22
乱立するビル。ビルの合間を縫うように動く人々。その光景はまさに繁華街であるということを物語っていた。
エラム連邦の中でも有数の繁華街ランチバーク。
僕たち4人は街に到着すると、駐車場で車を降り、人の波に従いながら街の中を練り歩いた。
「じゃあ車の中で決めた通り、みんなが行きたい店を順番に回っていくことにしよう!」
ジャッキーが元気に、勢いよく手をあげて言った。
「じゃあまずは私から!そこのカール・マクセルの本店に行こう!メンズもレディースも両方あるから男子勢も楽しめるよ!」
カール・マクセル。有名な服のブランドだ。
昨日、あの雑誌を借りておいて正解だったということを改めて実感する。車の中でそれぞれが行きたいところを話し合ったのだが、なんとか話題についていくことができた。もし雑誌を借りていなければ一人だけ置いていかれて話が進んでいたことだろう。
歩いて数分、僕たちはカール・マクセルのビルの目の前に着いた。
「よっし!今日は買いますよ〜〜〜!!」
「フェルディ!俺たちも服を見に行こう!!メンズは2,3階みたいだ!!」
マルセルも結構はしゃぎ気味で、急ぎ足でエレベーターの方へ向かった。気が付いたらジャッキーの姿も消えていて、僕とリーだけが取り残されてしまっていた。
「………行っちゃったね」
「…………はぁ……」
リーが重くため息をつく。こっわ。
「私はジャッキーを探してくるから、フェルディはマルセルを追いかけて。そうね…1時間後にここに集合ってことにしよう。いい?」
「そうだね、じゃあ僕はマルセル追っかけるよ」
「うん。じゃ、またあとで」
僕とリーは入口で別れ、僕はマルセルを追った。
マルセルと一緒にお店の中を回る。マルセルは楽しそうに鏡を見ながら自分に服をあてがって、似合うかどうか品定めをしていた。
僕はポケットの中に、金属の棒状のもの……『簡易転移装置』があることを確認する。
昨日の夜、部屋に戻った時に、自室の前にでかい段ボールの箱が置かれていた。段ボールの側面には「フェルディ」と書いてあった。何かと思い、自室で段ボールを開封すると、そこには大きな金属製のケースのようなもの、手のひらサイズのちいさな金属の筒、そして一枚の紙が入っていた。紙を開いて内容を見る。
要約すると、これは『簡易転移装置』というものだそうだ。ケースの中にものを入れ、この金属の棒に着いたスイッチを三秒以上長押しすると、その金属の棒の元にケース内のものを移動させることのできる装置らしい。用途は基本自分の得物をいれておいて、緊急事態にいつでも取り出せるようにするというものだった。
確かにこれは便利で、非番の時など任務外で外出した時にいざとなったらすぐに得物を取り出せる。紙の一番下に小さく「がんばってね! キリル」と書かれていた。どうやらキリルさんが作ったものだったみたいだ。何でもやり遂げてしまうあの人は本当にすごいなあと改めて感心した。
「フェルディ!ちょっとちょっと!!」
名前を呼ばれ、はっとする。マルセルがこっちに来てほしいと手招きしている。店の雰囲気が落ち着いているためか、いつも大声で会話するマルセルも呼び声が控えめだ。
マルセルの元に向かうと、マルセルが両手に服を持って首をかしげた。
「どうしたの」
「いやぁ……これどっちか買おうかと思ってるんだけど。どっちがいいかなぁって……」
「えぇ……僕そういうおしゃれとか疎いから……」
僕の今の服は白シャツと黒スキニーだ。特に何も考えなくてよく、まあそれなりに無難な恰好なのでずっとこの服装なのだ。
一方のマルセルは、ダメージジーンズに革製の赤のジャケット。インナーは白シャツで、よくわからない銀色のネックレスをつけている。僕とは対照的すぎる。
「なぁ〜〜頼むよぉ〜〜〜!ベターな方を選んでくれ!」
「無理無理無理だって!僕からしてみたらどっちも同じにみえるから!!」
ひそひそと話す僕とマルセル。傍から見たらおかしな光景だ。
僕は何か逃げ道はないかと模索していたら、スマホに連絡が一件来た。ジャッキーからだ!「マルセルと一緒に4階に来てくれない?」とチャットが飛んできていた。
助け舟をもらった僕は、早速これを利用する。
「マルセル、ジャッキーが4階に来てほしいって!今すぐ行こう!!」
「え?ちょ、先に俺の服選んでくれよ〜」
「よ、よし……じゃあ右手の奴!それにしよう!ほら行くよっ!」
「あ、ちょ、先に会計だけしねえと…!待っててくれよ!」
マルセルは急いで会計レジの方へ向かった。無人レジのようだ。
結局僕が適当に選んだ羽目になったが、まあ勢いでなんとかできてほっとした。
4階に上がった。すると、リーとジャッキーがエレベーター前で待ち構えていた。
「あ、来た来た!」
「……………」
楽しそうなジャッキーとは対照的に、リーは何だか不機嫌そうだった。
「どうしたの?」
「いや、私がリーの服を選んで着せてみたんだけど、気に入らないって言って聞かなくて。丁度二人もいることだし感想を聞いてみようって思って!」
「……私は一言も了承したつもりはないんだけど…」
リーはあからさまに嫌そうな顔をした。「いいからいいいから」とジャッキーはリーを無理やり更衣室の前まで連れ出し、そして更衣室に押し込んだ。バタン、とドアをとじる。
「ちょっと!?」
「ほら〜着替えなよ!着替えないとここから出さないぞ〜?」
ジャッキーは意地悪な顔でリーに話す。ああ、かわいそうなリー。
しばらく物音がしなかったが、観念したのか、深いため息と同時に着替え始めた音が聞こえる。
「…………なんか見えない着替えって、エッチだよな……」
マルセルがボソッと言った。マルセルは高度な性癖の持ち主だったみたいだ。ジャッキーやリーに引かれるのも嫌だったので僕は無視を貫く。一方のジャッキーはというと……近くの服を物色し始めている。こっちはあまり気にしなくてよさそうだった。
「な、フェルディはそう思わないか?」
なあ!僕の気持ちを汲み取ってくれよ!!
「なぁ……なんで黙ってるんだよ。男同士だろ?隠さずに言おうぜ、そういうの」
「………う〜ん……」
詰め寄るマルセルに根負けして、僕はリーが今着替えている姿を想像する。
ぽわわん、と。
…………………………………………………………………………、
「………結構アリ、かも」
バタン、と急にドアが開く。僕はびっくりして反射的に背筋が伸びた。
更衣室の中からリーが出てくる。僕とマルセルは、リーの姿に目を奪われた。
トップスは暗い紺色のシャツに、クリーム色のイージーパンツにタックイン。黒のナイロンブルゾンを羽織って、髪型はいつものツインテではなくポニーテールになっていた。
「おお……」
マルセルがたまらず声を漏らす。僕は押し黙っていたが、思わず声が出てしまうマルセルの気持ちもわかる。ゴスロリのイメージがあったリーだったが、この格好はとても新鮮で、どこかのスターのようにいい感じに決まっていた。
「ほら!やっぱみんな反応よさげじゃん!私の目は狂っていなかった!!ハハ!!私の勝ちだな!!」
ジャッキーが仁王立ちしてはっはっはと高笑いをする。リーは恥ずかしそうに触角を両手でいじっていた。
「俺もいいとおもうぞ……なんか、こう………いい感じだ……」
マルセルに至っては語彙力を失い同じことを二度繰り返している。
「…フェルディは、どう思う………?」
「……僕も、いいと思うよ………」
マルセルのことを馬鹿にしていたが、いざ僕の番となると同じような返ししかできなくてとてもふがいない気持ちになった。なんだか照れくさくて、僕はリーから目線をそらした。
「………そう」
リーは一言そう残し、更衣室へまた戻った。
この後、隠れてリーが同じ服一式を三着購入していたのは、内緒の話だ。
エラム連邦の中でも有数の繁華街ランチバーク。
僕たち4人は街に到着すると、駐車場で車を降り、人の波に従いながら街の中を練り歩いた。
「じゃあ車の中で決めた通り、みんなが行きたい店を順番に回っていくことにしよう!」
ジャッキーが元気に、勢いよく手をあげて言った。
「じゃあまずは私から!そこのカール・マクセルの本店に行こう!メンズもレディースも両方あるから男子勢も楽しめるよ!」
カール・マクセル。有名な服のブランドだ。
昨日、あの雑誌を借りておいて正解だったということを改めて実感する。車の中でそれぞれが行きたいところを話し合ったのだが、なんとか話題についていくことができた。もし雑誌を借りていなければ一人だけ置いていかれて話が進んでいたことだろう。
歩いて数分、僕たちはカール・マクセルのビルの目の前に着いた。
「よっし!今日は買いますよ〜〜〜!!」
「フェルディ!俺たちも服を見に行こう!!メンズは2,3階みたいだ!!」
マルセルも結構はしゃぎ気味で、急ぎ足でエレベーターの方へ向かった。気が付いたらジャッキーの姿も消えていて、僕とリーだけが取り残されてしまっていた。
「………行っちゃったね」
「…………はぁ……」
リーが重くため息をつく。こっわ。
「私はジャッキーを探してくるから、フェルディはマルセルを追いかけて。そうね…1時間後にここに集合ってことにしよう。いい?」
「そうだね、じゃあ僕はマルセル追っかけるよ」
「うん。じゃ、またあとで」
僕とリーは入口で別れ、僕はマルセルを追った。
マルセルと一緒にお店の中を回る。マルセルは楽しそうに鏡を見ながら自分に服をあてがって、似合うかどうか品定めをしていた。
僕はポケットの中に、金属の棒状のもの……『簡易転移装置』があることを確認する。
昨日の夜、部屋に戻った時に、自室の前にでかい段ボールの箱が置かれていた。段ボールの側面には「フェルディ」と書いてあった。何かと思い、自室で段ボールを開封すると、そこには大きな金属製のケースのようなもの、手のひらサイズのちいさな金属の筒、そして一枚の紙が入っていた。紙を開いて内容を見る。
要約すると、これは『簡易転移装置』というものだそうだ。ケースの中にものを入れ、この金属の棒に着いたスイッチを三秒以上長押しすると、その金属の棒の元にケース内のものを移動させることのできる装置らしい。用途は基本自分の得物をいれておいて、緊急事態にいつでも取り出せるようにするというものだった。
確かにこれは便利で、非番の時など任務外で外出した時にいざとなったらすぐに得物を取り出せる。紙の一番下に小さく「がんばってね! キリル」と書かれていた。どうやらキリルさんが作ったものだったみたいだ。何でもやり遂げてしまうあの人は本当にすごいなあと改めて感心した。
「フェルディ!ちょっとちょっと!!」
名前を呼ばれ、はっとする。マルセルがこっちに来てほしいと手招きしている。店の雰囲気が落ち着いているためか、いつも大声で会話するマルセルも呼び声が控えめだ。
マルセルの元に向かうと、マルセルが両手に服を持って首をかしげた。
「どうしたの」
「いやぁ……これどっちか買おうかと思ってるんだけど。どっちがいいかなぁって……」
「えぇ……僕そういうおしゃれとか疎いから……」
僕の今の服は白シャツと黒スキニーだ。特に何も考えなくてよく、まあそれなりに無難な恰好なのでずっとこの服装なのだ。
一方のマルセルは、ダメージジーンズに革製の赤のジャケット。インナーは白シャツで、よくわからない銀色のネックレスをつけている。僕とは対照的すぎる。
「なぁ〜〜頼むよぉ〜〜〜!ベターな方を選んでくれ!」
「無理無理無理だって!僕からしてみたらどっちも同じにみえるから!!」
ひそひそと話す僕とマルセル。傍から見たらおかしな光景だ。
僕は何か逃げ道はないかと模索していたら、スマホに連絡が一件来た。ジャッキーからだ!「マルセルと一緒に4階に来てくれない?」とチャットが飛んできていた。
助け舟をもらった僕は、早速これを利用する。
「マルセル、ジャッキーが4階に来てほしいって!今すぐ行こう!!」
「え?ちょ、先に俺の服選んでくれよ〜」
「よ、よし……じゃあ右手の奴!それにしよう!ほら行くよっ!」
「あ、ちょ、先に会計だけしねえと…!待っててくれよ!」
マルセルは急いで会計レジの方へ向かった。無人レジのようだ。
結局僕が適当に選んだ羽目になったが、まあ勢いでなんとかできてほっとした。
4階に上がった。すると、リーとジャッキーがエレベーター前で待ち構えていた。
「あ、来た来た!」
「……………」
楽しそうなジャッキーとは対照的に、リーは何だか不機嫌そうだった。
「どうしたの?」
「いや、私がリーの服を選んで着せてみたんだけど、気に入らないって言って聞かなくて。丁度二人もいることだし感想を聞いてみようって思って!」
「……私は一言も了承したつもりはないんだけど…」
リーはあからさまに嫌そうな顔をした。「いいからいいいから」とジャッキーはリーを無理やり更衣室の前まで連れ出し、そして更衣室に押し込んだ。バタン、とドアをとじる。
「ちょっと!?」
「ほら〜着替えなよ!着替えないとここから出さないぞ〜?」
ジャッキーは意地悪な顔でリーに話す。ああ、かわいそうなリー。
しばらく物音がしなかったが、観念したのか、深いため息と同時に着替え始めた音が聞こえる。
「…………なんか見えない着替えって、エッチだよな……」
マルセルがボソッと言った。マルセルは高度な性癖の持ち主だったみたいだ。ジャッキーやリーに引かれるのも嫌だったので僕は無視を貫く。一方のジャッキーはというと……近くの服を物色し始めている。こっちはあまり気にしなくてよさそうだった。
「な、フェルディはそう思わないか?」
なあ!僕の気持ちを汲み取ってくれよ!!
「なぁ……なんで黙ってるんだよ。男同士だろ?隠さずに言おうぜ、そういうの」
「………う〜ん……」
詰め寄るマルセルに根負けして、僕はリーが今着替えている姿を想像する。
ぽわわん、と。
…………………………………………………………………………、
「………結構アリ、かも」
バタン、と急にドアが開く。僕はびっくりして反射的に背筋が伸びた。
更衣室の中からリーが出てくる。僕とマルセルは、リーの姿に目を奪われた。
トップスは暗い紺色のシャツに、クリーム色のイージーパンツにタックイン。黒のナイロンブルゾンを羽織って、髪型はいつものツインテではなくポニーテールになっていた。
「おお……」
マルセルがたまらず声を漏らす。僕は押し黙っていたが、思わず声が出てしまうマルセルの気持ちもわかる。ゴスロリのイメージがあったリーだったが、この格好はとても新鮮で、どこかのスターのようにいい感じに決まっていた。
「ほら!やっぱみんな反応よさげじゃん!私の目は狂っていなかった!!ハハ!!私の勝ちだな!!」
ジャッキーが仁王立ちしてはっはっはと高笑いをする。リーは恥ずかしそうに触角を両手でいじっていた。
「俺もいいとおもうぞ……なんか、こう………いい感じだ……」
マルセルに至っては語彙力を失い同じことを二度繰り返している。
「…フェルディは、どう思う………?」
「……僕も、いいと思うよ………」
マルセルのことを馬鹿にしていたが、いざ僕の番となると同じような返ししかできなくてとてもふがいない気持ちになった。なんだか照れくさくて、僕はリーから目線をそらした。
「………そう」
リーは一言そう残し、更衣室へまた戻った。
この後、隠れてリーが同じ服一式を三着購入していたのは、内緒の話だ。
21/10/03 00:10更新 / Catll> (らゐる)