった事件。『片割れ鋏』……あいつが、その女……」

「あれが…………」

あの小さな少女が、4人も、しかも鍛えられた機動班の人間を殺したというのか。

「……信じられないでしょ?でもやるんだよ、あいつ。人は見かけによらないね、ホント……まあ人じゃないんだけど………」

だんだんリーの呼吸は落ち着いてきていた。僕も普通に話せるくらいになる。

「まぁ……とりあえず任務自体は果たせたってことで………いいのかな?」

「…………多分」

リーは少し曖昧な返事をする。僕はその返事に引っ掛かりを感じたので、少し掘り下げる。

「多分、って?」

「まあ詳細を話してからあの家族は逃げようとしたわけだから、大方今回のマトってことで間違いないだろうけど……今回のタイプの奴がガラディーナにたくさんいてもおかしくない。貧困街は……吸血鬼だとかに関わらず、いろんな罪を持った人間が隠れやすいからね。だからまた誰かが派遣される可能性はないわけじゃない」

リーはガラディーナに別の吸血鬼が存在している可能性を示唆した。

僕はガラディーナでの一日を思い出し、可能性はあると思った。あれだけたくさんの人間が死の淵で生活しているのだ。それでいて吸血鬼の有無にかかわらず殺人や失踪が頻発しているときたら、それはそれは隠れやすいに違いないだろう。

僕は、またガラディーナでの任務にあたることがないように祈った。



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ガラディーナでの一件から一週間が経過した。僕はあの日から毎日『片割れ鋏』とのシミュレーション訓練を行い続けている。もちろん、ずっと道場を占領し続けるわけにもいかないので、極力みんなが道場を使わない時間帯――――深夜や朝方に行っている。

「はぁ………はぁ……」

今も絶賛その訓練中だ。時間は夜11時半。訓練を始めてから30分が経過していた。

シミュレーション訓練はあくまで僕たちの戦闘データ(スマホや衛星、車からデータを得て総合的に評価してるみたいだ。相変わらずエラムの技術力はすさまじい…)を基に作られた疑似的なT型生命体だ。強さはもちろんオリジナルよりも弱くなる。

『片割れ鋏』も例外ではない。例外ではないはずなのだが、一向に勝つことができない。

色々シミュレーションを積み重ね、過去データの生命体は倒すことができるようになったが、奴だけは例外だった。動きの機敏さ、攻撃の強度、自身の変形能力どれを見ても他の生命体より抜きんでている。文字通り、人智を超越した存在だった。

僕は訓練に一区切りつけ、自室に戻り、寝る準備を始める。

シャワーを浴び、パジャマに着替え、ベッドに座る。

スマホを開き、『共有ドキュメント』と書かれたアプリを開く。帰り際にリーに教えてもらったが、このアプリでエラムの、アクセス権のある報告書や様々なデータを読むことができる。僕は報告書『人喰い人報告書』の欄を開く。

簡潔に述べると、僕たちがマトとしていた少女は、この事件の主犯だったみたいだ。あの少女……マイが人間を殺し吸血した後、その遺体を洗脳された父と母で隠していたみたいだった。遺体はやはり父親の住んでいた公園にあり、計30人以上に上ったそうだ。父はそもそも職員住宅として共同アパートの一角を借りていたそうだが、死体を隠すのにアパートは不向きだったため、あえて公園に住み着くようになったという。現在は、エラムで二人の洗脳を解き、元の生活に戻らせたようだ。

僕はスマホのアプリを落とし、そのままベッドに潜る。

改めてあの生命体……マイのことを、そしてリーの話を思い出す。









「………ハ”ハ”ぁ”……マ”マ”ぁ”……ごめ”……」

「死ぬ直前に嘘をつく人間はそんなにいない。………でも、あの子供は、最後まで『嘘』を突き通した。子供なのに。」







人間ではない存在だから、鬼だから、死ぬまで『嘘』をつき続けられたのだろうか。

心の中に蟠りを残したまま、僕は深い眠りについた。







次の日。

恒例のように、4人での稽古が始まる。

この日の僕の対戦の順番は、マルセル対僕、リー対僕、休憩を挟んでジャッキー対僕となった。

「っしゃあ!この前はギリだったからな!手加減なしで行くぞ!!」

マルセルは僕と対峙すると、みずからの拳と拳を叩き合わせ、意気揚々としていた。

「僕も手加減しないよ!!」

シミュレーション訓練と組み手は空気感が違う。シミュレーション訓練と違い、組手は相手が人間なだけあって戦いの最中の相手の呼吸、表情など様々な情報が得られる。僕は組み手の方が好きだった。

ブザーが鳴り、戦いが始まる。

『片割れ鋏』のシミュレーションを始めるようになって、相手の拳の動き、蹴り、その他さまざまな情報を見ることができるようになってきた。そして、いかにして受け流すか、どの攻撃は受けてどの攻撃は躱すか、その判断を即座に行うことができるようになった。

マルセルが僕に向けてパンチを繰り出してくる。僕はその時、彼の重心が少し前にずれたのを見逃さなかった。

「!!!」

僕はその勢いを利用し、マルセルに一本背負いを決める。

奇麗に決まった一本背負いだった。マルセルをそのまま床にたたきつける。

「………見事」

「……ありがとう」

僕はマルセルに手を差し出す。マルセルは肩をすくめて、僕の手を掴み立ち上がった。

「いやぁ〜〜フェルディ、成長するの速すぎだろう!もう追い抜かれちまったよ!!」

「はは…ギリギリの差だよ今のは、そんな変わんないって」

「いや、マジで強くなってるよお前。正直、会った時とはもう別人だぜ。ロブエ族ってやっぱすげ〜なぁ!」

僕の謙遜に、マルセルは口惜しさとうれしさが混じったような顔をして反論する。

「ま!でも俺も負けっぱなしでいるつもりはないからな!もう一本やろうや!!」

マルセルは元気にそういい、構えを取った。

「もちろん!!」

僕もそれに応じて、構えをとる。道場にブザーが高らかに鳴った。



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全体の戦績。マルセルとは4対1、リーとは3対2、ジャッキーとは5対0。ジャッキーが鬼強い。

ジャッキーは「まあ私だからね!」とか訳の分からない理由を言って胸を張っていた。

リーと張り合えるくらいには強くなってきていた。正直とてもうれしい。

午前の訓練を終え、みんなで食堂に向かう。食堂で僕はハンバーグ定食を頼んだ。カウンターから定食を取り出し、みんなで同じ席に着く。

「フェルディ、強くなったね」

「だよなぁ!気づいたらこんなに強くなってるなんてよぉ!マジで負けてられねえぞ!!」

「ほんとにそう!すごいよフェルディ!」

みんながめちゃくちゃ褒めてくれる。僕は恥ずかしくなり、ろくに返事ができなかった。

「ところでさ、明日みんな暇?」

ジャッキーが僕を含む三人に尋ねる。

「まあ、私は」

「俺も暇だぜ!」

リーとマルセルは暇みたいだった。僕も訓練と……あと最近読みだした「極道の下っ端が異世界転生!〜ボンキュッボンエルフギャング編〜」を読む以外には特にやることがない。この本、ギャグマンガとエロマンガと推理マンガの3方面を網羅していて読んでいて全く飽きないのだ。非常におすすめ。

「僕も暇だよ」

「極道の下っ端が異世界転生!〜ボンキュッボンエルフギャング編〜」の魅力は置いておいて、僕もジャッキーに明日の予定は空いていることを伝える。ジャッキーの顔が明るくなった。

「じゃあさじゃあさ!明日ちょっとランチバークに行かない!?久しぶりに買い物に行きたかったんだけど、せっかくならみんなで行こうかなって!」

ランチバーク。エラムの首都のことだ。

「いいね、僕行ったことないし、一回見てみたい」

「おお!いいぞいいぞ!俺も行きてえ」

「うわ〜〜〜どうしよう、行きたいところ結構ある……あとでまとめとくか〜…」

僕以外の二人もかなり乗り気みたいだ。リーなんて今スマホを取り出していきたい店をリストアップしてるみたいだ。気が早すぎる。

「よっし!じゃあ明日、9時にここを出よう!それまでに下のエントランス集合ね!!」

ジャッキーが明日の予定をきめ、みんなそれに同意した。僕たちはその後、明日どこに行きたいかについてで話が盛り上がった。





午後の訓練も滞りなく終わり、僕たちは夕食を取った後食堂で解散した。

ボスにはこてんぱんにやられた。あの人はロブエ族だろうとT型生命だろうとと関係なく蹂躙できるだろう、それだけの力を毎度感じさせられる……いわゆる、本物ってやつだ。

そんなボスにも、「強くなったな、フェルディ」と褒められた。僕は今気持ちがルンルンである。

そんなルンルンの足取りで向かった場所は、図書室。

貸し出し返却の管理を全自動で行っているため24時間使用することができるが、夜9時を過ぎると室内の明かりが若干暗くなる。通路が見えなくなるほどではないが、背表紙に記されたタイトルは読みづらい。

僕は手元にあったスマホの懐中電灯機能を用いて背表紙のタイトルを確認した。

そして、僕は探していた本を見つける。

表紙には『ぶらりん』とレタリングされた文字が大きく書かれ、背景として沢山のビルが乱立した、ヘリかドローンかでとったであろう写真が掲載されている。「必見!ランチバークおすすめ観光スポット10選!今、行くならココ!」などなど、興味を惹かれるサブタイトルがたくさん羅列されていた。

言うまでもなく、これは観光案内の雑誌だ。明日のランチバークに行く前の予習だ。

予習、といってもそこまで真剣に見ていきたい場所を決めるわけではない。みんなそれぞれ行きたい場所はたくさんあるようだったので、僕はそれに合わせようと考えていた。

であれば、こんな雑誌は必要ないと思うだろうが、僕はいかんせんランチバーク……というよりはエラムについての知識が乏しすぎる。その知識を埋め、当日の行動に支障をきたさない程度には知ろうと思ってこの雑誌を借りに来た。

とりあえずこの雑誌を借りに行こうとして受付カウンターの方へ向かう。すると、見たことのある顔とすれ違った。

「おや、あなたは………ええと、フェルディさん、でしたっけ。」

「………そうです」

黒髪のおかっぱボブ。顔立ちの整った歳上っぽい女の人。ガラディーナでリーと険悪な雰囲気を醸し出していた人だ。

「ごし…えー……あ、キリル女史から話は伺っています………あ、ええ、そうですね。ロブエ族出身で、とてもやさしい方だと。」

咳払いをした。

「……そ、そうですか。」

彼女は僕が緊張……というか警戒しているのに気が付いて、すみません、と軽く頭を下げた。

「……初対面の印象があまりよくなかったかもしれませんね。彼女とはそこそこに古い仲なので。私は誰にでもああいう態度というわけではないです」

「あ、いえ!僕の方こそ……反応が薄くてすみません」

「……自己紹介が遅れましたね。私、名前をソフィアといいます。以後お見知りおきを。」

「あ、はい。僕はフェルディです」

「ええ。自己紹介ありがとうございます。ところで話は変わりますが、この時間に図書館に来るのは珍しいですね……?」

彼女は僕の手に持っていた本を覗き込むように見る。

そして、なにか納得のいったようなしぐさをして、こちらを見ながら何やらニヤニヤし始める。

「あぁ……なるほど………へぇ?」

「……えっと…一応変な誤解をされるのも困るんで言いますけど、明日機動班の4人でランチバークに行くんでこれを借りようかと」

「あ、いえいえ……特に何もないですよ?ランチバークはいいところですよ…楽しんでください」

ソフィアは一つお辞儀をし、そのまま奥へと進んで行った。

僕もソフィアの進行方向とは逆に歩き出す。

悪い人ではなさそうだったが……少し変わった感じというか、雰囲気が不思議な人だった。

僕はそのまま本を貸し出し、自室へ戻った。
21/09/27 02:10更新 / Catll> (らゐる)
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