連載小説
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16
ダニールに別れの挨拶を言い、僕とリーは車に乗り込んだ。

「ダニールと何を話してたの」

「……『個の生存より集団の生存を優先せよ』だって。難しいことをいうよな…」

「あ〜〜………」

リーはなるほどね、といった感じの空気を出す。彼女も同じ話をされたことがあったのだろうか。

「まあ、あいつの言ってることは間違ってはないんだよね。一番やっちゃいけないことはボスを含めてこのT型生命体対策本部の人間全員が全滅すること。奴らのことを知る人間が一人もいなくなると、なにをどうすればいいかの伝え手がいなくなるから。どうしてもデータだけではどうしようもできないこととかあるからね」

「……そうかもしれないけど」

「うん。フェルディの言いたいこともよくわかる。私たちは、そういう気持ちも含めて、だからこそ、強くいなきゃいけないんだよ」

「………」

やはり、結論は強くあること、か。

強ければ、負けることのない力をつけることができれば、こんなことを悩む必要もなくなる。

改めて、僕は強くなろうと決心した。



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ダニールと会ってから一週間が経った。毎日訓練をして、みんなとの稽古をして、僕もそれなりには動けるようになってきた。みんなには「成長が速い」と賛辞を受けるが、これは多分ロブエ族だったからだろう。

「フェルディ、あとで私の部屋に来るように」

ボスとの掛かり稽古がおわり、僕はボスに呼び出された。

稽古が終わり、自室に戻りシャワーを軽く浴びた後、僕はボスの部屋へ向かった。

ドアをノックし、「失礼します」と声をかけてボスの部屋へ入る。

するとボスは机の横で手を後ろで組んで僕に背を向ける形で立って待っていた。

「来たか」

ボスは振り向き、僕の方へと向き直る。ボスの机の上には1メートルほどある長めの箱……ケースが置いてあった。箱は黒く、持ち運び用の取っ手がついており、金の装飾が施されていて、いかにも高級な感じがした。

「ダニールからブツが届いたからな。お前に渡す。大事にしろよ」

僕は箱の前に立ち、その荘厳さに固唾をのんだ。

「………開けてもいいですか?」

「ああ。私も見ておきたいしな」

「まだ見てないんですか?」

「ただの受け渡し人が持ち主の前に見る奴があるか。お前が1番最初だよ。作製者のダニールを除けばな」

「…………なんか緊張しますね。」

「お前の相棒なんだ、そんなに緊張することはない。銘は『霧切』だそうだ」

僕はケースの両端の留め具を外し、ケースを開いた。中からは黒色の鞘に納められた刀が出てきた。

「刀……か。ジャッキーのものに似ているな。いちいち見透かした奴だなぁ……」

「………見透かしている、ですか?」

「いや、関係のない話だ。気にしないでくれ」

ボスの言葉はよくわからなかったが、言われた通り気にしないでおく。

刀を取り出し、鞘から刀身を抜き出す。刀身の長さは地面から僕の腹のあたりまであり、割と長い。真っ黒に輝く刀は、禍々しいオーラを放っていた。

「このビル内ではケースに入れずに持ち運ぶ必要はないが、ビルの外へ持ち出すときは必ずケースに入れて持ち運ぶこと。これは守るように。市民の要らぬ混乱を招きかねないからな。」

「わかりました」

「私からは以上だ。今後の個人での訓練で使って慣れていくといい。あ、私やその他の人との模擬戦では使っちゃダメだよ、おじさんそんなキレッキレの刀で切られたらひとたまりもないからね」

「あ、……わかりました」

「…………いや引かないでね…キャラづくりだから…」

急に威厳のある雰囲気を消し、おちゃらけた感じで話し出す。ボスのペースにはなかなかついていけない。

僕は失礼しますと一言伝え、部屋を去った。



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『霧切』と訓練をするようになって2週間が経とうとしていた。同じく日本刀を使うジャッキーに色々教えてもらいながら、身のこなしや『霧切』の使い方を学んだ。

これがなかなか難しく、そこそこには動けるがまだジャッキーのようにカタナを使いこなせていない感じがある。「まあ実践を積まないと学べないこともあるからね〜、フェルディはよくできてると思うよ!」とは言われたが、それでは足りないのだ。

もっと、もっと強く。

今日もその思いを胸にシミュレーション訓練を行っている。

過去のデータの吸血鬼だが、割と勝つことができるようになってきている。成長は感じることができていた。

ある吸血鬼のデータとの模擬戦を終え、一息つこうとしたとき、携帯が広い道場の中で鳴り響く。招集だった。

「T型生命体の犯行と思われる事件が発生した。エージェント各員は本部長室へ集合するように」

メール文を読み、道場をすぐ去り、エレベーターでボスの部屋へ向かった。





ボスの部屋の前には、リーとジャッキーの二人が待っていた。

「マルセルは…?」

「まだ来てないね〜。どうしたのかな…」

「どうせ今ごろいつものランニングでしょ。」

呑気に三人で駄弁って待っていると、しばらくしてマルセルがタンクトップで汗びっしょりになって戻ってきた。

「はぁ……はぁ……悪ぃ、遅くなった」

「ランニング?」

「はぁ…そうそう、死ぬかと思った、軽く1キロくらい全力疾走……、急な呼び出しってまじでかなわねえよな……」

「よし、全員揃ったし、部屋に入ろうか」

ジャッキーはそういうとドアをノックし、ボスの部屋に入る。僕らも続いて中に入った。

部屋ではボスが椅子に座り待っていた。

「来たか、じゃあ始めるとしよう」

ボスは一つ咳払いをし、本題の話を始める。

「今回はコーカサスだ。週1で失踪事件が起こっている。失踪してる人間が貧民街の人間ばかりだったからな、よくあることといえばよくあることだ、最初は自殺か何かだろうと思われていた。が、かれこれ半年この状況が続いている。まあ、これだけでは動くことがないんだがな……『人食い人がいる』って噂がその貧困街、ガディーナで流れ始めている。こんな経緯でウチが操作することになった。」

ボスは一人ひとりに資料を配る。

資料の内容は以下のようであった。



『人食い人』の事実調査

事件場所:コーカサス・貧困街ガラディーナ

被害人数:22人(推定・行方不明)

現場状況:公園に住むホームレスが次々に行方不明になっている。行方不明者の住処が荒らされた形跡はなく、特に目立った争いの痕跡はない。

犯行時刻:不明

容疑者:不明

その他の情報:ホームレス街で「『人食い人』がいる」という噂が跋扈している。担当エージェントはこの噂の事実確認を行い、『人食い人』の調査をすること。



「………これだけ?」

「ああ、これだけだ。今回はあまりにも情報が少ない。が、噂が出回っている以上現地の聞き込みを行えばある程度の情報は手に入れられるだろう」

「現地警察は聞き込みをしていないんですか?」

僕が疑問を口にすると、リーが隣から補足する。

「貧困街だからね。警察は動きにくいんだと思うよ。まあ行けばわかる」

「………」

警察が動きにくいなんて、どんなところなのだろうか。

「今回の任務には、レイラとフェルディの二名を担当エージェントとして向かわせる。二人は準備ができ次第、車に乗り現地へ向かうように。」

「お!フェルディの初任務じゃねえか!がんばれよ!!」

初任務。なんだかすごく緊張してきた。

「まぁまぁ、リーもいるし、一人で行くわけじゃないからそんな緊張しなくて大丈夫」

「私からは以上だ。では諸君、『我らが未来に光あれ』!!」

僕たちは和んでいた空気を正し、敬礼をする。

「「「「『我らが未来に光あれ』ッッ!!」」」」
21/09/17 23:42更新 / Catll> (らゐる)
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