【艦隊これくしょん】休息には甘いものを【瑞鶴・翔鶴】
出撃の任務を終えた瑞鶴は部屋に戻る為、廊下を歩いていると見慣れた後ろ姿を見つけて、普通に声を掛けようと思ったが、途端にふつふつと沸き起こってきた好奇心。
「しょーかくねぇっ！」
ガバッと翔鶴姉の背中を後ろから抱きついた。
「きゃっ！ もう、瑞鶴ったら」
突然の後ろからの衝撃に、顔が見えない瑞鶴に「吃驚するじゃない……」と。
「えへへ、翔鶴姉の後ろ姿が見えたから、つい飛びついちゃった」
もう、しょうがない子ね。と嗜めるが姉は姉で妹が可愛く、それを拒んだりはしない。されるままである。
顔を翔鶴の背中に埋めながらぐりぐりとこすりつける。そんな瑞鶴に「今日は甘えん坊さんね」と柔らかくて優しい声が耳に届く。
「瑞鶴。怪我はしてない？」
「うん、平気ー」
ぎゅうと後ろから翔鶴姉の身体を抱きしめる。
体重をかけないように翔鶴姉の背中に少しだけもたれ掛かる。
「翔鶴姉って、私より少し背が高いよね」
「ふふっそうね」
姉妹だからかしら？ と翔鶴姉は言うけど船だった頃は同じ型の艦船で大きさも外見も一緒だった。今のこの人の姿になってからというもの、見た目はあまり似ていない。
背の高さも違うし、肌の色や髪の色、身体付きだって違う。
翔鶴姉は何時だって、私を守ってくれる。だけど私だって翔鶴姉を守りたい。
（ああー、翔鶴姉の身体、柔らかくて気持ちいいなぁ）
サラサラな銀髪を肌で感じながら、出撃していた疲れも抜けていくようだ。
そのまま暫く後ろから抱きついて癒やされていたら。
「瑞鶴？ やっぱり、どこか怪我でもしてるの？」
「え！？ ううん、何でもない！」
いけない、つい長く抱きしめてしまったようで翔鶴姉の声で我に返り、身体を離した。
できればもっとくっ付いていたかったけど。
「本当に？」
何時までも翔鶴の背中に抱きついたまま離れない瑞鶴の様子にもしかしたら「出撃で怪我をして、身体がつらいからずっと私にもたれ掛かっているのでは？」と心配した翔鶴がくるりと瑞鶴の正面に向き直り、真剣な表情で瑞鶴の身体を触れて確認していく。
どうやら余計な心配をさせてしまったようだ。できれば姉にはあまり心配をかけたくない。
「大丈夫だって、ほら！ 何処も怪我なんてしてないから！」
少しだけ大げさにぶんぶんと両手を動かして元気なのをアピールした。
その様子を見た翔鶴はほっとして、気遣いと不安を纏わせていた表情はふふっと笑い。
「……そう、よかった。おかえりなさい、瑞鶴」
両手を胸元の前に握り、ふんわりと微笑む。
何時もの優しい穏やかな笑みを瑞鶴に向ける。
（っ……〜！ ぐうかわ！）
この不意打ちの笑顔は反則である。この間、夕張と秋雲がTVアニメについて熱く語っている時に、ぐうかわという言葉を使っていたが、確かにぐうかわである！ぐうの音が出ない程、うちの姉は可愛い！
私と二人っきりの時にしか見られない表情、生まれた時から与えられた妹という立場の特権。私しか知らない姉の表情を独り占めにできる、それが凄く嬉しい。
「えへへ、ただいま！ それに今日はMVPだったよ！」
ふふんと、誇らしげに語る。
「まあ、凄いわ。瑞鶴、頑張ったのね」
細くて白い指で私の前髪をそっと優しく撫でてくれる。翔鶴姉に撫でられるのは好きだけど、別にくすぐったい訳じゃないのに、心がこそばゆく、温かい気持ちになる。とても幸せだなぁ。
暫く撫でられていると、そうだわ。と翔鶴が何か思いついたように言った。
「これから一緒に間宮に行って、甘いものでも食べ行きましょ。お姉ちゃんがご馳走するわ」
「えっ、いいの？」
「勿論。MVPのお祝いも兼ねて、ね。たまには私にお姉ちゃんらしいことをさせて頂戴？」
ちなみに私達は同時に鎮守府に着任して来た。
翔鶴姉が着任した後、数分も経たないうちにすぐ私も着任して来た為、翔鶴姉とはすぐに会うことができた。幸運艦の名は伊達じゃないってことかしら？
だから、二人の練度の差はあまりない。
「んーじゃあ、お言葉に甘えよっかな。でも嬉しいな、瑞鶴甘いもの好きだし、疲れも吹っ飛ぶよ！」
何より翔鶴姉と一緒に過ごせるのは嬉しい。
鎮守府内にある間宮に向かうべく、外に出る。季節は二月下旬、まだまだ寒さが堪える時期だ。はぁ、と吐いた息は白い。
人間の姿になって、こういった感覚があるのは不便である。
「わっ翔鶴姉の手ぇ冷たい」
「瑞鶴の手も冷たいわ」
間宮は鎮守府内の敷地ちょっと離れた所にある。天気は晴れているが外はまだ雪が多少積もっていた。
並んで歩いて間宮に向かう時にふと翔鶴姉の雪のように白くて、すべすべな手が目に入ったから左手を繋いでみたらその手は冷たかった。
「私はさっきまで出撃してたから。それよりも翔鶴姉の手の方が冷え切ってて心配」
握っていた翔鶴姉の手をそのまま自分のスカートのポケットに突っ込んだ。
これで少しは暖かくなるといいな。
「もう、瑞鶴は心配性ね。でもありがとう、暖かいわ」
心配性なのは翔鶴姉に似たんだよ、というのは言葉に出さないでおく。
私達が船の姿だった時は間違われてしまうくらい、そっくりな姉妹であったが、人の姿になってからはあまり似てないねと言われる二人。
「早く、間宮さんとこに行こうよ！ 瑞鶴、温かいぜんざいが食べたいなぁ。甘いの大好きだし」
「いいわね、私もそうしようかしら」
姉妹揃って甘いものが好きだったり、心配性な所。こういった所は似ているかもしれない。
でもなんだか可笑しくて、二人でくすくすと笑い合い、ポケットの中の温もりを感じながら間宮に向かうのであった。
「あら、瑞鶴さんと翔鶴さんも間宮に来ていたのね」
「こんにちは。赤城さん、加賀さん」
間宮に入るとすぐそこのテーブルに一航戦の二人が座っていた。
二人の顔を見て赤城さんは微笑む。
そんな二人に丁寧に挨拶をする翔鶴姉。
「げっ、加賀さん」
「こらっ瑞鶴！ すみません」
加賀さんがいることに気づくといかにも嫌そうな反応をする瑞鶴に翔鶴は慌てて頭を下げる。
赤城さんのテーブルの向かい側に座っているのはその相方である加賀さん、私の訓練を指導してくれる師……というのもなんだか癪だが、そう、師であるその人。
「ふふ、仲良しさんね」
赤城さんが言ってるその目線の先には瑞鶴のスカートのポケット。間宮に着いた後も翔鶴の手を繋いだままポケットに入れていたのに気づいて、慌てて手を離した……恥ずかしい。そんな恥ずかしさから気をそらしたくて赤城さんが食べているものに目を移す。
「……うわっ、こんな寒いのにアイスなんか食べてる！」
「冬に食べるアイスだからこそ、美味しいんです！」
キリッとした目で赤城は答えるが、瑞鶴は納得がいかないという面持ちだ。だって、冬にアイスよ？ どうして寒い冬にわざわざ冷たいアイスなんか食べてるのよ？ 大皿に盛ってある山盛りのアイスを赤城さんは物凄い速さ食べてどんどん減っていく、そんな赤城の様子に唖然として見ていると。
「これだから五航戦は……」
加賀が僅かに顔を顰める。
「ていうか、今それ五航戦関係なくない！？」
と加賀も赤城と劣らない量のアイスを無表情で食べている。
赤城と違って加賀は食べ方は律儀で綺麗なのだが食べる速度は異常だ。
だが瑞鶴は言わざるをえなかった。というか我慢できない。
「バッカじゃないの！？」
「ちょ、ちょっと瑞鶴っ」
「別に、どんな時期に何を食べようと五航戦の子には関係のないことだと思うけど」
加賀は目の前のアイスから瑞鶴に視線を移したりせず、無表情のまま瑞鶴にいう。心無しか食べている所を邪魔された為か「少し、頭にきました」と少しムッとした口調である。
「はいはい、邪魔して悪かったわね！ 全く、見てるこっちが凍えてくるっての！」
そんな瑞鶴に翔鶴は苦笑いしつつ、まあまあと宥めた。
しかし、あのお二方はあんな量のアイスをあんな速度で食べて、頭が痛くなったりしないのだろうかと疑問に思う翔鶴であった。
空いてる席のテーブルに瑞鶴と翔鶴は向かい合って座る。
「おっ、瑞鶴と翔鶴じゃん」
「二人も休憩？」
隣のテーブルには二航戦の飛龍と蒼龍が座っていた。
なんとなく二人が食べている見慣れない和菓子が目に入った。
「飛龍さんと蒼龍さんは何を食べてるんですか？」
一航戦みたいに仲が悪いという訳ではないけど、積極的に関わっているという訳でもないが。一航戦の加賀さんと違って、気さくに話してくれたりするのでこの二人とは話しやすかったりする。
「餅アイスだよ、間宮さんで冬限定でメニューを出すことにしてるアイスなんだよ」
「このモチっとした薄皮のお餅とアイスがまた美味しいのよ」
飛龍と蒼龍が答えて、瑞鶴はへえと感心する。冬にそんなアイスを出してるなんて知らなかった。
一見、大福に見えるそれは中にアイスが入っているようで、表面は薄い餅で覆われている品のようだ。
「さて、私達はもう食べ終わったし、そろそろ行こうか。間宮さん、お勘定ー」
「そうだねー、邪魔しちゃ悪いし。またね、お二人さん」
飛龍はニヤニヤと二人を見るなり手をひらひらと振って、蒼龍と一緒に席を後にしていった。
全く何なのか、蒼龍さんはともかく、飛龍さんはいかにも面白そうなものを見つけたような顔だったから何か引っかかるんだけど……。
「まあ、いいわ。そんなことよりも、早く頼みましょ」
そう言った瑞鶴は壁にかけてある木札のメニューを見る。
うーん、でも……ちらりと餅アイスの名前が目に入る。ごくりっ……どうしよう。なんか食べたくなってきちゃった。
お餅のアイス、どんな味がするのだろう。でもさっき一航戦にアイスなんか、と馬鹿にした後だから頼みづらい。でも、もう春は目の前だ。冬限定だからこれを逃したらもう食べることができないかもしれない。
「ご注文はお決まりですか？」
そんなこんなで悩んでいると間宮さんが温かいお茶とお絞りを持ってきてくれて、注文を伺ってきた。
「瑞鶴、何にするか決まった？」
「うん、ぜんざいにする」
最初からぜんざいを食べるつもりだったんだから別にいいのよ、うん。
ぜんざいだって美味しいんだから！
「じゃあ、私は餅アイスを……」
「えっ！？」
「はい、ぜんざいに餅アイスですね。今ご用意するので少しお待ちくださいね」
ご注文を承りました、とニコニコと間宮さんは厨房の中へと入っていった。
「翔鶴姉、ぜんざいじゃないの？」
「ええ、なんだか気になってしまって。それに瑞鶴も食べたがっていたでしょ？」
後で半分こして食べましょ？ とふふふっと笑う翔鶴姉。
別に食べたそうに顔を出したつもりはなかったのに、微笑む姉の顔を見ては、ああこの人には敵わないなぁ、と。
後ほど温かいお茶を飲みながら、のんびり待っていると、瑞鶴の前には粒餡のあんこと大きめなお餅が二つ入った温かいぜんざい、翔鶴には二つの丸い形をした白い餅に包まれた冷たい餅アイスが運ばれてきた。
「はい、瑞鶴」
翔鶴は食べやすいように付いてきた竹の楊枝で食べやすいようにカットしたものを刺すと、片手を添えながらそれを瑞鶴の口元の前に運んだ。
最初の一口くらい翔鶴姉が食べたらいいのに、もう……。
かといってそんな良心を無垢にはできなくて口を開けると、冷たいものが口の中に入ってくる。
噛むとモチっとした食感、包まれていたひんやりとした甘いバニラアイスが口の中で溶けていく。
初めて食べる感覚に。
「……おいしいっ！」
冬にアイスだなんて……と馬鹿にしたけど、前言撤回！ ごめんなさい！
この餅アイスって、すっごく美味しいじゃないっ！
予想外の美味しさにキラキラと喜ぶ妹の瑞鶴の表情に、翔鶴の顔も自然と綻ぶ。嬉しそうに食べる姿が微笑ましい。
「ふふ、よかった」
それから何度か餅アイスが口の中に運ばれて、二つあった餅アイスは残り一つになっていた。
「翔鶴姉も折角頼んだんだから食べなよ」
妹がとても美味しそうに食べる姿が可愛くて、つい夢中になって何度も食べさせてしまっていた。
「そうね、じゃあいただこうかしら」
そう言って食べやすいようにカットされた餅アイスが、翔鶴姉の綺麗な形の口の中に運ばれていった。
その動作だけでも上品に見える。
「……っ！ ほんと、おいしい」
「ね？」
初めて食べる食感に、翔鶴も口に手を当てて、そのおいしさに感動していた。
「こんなにおいしいのに冬限定だなんて勿体ないよね」なんで冬だけでなく夏にも出さないんだろうと瑞鶴は言うが本当に、こんなにおいしいのに冬だけなのは残念だな、と翔鶴は思ったが、冬にしか食べられないからまた特別に美味しく感じられるのかもしれない。
「はい！ じゃあ、私からも！」
自分で少し食べたぜんざいを「はい、あーん」と言いながら、匙に掬われた小豆と餅のぜんざいを翔鶴姉の口の目の前にまで運ぶ。
「でも瑞鶴……いいの？」
と顔を少し赤らめながら控えめに聞いてくる翔鶴姉。
翔鶴姉が先にしてきたんだし、これぐらい良いわよね？ 誰も見てないだろうし。
僅かに口を開けたその綺麗な口の中にドキドキしつつ、ぜんざいが消えていくのを見送る。
別に、姉妹同士だからそんなに緊張しなくても良い筈なのに、ああ、やっぱり翔鶴姉は美人だな、と思うのは妹馬鹿だろうか？
「うん、さすが間宮さんね。ぜんざいもとっても美味しいわ」
ひんやりモチっとした餅アイスとは違った心も体もほっこり温まる。もっちり腰のあるお餅に優しい甘さの濃厚小豆ぜんざいの味に翔鶴も口元が綻ぶ。
「翔鶴ねえ、今日はありがとう！ 出撃の疲れも吹っ飛んじゃった！」
勿論、間宮のお菓子も美味しかったけど翔鶴姉が側にいてくれるから力湧いてくる。
そうして、二人は間宮の甘味を心ゆくまで味わった、休息の一時。
今度は私が翔鶴姉に間宮さんのお菓子を奢ってあげようと、そう決める瑞鶴であった。
「しょーかくねぇっ！」
ガバッと翔鶴姉の背中を後ろから抱きついた。
「きゃっ！ もう、瑞鶴ったら」
突然の後ろからの衝撃に、顔が見えない瑞鶴に「吃驚するじゃない……」と。
「えへへ、翔鶴姉の後ろ姿が見えたから、つい飛びついちゃった」
もう、しょうがない子ね。と嗜めるが姉は姉で妹が可愛く、それを拒んだりはしない。されるままである。
顔を翔鶴の背中に埋めながらぐりぐりとこすりつける。そんな瑞鶴に「今日は甘えん坊さんね」と柔らかくて優しい声が耳に届く。
「瑞鶴。怪我はしてない？」
「うん、平気ー」
ぎゅうと後ろから翔鶴姉の身体を抱きしめる。
体重をかけないように翔鶴姉の背中に少しだけもたれ掛かる。
「翔鶴姉って、私より少し背が高いよね」
「ふふっそうね」
姉妹だからかしら？ と翔鶴姉は言うけど船だった頃は同じ型の艦船で大きさも外見も一緒だった。今のこの人の姿になってからというもの、見た目はあまり似ていない。
背の高さも違うし、肌の色や髪の色、身体付きだって違う。
翔鶴姉は何時だって、私を守ってくれる。だけど私だって翔鶴姉を守りたい。
（ああー、翔鶴姉の身体、柔らかくて気持ちいいなぁ）
サラサラな銀髪を肌で感じながら、出撃していた疲れも抜けていくようだ。
そのまま暫く後ろから抱きついて癒やされていたら。
「瑞鶴？ やっぱり、どこか怪我でもしてるの？」
「え！？ ううん、何でもない！」
いけない、つい長く抱きしめてしまったようで翔鶴姉の声で我に返り、身体を離した。
できればもっとくっ付いていたかったけど。
「本当に？」
何時までも翔鶴の背中に抱きついたまま離れない瑞鶴の様子にもしかしたら「出撃で怪我をして、身体がつらいからずっと私にもたれ掛かっているのでは？」と心配した翔鶴がくるりと瑞鶴の正面に向き直り、真剣な表情で瑞鶴の身体を触れて確認していく。
どうやら余計な心配をさせてしまったようだ。できれば姉にはあまり心配をかけたくない。
「大丈夫だって、ほら！ 何処も怪我なんてしてないから！」
少しだけ大げさにぶんぶんと両手を動かして元気なのをアピールした。
その様子を見た翔鶴はほっとして、気遣いと不安を纏わせていた表情はふふっと笑い。
「……そう、よかった。おかえりなさい、瑞鶴」
両手を胸元の前に握り、ふんわりと微笑む。
何時もの優しい穏やかな笑みを瑞鶴に向ける。
（っ……〜！ ぐうかわ！）
この不意打ちの笑顔は反則である。この間、夕張と秋雲がTVアニメについて熱く語っている時に、ぐうかわという言葉を使っていたが、確かにぐうかわである！ぐうの音が出ない程、うちの姉は可愛い！
私と二人っきりの時にしか見られない表情、生まれた時から与えられた妹という立場の特権。私しか知らない姉の表情を独り占めにできる、それが凄く嬉しい。
「えへへ、ただいま！ それに今日はMVPだったよ！」
ふふんと、誇らしげに語る。
「まあ、凄いわ。瑞鶴、頑張ったのね」
細くて白い指で私の前髪をそっと優しく撫でてくれる。翔鶴姉に撫でられるのは好きだけど、別にくすぐったい訳じゃないのに、心がこそばゆく、温かい気持ちになる。とても幸せだなぁ。
暫く撫でられていると、そうだわ。と翔鶴が何か思いついたように言った。
「これから一緒に間宮に行って、甘いものでも食べ行きましょ。お姉ちゃんがご馳走するわ」
「えっ、いいの？」
「勿論。MVPのお祝いも兼ねて、ね。たまには私にお姉ちゃんらしいことをさせて頂戴？」
ちなみに私達は同時に鎮守府に着任して来た。
翔鶴姉が着任した後、数分も経たないうちにすぐ私も着任して来た為、翔鶴姉とはすぐに会うことができた。幸運艦の名は伊達じゃないってことかしら？
だから、二人の練度の差はあまりない。
「んーじゃあ、お言葉に甘えよっかな。でも嬉しいな、瑞鶴甘いもの好きだし、疲れも吹っ飛ぶよ！」
何より翔鶴姉と一緒に過ごせるのは嬉しい。
鎮守府内にある間宮に向かうべく、外に出る。季節は二月下旬、まだまだ寒さが堪える時期だ。はぁ、と吐いた息は白い。
人間の姿になって、こういった感覚があるのは不便である。
「わっ翔鶴姉の手ぇ冷たい」
「瑞鶴の手も冷たいわ」
間宮は鎮守府内の敷地ちょっと離れた所にある。天気は晴れているが外はまだ雪が多少積もっていた。
並んで歩いて間宮に向かう時にふと翔鶴姉の雪のように白くて、すべすべな手が目に入ったから左手を繋いでみたらその手は冷たかった。
「私はさっきまで出撃してたから。それよりも翔鶴姉の手の方が冷え切ってて心配」
握っていた翔鶴姉の手をそのまま自分のスカートのポケットに突っ込んだ。
これで少しは暖かくなるといいな。
「もう、瑞鶴は心配性ね。でもありがとう、暖かいわ」
心配性なのは翔鶴姉に似たんだよ、というのは言葉に出さないでおく。
私達が船の姿だった時は間違われてしまうくらい、そっくりな姉妹であったが、人の姿になってからはあまり似てないねと言われる二人。
「早く、間宮さんとこに行こうよ！ 瑞鶴、温かいぜんざいが食べたいなぁ。甘いの大好きだし」
「いいわね、私もそうしようかしら」
姉妹揃って甘いものが好きだったり、心配性な所。こういった所は似ているかもしれない。
でもなんだか可笑しくて、二人でくすくすと笑い合い、ポケットの中の温もりを感じながら間宮に向かうのであった。
「あら、瑞鶴さんと翔鶴さんも間宮に来ていたのね」
「こんにちは。赤城さん、加賀さん」
間宮に入るとすぐそこのテーブルに一航戦の二人が座っていた。
二人の顔を見て赤城さんは微笑む。
そんな二人に丁寧に挨拶をする翔鶴姉。
「げっ、加賀さん」
「こらっ瑞鶴！ すみません」
加賀さんがいることに気づくといかにも嫌そうな反応をする瑞鶴に翔鶴は慌てて頭を下げる。
赤城さんのテーブルの向かい側に座っているのはその相方である加賀さん、私の訓練を指導してくれる師……というのもなんだか癪だが、そう、師であるその人。
「ふふ、仲良しさんね」
赤城さんが言ってるその目線の先には瑞鶴のスカートのポケット。間宮に着いた後も翔鶴の手を繋いだままポケットに入れていたのに気づいて、慌てて手を離した……恥ずかしい。そんな恥ずかしさから気をそらしたくて赤城さんが食べているものに目を移す。
「……うわっ、こんな寒いのにアイスなんか食べてる！」
「冬に食べるアイスだからこそ、美味しいんです！」
キリッとした目で赤城は答えるが、瑞鶴は納得がいかないという面持ちだ。だって、冬にアイスよ？ どうして寒い冬にわざわざ冷たいアイスなんか食べてるのよ？ 大皿に盛ってある山盛りのアイスを赤城さんは物凄い速さ食べてどんどん減っていく、そんな赤城の様子に唖然として見ていると。
「これだから五航戦は……」
加賀が僅かに顔を顰める。
「ていうか、今それ五航戦関係なくない！？」
と加賀も赤城と劣らない量のアイスを無表情で食べている。
赤城と違って加賀は食べ方は律儀で綺麗なのだが食べる速度は異常だ。
だが瑞鶴は言わざるをえなかった。というか我慢できない。
「バッカじゃないの！？」
「ちょ、ちょっと瑞鶴っ」
「別に、どんな時期に何を食べようと五航戦の子には関係のないことだと思うけど」
加賀は目の前のアイスから瑞鶴に視線を移したりせず、無表情のまま瑞鶴にいう。心無しか食べている所を邪魔された為か「少し、頭にきました」と少しムッとした口調である。
「はいはい、邪魔して悪かったわね！ 全く、見てるこっちが凍えてくるっての！」
そんな瑞鶴に翔鶴は苦笑いしつつ、まあまあと宥めた。
しかし、あのお二方はあんな量のアイスをあんな速度で食べて、頭が痛くなったりしないのだろうかと疑問に思う翔鶴であった。
空いてる席のテーブルに瑞鶴と翔鶴は向かい合って座る。
「おっ、瑞鶴と翔鶴じゃん」
「二人も休憩？」
隣のテーブルには二航戦の飛龍と蒼龍が座っていた。
なんとなく二人が食べている見慣れない和菓子が目に入った。
「飛龍さんと蒼龍さんは何を食べてるんですか？」
一航戦みたいに仲が悪いという訳ではないけど、積極的に関わっているという訳でもないが。一航戦の加賀さんと違って、気さくに話してくれたりするのでこの二人とは話しやすかったりする。
「餅アイスだよ、間宮さんで冬限定でメニューを出すことにしてるアイスなんだよ」
「このモチっとした薄皮のお餅とアイスがまた美味しいのよ」
飛龍と蒼龍が答えて、瑞鶴はへえと感心する。冬にそんなアイスを出してるなんて知らなかった。
一見、大福に見えるそれは中にアイスが入っているようで、表面は薄い餅で覆われている品のようだ。
「さて、私達はもう食べ終わったし、そろそろ行こうか。間宮さん、お勘定ー」
「そうだねー、邪魔しちゃ悪いし。またね、お二人さん」
飛龍はニヤニヤと二人を見るなり手をひらひらと振って、蒼龍と一緒に席を後にしていった。
全く何なのか、蒼龍さんはともかく、飛龍さんはいかにも面白そうなものを見つけたような顔だったから何か引っかかるんだけど……。
「まあ、いいわ。そんなことよりも、早く頼みましょ」
そう言った瑞鶴は壁にかけてある木札のメニューを見る。
うーん、でも……ちらりと餅アイスの名前が目に入る。ごくりっ……どうしよう。なんか食べたくなってきちゃった。
お餅のアイス、どんな味がするのだろう。でもさっき一航戦にアイスなんか、と馬鹿にした後だから頼みづらい。でも、もう春は目の前だ。冬限定だからこれを逃したらもう食べることができないかもしれない。
「ご注文はお決まりですか？」
そんなこんなで悩んでいると間宮さんが温かいお茶とお絞りを持ってきてくれて、注文を伺ってきた。
「瑞鶴、何にするか決まった？」
「うん、ぜんざいにする」
最初からぜんざいを食べるつもりだったんだから別にいいのよ、うん。
ぜんざいだって美味しいんだから！
「じゃあ、私は餅アイスを……」
「えっ！？」
「はい、ぜんざいに餅アイスですね。今ご用意するので少しお待ちくださいね」
ご注文を承りました、とニコニコと間宮さんは厨房の中へと入っていった。
「翔鶴姉、ぜんざいじゃないの？」
「ええ、なんだか気になってしまって。それに瑞鶴も食べたがっていたでしょ？」
後で半分こして食べましょ？ とふふふっと笑う翔鶴姉。
別に食べたそうに顔を出したつもりはなかったのに、微笑む姉の顔を見ては、ああこの人には敵わないなぁ、と。
後ほど温かいお茶を飲みながら、のんびり待っていると、瑞鶴の前には粒餡のあんこと大きめなお餅が二つ入った温かいぜんざい、翔鶴には二つの丸い形をした白い餅に包まれた冷たい餅アイスが運ばれてきた。
「はい、瑞鶴」
翔鶴は食べやすいように付いてきた竹の楊枝で食べやすいようにカットしたものを刺すと、片手を添えながらそれを瑞鶴の口元の前に運んだ。
最初の一口くらい翔鶴姉が食べたらいいのに、もう……。
かといってそんな良心を無垢にはできなくて口を開けると、冷たいものが口の中に入ってくる。
噛むとモチっとした食感、包まれていたひんやりとした甘いバニラアイスが口の中で溶けていく。
初めて食べる感覚に。
「……おいしいっ！」
冬にアイスだなんて……と馬鹿にしたけど、前言撤回！ ごめんなさい！
この餅アイスって、すっごく美味しいじゃないっ！
予想外の美味しさにキラキラと喜ぶ妹の瑞鶴の表情に、翔鶴の顔も自然と綻ぶ。嬉しそうに食べる姿が微笑ましい。
「ふふ、よかった」
それから何度か餅アイスが口の中に運ばれて、二つあった餅アイスは残り一つになっていた。
「翔鶴姉も折角頼んだんだから食べなよ」
妹がとても美味しそうに食べる姿が可愛くて、つい夢中になって何度も食べさせてしまっていた。
「そうね、じゃあいただこうかしら」
そう言って食べやすいようにカットされた餅アイスが、翔鶴姉の綺麗な形の口の中に運ばれていった。
その動作だけでも上品に見える。
「……っ！ ほんと、おいしい」
「ね？」
初めて食べる食感に、翔鶴も口に手を当てて、そのおいしさに感動していた。
「こんなにおいしいのに冬限定だなんて勿体ないよね」なんで冬だけでなく夏にも出さないんだろうと瑞鶴は言うが本当に、こんなにおいしいのに冬だけなのは残念だな、と翔鶴は思ったが、冬にしか食べられないからまた特別に美味しく感じられるのかもしれない。
「はい！ じゃあ、私からも！」
自分で少し食べたぜんざいを「はい、あーん」と言いながら、匙に掬われた小豆と餅のぜんざいを翔鶴姉の口の目の前にまで運ぶ。
「でも瑞鶴……いいの？」
と顔を少し赤らめながら控えめに聞いてくる翔鶴姉。
翔鶴姉が先にしてきたんだし、これぐらい良いわよね？ 誰も見てないだろうし。
僅かに口を開けたその綺麗な口の中にドキドキしつつ、ぜんざいが消えていくのを見送る。
別に、姉妹同士だからそんなに緊張しなくても良い筈なのに、ああ、やっぱり翔鶴姉は美人だな、と思うのは妹馬鹿だろうか？
「うん、さすが間宮さんね。ぜんざいもとっても美味しいわ」
ひんやりモチっとした餅アイスとは違った心も体もほっこり温まる。もっちり腰のあるお餅に優しい甘さの濃厚小豆ぜんざいの味に翔鶴も口元が綻ぶ。
「翔鶴ねえ、今日はありがとう！ 出撃の疲れも吹っ飛んじゃった！」
勿論、間宮のお菓子も美味しかったけど翔鶴姉が側にいてくれるから力湧いてくる。
そうして、二人は間宮の甘味を心ゆくまで味わった、休息の一時。
今度は私が翔鶴姉に間宮さんのお菓子を奢ってあげようと、そう決める瑞鶴であった。
15/04/03 01:35更新 / 春色うらら