連載小説
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「……」
幻想郷、人間の里の近くの森。そこには誰もおらず、木の幹や床に血が飛び散っており…地面には生きていた者達の残骸が転がっている。
その森の中で天使達がいて、森の中を見回りしている。生き残りがいないか、探っているのだ…。

見回りしている天使の1体が、近くの天使に近づく。
「Exist?」
「No.」

どうやら、森の中で生存者を見たかどうかの確認をしているようだ。お互い見なかったようで、もうそろそろ引き上げようと他の天使達に召集をかけようとする。


ガサッ…


「…What?」















文「いいですか、皆さん。」
避難所にて、今戦える人達を集めて文が皆の前に立つ。

文「あの天使を自称する集団は、ただ闇雲に攻撃しても倒すことはできません。ある意味、不死身と言ってもいいでしょう。」
レミリア「何よ、奴等の倒し方がわかったって言うから話を聞きに来たのに。」
文「まぁ、最後まで話を聞いてくださいレミリアさん。」

話の途中でそう口にするレミリアを軽くなだめ、再び皆の方を向いて口を開く。

文「ただ、奴等には"弱点"があります。」
鈴仙「弱点…?」
文「えぇ…」





茂みから飛び出したチルノが、氷の剣を手にしており目の前にいる天使を睨みながら剣を振り上げる…

文「奴等には共通して、思念石という結晶のような石が体の何処かについています。それこそが奴等の弱点、それさえ破壊できれば…」

チルノ「はぁぁあ!!!」
天使の肩にある思念石目掛けて振り下ろし、命中。思念石は天使の体から離れ、空中で砕けながらそのまま地面に落下する。
思念石を失った天使は、そのまま倒れて消滅する。


文「奴等を倒すことができます。」

「…!!!Raid!!!」
チルノの存在に気づいた天使達が、チルノの前まで移動してそれぞれ所持している拳銃の銃口を向け、引き金を引こうとする。


アリス「でも、弱点がわかってもそう簡単に壊させてくれないでしょ?」
確かにそうだ。弱点を見破られたとわかれば何かしらの対策を立てられる。それにあの天使達の持つ拳銃…妖怪相手でも一撃で致命傷を負わせる程の威力がある上、奴等は単独で動かず団体戦をする。思念石を狙うのは難しいだろう…。


文「えぇ…確かに正面から戦えばこちらがやられてしまうでしょう…そこで、私に案があります。」




突如、チルノの周りに砂煙が舞う。砂煙が上がったことによって、チルノの姿が完全に隠れてしまう。
「…!?」
砂煙が上がったことに驚きはするが、自分達が狙う獲物は目の前にいる。その場にいる天使達が目の前の砂煙に向けて発砲する。


文「奴等の持つあの銃は、高火力の散弾を放ちます。威力は…妖怪でもまともに受ければ致命傷か絶命…。ですが、そんな弾幕が何発も撃てるわけではありません。」



カチッ カチッ

「empty…!!」

どうやら、チルノに向けて全員全弾撃ちきってしまった様子。
弾幕を放ったことにより、砂煙が晴れていく……が、そこにチルノの姿がない。


文「私が見た限り、拳銃一丁の弾数は2発…撃ちきってしまうとリロードに時間がかかるようです。」

こいし「なるほどね…だから、単独で動いてなかったんだ。」
そう、通常の天使は必ず複数で固まって行動し、一人の獲物を確実に仕留める。銃の欠点を補うために…。


文「そうです。ですから、奴等に全弾撃たせてしまえばいいんです。そうすれば、奴等は隙だらけ…」


天使達の背後に隠れていたアリス達が、天使達の思念石を正確に撃ち抜いて消滅させる。
それに気づいた他の天使達が接近ししてきており、銃口を向けている…が、再び砂煙が舞う。その隙にアリス達はその場から離れる。

文「奴等に無駄撃ちさせるために、上空から地面に向けて弾幕を放ち砂煙を上げましょう。あの銃、そうでなくても総弾数が4発しかない上、視界が悪い環境では不向きですからね。それと、奴等の近くの茂みに石を投げて無駄撃ちさせましょう。」


ガサッ……

「Die…!!!」


ドォンッ!!!


茂みからした音を聞き逃さず、その方向目掛けて発砲する。だが、何かに命中した様子ではない。

「fake…?」
こいし「こっちだよ。」

ドォンッ!!!


その直後、背後にいたこいしに撃たれる。手には天使が持っていた拳銃があり、それで撃った様子。恐らく、倒された天使から奪ったのだろう。

こいし「強いけど、反動もすごいなぁ…調整できないかな?」

同じ方法で、こちらに近づいてくる天使達を倒していく。上空で弾幕を飛ばして砂煙を上げてる文が地上を見下ろし、全体を見ている。天使の数は減ってきているものの、まだ数は多い。天使が固まっている場所を確認すれば、自分と同じように砂煙を上げてる仲間の方を向き。

文「こちらは任せます、私は向こうの天使を一掃してきます。」
そう伝えると天使がいる方へと飛び、手には黒い思念石が握られている…握っている手の甲に「Fly Lv3」と、影のような物でそう書かれている。


不屈…私の中にある不屈の思念…それを、限界まで高める……!

すると、文の持つ思念石から影で出来た鴉が現れ、文を覆うと黒装へと姿を変える。


文「さぁ、本気でいきますよ…!!」
背中から黒い翼を生やし、地上にいる天使達目掛けて空中から黒炎の羽を複数飛ばす。被弾した天使達の体を黒炎が燃やしていき、やがて思念石に炎が移りそれと共に天使が消滅していく。

「Lv3…!?」
黒装化した文を捉えた天使が、文のレベルに驚いている。こちらもかなりの数がいる…だが、全員通常の天使。いくら数がいても、文の手によって全滅させられることは明白。文を討伐することより、天使を多く逃がすという選択をとり拳銃を向ける…だが、文が何処にもいない。

「…!?Where!?」

その直後、横から飛んできた文の飛び蹴りが思念石に命中し、そのまま木に叩きつけられる。思念石は砕け、天使が消滅する。
文を捉えた天使達が拳銃を向けるが、向けた頃にはもう文の姿がない。そして、文を探すよりも前に的確に思念石を狙った攻撃が命中し、消滅。文は幻想郷最速と呼ばれる程の速さを持っている上、黒装化によってそれらが強化されている。天使達に引き金を引くことすら許さず倒していく…。








その頃、チルノ達は連携によってこの場所にいた天使達をほとんど倒していた。文の言った通り、弱点としっかりとした作戦さえあれば簡単に倒せてしまう相手だ。
そして、最後の1体をチルノが討伐する。

「…やった…やったぞ!!」
「勝ったんだ…!私達の勝ちだぁ!!」

脅威と思われた存在に、自分達の力で勝てた…その現実に、その場にいた者達は喜び合い、歓喜の声を上げていた。
氷の剣を持ったまま、静かに立っているチルノ。勝てたという実感がまだないのかは不明だが…そんなチルノの肩に、誰かが手を置く。振り向けば、そこにはアリスがいてこちらを見ている。

アリス「…やったわね、チルノ。」
そう、一言だけ発して優しい微笑みをチルノに向けた。チルノは静かに笑みを浮かべて頷き、結んである大妖精のリボンを見る。

大ちゃん、見てた?あたい達、勝てたよ。アイツ等に勝てたんだ…見ててね、大ちゃん。必ず、あたいがアイツ等をぶっ倒して、幻想郷救って…

ガサッ


チルノ「…!!」
近くの茂みから、物音が聞こえた。その場にいた全員が固まり、音がした方へ向く。
茂みにいる何かがこちらへ出てこようとしているのがわかり、獣のような唸り声も上げている…。姿を現したソレは、白く獣のような姿をした何か…恐らくは、天使達の仲間だろう。
チルノはその獣を見た瞬間、呼吸が荒くなっていき様々な映像が脳裏を過る。魔法の森の中に転がる、切り裂かれた妖精達の遺体…目の前の獣に似ている天使に喰われていたルーミア……そして、目の前で殺されてしまった大妖精…。


気づけば、目の前の獣に向かって走っていた。うまく言い表せない感情が、体の奥底から溢れ出てきている…この感情は何なのだろうか?親友を奪われたことへの怒りか、それとも親友を奪ったこの天使達への恐怖なのか…。


チルノ「うあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


だが、理性が理解する前に本能が理解した。「早くコイツを殺さなきゃいけない」と…。
獣に攻撃が届く距離まで詰め、氷の剣を振り下ろす。その刃は獣との距離を縮めていく…が、獣に届くことはなかった。まるで刃のような爪で切られ、氷の刃を宙を舞う。そのままもう片方の腕でチルノに攻撃を仕掛けようとする…

アリス「チルノ!!」
チルノに爪が命中する一歩手前で、アリスの指から放出した魔力糸に引かれ強制的に後退し獣の攻撃から免れる。
アリス「落ち着いて、チルノ!真正面から戦ったらダメよ!」
そう言うとアリスを含め、その場にいる全員が戦闘体制に入る。

「さっきの奴等とは違うけど、この作戦が通用するはず!」
空にいる者達が獣の周りの地面目掛けて一斉に弾幕を放ち、砂煙を上げる。

「よし、コイツも早く倒して…」
「ぐあぁっ!!」
「!?」

近くから仲間の悲鳴が聞こえる。その方向を向けば、獣がこちらに向かって走ってきており爪で切り裂いてくる。
次々と、仲間達に攻撃していく獣…

こいし「なんで!?砂煙の中じゃ、何も見えないはずなのに!」
アリス「…獣……まさか、音と臭いだけを頼りにして…!?」

ただ意味もなく獣姿をしているはずがない、獣のような五感と優れた身体能力が備わっていると思われる。
この状況が逆に不利になってしまい、次々と仲間が攻撃されていく……。
それを、絶望に似たような瞳で見ているチルノ…







まただ……また、アイツ等に奪われる…。

結局…あたいは何もできないの…?もう、誰も失いたくないのに……何もできないの……?

目の前でやられている者達が、天使達にやられてしまった妖精達と重なって見える…。

…やっぱり、あたいは"最強"じゃないの…?


文が思念石を見せていたことを思い出す。
すると、静かに立ち上がり


…あたいも、あんな力が欲しい。

どんな敵でも、倒せる……






獣が何かに気づき、その方を向けば影で出来た少女が迫ってきており、蹴飛ばす。かなりの力だ…シルエットだが、なんとなく大妖精に似ている。
その影がある方向へと走る…その先には、右手が思念石に覆われたチルノが立っていた。
チルノと影、お互い右手を構えながら距離を縮めていく。




"最強"の力が…欲しい…!!



お互いの拳をぶつけると、黒い爆撃が起こる。
その爆風の中から飛び出してきたのは、黒装を纏ったチルノだった…。



つづく




〜おまけ〜

『エレンの幻想郷滞在記録』


アルヴィン「いやぁ、日が落ちると少し寒くなってきたねぇ。」
もう日が落ち、外には無限の暗闇が広がる中…アルヴィンはキッチンに立って何かを作りながら呑気なことを言ってますね。先程ざっくりとしたことしか話してませんが、外では戦争真っ只中なのに……危機感というものがないのでしょうか。…おまけに、私の嘘を鵜呑みにして家に入れてますし…。

にしても、何を作ってるのでしょうか?甘い匂いがしますが……。


アルヴィン「ココアを淹れたよ、一緒に飲もう?」
アルヴィンがココアが入ったマグカップを二つ持って、こちらに戻って自分とエレンの分をテーブルに置く。

…先程の匂いの正体はコレでしたか…。

アルヴィン「昔はね、よく娘と一緒にココアを飲んでたんだ。娘がこのココアが好きでね…よく美味しそうに飲んでたよ。」
当時のことを思い出しながら、視線を棚…棚の上にある、自分とや娘、妻の写真が入った写真立てに移っていた。エレンもそれに気づき、そちらへ視線を移す。


…あの写真に写ってるの、アルヴィンでしょうか。ずいぶんと若いですね……その横にいる女性がアルヴィンの妻…そして、その間にいる子供が娘ですね…。

写真の中にいる娘と、近くの鏡に映る自分を見比べるエレン。


……確かに、髪型や顔…見た目年齢も近いし似てますね……ですが、雰囲気が全く違う。自分で言いますが、こんな無表情で顔のほとんどがマスクで隠れている私を、よく娘と重ねようと思いましたね…。写真を見た限り、アルヴィンの娘は明るい子だったんでしょう…。



軽く目を閉じて正面に向き直り、ココアを飲んでるアルヴィンを見ながらマグカップを手に取る。


やはり、よくわかりませんね。"心"という物は……














…甘っ……。



つづく

22/01/25 19:01更新 / 青猫
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