18
僕とリーはホテルに戻ると、リーが今から打ち合わせをすると言って、リーと一緒に僕の部屋へ入った。
「よし……まず、これを渡しておく」
リーは僕の部屋に入りベッドに腰掛けると、ポケットから小さな黒く丸い球体を出してきた。
「………これは?」
「盗聴器。さっきの男の部屋に仕掛けておいた。イヤホンジャックがあるでしょ?そこにイヤホンをさせば家の音が聞こえる」
リーは一緒にイヤホンも手渡してきた。実際にさして音を聞いてみると、なんだかごそごそと音が聞こえる。そして、さっきの男の溜息が聞こえてきた。
「……盗聴器、仕掛けてたんだ。気付かなかった…」
「足元の段ボール裏にね。超小型だから気付かれることはまずないかな」
「へぇ………でもどうして?そんなに怪しかった?」
僕の質問にリーはうなずく。
「あの公園にはたくさんホームレスが私たちを見てたけど……あの男だけ視線が違った。あの男は何か私たちを警戒してる感じの目つきだった。私はそれに気づいたから、あの男に声をかけたの」
そんなことに気が付いたのか……すご……。
「それに、あいつの部屋の臭い。あの男はどこのホームレスも同じって言ってたけど、あの臭いは異質だよ。死体を隠してるかもね」
「やっぱあの臭いは異常だったよな……」
「で、しばらくあいつの様子を監視する。期間は3日。私は現地の公園に行って聞き込みをする振りをしながら監視する。フェルディはホテルで盗聴器から聞こえる音を聞いてて。巻き戻しとか早送りとかはスマホの………このアプリでできるから。私たちが普通のジャーナリストじゃないことには気が付いてただろうから、黒だったらたぶん数日で行動を起こすと思う。3日で行動を起こさなかったら、あの男の言っていた通りのアスド公園に行く。盗聴器は録音できるから、一日に一回会話音声を確認する。ぞっくりとはこんな感じ」
「わかった…とりあえず、しばらく僕はホテルで盗聴器の管理をすればいいんだね」
「そう。じゃあ打ち合わせはこれで終わり。私は自室に戻るから。……あ、あと、スマホの電源ボタンを5回連続で押すとSOSが出せるから、一応教えとく。もし私から来たらその時は、よろしく」
リーはそう言って僕の部屋を出た。
////////////////////////////////////////////////////////////////////
午後8時を回って、僕はシャワーを浴び、再び盗聴器に耳を傾ける。特に動きはない。
この作業は思った以上に精神的にきつい。なにもないものをずっと集中して聞き続けるのにはなかなかに体力が必要だ。
やっぱりそんな怪しくないんじゃないかとか思い始めたとき。
盗聴器から会話が聞こえてきた。昼間の男と……女だ。誰だろう。
「急にどうしたの、呼び出したりして」
「昼間にコーカサスのパシリに目を付けられた。ここを出よう」
「………嘘…」
黒だ。急いでリーにメッセージを送る。すると、間もなくリーが僕の部屋にやってきた。
髪型がツインテに戻っている。
「イヤホンを抜いて。そうしたらスピーカーに切り替わるから」
僕は髪型に目を引かれていたので、ハッとして急いで言われた通りイヤホンを抜く。黒い球から会話が聞こえてくる。
「奴らから10万むしりとったから、これを使って別の町へ逃げよう」
「逃げるって……いつ?どこに?」
「別の工業団地だ…ホームレスのいそうなところにしよう。コーカサスを出て……そうだな、次はカイオワに行くか。カイオワも郊外はそこまで国の手が行き届いていないはずだ。逃げるのは今日、今からだ」
「今から……。そう、そうだよね、悠長なこと言ってられないもんね」
「お前はとりあえず家に戻って金になりそうなものと簡単な食糧を集めてくれ。用意ができたらマイと一緒にまたここに来てくれ。そうしたらここを離れよう」
「フェルディ、今すぐ用意して。追うよ」
レイラは大急ぎで部屋を飛び出した。僕も必要そうなものを持って部屋を出た。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////
「………間に合ったみたい」
僕とリーが公園に着いた時には、例の男、女性と子供がいた。暗くて顔がよく見えない。
「お前ら……なんでいるんだよ……」
男が絶句する。リーは静かに、一歩ずつ彼らに近寄った。
「先ほどはうそをついてしまってすみません。私たちは『人食い人』の調査をしてるだけなんです。あなたたちがその『人食い人』でなかったら何も問題ないですよ。どういう事情であろうと……たとえ人殺しをしていようと、『人食い人』でなければ、私たちは一切干渉しません」
「………………」
「検査をさせていただけませんか?大丈夫ですよ、本当に。針で少しちくっとするだけですから」
女性は子供をかばうように抱き寄せる。男は依然、こちらを警戒していた。
すると………。
「お前たちの負けだ、コーカサス……エラムの犬が」
男はそう呟くと……。
「エラム人だ!!!ここにエラム人がいるぞッ!!!」
男が大声を張り上げた。公園の中のホームレスたちが、自分の小屋からぞくぞくとこちらに集まってきた。
「エラム人…?エラム人がいるのか!?」
「あれだ!昼間にみたぞ!!!あれが例のエラム人か!!」
「エラム人だ!!捕まえろぉっ!!!!」
ホームレスが公園から群れになって出てきて、僕たちの方へやってこようとする。男たちは群れのの方向とは逆に逃げていった。
「まずい………!フェルディ、いったんこの群れをまくよッ!!」
「……わかった!!」
僕とリーは群れから逃げるように走り出した。ホームレスの大群は逃がすかといわないばかりにすごい勢いで追いかけてくる。
「たのむ!!!俺をエラムに連れてってくれ!!!!!」
「逃がすな!!!追え、追え!!!!!」
「逃げるな!!頼むから、私を助けて!!!!!!!」
ホームレスが思い思いの声をあげながら追いかけてくる。
正に地獄絵図。
「クソッ………事前に手は打ってあったのか……!」
リーが隣で悔しそうにぼやく。
僕たちは死に物狂いで追いかけてくるホームレスを巻くのに手いっぱいだった。
「よし……まず、これを渡しておく」
リーは僕の部屋に入りベッドに腰掛けると、ポケットから小さな黒く丸い球体を出してきた。
「………これは?」
「盗聴器。さっきの男の部屋に仕掛けておいた。イヤホンジャックがあるでしょ?そこにイヤホンをさせば家の音が聞こえる」
リーは一緒にイヤホンも手渡してきた。実際にさして音を聞いてみると、なんだかごそごそと音が聞こえる。そして、さっきの男の溜息が聞こえてきた。
「……盗聴器、仕掛けてたんだ。気付かなかった…」
「足元の段ボール裏にね。超小型だから気付かれることはまずないかな」
「へぇ………でもどうして?そんなに怪しかった?」
僕の質問にリーはうなずく。
「あの公園にはたくさんホームレスが私たちを見てたけど……あの男だけ視線が違った。あの男は何か私たちを警戒してる感じの目つきだった。私はそれに気づいたから、あの男に声をかけたの」
そんなことに気が付いたのか……すご……。
「それに、あいつの部屋の臭い。あの男はどこのホームレスも同じって言ってたけど、あの臭いは異質だよ。死体を隠してるかもね」
「やっぱあの臭いは異常だったよな……」
「で、しばらくあいつの様子を監視する。期間は3日。私は現地の公園に行って聞き込みをする振りをしながら監視する。フェルディはホテルで盗聴器から聞こえる音を聞いてて。巻き戻しとか早送りとかはスマホの………このアプリでできるから。私たちが普通のジャーナリストじゃないことには気が付いてただろうから、黒だったらたぶん数日で行動を起こすと思う。3日で行動を起こさなかったら、あの男の言っていた通りのアスド公園に行く。盗聴器は録音できるから、一日に一回会話音声を確認する。ぞっくりとはこんな感じ」
「わかった…とりあえず、しばらく僕はホテルで盗聴器の管理をすればいいんだね」
「そう。じゃあ打ち合わせはこれで終わり。私は自室に戻るから。……あ、あと、スマホの電源ボタンを5回連続で押すとSOSが出せるから、一応教えとく。もし私から来たらその時は、よろしく」
リーはそう言って僕の部屋を出た。
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午後8時を回って、僕はシャワーを浴び、再び盗聴器に耳を傾ける。特に動きはない。
この作業は思った以上に精神的にきつい。なにもないものをずっと集中して聞き続けるのにはなかなかに体力が必要だ。
やっぱりそんな怪しくないんじゃないかとか思い始めたとき。
盗聴器から会話が聞こえてきた。昼間の男と……女だ。誰だろう。
「急にどうしたの、呼び出したりして」
「昼間にコーカサスのパシリに目を付けられた。ここを出よう」
「………嘘…」
黒だ。急いでリーにメッセージを送る。すると、間もなくリーが僕の部屋にやってきた。
髪型がツインテに戻っている。
「イヤホンを抜いて。そうしたらスピーカーに切り替わるから」
僕は髪型に目を引かれていたので、ハッとして急いで言われた通りイヤホンを抜く。黒い球から会話が聞こえてくる。
「奴らから10万むしりとったから、これを使って別の町へ逃げよう」
「逃げるって……いつ?どこに?」
「別の工業団地だ…ホームレスのいそうなところにしよう。コーカサスを出て……そうだな、次はカイオワに行くか。カイオワも郊外はそこまで国の手が行き届いていないはずだ。逃げるのは今日、今からだ」
「今から……。そう、そうだよね、悠長なこと言ってられないもんね」
「お前はとりあえず家に戻って金になりそうなものと簡単な食糧を集めてくれ。用意ができたらマイと一緒にまたここに来てくれ。そうしたらここを離れよう」
「フェルディ、今すぐ用意して。追うよ」
レイラは大急ぎで部屋を飛び出した。僕も必要そうなものを持って部屋を出た。
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「………間に合ったみたい」
僕とリーが公園に着いた時には、例の男、女性と子供がいた。暗くて顔がよく見えない。
「お前ら……なんでいるんだよ……」
男が絶句する。リーは静かに、一歩ずつ彼らに近寄った。
「先ほどはうそをついてしまってすみません。私たちは『人食い人』の調査をしてるだけなんです。あなたたちがその『人食い人』でなかったら何も問題ないですよ。どういう事情であろうと……たとえ人殺しをしていようと、『人食い人』でなければ、私たちは一切干渉しません」
「………………」
「検査をさせていただけませんか?大丈夫ですよ、本当に。針で少しちくっとするだけですから」
女性は子供をかばうように抱き寄せる。男は依然、こちらを警戒していた。
すると………。
「お前たちの負けだ、コーカサス……エラムの犬が」
男はそう呟くと……。
「エラム人だ!!!ここにエラム人がいるぞッ!!!」
男が大声を張り上げた。公園の中のホームレスたちが、自分の小屋からぞくぞくとこちらに集まってきた。
「エラム人…?エラム人がいるのか!?」
「あれだ!昼間にみたぞ!!!あれが例のエラム人か!!」
「エラム人だ!!捕まえろぉっ!!!!」
ホームレスが公園から群れになって出てきて、僕たちの方へやってこようとする。男たちは群れのの方向とは逆に逃げていった。
「まずい………!フェルディ、いったんこの群れをまくよッ!!」
「……わかった!!」
僕とリーは群れから逃げるように走り出した。ホームレスの大群は逃がすかといわないばかりにすごい勢いで追いかけてくる。
「たのむ!!!俺をエラムに連れてってくれ!!!!!」
「逃がすな!!!追え、追え!!!!!」
「逃げるな!!頼むから、私を助けて!!!!!!!」
ホームレスが思い思いの声をあげながら追いかけてくる。
正に地獄絵図。
「クソッ………事前に手は打ってあったのか……!」
リーが隣で悔しそうにぼやく。
僕たちは死に物狂いで追いかけてくるホームレスを巻くのに手いっぱいだった。
21/09/21 01:46更新 / Catll> (らゐる)