第12話
椿「ここって……」
扉を開け、その先に待っていた物は……真っ白な空間。そう、まるで椿がいつも夢の中にいる空間のような……いや、恐らく夢の中の空間と同じ空間であろう。
椿「どこなの…?夢の中と同じ場所なの?じゃあ、私がいつも見てた夢って……?」
見覚えのある空間を前にして、考えた。夢と一緒の空間なのか?それとも別なのか?もし同じ空間だとすれば、なぜ夢でこの空間に?考えれば考えるほど、謎は増えていく…
考えて答えを出す前に…あの黒い点が現れ、広がっていく…
椿「黒い点……もしかして、また何かの映像が…?」
呟いた直後に、映像が流れ始めた……
これは、幻想郷ができる前の映像。古そうな建物ばかりで、住民も着物のようなものを着ている。この映像で流れている光景は、いつ頃のだろう……?
ある家に視点が移る……正確には、屋根に。屋根の上に、銀髪の髪と、黒い耳と尻尾の犬の妖怪がいる……いや、妖怪とは何かが違う…
どことなく、椿に似ている……何者なのだろうか?何故屋根の上にいるのだろうか?
子供「お母さーん、あの屋根の上に乗ってるの何〜?」
母親「ん?あぁ…狗神よ。憑いた家に幸福をもたらす…要は、幸せにしてくれるのよ。」
子供「へぇ〜!いいなぁ…うちにも来ないかなぁ…」
狗神「……」
その会話が聞こえたのか、その親子を横目で睨む。だが、すぐに前を見た。
人々には、狗神はいい憑き物と思われているが……実際は違う。確かに幸福はもたらすが…それはほんの一時のみ…憑いた家の住民を皆殺しにする…恐ろしい霊なのだ
ふと、昔の記憶が一瞬脳裏を過ぎった。自分が幼い頃の、ある記憶が……
狗神「……クソッ…」
決して、いい記憶ではなかった…
なにやら、下から視線を感じる。何気なく下を見てみた……
そこには、小さな女の子がいてこちらを見上げていた。最初の夢で見た…あの燃えてる家の前にいた子だ。
狗神「あのガキは確か…この家の…」
今現在憑いている家の子供。この子供の名前は「霊華」、まだ幼い子供だ……
霊華は、じーっとこちらを見ている。こんなことは、子供によくあること。少し珍しいものがあれば、特になにも考えずじーっと見続ける……狗神はそう思って、その子を見るのをやめた。
どうせ、もうすぐ無くなる命だ。いちいち気にしてられない。
映像が変わる。そこには、先ほどまであった家が燃えている……家の前には狗神と、霊華がいた。
狗神「……」
霊華「…?」
霊華は燃えてる家から、狗神へと視線を変える。狗神は霊華の方を向く……狗神の目は、獲物を狩るような目をしていた。持っていた刀を振り上げ、その子目掛けて振り下ろした。
だが、途中で手が止まる。その子はまだ不思議そうにこちらを見ていた。狗神の目は、いつもの目に戻っていた……
狗神「………チッ」
刀を鞘に収め、その場から離れる。
何故殺すのを止めたのか…映像を見ている椿にはわからない。相手が子供だったから?でも、それなら子供だけ残すのはおかしい…一思いに親のところへ逝かせた方がいいはず……
また映像が切り替わる。先ほどの映像は夜だったが、昼の映像になる。狗神が歩いている……その後ろから、霊華が付いて行ってる。
狗神「……………」
狗神は気づいているようだ。立ち止まって、霊華の方を見る。
狗神「…おい、ガキ。お前…親戚とかいないのか?」
霊華「……」
霊華は黙って小首を傾げてる。あの家は、親戚とか会わなかったからわからないのだろうか?
狗神「…なんていうか……血は繋がってるけど家族ではないような…よく家に来るような…そんな奴だ。いないか?」
霊華「……」
霊華は指差した……狗神を。
狗神「…いや、私は親戚じゃない。そうじゃなくて…なんか、家族じゃないけど家族みたいな奴だ。」
霊華「…」
やっぱり狗神を指差す。
狗神「いや、だから……逆に私のことを何だと思ってんだ。」
霊華「(飼い)犬」
狗神「い…!?」
即答である。考えてみればそうだ、いつも家にいて犬の耳と尻尾のもある……無理もない、まだ子供だからそれくらいの認識だろう。
少しため息をついて、立ち上がる。
狗神「…ついてこい」
狗神は再び、歩き出す。
そして、ある建物の前に止まった。そこは、身寄りのない子供達が集まる…孤児院だ。
狗神「ここなら、お前を引き取ってくれるはずだ。じゃ、達者でな。」
そう言って立ち去ろうとしたが、霊華に袖を掴まれる。
霊華「…ワンちゃんは、どこに行くの?」
狗神「ワンちゃんじゃない、狗神だ。私みたいな悪い憑き物と一緒にいたらよくない…。」
狗神はしゃがんで、霊華に目線を合わせて話す。
霊華「悪いこ…なの…?」
狗神「あぁ、そうだ。お前が泣きわめく程の悪いことを、たくさんしてきた。だから、一緒にはいられない。」
霊華「…でも……」
少し俯いた後、再び狗神を見て続ける。
霊華「でも…悪いこに見えない。優しい顔してる…」
狗神「……………」
狗神は立ち上がって、霊華に背を向ける。
霊華「ワンちゃん…?」
狗神「……この家の隣に、空き地があるだろ?たまにそこへ現れるから、それで我慢しろ」
霊華「ほんと…?約束だよ?ぜったい、約束だよ?」
狗神「あぁ……約束だ。」
そう言って狗神は、その場から立ち去った……。
そこから、隣の空き地にいる2人の映像が流れる。
霊華「ワンちゃ〜ん♪」
少し大きくなった霊華が、狗神に近づいて抱きつく。狗神は無表情で霊華を見る。
狗神「狗神だ、いい加減名前を覚えろ」
霊華「ワンちゃんの方がいいっ!」
狗神「なにもよくない」
呆れたようにため息をつく。
狗神「お前、孤児院のガキと遊ばないのか?私がいるときはいつも来ているが…」
霊華「遊んでるよ?でも、ワンちゃんも私がいないと寂しいかな〜って!」
狗神「………」
そこから、また映像が変わった。夕日が射す中、狗神と、狗神の身長を越えた霊華がいた。霊華は、幽香とよく似ていた……
狗神「霊華、お前…霊媒師になったという話は本当か?」
霊華「本当ですよ、こう見えて結構活躍してるんですから!」
笑顔で霊華が答えた。
狗神「お前のことだから、悪い妖怪や霊相手に「次からは、こんなことしちゃいけませんよっ!」って言って、逃すんだろ」
霊華「な、なんでわかるんですか!?」
狗神「10年も一緒にいれば、それくらいわかる。」
霊華「それもそうですね♪…あ!」
霊華がある方向へ走る。狗神は歩いて霊華を追いかける。
霊華「見てください!狗神、綺麗ですよ!」
人間の里が見渡せる崖のような場所、その目の前には綺麗な夕日があった。
狗神「……」
2人は座って、夕日を眺めた。
霊華「こんないい場所があったとは…」
狗神「そうだな……」
その光景は、前に………幽香と一緒に夕日を見たのと、まったく同じ光景だった。
しばらくして、霊華が立ち上がる
霊華「もう遅いですし、帰りましょうか。狗神、また一緒に来ましょう!」
霊華は、狗神に手を差し伸べた。あの時見た光景だ……
そこから、映像が変わる…
現在ノ修復率…88%…
つづく
16/08/12 18:34更新 / 青猫