【双混体(デュオファクター)】
Z市に各方向から突入した複数の討伐部隊。
向こうもそのことに気づいていたようで、前方に複数の悪魔がいる。詳しい強さはわからないが、恐らくはS2やS3クラスだろう。
ディーノ「怯むな!突撃だ!!」
ディーノを先頭に、討伐部隊は悪魔達へ突撃し、悪魔達も討伐部隊へ突撃し、交戦を開始する。
討伐部隊は対魔兵器を使い、悪魔達はそれぞれが持つ核と闇を使って交戦する。
Z市全体で、白と黒がぶつかり合う……「白黒ハッキリつける」と、誰かが残した言葉がある。白と黒は敵対する、それが当たり前のようになってきている……混ざり合うことは、できないのだろうか?
いや、そんなことはない。何故なら……
イルゼ「くっ…キリがない…!」
部隊から少し離れた場所で交戦中のイルゼ。早く部隊と合流しなければいけないが、悪魔が多いためなかなか進めない…
悪魔「ははは、隙ありぃっ!」
イルゼの背後を取り、攻撃を仕掛ける悪魔。イルゼも直前で気づく…
イルゼ「っ!しまっー」
悪魔の攻撃が、当たる寸前…
悪魔「うぉっ!?」
誰かに上から頭を蹴られる。当たりどころが良かったせいか、一発で気絶した。
イヴ「はーい、邪魔だから寝ててね〜」
イヴが降りてきて、イルゼの横に着地する。どうやら、先ほどのはイヴがしたことのようだ。イルゼは驚いた表情でイヴを見ている。
イヴはイルゼに、ニッと笑みを向けた。
イヴ「おまたせ、イルゼ。怪我とか、してない?」
イルゼ「…はい、大丈夫です。」
イヴ「よし!じゃ、このまま進んじゃおうか!」
恐らくイルゼ達が向かってるであろう方向を向く。
イヴ「いくよ、イルゼ!」
イルゼ「はい!」
そう、ここに……混ざることができた、白と黒がいる。今までは決して、混ざり合うことのなかった2つが、今ようやく混ざった…。
イヴも合流し、討伐部隊はどんどん進んでいく。悪魔は次々倒されていき、数もかなり減って来ている。
ディーノ「こっちが優勢だ!このまま勢いに乗れ!!」
「………」
Z市のとある建物から、その様子を見ている男性と、少女がいる。
「ねぇ、押されてるよ……行ってきていい?」
少女が男性にそう言うと、男性は静かに首を横に振る。
「君が出るほどではないさ。それに、力を手に入れて日が浅いだろう?ここは、様子を見るのを含めて…私が行って来よう。」
そう言うと、その男は一瞬で姿を消した。
イルゼ「大分、数が減ってきましたね…!」
イヴとイルゼが、悪魔を倒しながら進んでいく。イルゼは少し息が上がっているが、イヴはまだ余裕そうだ。それを見てイルゼは、やはり自分と戦ってた時は本気じゃなかった、まだまだ力を持ってたと思った…。
イヴ「…………」
イヴが黙って、その場に立ち止まる。
イルゼ「イヴさん…?」
イヴが止まったのをみれば、自分も止まる。
イヴ「おかしい……レートがS2やS3の悪魔を出したきり、援軍も無し…もっと悪魔よりも恐ろしいものが来てもおかしくない……」
確かに、悪魔達は数がかなり減ってる…これだけやられてれば、援軍が来てもおかしくはない…それに、あれから3000年は経っているのに、進歩してないとは思えない……
「ほぅ…なかなか鋭いね、お嬢さん。」
イヴ「…!!」
後ろから声が聞こえ、咄嗟に攻撃を尾核で防ぐ。そして、振り向きながら剣で攻撃するが、簡単に避けられ距離を置かれる。
「これは珍しい、漆眼が片方だけなのに、尾核を持っているとは。」
そこにいたのは、天使と悪魔のような面をつけて、手品師のような格好の男が立っていた。
イヴ「…誰、あんた……手品師ってわけじゃなさそうだね…」
イルゼを守るように前に立ち、その男を睨みながら剣を構える。
「失敬、自己紹介が遅れてしまった。私の名はウィリアム・エヴァンス。悪魔因子投与実験を、一番最初に始めた者…とでも言っておこうか。」
イルゼ「…!!」
イヴ「……あんたが……」
剣を強く握りしめる……
イヴ「…ずっと探してたよ………こんな体になって、どんな思いをしたか……。今まで、どれだけの人間が、こんな体なら死んだ方がマシだと思ったか……!!」
剣に闇炎を纏わせる…その炎は、復讐心そのものを表しているようだった…
イヴ「あんたにも……同じ思いを味あわせてやるっ!!!」
一瞬で間合いを詰めて、攻撃を仕掛ける。ウィリアムは自身の核を左手に纏わせ、刃のような形状に変化しイヴの攻撃を防ぐ。
ウィリアム「どうやら君は、幻獣タイプのようだね…とても珍しい。ハリネズミの私からすれば、羨ましい力だ。」
イヴ「…っ……!」
そこから、激しい攻防が続く。イヴも闇炎と尾核を駆使して交戦する…力なら、イヴの方が上…だがウィリアムは、刃や大量の針等に形状を自在に変化させ、戦っている。恐らくは、ウィリアムの核は甲核だろう。
イルゼ「………」
あのウィリアムという男…強い……!S3…いや、それ以上はある…!イヴさんの攻撃を全て片手で対応して、反撃してる……何より、あの場所から一歩も動いてない…!
加勢しなければいけないのに…一歩も、動けない……!
ウィリアム「…ふむ、君の特徴を見て思い出したよ。隻漆眼で、竜の紋章と尾核を持ち、共食いを繰り返して力をつけている…名前は確か、イヴ・グレモリーだったか…」
イヴの攻撃を片手で対応しながら、余裕そうに話してる。
ウィリアム「君の力はSSレートの枠に入っていると聞いたが…本当は、SSSレートくらいはあるだろう?」
イヴ「黙れ……」
ウィリアム「折角ここに降りてきたんだ、もっと私を楽しませてくれたまえ」
イヴ「黙れ!!」
一旦距離を置き、再び構え直す。
イヴ「人の体を、勝手に実験材料にして…!」
イヴの脳内に、自分が食らってきた…人間の意思を持たない、文字通りの化け物となってしまった人達が映る。
イヴ「私みたいに、成功してない大勢の人達は化け物になって…!」
さそして……アイラの顔も、映った…
イヴ「大切な人とも会えずに、死んだ人もいた…!!人の命を弄ぶ、あんただけは許さない……!!」
再びウィリアムに接近するイヴ
イヴ「殺す…!!」
ウィリアム「ふむ、そうか……それは悪いことをしたね。」
まったく悪びれていない様子で、そう言った。
ウィリアム「お詫びだ。君には、特別にいい物を見せてあげよう…」
そう言った直後、イヴの体を何かが貫く…
イヴ「…っ!?」
腹部に目を落とすと…白い刃が刺さっていた。それを目で追うと…ウィリアムの右手から伸びていた物だとわかる。
イヴは吐血し、白い刃を引き抜かれた後、力無く倒れる。
ウィリアム「どうかね、A-Virusのお味は…。」
イルゼ「A-Virus…それって、まさか…!」
ウィリアム「そう…君達、悪魔対策機関が持つ、対魔武器の中にある物だ。A-Virusは、唯一悪魔に大ダメージを与えることのできる物だ。」
刃が縮み、左手の刃と同じくらいの長さになる。
ウィリアム「私は、悪魔因子とA-Virusの投与に成功し、新たな力を手に入れた…光と闇、2つの力を持つ者……"双混体(デュオファクター)"とでも、名付けておこうか。」
イヴが、ゆっくりと立ち上がる。
イルゼ「イヴさん…!」
イヴ「大丈夫…こんなの、大した怪我じゃない……それよりイルゼ、このことを…君の隊長達に伝えて…!」
イルゼ「でも、それではイヴさんが!」
イヴ「私なら大丈夫………簡単に、くたばらないよ…!」
イヴはイルゼに笑顔を見せる。イルゼは、何かを決意したような目をしてイヴに背を向け
イルゼ「……必ず、援軍を連れて戻ってきます…!死なないでください…!」
そう言って、走り去った……
ウィリアム「賢明な判断だね……最も、君がどうなるかは見えているが…」
再びイヴは、剣を構える。剣はカタカタと小刻みに震えている…
武者震い…ではないみたいだね、残念ながら…。怯えてるわけじゃない、ただ…体が先に気づいたんだ。私じゃあ、コイツには勝てないって……。
だけど、ここで逃げるわけにはいかない…折角、理解し合えたんだ…初めて、守るべき人ができたんだ……なら、黙って見てて…黙って、私に守らせて…!!
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17/08/30 19:06更新 / 青猫