連載小説
[TOP][目次]
最終話
11月30日(晴)

あれから一年が経った。けど………

あの子はまだ、帰ってこない…









幽香「………」
ベンチに座り、ぼーっと空を見上げていた。どことなく、何かが抜けたような顔をしていた……
1年前が、昨日のように感じる……けど、あの子と何年も会ってないような感覚だ…
1年前…目が覚めたときのことを、今でも鮮明に覚えてる。



幽香「…ん………」
文「目が覚めましたか、幽香さん…」
恐らく、元の幻想郷に戻って来たのだろう。周りを見ると、椿を連れ戻すのを協力してくれたみんながいた。全員、暗い顔をしている…
そして、自分が気を失ったことと気を失う前のことを思い出した。

幽香「椿は!?」
体を起こして、周りを見る…だが、どこにも椿の姿はない。
椿の名前を聞くと、更に暗くなる。自分がもっと強ければ、自分がもっとしっかりしていれば……そんな後悔をしている顔に見えた。
幽香「椿はどこ…!?帰って来てるんでしょ!?」
紫「…置いて来たわ、あの世界に。」
その重い空気の中、紫が口を開き、真相を語る。
幽香「…どういうことよ、紫」
ゆっくり起き上がり、紫に近づく。紫は幽香の方を向き、そのまま語る。
紫「そのままの意味よ。あなたと椿ちゃんが戦っていた、あの空間に置いてきた。」
幽香「…!」
幽香は紫の胸ぐらを掴む。
藍「…!」
藍は幽香に弾幕を撃とうと手をかざすが、紫は目線で「やめろ」と指示を出す。藍は手を下ろす。
幽香「…何してんのよ……!あと少しで…あと少しで…取り戻せたのに…!!」
紫「……」
レミリア「幽香…」

幽香「もう会えないのかもしれないのよ…!!それなのに、あんたは…!」
その時、紫は幽香の頬を平手打ちした。平手打ちされた箇所は、少し赤くなっている

紫「信じてあげないと…いけないでしょう…」
紫の目から静かに涙が流れ、頬をつたう。
紫「"必ず戻ってくる"って、信じなきゃいけないでしょう……あの子のことを誰よりも信じてあげなくちゃいけないのは…幽香…あなたでしょ…!」

幽香「……」
幽香は力なく紫の胸ぐらから手を離した…























文「あ、幽香さーん!」
幽香「…あら、文。それにみんなも」
文や紫、レミリア達が幽香に近寄る。
紫「久しぶりね、このメンツ…」
正邪「おい!なんで私までここに連れてくるんだ!」
紫「いいじゃない、最近はよく会ってる方なんだから」
正邪「ふざけるな!私はお尋ね者だぞ!」
※紫が拉t…連れてきたことは言うまでもない。

紫「それに、なんだかあなた…ちょっといい顔になったわ。なんだか、大きなことを成し遂げたような…」
正邪「……」
正邪が紫に背中を向けて

正邪「な、何でもかんでも見透かすな!年増め!」
ここで、紫の大号泣タイム。正邪は「しまった!」という顔で紫の方を向いて、悪かったと言って泣き止まそうとする。

文「いやぁ、平和ですねぇ」
レミリア「いや、どの辺がよ。」
咲夜「そうですよ、目の前を見てください」
レミリア「あなたの鼻からも平和じゃない物が流れてんのよ」
と、いつものようなやり取りをしていると

幽香「あ!お花達にお水あげてくるの忘れてたわ!」
全「えー!?」
その場にいた全員が驚く。
正邪「お前、曲がりなりにも花の妖怪だろ!」
レミリア「曲がってはないでしょうよ」
文「幽香さん、最近ぼーっとしてる時が多いですね…」
幽香「ちょっと、行ってくるわ!」
幽香は走って、自宅に戻っていく…

紫「……」
正邪「…いつも、バカみたいなやり取りしてるけど…」
紫と正邪は、幽香の隣をじっと見ていた

正邪「なんか…足りないんだよな…」






















自宅に戻った幽香は、水の入ったジョウロを持って、花に水をあげていく。
幽香「ごめんね、ご飯遅れちゃって…」
花にそう言って、ひとつひとつ丁寧に水をあげていく…
幽香「………」
ある花…白い椿の前で止まる。

幽香「…………」
水をあげた後、ジョウロを置く。
幽香「…この花を見てると、思い出すわね…あの子と過ごしてきた日々を」
口元に笑みを浮かべて、その場にしゃがむ。
幽香「最初はこの花畑にいて、拾って…次の日にいきなり大きくなったのを見た時、本当に驚いたわ。あ、あとガーデニング楽しい?って、私に聞いた時もあったわね。聞き返した時、即答で否定してたっけ…地味に傷ついたのよ、あの時」
少し笑いながら、懐かしい話をその花にする…そこに"椿"いるように…

だが、その笑みは消えて俯く。
幽香「…忘れてないわよね…消えてなんか…ないわよね……」
思い出す度、不安になっていく。椿を信じよう、帰ってくるのを待とう…何十年でも、何百年でも…でも、嫌なことばかりが脳裏を過る。その度に…「椿に会いたい」と、強く思う……

幽香「椿…椿の花言葉を覚えてる…?花言葉は…」
「至上の愛らしさ」
幽香「…!」
「そうだよね?幽香」

その声は、突然聞こえた。自分の背後から……聞き慣れた、でも…とても懐かしい…そんな声だった。
幽香「…えぇ、そうよ…この上ない愛らしさ…この世に1つしかないような…それほどの愛らしさ…まるで、あなたのような…」
震えた声で話し、立ち上がって後ろにいる者を抱きしめた。もう二度と離さない、そう強く抱きしめ…手の震えが相手に伝わり、溢れ出る涙が頬をつたう…
白い椿の花の花びらが、風で散る。ありえないことだ…まるで、二人の再会を祝福するようだった

幽香「…おかえりなさい…っ……」
















椿「ただいま!」



おしまい

〜おまけ〜

「袖」

幽香「あら?椿…前は右手を袖に通してなかったよね?」
椿「ん?あー、あの部屋ちょっと寒くってさ〜、流石に肩を出しっぱなしだと寒いからさぁ」
幽香「そう…」
椿「いやー、外の空気っておいしいね!」




幽香(片方しか袖を通さないのかしら…)
左手を通してません


「謝罪」

紫「椿ちゃん…おかえりなさい…」
椿「紫お姉さん…」
紫は涙を流して感動してます。
椿「ごめんなさい…」
紫「いいのよ…椿ちゃんは、私との約束を守って、椿ちゃんとして戻ってきて…」
椿「あ、いや、そっちじゃなくて…その……
















記憶がなかったとはいえ、紫お姉さんのことクソババァって言っちゃったから…」

この後、感動ではない涙を紫が流したことは、言うまでもない。


「すごい」

椿「文って、すごく速いんだね!」
文「そりゃもちろんですよ!なんたって、最速ですからねぇ」
レミリア「あら、あなたが最速?私が最速の間違いでしょ?」
椿「レミィも速いの?すごい!」
レミリア「そうでしょ?あとお姉様と呼びなさい」
椿「懐かしいなぁ、それ」
紫「そういえば椿ちゃん、一年どう過ごしてたの?」
椿「えーっと


















なにもせずにぼーっとしてた。




で、一年経った。」

三人(あんたが一番すごいわ…)


「服」

幽香「そういえば椿、その服って…」
椿「これ?いいでしょー?私のお気に入りなんだ!」
幽香「確かにかわいいけど…その羽織り大きくないかしら?」
椿「うん、私も大きいと思うんだけど……」
幽香「うん」













椿「なんか、大きい方が可愛いって年上の人に言われちゃってさ。よくわかんないけど」
幽香(今も昔も、似たようなこと考える人がいたのね…)


「歳」

レミリア「何度も言ってるでしょ、お姉様と呼びなさい」
椿「えー…でもさ、私の方が年上だと思うんだけど」
レミリア「え?」
文と紫「え?」
レミリア「いやいやいや、椿。あなた一歳でしょ?」
椿「でもさ、私大昔から生きてるんだよ?」
文「でも、私は1000歳を超えてますし、紫さんに関しては幻想郷ができた当時からいるんですよ?」
椿「私は幻想郷ができる前からいたよ?」
紫「じゃあ、椿ちゃんは何歳なの?」
椿「えー…歳言うの恥ずかしい…」
レミリア「耳打ちでいいから」
椿「じゃあ………」






三人「………」





レミリア「一歳でいましょう」
椿「え?」
文「そうです、新しく始めましょう!」
椿「え?え??」
紫「新しく椿ちゃんが生まれ変わった、そうしましょ?ね?」
椿「…うん…?」
三人は、聞かなかったことにした。


「反逆者」

正邪「ははは!久しぶりだな!」
椿「あー!えーっと、ジェット・コースターさんだっけ?」
正邪「もう原形がないだろそれ!鬼人正邪だ!」
椿「久しぶりだね、正邪!」
正邪「あぁ、久しぶりだな…ずっとお前に下剋上しようと一年待っていた!私は反逆者だからな!」
椿「ということは、いい子ってこと?」
正邪「は?」
椿「だって、正邪って天邪鬼だよね?」
正邪「うん(それ覚えてて名前は覚えてないのか)」
椿「だから、反逆者も逆の意味でしょ?」
正邪「いや、反逆者はそのままの意味で言った」
椿「でも、反逆者でも物によるよ?いい反逆者もいるし」
正邪「いや、私は悪い反逆者だ!」
椿「それって、逆の意味?それともそのまま?」
この議論は、3日続いたそうだ


「箱」

幽香「そういえば椿、あなたが一番最初に入ってた箱って…」
椿「あれかぁ…多分、霊華がやってくれたのかな。目覚める頃に箱を出現させるような術式とか…」
幽香「でも、漢字間違ってたわよ?」
椿「えっとね…霊華って、かなりおバカでさ…」








狗神「…何度言えばわかる、それは右ではなく左だ!右という漢字はこうだ!」
霊華「もぉ〜!誰ですか!こんなややこしい漢字を作ったのはぁ!」
狗神「いや、ややこしくないだろ」





椿「もう大きくなっても、まだ左右を間違えたり、大を太って書いたり…教えるの大変だったなぁ…」
幽香「重症ね、その子」






レミリア「あ、遅いわよ!二人とも」
椿と幽香が、みんながいる場所に来る。待ち合わせをしてたようだ
椿「ごめんごめん、ちょっと人間の里に寄っててさ」
文「とりあえず全員揃いましたし、行きましょう!」


紫「行く途中に、この一年何があったか、椿ちゃんに教えてあげましょ?」
椿「何かあったの?」
紫「えぇ、そうよ。」
文「確か、向こうから帰って来る前からが始まりでしたね…」












これは、椿が不在だった一年に起きた出来事


16/10/23 21:16更新 / 青猫
前へ

TOP | RSS | 感想 | 目次