17
ボスの部屋で解散し、僕は自室に必要そうな荷物を持ってエントランスでリーと合流する。
「武器は……持ったみたいだね」
僕の左手に持つケースを見てリーはそう呟く。
「そういうリーは……それ、ギターケースみたいだね」
リーはギターケースを背負っていた。これ絶対ギターケースだよな…?
「まあ、私はダニールに頼んでケースをこの形にしてもらった。フェルディも頼めば好きな形にしてもらえるよ、たぶん」
「いや…僕はいいよ……それにしてもなんでギターケース?」
「…なんとなくかっこいいかなぁと………」
「…………」
「……スマホ持ったなら行くよ」
リーは僕の反応が気に入らなかったのか、つんとした感じに速足で出入り口の方へ向かった。
「あっ……」
僕も急いでリーへついていった。
貧困街ガラディーナ。貧困街って名前だから泊まる場所はひどいものを想像していたが、ホテルは高級感あふれるホテルに泊まることになったみたいだ。車のトランクからスーツケースを取り出し、ホテルの方へ歩く。周りは工場とマンションがたくさんあり、貧困街というよりは工業団地っぽかった。
「ここって本当に貧困街……?」
「工業地帯ガラディーナって言われるけど、それよりも貧困街の方が有名になって、貧困街って呼ばれるようになったみたい。いろいろな会社の工場がたくさんあるから、お偉いさんがよく来ることもあって宿泊施設は豪華な場所が多いよ。私たちが今から行く場所は本当の貧困街だから、楽しみにしてなよ」
リーが意地悪な笑みを浮かべる。不安を煽らないでくれ。
僕とリーはチェックインを済ませ、準備ができ次第ホテルのエントランスで合流するという話になった。僕は渡された鍵の部屋に行き手早くスーツに着替え、『霧切』が入ったケースと携帯を持ってエントランスへ向かった。リーが既にエントランスにいた。
「早いね」
「まあ着替えるだけだからね。じゃあ行こうか」
ホテルを出て、10分ほど歩くと大きな公園のような場所に着いた。公園の周りはボロボロの民家ばかりで、公園内は段ボールとビニールシートで作られた簡易的な小屋で埋まっていた。
「……ここが、公園………」
「ね?貧民街って感じでしょ。流石に公園内に街ができてるとそんな名前もつくよ…しかも何がすごいって、どの公園もこんな感じだからね」
「……子供たちはどこで遊んでるんだ…」
「基本子供を作る、家庭のある民衆は社宅、マンションに住んでる。マンション前に企業が管理してる広場があるから、そこで遊んでるみたい。企業が管理してるだけあって、ホームレスが住み着くことはないみたい」
「……うちのビルもカルトヴェリも現代的で綺麗なところだったからこういう感じのところはないものだと思ってた…」
「まあコーカサスもエラム連邦傘下だけど、ここはコーカサスの首都から離れてるからね。元々栄えてた国ってわけでもないし、エラムの恩恵を受けれたのは都市部とかほんの一部だけ。こういう場所はエラム以外は割とどこの国も残ってる」
エラム以外は、か。
「だからね、エラムの人間っていうと色々面倒だから、私たちは……そうだね、カルトヴェリから来た世界の貧民を調査しているフリージャーナリストってことにしよう。彼らは彼らの大変さを世界に発信しようとする人間に対しては割と優しいから」
面倒って、いったい何があるのだろう。まあ面倒なのはごめんだし、ここに来た目的の調査をしないといけないから、リーの意見に同意を示す。
「じゃあ入るよ。あくまで私たちはジャーナリストって感じで気丈に振舞ってね」
リーはそういうと、公園内に入る。僕はそれに続く形でリーの跡を追った。
公園内にはボロボロの服、髪をした沢山の老若男女がいた。みんな僕たちに奇怪なまなざしを向けてくる。
「そこの人、少しいいですか」
リーが話しかけたのは、40代くらいの無精髭を生やした男だった。
「あんたら見ねえ顔だな……名前は」
「私はレイです。後ろのは見習いのフェリーです。私たちはフリーのジャーナリストで、世界の様々な都市について調べて回ってるのですが、もしよろしければお話をいただけませんか」
「……まあ、いいが……もてなしとかはできねえぞ」
「かまいません、少しお話をいただけるだけでいいので」
男は付いてこいと一言残し、簡易小屋で形作られた道を引き返した。僕とリーは二人でその男についていく。名前についてはわざと隠したのだろう、あえて黙っておいた。
「ここだ。ここが俺の家だ。まぁ入れ」
「ありがとうございます」
男は公園の端の他の小屋よりも割と大きめの小屋へ招待した。僕とリーは、男が入った、ビニールシートで仕切られた入り口から中に入る。部屋の中は使い込まれたランプで暗く照らされていた。
それよりも……ここの部屋、なんか臭う。すっごく臭い。吐きそうだ。
胃からこみあげてくるものを抑え、なんとか平静を保つ。
「……ホームレスの家なんてどこもこんな臭いだ。俺はそういう顔されても気にならんが…………下手な相手だと殺されるぞ、お前」
「す、すみません……」
怒られてしまった。顔に出てたんだな。確かに訪ねてきてる側なのだから、失礼極まりないだろう。申し訳ない。
「………で、なにが聞きたい」
男はボロボロの椅子に座り、話を促す。
「では早速。普段のお仕事は何をされてるんですか?」
「日雇いだ。そこの工場でネジを作ってる。」
「なるほど。失礼ですが、日当はおいくらほどで」
「8千だ」
「…なるほど。なかなか厳しい日当ですね」
「お前らみてぇな服を着れねえくらいにはな」
男は皮肉を漏らし自嘲する。
リーは特に触れることなく話を進める。
「移住などについて考えたことはありますか?」
「……あるにはある。が、ここほどホームレス街が栄えてる街はなかなか珍しい。ホームレスからすれば割と住みやすくはあるからな、それは考えることをやめた」
「……なるほど、ありがとうございます」
リーはひとつひとつメモを取り、真面目に話を聞いている。僕は黙って話を聞いていた。
「最後に。これはあまり関係のない話ですが、小耳にはさんだ噂についてです。人食い人について、何かしってることはありませんか」
男の眉が動く。こちらを見る目が変わった。僕たちを舐めまわすような下品な視線だ。
「……いくら払う」
「…と、いいますと。」
「……この情報は簡単には渡せない。俺の見立てが間違ってなけりゃあ、俺もそれなりにリスクを負うことになるからな。ある国の肩入れをこの街で行うっていうことは、そういうことだ」
「…………」
このホームレスはなかなかの切れ者みたいだ。僕たちがどこに属しているか気が付いたらしい。
「2万でどうですか」
「足りないな。10はもらおう。」
リーは一つため息をついた。
「………わかりました。払いましょう」
リーは懐の財布から10万アエステを出す。
アエステとはエラム連邦の通貨で、連邦下の国はどこも使っているみたいだ。
「話が早くて助かるよ、嬢ちゃん」
「で、どうなんですか」
「……残念ながらここの公園じゃねえよ。ガラディーナ最南端の公園……アスド公園に人食い人がいる。最近はあそこの公園のホームレスが失踪しているっていう噂をよく聞く。噂の出どころも多分あそこだ。ここからは歩いて2時間程度かかる」
「なるほど……質問は以上です。ありがとうございました」
リーはそういうと、その場から立ち上がり、お辞儀をした。僕もそれに見習いお辞儀をする。
「あぁ……別に構わねえよ。貰うもんは貰ったからな。」
リーと僕は、お礼を言って公園を後にした。
「武器は……持ったみたいだね」
僕の左手に持つケースを見てリーはそう呟く。
「そういうリーは……それ、ギターケースみたいだね」
リーはギターケースを背負っていた。これ絶対ギターケースだよな…?
「まあ、私はダニールに頼んでケースをこの形にしてもらった。フェルディも頼めば好きな形にしてもらえるよ、たぶん」
「いや…僕はいいよ……それにしてもなんでギターケース?」
「…なんとなくかっこいいかなぁと………」
「…………」
「……スマホ持ったなら行くよ」
リーは僕の反応が気に入らなかったのか、つんとした感じに速足で出入り口の方へ向かった。
「あっ……」
僕も急いでリーへついていった。
貧困街ガラディーナ。貧困街って名前だから泊まる場所はひどいものを想像していたが、ホテルは高級感あふれるホテルに泊まることになったみたいだ。車のトランクからスーツケースを取り出し、ホテルの方へ歩く。周りは工場とマンションがたくさんあり、貧困街というよりは工業団地っぽかった。
「ここって本当に貧困街……?」
「工業地帯ガラディーナって言われるけど、それよりも貧困街の方が有名になって、貧困街って呼ばれるようになったみたい。いろいろな会社の工場がたくさんあるから、お偉いさんがよく来ることもあって宿泊施設は豪華な場所が多いよ。私たちが今から行く場所は本当の貧困街だから、楽しみにしてなよ」
リーが意地悪な笑みを浮かべる。不安を煽らないでくれ。
僕とリーはチェックインを済ませ、準備ができ次第ホテルのエントランスで合流するという話になった。僕は渡された鍵の部屋に行き手早くスーツに着替え、『霧切』が入ったケースと携帯を持ってエントランスへ向かった。リーが既にエントランスにいた。
「早いね」
「まあ着替えるだけだからね。じゃあ行こうか」
ホテルを出て、10分ほど歩くと大きな公園のような場所に着いた。公園の周りはボロボロの民家ばかりで、公園内は段ボールとビニールシートで作られた簡易的な小屋で埋まっていた。
「……ここが、公園………」
「ね?貧民街って感じでしょ。流石に公園内に街ができてるとそんな名前もつくよ…しかも何がすごいって、どの公園もこんな感じだからね」
「……子供たちはどこで遊んでるんだ…」
「基本子供を作る、家庭のある民衆は社宅、マンションに住んでる。マンション前に企業が管理してる広場があるから、そこで遊んでるみたい。企業が管理してるだけあって、ホームレスが住み着くことはないみたい」
「……うちのビルもカルトヴェリも現代的で綺麗なところだったからこういう感じのところはないものだと思ってた…」
「まあコーカサスもエラム連邦傘下だけど、ここはコーカサスの首都から離れてるからね。元々栄えてた国ってわけでもないし、エラムの恩恵を受けれたのは都市部とかほんの一部だけ。こういう場所はエラム以外は割とどこの国も残ってる」
エラム以外は、か。
「だからね、エラムの人間っていうと色々面倒だから、私たちは……そうだね、カルトヴェリから来た世界の貧民を調査しているフリージャーナリストってことにしよう。彼らは彼らの大変さを世界に発信しようとする人間に対しては割と優しいから」
面倒って、いったい何があるのだろう。まあ面倒なのはごめんだし、ここに来た目的の調査をしないといけないから、リーの意見に同意を示す。
「じゃあ入るよ。あくまで私たちはジャーナリストって感じで気丈に振舞ってね」
リーはそういうと、公園内に入る。僕はそれに続く形でリーの跡を追った。
公園内にはボロボロの服、髪をした沢山の老若男女がいた。みんな僕たちに奇怪なまなざしを向けてくる。
「そこの人、少しいいですか」
リーが話しかけたのは、40代くらいの無精髭を生やした男だった。
「あんたら見ねえ顔だな……名前は」
「私はレイです。後ろのは見習いのフェリーです。私たちはフリーのジャーナリストで、世界の様々な都市について調べて回ってるのですが、もしよろしければお話をいただけませんか」
「……まあ、いいが……もてなしとかはできねえぞ」
「かまいません、少しお話をいただけるだけでいいので」
男は付いてこいと一言残し、簡易小屋で形作られた道を引き返した。僕とリーは二人でその男についていく。名前についてはわざと隠したのだろう、あえて黙っておいた。
「ここだ。ここが俺の家だ。まぁ入れ」
「ありがとうございます」
男は公園の端の他の小屋よりも割と大きめの小屋へ招待した。僕とリーは、男が入った、ビニールシートで仕切られた入り口から中に入る。部屋の中は使い込まれたランプで暗く照らされていた。
それよりも……ここの部屋、なんか臭う。すっごく臭い。吐きそうだ。
胃からこみあげてくるものを抑え、なんとか平静を保つ。
「……ホームレスの家なんてどこもこんな臭いだ。俺はそういう顔されても気にならんが…………下手な相手だと殺されるぞ、お前」
「す、すみません……」
怒られてしまった。顔に出てたんだな。確かに訪ねてきてる側なのだから、失礼極まりないだろう。申し訳ない。
「………で、なにが聞きたい」
男はボロボロの椅子に座り、話を促す。
「では早速。普段のお仕事は何をされてるんですか?」
「日雇いだ。そこの工場でネジを作ってる。」
「なるほど。失礼ですが、日当はおいくらほどで」
「8千だ」
「…なるほど。なかなか厳しい日当ですね」
「お前らみてぇな服を着れねえくらいにはな」
男は皮肉を漏らし自嘲する。
リーは特に触れることなく話を進める。
「移住などについて考えたことはありますか?」
「……あるにはある。が、ここほどホームレス街が栄えてる街はなかなか珍しい。ホームレスからすれば割と住みやすくはあるからな、それは考えることをやめた」
「……なるほど、ありがとうございます」
リーはひとつひとつメモを取り、真面目に話を聞いている。僕は黙って話を聞いていた。
「最後に。これはあまり関係のない話ですが、小耳にはさんだ噂についてです。人食い人について、何かしってることはありませんか」
男の眉が動く。こちらを見る目が変わった。僕たちを舐めまわすような下品な視線だ。
「……いくら払う」
「…と、いいますと。」
「……この情報は簡単には渡せない。俺の見立てが間違ってなけりゃあ、俺もそれなりにリスクを負うことになるからな。ある国の肩入れをこの街で行うっていうことは、そういうことだ」
「…………」
このホームレスはなかなかの切れ者みたいだ。僕たちがどこに属しているか気が付いたらしい。
「2万でどうですか」
「足りないな。10はもらおう。」
リーは一つため息をついた。
「………わかりました。払いましょう」
リーは懐の財布から10万アエステを出す。
アエステとはエラム連邦の通貨で、連邦下の国はどこも使っているみたいだ。
「話が早くて助かるよ、嬢ちゃん」
「で、どうなんですか」
「……残念ながらここの公園じゃねえよ。ガラディーナ最南端の公園……アスド公園に人食い人がいる。最近はあそこの公園のホームレスが失踪しているっていう噂をよく聞く。噂の出どころも多分あそこだ。ここからは歩いて2時間程度かかる」
「なるほど……質問は以上です。ありがとうございました」
リーはそういうと、その場から立ち上がり、お辞儀をした。僕もそれに見習いお辞儀をする。
「あぁ……別に構わねえよ。貰うもんは貰ったからな。」
リーと僕は、お礼を言って公園を後にした。
21/09/21 01:30更新 / Catll> (らゐる)