読切小説
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亡浮(もうふ)
「君が好き」

その「君」と呼べる相手が、誰なのか。僕は分からなかった。





突然、身体の感覚が戻ってきて、冷たくなった両手の先を毛布に包む。
鳴り止むどころか音の間隔が早くなる「ピピ-ピピ」という音にうんざりしながら、包んだばかりの手で、目覚まし時計を止める。

「スッ」という寒気に首だけで振り返る。勿論誰もいない。

ビビりすぎだと呆れていると、毛布を解いたはずの両手が不意に温まる。
その優しい感覚に懐かしさを覚え、目を閉じる。

この手を握る人を、僕は一人しか知らない。

耳元で「君」が何か囁く。小さすぎる囁きに耳を澄ませ、聞き取ろうとする。


「………………」


目を開けた先には、誰もいなかった。










君は、いなかった










何かが唇に触れる。何かが身体を抱きしめる。何かが涙を流す。掠れ声は聞き取れなくて。代わりに、きっとこんな事かと予想し、僕は呟く。




「好きだったよ」





感覚が消えた。
焦燥感のみが、頭を巡る。体を毛布に包み、目を瞑る。
17/04/26 22:02更新 / 浮空

■作者メッセージ
文章中で君と呼ばれていた人は、先日失ったばかりの異性の友人でした。

天へ旅立つ前の、最後のお別れをしていました。

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