連載小説
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13
ジャッキーが本を自室に置きに行った後、昼食をとりに僕とジャッキーは二階の食堂に向かった。僕もジャッキーも日替わり定食を頼んだ。麻婆豆腐丼とサラダだ。
席に着き、昼食を取り始める。
「そういえばさ、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「……7階に行ったら、鉄製の見慣れない扉があったんだよ。スマホをかざせって書いてあったからやってみたんだけど、閲覧権限がありませんって言われて跳ね返されたんだ。あそこって何があるの?」
ジャッキーは麻婆豆腐を口へ運び、飲み込んでから答える。
「私もあそこの中には入ったことがないっていうか、入れなくてね。いつかにボスに聞いた話だと、あそこにはエラムの今までの戦争の記録とか、機密事項が保存されてるみたいだよ。なんか入れない部屋があるとわくわくするよね!」
機密事項。中に何が入っているのか、確かにとても気になる。
「あそこの中に入れる人は本当に限られてるみたい。ボスは入れるみたいだけど…『入る必要のない人間は入らない方がいい』だって。そういわれると気になるよね〜」
「気になるね。何が入ってるんだろう…」
どうやらあの扉の中の話はあまり周りの人からは多く話を聞けないみたいだ。
僕たちは話題を変え、たわいもない話をして昼食を終えた。

食堂を出て、一緒に自室付近まで行くと、僕はジャッキーにレイラと明日の打ち合わせがあるといって別れた。レイラとはそこまで仲良くできてないから二人だけでしゃべるのは気が重いが、仕方ないと割り切って、レイラの部屋のインターホンを鳴らす。
しばらくすると、レイラが中から出てきた。
「………戻ってきてたんだ。お疲れ様」
「あ、うん。ありがとう」
「…………」
「…………」
沈黙。非常に居づらい空気だ。
僕はレイラに合う目的を思い出し、明日の打ち合わせについて話す。
「明日さ、鍛冶師?のところにレイラと一緒に行くみたいな話をボスにされたんだけど…」
「…あぁ、そうだった。なんかボスからメール来てた。そうだね…立ち話は疲れるしさ、…フ………フィ……ぁっ、フェルディの部屋に行ってもいい?」
まだ名前を覚えてもらってないみたいだ。
「あ、うん。じゃあ僕の部屋に行こうか」
レイラと僕は僕の部屋に移動する。
「へぇ……見た感じ来た時とあんまり変わってないね」
「まあここにきてからまだ時間経ってないし、あんまり自室にいなかったしね」
レイラはそれもそうか、と納得した素振りを見せる。
レイラはデスクの椅子に腰を下ろす。僕はベッドの上に座った。
「明日は朝九時に一階エントランス集合でいい?」
「あ、うん。じゃあそれで」
「武器が届くのは鍛冶師…ダニールに会ってからだいたい一週間後。まあなかなかにくせのある奴だから覚悟しておいた方がいいよ」
「クセがあるのか……」
余計に会うのが億劫になってきたなぁ…
「まあ仕事は一級品だからそこは安心していいよ」
「レイラもその人に武器を作ってもらったの…?」
「まあ。てか、みんなダニールに作ってもらってるよ。ボスの古い知り合いらしい」
ボスつながりで作ってもらってるんだ。顔が広いんだな、ボスは。
「全然違う話だけど…レイラは暇な時は何をしてるの?」
うわ。すっごい嫌そうな顔してる。事務仕事以外はあまり関わりたくないって感じがひしひしと伝わってきた。
「……まあ、ゲームとか、シミュレーション訓練とか、気分次第…」
「そのシミュレーション訓練ってさ、ボスも言ってたけどどこでやるの?」
僕が尋ねると、レイラは驚いた顔をした。そしてすぐに目つきが悪くなる。
「……あのクソボスそんなことも教えてないのか…」
声低っ!怖っ!!
レイラは一つため息をつくと、椅子から立ち上がった。
「わかった。私が案内するよ。ついてきて」
そういうと、レイラさっと僕の部屋を出ていく。
「あっ!まってよ〜…」
僕もあわてて、レイラの跡を追った。

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レイラに付いて移動した先はいつぞやの武道場だった。
「ここって…」
「そう。この前組み手をした武道場。この武道場にはいろんな機能が備わってる。その一つがシミュレーション訓練」
そういってレイラは手元のスマホを操作すると、あたりが一面草原へと早変わりした。日差しや青空、土の大地、雑草、風、見るもの感じるものすべてが本物のように感じた。
「まさかここって外じゃ…ないよね?地下だし。」
「そう。スマホの中に『ツール』ってアプリがあるでしょ?ピンクのアイコンに白い鉛筆マークが書かれてるアプリ。その中にある『武道場』って欄を押すと、いろいろメニューがあるから」
レイラに言われた通りスマホを開き、アプリを確認する。アプリを開くと、確かに武道場の欄がある。タップして詳細を確認すると、様々な天候やシチュエーションをカスタマイズすることができるみたいだ。
「あと、ここ。『敵性個体』では相手にする敵をシミュレーションで投影して戦うことができる。調査班が私が倒したT型生命体のデータを基に作ってるから、本物に限りなく近い性能の相手と戦うことができるよ」
レイラが手元のスマホを操作すると、草原の中に人が現れた。
「………!!!」
そいつの顔は、この前対峙したヤツだった。
「安心して。あくまであれはダミー人形にホログラムをつけたやつ。こうやって過去に退治したT型生命体や、ランダムでAIが作成した疑似T型と戦うことができる。」
「…すごいな」
「あと、無限に草原が続いてるように見えるけど、少し離れたところに柱が立ってるでしょ?そこがこの武道場の壁にあたるところになるから、柱に囲まれた外に行ったらダメだよ……まあ出ようとしても見えない壁に当たるだけだけど」
レイラはスマホを操作して、シミュレーションを終えた。元の武道場の姿に戻る。
「これを使ってみんな戦えるようになったから、しばらくはこの機能をつかうといいよ」
「…ありがとう。頑張ってみるよ」
「じゃあ、私はこれで。明日、時間に遅れないようにしてね」
「あ…ちょっと待ってよ」
「…………まだ何かあった?」
レイラが武道場を出ていこうとするところを引き留める。別段放さなければいけないことがあったわけではなかったが、何となくで呼び止めてしまった。
「……えっと…」
「…………」
「そ、そうだ!ダニールって人はさ…どんなところがクセあるの?」
苦し紛れに会話を繋ぐ。レイラはあまり話すことがなかったので、距離感がつかみにくい。
でもここで仲良くなっておくべきだと思った。
「まあ、ぱっと見は面倒見のよさそうな爺さんだけど……何でも見透かしたかのように話してくる」
「見透かす?」
「そう。見透かしてくるんだよ。私の身体能力、過去の記憶、今の気持ち…全部筒抜けになるから、私はあまり好きじゃない」
確かに、そういう見透かしちゃうような人とレイラは性格が合わなさそうだな…
「ああでも勘違いしないで。決して悪い人じゃないから。むしろ人をそこまで見透かして、それでも普通に話してくれるあたり、あいつは優しい人間なんだと思う」
「なるほど……」
すべて見透かす人か。ますます明日会うのが緊張してきたな…
「まあ、そんな気負わなくていいよ。普通に会って話すだけだから」
レイラはほかにはいい?と尋ねてきたが、僕がもう大丈夫と答えたので、武道場を去っていった。
まだ夜までは時間がある。僕は先程レイラに教えてもらったシミュレーション訓練を行って、夕食までの時間を潰した。
21/09/11 21:10更新 / Catll> (らゐる)
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