読切小説
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終わらない赤ずきん




皆さんこんにちは、青猫です。
皆さんは、「メビウスの輪」という物をご存知ですか?メビウスの輪とは、表側がいつの間にか裏側に。表側は裏側の連続という意味だそうです。簡単に言えば、メビウスの輪は「8」のような形をしており、ペンでなぞればスタート地点に戻る…そのことから「終わりのない」という意味も持つようです。
さて、私が今回お話しするのは「赤ずきん」のお話。ですが、私が話す赤ずきんは少し違います。普通の話をしても、面白くないでしょう?
それでは、お待たせしました。赤ずきんの始まりです。




















…………………

瞼をゆっくり開けると、そこには見慣れた天井が広がっていた。窓から日の光が射し込む…
その少女…赤色の頭巾を被った少女は、ベッドで眠っていた。近くにあった目覚まし時計を見ると、11時を指していた。

「……ちょっと転んだつもりだったけど、いつの間にか寝ちゃってた…」
ベッドの上で体を起こして、ベッドから下りる。すると、その少女の部屋の扉から、コンコンと扉を軽く叩いたような音が聞こえた。その直後に、声が聞こえてくる。

「マリー、ちょっとお使いを頼んでもいいかしら?」
その声は、自分の母親の声だった。その赤色の頭巾を少女は、扉を開けた。
母親「実はね、森に住んでいるおばあちゃんが、風邪を引いたらしいの…だから、これを届けてほしいの」
母親は、少女にかごを渡した。そのかごの中には、リンゴとパン、ブドウ酒が入っていた。
「うん、わかった。」
少女は頷いた。
母親「ありがとう、マリー。森には狼がいるから、気をつけて行くのよ?あと、寄り道はダメよ?」
「わかってるよ、ママ。それじゃあ、行ってきます」
少女は、家から出ておばあさんの家を目指して歩いた。

紹介が遅れた、この赤色の頭巾を少女は「マリー・メビウス」という名前だ。いつも赤色の頭巾を被っているため、家族以外には「赤ずきん」と呼ばれている。
現在彼女は、森の中を歩いている。先ほど受け取ったかごを、手にかけている。おばあさんの家は、そう遠くはない。この道を真っ直ぐ進めば、おばあちゃんの家に着く。ただ黙々と歩いていた……
すると………





狼「やぁ、赤ずきんちゃん」
すぐ近くの草むらから、狼が現れた。ニコニコ笑いながらこちらを見ている…感情豊かそうに見えるが…自分の母親に「狼がいるから、気をつけて」と言われていたことを思い出す。

マリー「こ、こんにちは……」
狼「どうしたの?なんだか怖がってるように見えるけど……もしかして、僕の顔が怖い…?」
もしかしたら自分の顔が怖いのかと思い、少し落ち込みながら話す。赤ずきんは首を横に振って
マリー「狼さんの顔は、怖くないよ?」
と、相手を元気付けるようなことを言った。すると狼は顔をあげて、嬉しそうな表情になり
狼「本当?ありがとう、赤ずきんちゃん…君は、優しい子だね!」
と言った。そして狼は、マリーが持っているかごを見て
狼「赤ずきんちゃん、これからお使いに行くのかな?」
と聞いた。
マリー「えぇ、そうなの。おばあちゃんが風邪を引いたらしいから、これを届けにいくの。」
狼「…ふぅん…偉いね、赤ずきんちゃん」
先ほどと少し違う表情になったような…と思っていたが、狼がある方向を指差す。その方向を見れば、お花畑があった。
狼「お使いに行くなら、お花を摘んで行ってあげれば?きっと、君のおばあさん喜んでくれるよ」
と言った。確かに、この中に入ってるのは食べ物ばかり。お花を摘んで行ってあげれば、花瓶にも飾れるしきっと喜んでくれるだろうと思った。
マリー「ありがとう、狼さん。少し摘んでいくわ」
マリーはお花畑に行き、花を摘む
狼「どういたしまして…」
狼は怪しい笑みを浮かべて、森の奥へ進んでいった………



花を摘んでる最中、赤ずきんは思い出した。母親に「寄り道はダメよ?」と言われていたことを。
マリー「お花摘んでる場合じゃなかった…!」
マリーは先ほど摘んだ花をかごに入れて、さっきの道に戻っておばあさんの家を目指した。







少し歩くと、おばあさんの家が見えてくもり森の中にある、木製の一戸建ての家だ。
マリーはおばあさんの家の前まで来て、おばあさんの家の扉をノックする。
マリー「おばあちゃん、お見舞いに来たよ?」

…………………

マリー「おばあちゃん?」

…………………


返事が返ってこない。いつもなら返してくれるのに…
マリー「入るよ…?」
マリーは、扉をゆっくりと開けた。
マリー「…!」
マリーは目の前の光景を見れば、驚愕の表情を浮かべて手にかけていたかごを床に落とした。先ほど摘んだ赤色の花が、床に落ちる……
マリーが見たものは…




































狼の捕食現場だった。ベッドの上に上がって、おばあさんだった物を食している。ベッドにはおばあさんの血が流れており、周りも血や肉が散らばっていた…
マリー「…っ……!」
両手をおさえて、後退りした。おばあさんを食べてるその狼は……紛れもない、さっきまで話していた狼だ。狼の顔は、さっき見た感情豊かな顔じゃない。獲物を見つけたという……獣の顔をしていた。
マリー「あ…あぁ…ぁ……あああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
マリーは悲鳴を上げて逃げ出した。狼はそれと同時にベッドから降りて、マリーを追う。狼なだけあって、人間より速い…あっという間に、マリーに追い付いた。
狼は回り込んでマリーに飛び付き、その勢いでマリーは後ろに倒れてしまう。
狼はこちらにマリーに顔を近づける。歯に付着してる血が、マリーの顔に垂れ落ちる…マリーは小刻みに震え、恐怖で涙を流していた…
マリー「ぃ…いやぁ…殺さないで…っ………」
マリーは怯え、消えそうな声で命乞いをする。だが狼は、そんな命乞いを無視して口を大きく開く…

マリー「いや…いやああぁぁぁぁぁぁ!!!!」






















気がつくと、彼女は自分の部屋にいた。窓から日の光が射し込んでいる…
時計を見ると、11時を指していた。

マリー「…あれ……?」
マリーは周りを見回す。紛れもない、ここは自分の部屋だ。先ほどまで、自分のおばあさんの家の前にいたはずなのに……
マリー「…夢…なのかな……」
夢にしては、現実感があったような……そう思っていると、マリーの部屋の扉をノックする音が聞こえた。
母親「マリー、ちょっとお使い頼んでもいいかしら?」
と、自分の母親の声が聞こえた。扉を開けると、そこに母親がいた。

母親「実はね、森に住んでいるおばあちゃんが、風邪を引いたらしいの…」
マリー「…え……?」
母親「だから、これを届けてほしいの。」
と、母親はマリーにかごを渡した。かごの中には、パンとリンゴと、ブドウ酒が入っている。


マリー「………」
おかしい……いくらさっきのが夢だとしても、夢と全く同じことを頼まれて、かごの中身まで一緒………正夢か、それとも何かの前触れか…よくわからないが、嫌な感じがする………

母親「マリー?」
マリー「…あ、ううん!なんでもないよ、行ってきます!」
マリーは家から出て、おばあさんの家を目指して歩いた。

おばあさんの家へ向かう途中、夢で見たことを思い出す…狼に花を摘んで行けばと提案され、それに乗ってしまい…おばあさんの家に着けば、おばあさんの残骸と血が散らばる部屋の中、狼がおばあさんをむさぼり食う光景…それを見て逃げ出したマリーを捕まえ、食おうとした……

マリー「……っ…」
思い出しただけで気分が悪くなる…それと同時に、嫌な予感がする……その「嫌な予感」が何なのかは、具体的にわからない……
そのことを考えるのをやめて、前を向いて歩き続けた…














































狼「やぁ、赤ずきんちゃん。」



マリー「…!?」
それは、夢と同じで…突然現れた。それを見ていると、夢で見た光景が頭を過る…
あの感情豊かそうな顔…夢とまったく同じだ。あの顔で、狼本来の顔を隠している…
マリー「……っ」
マリーは、無視して狼の横を急いで通り抜けた。








ドスッ

マリー「…っ!?」
何かが突き刺さるような音が聞こえた……自分の体を見てみると、鋭くて長い爪が、腹部を貫いていた。爪はマリーの血で染まりき傷口から血が垂れ落ちる…

狼「酷いなぁ、無視するなんて」
真後ろにいる狼が、先ほどと変わらない声で言った…
意識が……遠くなっていく…………

























次に目を覚ました時…自分の部屋にいた。時刻は11時。マリーは自分の腹部を見たが、なんともない。
おかしい……何度もこんな夢を見て、次に目を覚ますと、同じ時間に自分の部屋にいる……
しかも、どれも夢とは思えない…現実感のあるものばかりだ……

コンコン…

マリー「!」
自分の部屋の扉をノックする音が聞こえた。母親だとわかってはいるが、身構えてしまう……母親は、まったく同じな発言をした……


母親「マリー、ちょっとお使い頼んでもいいかしら?」

夢で聞いた通りのことを言った。しゃべり方まで同じだ…
マリーは扉を見て固まったままだ。きっと出たら、お使いを頼まれるに違いない。そう、おばあさんのお見舞いを……
母親「マリー?」
返事は返さない、扉も開けないのでもう一度名前を呼ぶ母親。マリーは、返事をしない……いや、したくない。したら、お使いを頼まれて……そこからおばあさんが殺されるか、自分が殺されるか、…どちらかにしても、きっと自分の部屋に戻される………

母親「…寝てるのかしら……仕方ない、私が行ってこよう…」
母親は、部屋の前から移動して外に出た。マリーは部屋でこっそりその様子を見ていた。
これでいいかどうかは、わからない。少なくとも、自分が行けば誰かが死んでしまうから……誰も死なないことを祈っていた…そそれと同時に、こんな「現実」から、目を背けるようにベッドにある布団で自分を覆った……









キャアアアァァァァァァァッ!!!

マリー「!?」
突然、外から女性の悲鳴が聞こえた。マリーは体を起こして、窓から外を見た…
マリーの目にうつったのは………





























自分の母親が、狼の爪で貫かれている光景だった…
傷口からは血が垂れ落ち、地面に多量の血があった……狼は母親から爪をぬき、母親は力なく倒れた。
狼が、こちらを見て笑っている…また意識が遠くなっていく………


そこからマリーは、ずっと覚めない夢を見続けた。お使いを頼まれて、誰かが死んで、また自分の部屋に戻される…時刻は11時
何をしても、結果は同じだ……一体、何度ここへ戻されただろう?この夢を見て、どれくらい経つだろう……なにもわからない……夢の中で母親に話しても、信じてもらえない……
もう、どうしたらいいのか…わからない………


マリー「……」
マリーは、生を感じられない顔をしていた。またあの悪夢のような光景を見なければならない…いや、この夢そのものが悪夢だろう…
家の外に出た…ふと、視界にある物が入る。それは、父親がいつも使っている斧だ…
マリー「…」
マリーは、それに近づいた。そこで、マリーはあることを思い付く…
もし……














自殺したなら……どうなるのだろう…

狼に殺された時は、部屋に戻っていたが…今まで試したことはない。自殺は…
もしかすると、同じように部屋に戻されるだけかもしれない。だけど、これだけは一度もやってない……これでもし部屋に戻されれば、最後の希望も無くなることになる…
マリーは静かに、斧の刃を自分の首に当てる。そして…













ブシュッ

マリー「っ!」
マリーの首から血が吹き出し、斧を落とした。力なくその場に倒れる。自分が被ってる頭巾の色と、同じ色の血が地面に広がっていく…
マリーは、また意識が遠くなった……

次に目が覚めた時、見えたのは自分の部屋ではない…薄暗い空間にいた。
その空間に、自分以外にもう一人……いや、自分に似ている人がいた。赤い頭巾を被り、顔や体型もまったく一緒の…

「いろいろやってたね、抜け出すために……見てて楽しかったよ」
その自分そっくりの女の子が話しかけてきた。声まで一緒だ……
その人がこの夢を見せてる人なのか、それを聞こうと思ったが……

「"表"は…私が貰うね。」
そう言うと背を向けて、何処かへ歩いていく。どんどん暗闇に溶け込んでいく……

マリー「待って…!あなたがこの夢を見せてるの!?表ってなに!?
マリーは追いかけた…だが、追い付けずどんどん距離が離れていく。
すると突然、暗闇の中から光が現れ、それが広がった…
マリー「……!?」



光が無くなった時、見えたのは…自分の部屋だ。また、夢に戻ったのか……わからない。だが、それを確認する方法は一つある…

マリー「…時計…!」
時計だ。目が覚めた時、決まって11時になっていた。マリーはベッドにある目覚まし時計を手にとって、時刻を見た。現在の時刻は……





























10時。

マリー「…!」
マリーは、その場す座り込んだ。
マリー「よかった…夢から覚めたんだ……」
涙を流しながら、静かに喜んだ。
もうあんな悪夢を見なくていい、何度も繰り返される殺戮現場を、見なくてもいい…(そう思えば思うほど、涙が流れた。
やっと……いつもの…平和な日常に……!



































コンコン



母親「マリー、ちょっとお使い頼んでもいいかしら?」
























いかがでしたか?
私達人間は、気づかない内にメビウスの輪の中にいます。他の人から見れば、わかりますけどね。自分でメビウスの輪に入ってると気づいても…抜け出すときには、気をつけてくださいね?成功するときもありますし………























赤ずきんちゃんのように、失敗してしまうこともありますからね

本を閉じて、机に置いた。表紙が見える…



それではまたの機会に。それまで、お元気で。
















16/06/07 18:31更新 / 青猫

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