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レイラを残してジャッキーとマルセルと僕の三人は道場を後にして、自室へと戻った。エレベーターの中でマルセルに色々説明を受けたが、自室でスーツに着替えたらすぐに1階のエントランスに集合らしい。僕は軽くシャワーを浴び、手早くスーツに着替えて、先ほど配られた紙を手にエントランスへ向かった。エントランスにはすでに二人がいて、僕の方に気が付くと手招きをして僕を呼んだ。
「よし、そろったし行こうか」
ジャッキーが号令をかけると、三人でビルを出る。
出た先には黒塗りのワゴン車が止まっていた。後部座席のドアはスライド式で、すべての窓にスモークがかけられており中は見えない。相変わらず森の中でひとつ建っている高層ビルはなんとも異質だった。
三人で後部座席に乗ると、車が出発した。後部座席は4人座れるようになっていて、僕の隣にジャッキー、後ろにマルセルが乗った。
「この車って運転手が乗ってるの?」
僕が尋ねると、後ろに乗ったマルセルが答える。
「自動運転だよ。便利だよなあ」
自動で車を運転させられるのか、すごいな。僕が関心していると、ジャッキーが隣から釘を刺してくる。
「自動運転もいいけどみんなもらったファイルは見た?車の中で目を通してよ??」
悪い悪い、とマルセルは謝り先ほど配られた紙を開いた。僕もそれに続いて紙に視線を落とす。
ビートコーヒー集団殺人事件概要
事件場所:カルドヴェリ ルーム街ピン通り五番地 喫茶店ビートコーヒー
被害人数:6人(全員死亡)
現場状況:バックヤードに6人の死体が放置。いずれも血抜きがされていた。犯行現場は店内客席及びレジ付近であり、死体の劣化等から見て5/16に殺害されたものであると考えられる。殺害において凶器は使われていないが、血抜きのためと思われる傷がどの死体にも首元につけられており、いずれも傍に放置されていた包丁でつけられたものである。全死者の死因は殴打によるものであり、頭がつぶされている。また、6人の死体とは別に何者かの両手が現場に放置されていた。手は激しく損傷しており、手の特徴から人物を特定するのは不可能であった。
犯行時刻:5/16 昼頃
容疑者:アガムート 41歳
ビートコーヒー店主
犯行現場から二階の外階段に上がるところを近隣住民に目撃されている。
(そのほかに生存者がいないためほぼ確定であるが、念のため事情徴収を行い、銀製針でT型生命体検査を行うこと。)
その他の情報:犯人の拠点は特定済みで、同建物二階の自室と思われる。ただし、建物についている傷等から拠点から逃亡している可能性が高い。逃亡していた場合は聞き込み等を行い犯人の場所を特定すること。
文書はこの通りで、他には現場の写真や死体の写真が生々しく写されていた。見ているだけで吐き気がするのでファイルを閉じる。
「6人分の血を吸ってるのかぁ……」
「やるのは結構大変そうだな」
「そうだね…昼のうちに現場を見て夜に突撃しようか…」
話がどんどん進んでいくので僕が待ったをかける。
「待って待って…色々わかんないことがあるんだけど、まずこの検査って何?」
僕が尋ねると、ジャッキーが答える。
「このT型生命体の特徴なんだけどさ、銀製のもので傷つけられると傷口が焦げるんだよね。煙が出てくるんだよ。だから銀製の針でちょっと刺すの。煙が出たら黒。煙が出なかったら多分この事件は現地の警察に引き渡しだね。まあそんなことなさそうだけど」
なるほど…吸血鬼って言われるだけあってそれっぽい特徴があるのか。
「なるほど。次の質問なんだけど、吸血鬼って言われるだけあるから夜の方が犯人に有利だと思うんだけど、昼に突撃した方がいいんじゃないの?」
この質問にはマルセルが答えてくれた。
「昼に検査をやると黒でも陰性って出る確率が高くなるんだ。これが厄介でな、さすがに黒かわからないやつを問答無用で殺しにはかかれない。夜になると100%黒は黒って出るから夜に行くんだよ。」
「へぇ…そんなことがあるんだ。最後にもう一つ。吸血鬼って普通に生活してるの?」
僕が続けて質問すると、二人とも黙ってしまった。しばらくして、ジャッキーが口を開く。
「よくわかってないんだよね、それが。殆どはどこに住んでるのかわからない個体が多いんだけど、たまにこういう人間社会に溶け込んでいるタイプの吸血鬼がいたりするんだ。調査班の人が調べてるんだけど、よくわかってないみたい。」
よくわかってないのか。まあ確かに、怪異じみたものが日常生活に溶け込んでいるなんて、普通に考えてもよくわからなさそうだしな。
「不思議だよね。幽霊が人と変わらない生活をしてる感じだもん。」
ジャッキーも同様の感想を抱いているみたいだ。
その言葉を最後に車の中に沈黙が流れる。
しばらくすると、車が止まったのを感じる。
「そうこうしてるうちについたみたいだよ。降りようか。」
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////
車を降りると、人通りの多い歩道が目の前に飛び込んできた。いかにも街中って感じだ。沢山の建物の中、せわしなく人が行き来している。マルセルが後ろから声をかけてくる。
「おーい、スーツケース持ってけよ〜」
マルセルの周りに大きめのスーツケースが3つあった。
「そんなスーツケースどこにあったの?車の中にあったっけ?」
「トランクの中に積んであるんだよ。任務は長いと2,3週間かかったりすることがあるからね。着替えとか色々入ってるよ。」
ジャッキーが隣から補足を入れる。そういうジャッキーには長い棒状のケースをかついでいた。
「そのケースは……?」
「これ?そっか、見るのは初めてだよね。これは私の武器。カタナだよ。銀製の特注品でね、フェルディもそのうち自分の得物もらえるようになると思うよ。」
「ちなみに俺のものはピストル型の銃剣だ!後で見せてやるよ、かっけぇから!!」
がははとマルセルが笑う。
当たりを見渡すと、目の前にはホテルっぽい建物があり、その他洋服屋や色々な商店があるようにみえるが、例の喫茶店ぽいものは見当たらなかった。
「今から現場に行くんだよね?なんかそれっぽいものはないけど…」
「まずはホテルに入って荷物を置いてから向かうよ。カバンの中にスマホが入ってるからそれを使って現場まで行くの。」
ジャッキーはそういうと、早速キャリーバックを持ってホテルの中へと入っていった。僕とマルセルもそれに続いてホテルへ入った。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////
ホテルは結構いい感じのもので、一人一部屋割り当てられた。ベットもふかふかだったし、31階の部屋だったので眺めもよかった。周りの建物はどれも高くて10階程度っぽかったので、街の様子を一望できた。
スーツケースを開けると、ジャッキーが言う通りスマホっぽい端末が入っていた。電源をつけてみると、何かメッセージを受信していた。
『言い忘れてたけど、たぶん中に警棒っぽい伸縮式の棒と黒い手袋が入ってるから持ってきてね〜』
ジャッキーからのメッセージだ。スーツケースの中を確認すると、着替えのスーツなど衣服類の隣に何か怪しげな黒い箱があった。開いて中を確認すると、銀色の全長15センチぐらいの握りやすそうな棒と黒い手袋が入っていた。ボタンがあったので押してみると、1メートルないくらいまでの長さまで伸びた。もう一度ボタンを押すと棒が縮み、元のサイズに戻った。おそらくこれのことだろう。
一方、手袋の方は何の変哲もない綿でできた手袋のようであった。
言われた通りスマホと警棒、手袋をもって部屋を出た。
ホテルのエントランスへ行くと、ジャッキーがソファで座って待っていた。
「お待たせ」と一声かけてジャッキーの隣に座る。
「なんかさ、このスーツかっこいいけど、中のワイシャツもズボンもジャケットも黒いからホストみたいで恥ずかしいよね」
恥ずかしさなんて一切感じてなさそうな笑顔でこちらに話しかけてくる。
まあ確かにちょっと不思議な恰好ではあるけど…
「まあ一応理由はあるっちゃあるんだけどね。吸血鬼の返り血を浴びたときに白シャツだと目立っちゃうでしょ?そういうのを防ぐためっていう理由で黒いらしいよ」
かなり物騒な理由だった。まあでも普通の人が白シャツが真っ赤になった人間をみたらびっくりするか…
ジャッキーとはなしていると、しばらくしないうちにマルセルが到着する。
「悪い悪い、待たせたな。最後に大便行きたくなってよ」
「きったない!そういうのいちいち言わなくていいよ!」
ジャッキーが軽くマルセルの腹めがけてグーパンをいれる。
「生理現象じゃねえか!別にいいだろ!」
「うんちに行くことが悪いんじゃなくて一回一回報告入れるのがいらないの!ほら行くよ!」
ジャッキーは速足でエントランスを出た。
「お〜そんな怒んなって〜」
僕とマルセルはジャッキーを追いかける形でホテルを後にした。
「よし、そろったし行こうか」
ジャッキーが号令をかけると、三人でビルを出る。
出た先には黒塗りのワゴン車が止まっていた。後部座席のドアはスライド式で、すべての窓にスモークがかけられており中は見えない。相変わらず森の中でひとつ建っている高層ビルはなんとも異質だった。
三人で後部座席に乗ると、車が出発した。後部座席は4人座れるようになっていて、僕の隣にジャッキー、後ろにマルセルが乗った。
「この車って運転手が乗ってるの?」
僕が尋ねると、後ろに乗ったマルセルが答える。
「自動運転だよ。便利だよなあ」
自動で車を運転させられるのか、すごいな。僕が関心していると、ジャッキーが隣から釘を刺してくる。
「自動運転もいいけどみんなもらったファイルは見た?車の中で目を通してよ??」
悪い悪い、とマルセルは謝り先ほど配られた紙を開いた。僕もそれに続いて紙に視線を落とす。
ビートコーヒー集団殺人事件概要
事件場所:カルドヴェリ ルーム街ピン通り五番地 喫茶店ビートコーヒー
被害人数:6人(全員死亡)
現場状況:バックヤードに6人の死体が放置。いずれも血抜きがされていた。犯行現場は店内客席及びレジ付近であり、死体の劣化等から見て5/16に殺害されたものであると考えられる。殺害において凶器は使われていないが、血抜きのためと思われる傷がどの死体にも首元につけられており、いずれも傍に放置されていた包丁でつけられたものである。全死者の死因は殴打によるものであり、頭がつぶされている。また、6人の死体とは別に何者かの両手が現場に放置されていた。手は激しく損傷しており、手の特徴から人物を特定するのは不可能であった。
犯行時刻:5/16 昼頃
容疑者:アガムート 41歳
ビートコーヒー店主
犯行現場から二階の外階段に上がるところを近隣住民に目撃されている。
(そのほかに生存者がいないためほぼ確定であるが、念のため事情徴収を行い、銀製針でT型生命体検査を行うこと。)
その他の情報:犯人の拠点は特定済みで、同建物二階の自室と思われる。ただし、建物についている傷等から拠点から逃亡している可能性が高い。逃亡していた場合は聞き込み等を行い犯人の場所を特定すること。
文書はこの通りで、他には現場の写真や死体の写真が生々しく写されていた。見ているだけで吐き気がするのでファイルを閉じる。
「6人分の血を吸ってるのかぁ……」
「やるのは結構大変そうだな」
「そうだね…昼のうちに現場を見て夜に突撃しようか…」
話がどんどん進んでいくので僕が待ったをかける。
「待って待って…色々わかんないことがあるんだけど、まずこの検査って何?」
僕が尋ねると、ジャッキーが答える。
「このT型生命体の特徴なんだけどさ、銀製のもので傷つけられると傷口が焦げるんだよね。煙が出てくるんだよ。だから銀製の針でちょっと刺すの。煙が出たら黒。煙が出なかったら多分この事件は現地の警察に引き渡しだね。まあそんなことなさそうだけど」
なるほど…吸血鬼って言われるだけあってそれっぽい特徴があるのか。
「なるほど。次の質問なんだけど、吸血鬼って言われるだけあるから夜の方が犯人に有利だと思うんだけど、昼に突撃した方がいいんじゃないの?」
この質問にはマルセルが答えてくれた。
「昼に検査をやると黒でも陰性って出る確率が高くなるんだ。これが厄介でな、さすがに黒かわからないやつを問答無用で殺しにはかかれない。夜になると100%黒は黒って出るから夜に行くんだよ。」
「へぇ…そんなことがあるんだ。最後にもう一つ。吸血鬼って普通に生活してるの?」
僕が続けて質問すると、二人とも黙ってしまった。しばらくして、ジャッキーが口を開く。
「よくわかってないんだよね、それが。殆どはどこに住んでるのかわからない個体が多いんだけど、たまにこういう人間社会に溶け込んでいるタイプの吸血鬼がいたりするんだ。調査班の人が調べてるんだけど、よくわかってないみたい。」
よくわかってないのか。まあ確かに、怪異じみたものが日常生活に溶け込んでいるなんて、普通に考えてもよくわからなさそうだしな。
「不思議だよね。幽霊が人と変わらない生活をしてる感じだもん。」
ジャッキーも同様の感想を抱いているみたいだ。
その言葉を最後に車の中に沈黙が流れる。
しばらくすると、車が止まったのを感じる。
「そうこうしてるうちについたみたいだよ。降りようか。」
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////
車を降りると、人通りの多い歩道が目の前に飛び込んできた。いかにも街中って感じだ。沢山の建物の中、せわしなく人が行き来している。マルセルが後ろから声をかけてくる。
「おーい、スーツケース持ってけよ〜」
マルセルの周りに大きめのスーツケースが3つあった。
「そんなスーツケースどこにあったの?車の中にあったっけ?」
「トランクの中に積んであるんだよ。任務は長いと2,3週間かかったりすることがあるからね。着替えとか色々入ってるよ。」
ジャッキーが隣から補足を入れる。そういうジャッキーには長い棒状のケースをかついでいた。
「そのケースは……?」
「これ?そっか、見るのは初めてだよね。これは私の武器。カタナだよ。銀製の特注品でね、フェルディもそのうち自分の得物もらえるようになると思うよ。」
「ちなみに俺のものはピストル型の銃剣だ!後で見せてやるよ、かっけぇから!!」
がははとマルセルが笑う。
当たりを見渡すと、目の前にはホテルっぽい建物があり、その他洋服屋や色々な商店があるようにみえるが、例の喫茶店ぽいものは見当たらなかった。
「今から現場に行くんだよね?なんかそれっぽいものはないけど…」
「まずはホテルに入って荷物を置いてから向かうよ。カバンの中にスマホが入ってるからそれを使って現場まで行くの。」
ジャッキーはそういうと、早速キャリーバックを持ってホテルの中へと入っていった。僕とマルセルもそれに続いてホテルへ入った。
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ホテルは結構いい感じのもので、一人一部屋割り当てられた。ベットもふかふかだったし、31階の部屋だったので眺めもよかった。周りの建物はどれも高くて10階程度っぽかったので、街の様子を一望できた。
スーツケースを開けると、ジャッキーが言う通りスマホっぽい端末が入っていた。電源をつけてみると、何かメッセージを受信していた。
『言い忘れてたけど、たぶん中に警棒っぽい伸縮式の棒と黒い手袋が入ってるから持ってきてね〜』
ジャッキーからのメッセージだ。スーツケースの中を確認すると、着替えのスーツなど衣服類の隣に何か怪しげな黒い箱があった。開いて中を確認すると、銀色の全長15センチぐらいの握りやすそうな棒と黒い手袋が入っていた。ボタンがあったので押してみると、1メートルないくらいまでの長さまで伸びた。もう一度ボタンを押すと棒が縮み、元のサイズに戻った。おそらくこれのことだろう。
一方、手袋の方は何の変哲もない綿でできた手袋のようであった。
言われた通りスマホと警棒、手袋をもって部屋を出た。
ホテルのエントランスへ行くと、ジャッキーがソファで座って待っていた。
「お待たせ」と一声かけてジャッキーの隣に座る。
「なんかさ、このスーツかっこいいけど、中のワイシャツもズボンもジャケットも黒いからホストみたいで恥ずかしいよね」
恥ずかしさなんて一切感じてなさそうな笑顔でこちらに話しかけてくる。
まあ確かにちょっと不思議な恰好ではあるけど…
「まあ一応理由はあるっちゃあるんだけどね。吸血鬼の返り血を浴びたときに白シャツだと目立っちゃうでしょ?そういうのを防ぐためっていう理由で黒いらしいよ」
かなり物騒な理由だった。まあでも普通の人が白シャツが真っ赤になった人間をみたらびっくりするか…
ジャッキーとはなしていると、しばらくしないうちにマルセルが到着する。
「悪い悪い、待たせたな。最後に大便行きたくなってよ」
「きったない!そういうのいちいち言わなくていいよ!」
ジャッキーが軽くマルセルの腹めがけてグーパンをいれる。
「生理現象じゃねえか!別にいいだろ!」
「うんちに行くことが悪いんじゃなくて一回一回報告入れるのがいらないの!ほら行くよ!」
ジャッキーは速足でエントランスを出た。
「お〜そんな怒んなって〜」
僕とマルセルはジャッキーを追いかける形でホテルを後にした。
21/08/30 17:50更新 / Catll> (らゐる)