32 『或ル国ノ王ノ物語』−2
学校生活が始まったが、これが結構大変だった。
私はとりあえず、教室まで案内され、クラスメイトに自己紹介をした。クラスメイトは私含めて12人のみの、非常に小さな学校だった。後でヴィヴェカ先生に聞いたが、この学校の全校生徒はこのクラスですべてらしく、先生もヴィヴェカ先生だけで、あとは校長先生と公務員さんが3人、警備員さんが2人、寮母さんが2人だそうだ。寮での面倒は寮母さんと公務員さんが見てくれるらしい。
とはいっても、洗濯や衣替え、掃除、食事は自分たちで用意しなければいけない。弁当も自分で作らなければならなかった。
初日、私は軽く自己紹介を終え、指定された席に座る。そのままヴィヴェカ先生が少し話し、その後すこしの休憩時間があった。その休憩時間の時に、教室のみんなが集まってくる。
色々話したが、学年はまばらで、1年生から中学2年生まで、いろいろな学年がたくさん集まっていた。
授業は各自自習形式で、先生に指定された教科書を使って、わからないところがあったら手をあげて先生に聞く、という形で進行した。教科だけ時間割として統一されており、上回生や同級生との教えあいも行っていた。
お昼は初日は先生が出来合いの弁当を用意してくれたが、次の日からは自分で弁当を作ることになった。上回生と近くのスーパーまで買い出しに行き、買い出しから戻って一緒に弁当を作る。私は料理をしたことがなかったので、包丁の使い方など一から教えてもらうことになった。
放課後は同クラスメイトと校庭で遊んだり、部屋や教室で本を読んだりなどをして時間を潰すことになる。
学校での生活も一ヶ月が過ぎ、少し慣れてきたころ。
私はこの学校内で二人、少し変わった―――というか、周りの子たちとは少し雰囲気の違う子がいることに気付き始めた。
ある一人は、お昼休み、放課後、そして夜もずっと何かの本を読んでいる男の子。
ある一人は、ずっと雲梯や校庭でトレーニングらしきことをしている男の子。
私はその二人が気がかりなり、上回生や同学年のクラスメイトにどういう子たちなのか聞いたが、あまりしっかりとした返答はなく、うやむやにされてしまった。どうやら彼らもわかっていないらしい。
私はある日の放課後、男の子たちに声をかけてみる決心をする。
まずは………トレーニングっ子。
「ねえねえ!何をしてるの?」
私は雲梯で懸垂をしている男の子に話しかけた。が、声に気付いていないのか、返答が返ってこない。
「ねえってば!」
「………なに。」
二回目にしてようやく気づいてくれた。というか、無視をしていたのだろうか。
少年は雲梯を降り、こちらに身体を向ける。
「いつも雲梯使ったり、グラウンド走ったり、なにをしてるの?」
「………トレーニング」
とりあえず、私の質問には答えてくれるみたいだ。が、あまり話したくなさそうな感じがすごく伝わる返しだった。
「………もういい?そろそろ走りに行きたいんだけど」
「あ!まってよ、じゃあ、私も走る!」
「…………」
「……ダメ…かな?」
私は上目遣いをして彼にお願いをしてみる。姉から学んだ処世術(?)だ。
『あなたはかわいいんだから、こうやっておねだりすれば大体の男はOKするよ!』
「…………まあ、いいけど。ペースは合わせないよ。」
「やったぁ!」
すごい、通じた。姉はやはりすごい。この方法にどういう意味があるかはわからないが、見事に私の希望を通すことができた。お願いを通す方法まで熟知しているなんて……。
私は、その男の子と一緒に校庭の外周を走った。
「何でいつも一人でこんなトレーニングしてるの?みんなで遊ぶのも楽しいよ??」
「………自分との約束を果たしてるだけ」
「なにそれ、かっこい〜」
「……物好きだな、君」
「え?何が?」
「……ほかのやつは俺とかかわろうとしない。けど君は違う。不思議な感じだ」
「そう?私は少し気になったから話してみただけだよ。大体の子とは仲良くなったけど、君と、あとよく教室にいるもう一人の子は話したことなかったからね〜」
「ああ。あいつか」
「あ、やっぱ有名なんだ」
「……そりゃな。俺が言えたことじゃないけど、あいつも人と話さないからな。目立ちはする」
たわいもない会話をしながらランニングをする。
2週目から徐々に私はその子に引き離され、私は3周目に差し掛かる直前でリタイアした。一方のその男の子は、5週走ってから私の元に歩いてきた。
その男の子は結構汗をかいていた。
「……結構やるな」
男の子が褒めてくれた。だが、私はこの子が走った分の半分も走っていない。この子、すごいなと、純粋に思った。
「……はは、私の二倍以上走ってる人に言われても皮肉にしか聞こえないや………」
「そんなことないけど……そう思ったなら、すまない」
男の子は頭を下げてくる。思った以上に真面目な子のようだ。
「冗談だよ、冗談。そんな真に受けないで、顔をあげてよ」
私は顔の前で両手をぱたぱたさせる。男の子は顔をあげると、私の隣に座った。
「………明日もやるけど、一緒に走る…?」
まさかの誘い。驚いた、初日からこんなに距離を詰められるとは思ってなかった。
「え、いいの?」
「うん。走りながら話すと体力の消耗が激しい。今日やってみて、丁度いい感じにトレーニングできそうだ、って思った。………どう?いやだったら全然いいけど……」
「やる!やるよ!!」
私は食い気味に答える。男の子の方に顔を向けて答えると、男の子は私と反対方向にぷいっと向いてしまった。
「?どうしたの?」
「……顔、近い」
私は一瞬どういうことかわからなかったが、噴き出した。この子は照れていたのだ。
「ははっ!かわい〜〜」
「!……じゃあ、また明日」
男の子は立ち上がり、その場を離れる。
「ああ!ごめんって、ちょっと待ってよ!」
「………なに」
私が急いで男の子の腕を掴み引き留める。男の子は立ち止まり、こちらの方へ振り向いた。
「名前。聞いてないなって。私はウィルマ。君は?」
「………アレクサンドル」
「アレ……長いね。じゃ、アレックスね!アレックスって呼ぶよ!」
「………どうぞお好きに」
男の子…もといアレックスはぶっきらぼうに答えると、私の手を優しく引き離し、後者の方へ歩いて行った。
「アレックス、かあ……かっこいい名前。」
私はアレックスの後ろ姿が見えなくなってから、寮の方へと戻った。
私はとりあえず、教室まで案内され、クラスメイトに自己紹介をした。クラスメイトは私含めて12人のみの、非常に小さな学校だった。後でヴィヴェカ先生に聞いたが、この学校の全校生徒はこのクラスですべてらしく、先生もヴィヴェカ先生だけで、あとは校長先生と公務員さんが3人、警備員さんが2人、寮母さんが2人だそうだ。寮での面倒は寮母さんと公務員さんが見てくれるらしい。
とはいっても、洗濯や衣替え、掃除、食事は自分たちで用意しなければいけない。弁当も自分で作らなければならなかった。
初日、私は軽く自己紹介を終え、指定された席に座る。そのままヴィヴェカ先生が少し話し、その後すこしの休憩時間があった。その休憩時間の時に、教室のみんなが集まってくる。
色々話したが、学年はまばらで、1年生から中学2年生まで、いろいろな学年がたくさん集まっていた。
授業は各自自習形式で、先生に指定された教科書を使って、わからないところがあったら手をあげて先生に聞く、という形で進行した。教科だけ時間割として統一されており、上回生や同級生との教えあいも行っていた。
お昼は初日は先生が出来合いの弁当を用意してくれたが、次の日からは自分で弁当を作ることになった。上回生と近くのスーパーまで買い出しに行き、買い出しから戻って一緒に弁当を作る。私は料理をしたことがなかったので、包丁の使い方など一から教えてもらうことになった。
放課後は同クラスメイトと校庭で遊んだり、部屋や教室で本を読んだりなどをして時間を潰すことになる。
学校での生活も一ヶ月が過ぎ、少し慣れてきたころ。
私はこの学校内で二人、少し変わった―――というか、周りの子たちとは少し雰囲気の違う子がいることに気付き始めた。
ある一人は、お昼休み、放課後、そして夜もずっと何かの本を読んでいる男の子。
ある一人は、ずっと雲梯や校庭でトレーニングらしきことをしている男の子。
私はその二人が気がかりなり、上回生や同学年のクラスメイトにどういう子たちなのか聞いたが、あまりしっかりとした返答はなく、うやむやにされてしまった。どうやら彼らもわかっていないらしい。
私はある日の放課後、男の子たちに声をかけてみる決心をする。
まずは………トレーニングっ子。
「ねえねえ!何をしてるの?」
私は雲梯で懸垂をしている男の子に話しかけた。が、声に気付いていないのか、返答が返ってこない。
「ねえってば!」
「………なに。」
二回目にしてようやく気づいてくれた。というか、無視をしていたのだろうか。
少年は雲梯を降り、こちらに身体を向ける。
「いつも雲梯使ったり、グラウンド走ったり、なにをしてるの?」
「………トレーニング」
とりあえず、私の質問には答えてくれるみたいだ。が、あまり話したくなさそうな感じがすごく伝わる返しだった。
「………もういい?そろそろ走りに行きたいんだけど」
「あ!まってよ、じゃあ、私も走る!」
「…………」
「……ダメ…かな?」
私は上目遣いをして彼にお願いをしてみる。姉から学んだ処世術(?)だ。
『あなたはかわいいんだから、こうやっておねだりすれば大体の男はOKするよ!』
「…………まあ、いいけど。ペースは合わせないよ。」
「やったぁ!」
すごい、通じた。姉はやはりすごい。この方法にどういう意味があるかはわからないが、見事に私の希望を通すことができた。お願いを通す方法まで熟知しているなんて……。
私は、その男の子と一緒に校庭の外周を走った。
「何でいつも一人でこんなトレーニングしてるの?みんなで遊ぶのも楽しいよ??」
「………自分との約束を果たしてるだけ」
「なにそれ、かっこい〜」
「……物好きだな、君」
「え?何が?」
「……ほかのやつは俺とかかわろうとしない。けど君は違う。不思議な感じだ」
「そう?私は少し気になったから話してみただけだよ。大体の子とは仲良くなったけど、君と、あとよく教室にいるもう一人の子は話したことなかったからね〜」
「ああ。あいつか」
「あ、やっぱ有名なんだ」
「……そりゃな。俺が言えたことじゃないけど、あいつも人と話さないからな。目立ちはする」
たわいもない会話をしながらランニングをする。
2週目から徐々に私はその子に引き離され、私は3周目に差し掛かる直前でリタイアした。一方のその男の子は、5週走ってから私の元に歩いてきた。
その男の子は結構汗をかいていた。
「……結構やるな」
男の子が褒めてくれた。だが、私はこの子が走った分の半分も走っていない。この子、すごいなと、純粋に思った。
「……はは、私の二倍以上走ってる人に言われても皮肉にしか聞こえないや………」
「そんなことないけど……そう思ったなら、すまない」
男の子は頭を下げてくる。思った以上に真面目な子のようだ。
「冗談だよ、冗談。そんな真に受けないで、顔をあげてよ」
私は顔の前で両手をぱたぱたさせる。男の子は顔をあげると、私の隣に座った。
「………明日もやるけど、一緒に走る…?」
まさかの誘い。驚いた、初日からこんなに距離を詰められるとは思ってなかった。
「え、いいの?」
「うん。走りながら話すと体力の消耗が激しい。今日やってみて、丁度いい感じにトレーニングできそうだ、って思った。………どう?いやだったら全然いいけど……」
「やる!やるよ!!」
私は食い気味に答える。男の子の方に顔を向けて答えると、男の子は私と反対方向にぷいっと向いてしまった。
「?どうしたの?」
「……顔、近い」
私は一瞬どういうことかわからなかったが、噴き出した。この子は照れていたのだ。
「ははっ!かわい〜〜」
「!……じゃあ、また明日」
男の子は立ち上がり、その場を離れる。
「ああ!ごめんって、ちょっと待ってよ!」
「………なに」
私が急いで男の子の腕を掴み引き留める。男の子は立ち止まり、こちらの方へ振り向いた。
「名前。聞いてないなって。私はウィルマ。君は?」
「………アレクサンドル」
「アレ……長いね。じゃ、アレックスね!アレックスって呼ぶよ!」
「………どうぞお好きに」
男の子…もといアレックスはぶっきらぼうに答えると、私の手を優しく引き離し、後者の方へ歩いて行った。
「アレックス、かあ……かっこいい名前。」
私はアレックスの後ろ姿が見えなくなってから、寮の方へと戻った。
22/03/31 23:59更新 / Catll> (らゐる)